シクロペンタン

シクロペンタンとは

シクロペンタンは、化学式C₅H₁₀、分子量70.13の、有機化合物の一種です。

CAS登録番号は287-92-3に該当します。この物質は無色またはほぼ無色の透明な液体で、特有のにおいを持ちます。融点は-94℃、沸点は49℃です。水にはほとんど溶けませんが、エタノールアセトンには非常に溶けやすい性質があります。

シクロペンタンの使用用途

シクロペンタンは、その特性を活かし、さまざまな用途で利用されています。主な使用用途は以下のとおりです。

1. 発泡剤としての利用

シクロペンタンは熱伝導率が低く、ポリウレタンフォームの発泡剤として広く利用されています。特に、冷蔵庫や冷凍庫の断熱材の製造に適しています。シクロペンタンはオゾン層を破壊せず、地球温暖化係数がCO₂とほぼ同じです。そのため、環境への影響が少なく、従来のフロン系発泡剤の代替として採用されています。

2. 溶剤としての利用

シクロペンタンは、さまざまな分野で利用されており、その理由は多くの有機化合物に対して優れた溶解性を持つためです。特に、製薬、化学、樹脂産業では、溶剤として広く活用されています。

3. 洗浄剤としての利用

シクロペンタンは、金属部品や半導体の洗浄にも使用されています。それは脱脂洗浄力と乾燥性のバランスが良いためです。

4. 冷媒としての利用

シクロペンタンは、商業冷凍業界で冷媒として利用されています。保温性に優れ、冷却効果が高いため、効率的な温度管理が可能です。さらに、環境負荷が低く、持続可能な冷媒として注目されています。

5. 燃料としての利用

シクロペンタンはオクタン価が高いため、高性能エンジンの燃料としての利用が検討されています。オクタン価が高い燃料は、エンジンのノッキングを抑え、安定した燃焼が可能です。そのため、効率的なエネルギー利用が期待されています。

シクロペンタンの性質

1. シクロペンタンの構造

シクロペンタンは、環状構造を持つシクロアルカンの一種です。シクロアルカンは脂環式炭化水素とも呼ばれ、炭素骨格が環状になっています。

この化合物は飽和炭化水素に分類されます。飽和炭化水素とは、炭素原子同士の結合がすべて単結合で構成されているものです。シクロアルカンの一般式は(CH₂)ₙ または CₙH₂ₙ で表され、骨格は多角形になります。シクロペンタンの場合、その構造は五角形をしています。

2. シクロペンタンの安定性

シクロアルカンの炭素数は3以上ですが、炭素数が少ないものほど化学的に不安定です。シクロプロパン(炭素数3)やシクロブタン(炭素数4)は、環状構造が開いて鎖状のアルカンに変化しやすい性質があります。これは、炭素結合の結合角にひずみが生じるためです。

典型的な炭素の結合角は109°ですが、シクロプロパン(正三角形)は60°、シクロブタン(正方形)は90°と大きくずれています。この角度のずれが不安定さを引き起こし、結合が切れやすくなる原因となります。一方、シクロペンタン(正五角形)の結合角は108°であり、角ひずみはほとんどありません。水素原子が多いためねじれひずみが生じ、折れ曲がった立体構造を取りますが、化学的には安定した性質を持っています。

シクロペンタンの種類

シクロペンタンは、炭素原子5つが環状に結合した構造を持つシクロアルカンの一種です。この基本構造にさまざまな置換基が結合することで、異なる化合物が生成されます。主なシクロペンタンの誘導体および関連化合物は以下のとおりです。

1. メチルシクロペンタン

シクロペンタンの水素原子1つがメチル基 (–CH₃) に置き換わった構造です。化学式は C₆H₁₂ で、シクロヘキサンやヘキセンなどの異性体と同じ分子式を持ちます。

2. シクロペンテン

シクロペンタンから水素原子2つが取り除かれ、二重結合が1つ導入された構造です。化学式は C₅H₈ で、シクロペンタンよりも反応性が高い特徴があります。

3. シクロペンタジエン

シクロペンタンから水素原子4つが取り除かれ、二重結合が2つ導入された構造です。化学式は C₅H₆ で、芳香族性を持ち、化学反応において重要な役割を果たします。

シクロペンタンのその他情報

1. ペンタンとの比較

環状のシクロアルカンに対して、鎖状の飽和炭化水素がアルカンです。シクロアルカンの物理・化学的性質は鎖状アルカンと非常によく似ています。炭素が5つの鎖状アルカンはペンタンです。ペンタンとシクロペンタンはどちらも常温で液体であり、可燃性(引火性)を持ちます。また、両者とも光を当てて塩素を加えると、置換反応を起こします。

2. 法規情報

シクロペンタンは引火性の高い液体や蒸気に分類され、複数の法律で規制されているものです。消防法では「危険物第四類・第一石油類・危険等級Ⅱ」に指定されています。また、労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」「危険物・引火性の物」に該当します。

さらに、危険物輸送に関する規則では「引火性液体類」として分類され、航空法でも「引火性液体」としての扱いです。海洋汚染防止法においても、施行令別表第1で「有害液体物質 Y類物質」として規定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0770.html
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_287-92-3.htm
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/ha/eco/g03_03.html

グリセリン酸

グリセリン酸とは

グリセリン酸 (英: glyceric acid) は、分子量が106.08の分子式C3H6O4で表される有機化合物です。

2,3-ジヒドロキシプロピオン酸 (英: 2,3-dihydroxypropionic acid) の別名で、ヒドロキシカルボン酸の一つです。

グリセリン酸の使用用途

D-グリセリン酸は天然の植物に見出された有機酸の一種で、タバコやアーティチョーク、リンゴ、ナッツなど、様々な植物に微量含まれている化合物です。D-グリセリン酸のリン酸エステル誘導体は糖質代謝の中間体として重要です。

加えて、グリセリン酸は肝機能の改善効果やエタノール代謝の促進効果など、複数の生物活性が報告されています。しかし、機能や用途に関する研究は不足しています。近年の研究によって、以下のようなポリマー原料や有機材料の原料として期待されています。

グリセリン酸のヒドロキシル基をアシル化し、例えば、リノレン酸やパルミチン酸を導入したジアシルグリセリン酸は、化粧品やスキンケア用の組成物として期待されています。また、モノアシルグリセリン酸は皮膚刺激の少ない界面活性剤であることが明らかにされています。

グリセリン酸と糖を反応させて得られるグリコシルグリセリン酸は、皮膚細胞への刺激性が低い、外的ストレスに対して保護作用を示すといった特徴が見出されており、スキンケア・ヘアケア製品類へ応用可能な新素材として期待されています。

上記の通り、グリセリン酸のアシル、及び、グルコシル誘導体には優れた界面活性剤としての機能、生体分子の保護機能があることが報告されています。一方、誘導体化しないグリセリン酸塩単独でも、細胞賦活化機能があることが明らかにされており (エタノール損傷を受けた胃細胞をグリセリン酸カルシウムが賦活化) 、サプリメントへの展開などが期待されています。

その他、グリセリン酸は反応性の異なる2つのヒドロキシル基とカルボキシル基を有するために重合しやすく、生分解性ポリマーとしても展開が期待されています。

グリセリン酸の性質

グリセリン酸はヒドロキシカルボン酸の一つで、化学式ではHOCH2(OH)COOHと表しますが、不斉炭素を持っているため、光学異性体のD体とL体が存在します。

D体とL体は、右手と左手のように互いに重ね合わせられない鏡像の関係にあります。D-グリセリン酸とL-グリセリン酸は化学的性質は同じですが、生物学的作用は異なります。

D-グリセリン酸とL-グリセリン酸が混合したDL-グリセリン酸はシロップ状の液体で、水やエタノールアセトンには溶けますが、エーテルやベンゼンには不溶です。グリセリン酸水溶液として販売されていることが多いです。

グリセリン酸のその他情報

グリセリン酸の製造法

グリセリン酸は上記のように重要な原料ですが、工業的生産方法が確立されておらず高価です。そこで、安価なグリセリンからグリセリン酸を製造する技術開発が行われています。

グリセリンを化学法、あるいは生物法による酸化でDL-グリセリン酸が製造できることが、広く知られています。しかし、分子内にある複数のヒドロキシル基の酸化を制御する必要があります。そこで、様々な方法で高選択的に酸化する技術開発が行われています。

微生物などを上手く利用して、DL-グリセリン酸のラセミ分割を行うと、D-グリセリン酸、L-グリセリン酸をそれぞれ選択的に得られることが知られています。しかし、工程数が多くなってしまうため、微生物を利用して直接D体を得る方法も研究されています。

グリセリンの酸化以外の製造方法として、2,3-ジブロモプロピオン酸の加水分解による方法も知られています。

発酵生産で得られるグリセリン酸は D体であるのに対し、L-グリセリン酸は医薬品等に応用可能な L-糖誘導体の合成原料として有望です。そこで、新たなプロセスによるL体生産技術の開発も進められています。グリセリン酸の光学異性体を制御可能な微生物プロセスの開発により、L体含有量の多いD-グリセリン酸が得られるようになってきています。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/12/5/12_203/_pdf/-char/ja
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090325/pr20090325.html

グアイアコール

グアイアコールとは

グアイアコールの基本情報

グアイアコールとは、分子式がC7H8O2で表される、メトキシ基を持つフェノール類の1種です。

2-ヒドロキシアニソール、メチルカテコール、o-メトキシフェノールとも呼ばれます。グアヤコールやグアイヤコールとも表記されます。

グアイアコールはオーク樽内で熟成したワインから産生される天然の香料化合物です。グアイアコールと2,4,6-トリクロロアニソール (英: 2,4,6-Trichloroanisole) は、ワインの中でコルクを腐らせる原因物質と言われています。

グアイアコールの使用用途

グアイアコールは、クレオソート (英: creosote) の主成分です。クレオソートとは、ブナ属植物などから得た木タールを蒸留して、生成されたフェノール類の混合物です。

殺菌・防腐作用があり、各種下痢・腸内異常発酵・食中毒の内服薬として利用されています。そのほか、去痰・鎮咳作用があり、慢性気管支炎の治療薬に用いられています。

また、独特な芳香臭から香料などの合成原料としても利用可能です。さらに、バニラの香りの原料であるバニリンの調整物質としても使われています。

グアイアコールの性質

グアイアコールの融点は28°C、沸点は204〜206°Cです。特異臭があり、無色から薄黄色の液体または無色の結晶固体です。水にはやや溶けにくく、メタノールエタノールには混和します。

毒性や刺激性があるため、口内粘膜に誤って触れた場合には、すぐ洗浄する必要があります。成人の致死量は3〜10gです。

なお、グアイアコールはフェノールの2位にメトキシ基を有し、2-メトキシフェノールとも呼ばれます。分子量は124.13で、示性式は2-CH3OC6H4OHと表されます。

グアイアコールのその他情報

1. グアイアコールの合成法

グアイアコールの合成

図2. グアイアコールの合成

1826年にオットー・パウル・ウンフェルドルベン (英: Otto Paul Unverdorben) によって、初めてグアイアコールは分離されました。炭酸カリウムと硫酸ジメチルを使用して、o-カテコール (英: o-catechol) をメチル化すると、グアイアコールを合成できます。

実験室でグアイアコールは、さまざまな方法で調製可能です。アニソールから2段階で誘導されるo-アニシジン (英: o-Anisidine) を、ジアゾニウム誘導体を介して加水分解すると、グアイアコールは生成します。カテコールをジメチル化し、選択的なモノ脱メチル化によっても、グアイアコールを合成可能です。

2. グアイアコールの反応

グアイアコールの反応

図3. グアイアコールの反応

バイオマス由来のグアイアコールは、「グリーン燃料 (英: green fuels) 」として、多種多様な化合物を合成するための有用な前駆体です。例えば、ペルオキシダーゼ (英: Peroxidase) の定量化に利用されます。

ペルオキシダーゼとは、酸化的にペルオキシド構造を切断し、2個のヒドロキシル基へ分解できる酵素です。過酸化水素の存在下で、ペルオキシダーゼによってテトラグアイアコール (英: tetraguaiacol) が生成します。テトラグアイアコールは、420~470nmの吸光度で定量化できる着色化合物です。

3. グアイアコールの構造異性体

グアイアコールの置換基の位置が異なる構造異性体は、3-メトキシフェノールと4-メトキシフェノールです。3-メトキシフェノールはメトキシ基を3位に持ち、4-メトキシフェノールはメトキシ基を4位に有します。

3-メトキシフェノールはm-メトキシフェノール、 m-グアヤコール、m-ヒドロキシアニソール、3-ヒドロキシアニソール、レゾルシノールモノメチルエーテルとも呼ばれます。

メキノール、4-ヒドロキシアニソール、パラグアイアコールなどは、4-メトキシフェノールの別名です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/GHS_MSD_DET.aspx

キナゾリン

キナゾリンとは

キナゾリンの基本情報

キナゾリン (英: Quinazoline) とは、化学式C8H6N2で示される芳香族複素環式化合物です。

その構造は、ピリミジン環とベンゼン環が縮合したものであり、分子量は130.15、沸点は243℃、融点は49-50℃、CAS登録番号は253-82-7です。通常、キナゾリンは白色から淡黄色の粉末または結晶として存在し、特有の臭気を有します。エタノールアセトンには溶解しますが、水には溶けにくい性質があります。密度は1.351g/cm3、酸解離定数pKaは3.51、引火点は106℃です。

キナゾリンは、天然化合物や医薬品に広く含まれる重要な構造であり、化学、薬学、医学などの分野で広範に研究されています。消防法や毒劇法などの国内法規による指定はありません。

キナゾリンの使用用途

キナゾリン誘導体は、その多様な生物活性から医薬品として広く利用されており、有機合成原料としても重要な役割を果たしています。

医薬品としては、抗がん剤、抗マラリア薬、降圧薬、抗炎症薬など、様々な疾患の治療薬として開発されています。例えば、降圧薬のドキサゾシンは、キナゾリン環を含む薬剤のひとつです。また、がん治療薬としても、脳腫瘍などに対する効果が期待されています。

キナゾリン誘導体は、農薬や色素の中間体として多様な分野で応用されており、とくにエレクトロニクス分野においては、有機EL材料としてディスプレイなどへの応用が期待されています。

キナゾリンの性質

図2. キナゾリンの水和反応(上)と位置番号(下)

キナゾリンは、芳香族性を持つ複素環化合物であり、比較的安定です。ただし、反応条件次第では様々な反応を起こし、多様な誘導体を合成できます。

キナゾリン環は、求電子反応、求核反応、酸化反応など、様々な反応に関与可能です。例えば、N3位でプロトン化やメチル化される性質があり、N3位がプロトン化されると、C4位に水分子をはじめとする様々な付加反応が起こります。さらに、キナゾリン溶液をアルカリ性または酸性で加熱すると、加水分解し、2-アミノベンズアルデヒド (またはその重合体)、ギ酸アンモニア (もしくはアンモニウムイオン) を生成します。

キナゾリンのピリミジン環は芳香族求電子置換反応を受けにくいものの、2位よりも4位の方が反応性は高いです。そして、ピリミジン環よりもベンゼン環部位の方がより求電子置換反応を受けやすく、2位または4位のハロゲン置換体は容易に芳香族求核置換反応を受けます。

キナゾリンの種類

キナゾリンは、その構造に多様な置換基が導入された誘導体として存在し、置換基の種類や結合位置によって特性や生物活性が変化します。2-置換キナゾリン、4-置換キナゾリン、6-置換キナゾリンなどが代表的な例です。

キナゾリンおよびその誘導体は、研究開発用試薬として市場に流通しており、有機合成の出発物質として利用されています。これらの試薬は通常、1gや5gといった少量単位で提供され、室温で保管可能な比較的高価な化合物です。

市販されているキナゾリン誘導体としては、4-ヒドラジノキナゾリン、4-クロロキナゾリン、2-メチル-4(3H)-キナゾリノン、キナゾリン-2-カルボン酸塩酸塩などが挙げられます。

キリナゾリンのその他情報

1. キナゾリンの合成

キナゾリンの合成

図3. キナゾリンの合成

キナゾリンの合成法は多岐にわたりますが、歴史的に見ると、キナゾリン-2-カルボン酸の脱炭酸が最初の報告例です。現在では、4-クロロキナゾリンにトシルヒドラジド基を導入し、塩基を用いて除去する方法が効率的な合成法のひとつとして知られています。

代表的な合成法としては、ニーメントウスキー反応、フリーデル・ランデルクラフツ反応、そしてディールス・アルダー反応などが挙げられます。これらの反応を組み合わせることによって、様々な置換基を持つキナゾリン誘導体を合成することが可能です。

特に有名な人名反応としては、ニーメントウスキーのキナゾリン合成 (英: Niementowski quinazoline synthesis) があります。この反応は、アントラニル酸とアミドから4-オキソ-3,4-ジヒドロキナゾリン誘導体を合成するものです。

2. キナゾリンの誘導体

キナゾリン誘導体は医薬品化学で重要な化合物群です。例えば、高血圧症治療薬のプラゾシンはα1-アドレナリン受容体遮断薬です。また、近年注目されている分子標的治療薬であるチロシンキナーゼ阻害薬のゲフィチニブ、エルロチニブ (非小細胞肺がん治療薬)、アファチニブ、ラパチニブなど、様々な薬剤に用いられています。

さらに、抗マラリア剤や降圧剤など、キナゾリン環を持つ分子は多岐にわたる疾患の治療薬として利用されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0232-5326JGHEJP.pdf

オキサゾール

オキサゾールとは

オキサゾールの基本情報

オキサゾールは、酸素と窒素を含む五員環の有機化合物です。

オキサゾールの化学構造は特異な特徴を持っています。特に医薬品や有機合成において重要な役割を果たします。オキサゾール環は、化学反応において有利に働くことが多く、そのためさまざまな化学合成の中間体として利用されています。安定性と反応性のバランスが良く、有機化学の分野で広く応用されています。例えば、薬物合成においては、オキサゾールを含む化合物が薬理作用を持つ分子の設計に使われることが多く、新薬の開発に欠かせない存在です。

また、オキサゾールは触媒としても利用されることがあります。高分子材料や電子機器の開発にも利用され、特に有機合成においては反応を効率的に進行させるための重要な試薬として活躍しています。このように、オキサゾールは化学、医薬、材料分野など、多岐にわたる用途がある化合物です。

オキサゾールの使用用途

オキサゾールは、主に有機合成や薬物化学の分野で広く利用されている化合物です。

1. 医薬品の合成や新しい化学物質の開発

特に、医薬品の合成や新しい化学物質の開発において重要な役割を果たします。オキサゾールを含む化合物は、その特異な化学構造が反応において有利に働くため、薬理作用を持つ分子の設計に活用されます。

2. 高分子材料や電子機器の開発

オキサゾールは合成反応においても有用です。特に、触媒としての役割を果たすことができ、効率的な化学反応を促進するために使用されます。このように、オキサゾールは有機合成における重要な中間体としても利用され、特に高分子材料や電子機器の開発においても利用価値があります。

3. 試薬

オキサゾールは化学的に安定しており、反応性も高いため、さまざまな反応においてターゲット分子を選択的に修飾するための重要な試薬としても利用されます。

オキサゾールの種類

オキサゾールにはさまざまな種類があり、その構造や特性によって用途や機能が異なります。代表的なものに、単純なオキサゾール環を含む化合物があり、これらは一般的に有機化学での中間体として利用されます。さらに、オキサゾール環に異なる置換基が付加されたものも多く、これらは特定の反応性や薬理作用を持つため、医薬品の合成や化学反応で重要な役割を果たします。

例えば、アルキルオキサゾールやアリールオキサゾールは、分子構造に応じた異なる反応性を示し、それぞれ特定の化学反応に用いられます。また、オキサゾール環にフルオロ基やクロロ基などのハロゲン元素が導入された化合物もあり、これらは薬物の開発や農薬の合成において重要です。さらに、オキサゾール環が複数結合した構造を持つ化合物も存在し、これらは複雑な化学反応を引き起こすことができるため、先端的な化学研究や新素材の開発に利用されることがあります。

オキサゾールの原理

オキサゾールは、酸素原子と窒素原子を含む五員環の化合物で、特に有機化学において重要な役割を果たします。その原理は、酸素と窒素が環内で結びつくことにより、化学的に安定した構造を持つことです。この安定性が、オキサゾールをさまざまな化学反応において優れた反応性を示す物質にしています。

オキサゾールは、強い電子供与性を持つ炭素原子を含むため、反応性が高いです。この特性を活かし、さまざまな化学合成や反応に利用されます。例えば、環構造を変更することで、薬物や有機化合物の合成に重要な役割を果たします。

また、オキサゾールは電子的な特性が高いため、酸化反応や還元反応を促進させることができます。これにより、化学反応における触媒としても使用されることが多いです。このような特性により、オキサゾールは有機合成の分野で非常に有用な化合物となっています。

オキサゾールの選び方

オキサゾールを選ぶ際には、目的に応じてその特性を理解することが重要です。オキサゾールは化学反応において重要な役割を果たす化合物であり、合成や反応の条件によって適切な種類を選ぶ必要があります。

1. 反応の速度や効率

反応の速度や効率を考慮することが大切です。オキサゾールは高い反応性を持っているため、選択する際にはその反応性が反応の進行にどのように影響するかを考えましょう。また、反応条件に適した安定性を持つオキサゾールを選ぶことで、反応中の不安定化や副反応を避けることができます。

2. 機能性

使用する目的に合った機能性も考慮します。オキサゾールは電子供与性が高いため、薬物合成や有機合成に利用されることが多いです。合成する化合物の特性や必要な機能に応じて、最適なオキサゾールを選ぶことが重要です。

3. 取り扱いと保管のしやすさ

取り扱いや保管のしやすさも選定基準に入れるべきです。オキサゾールの安定性や反応性に影響を与える環境要因を考慮し、最適な選択を行うことを推奨します。

エチルビニルエーテル

エチルビニルエーテルとは

エチルビニルエーテル (英: Ethyl Vinyl Ether) は、化学式 CH2CHOC2H5の有機化合物です。

特有のエーテル臭があり、主にポリマーの原料、有機合成試薬、吸入麻酔として広く使用されています。引火点が-45度と非常に低いため、危険物第4類の特殊引火物に分類され取扱いには注意が必要です。

エチルビニルエーテルの使用用途

エチルビニルエーテルは、他の物質と結合して長い鎖のような分子を作る性質があり、さまざまな種類のプラスチックや接着剤の原料として使われています。また、有機溶媒に溶けやすいため、塗料や接着剤の溶剤としても有用です。

特定の条件を満たせば、分子同士が結合して長い鎖状になる「重合」反応が起き、ポリエチルビニルエーテルと呼ばれる別の物質に変化します。ブレンステッド酸やルイス酸などの物質が重合を手助けする触媒です。また、有機合成試薬として、さまざまな有機化学反応の原料として使われるほか、吸入麻酔としても使用されています。

エチルビニルエーテルの性質

物理的な性質として、沸点が約36℃、融点が-115℃と低温で、分子量は72.11 g/molです。また、エタノールやアセトンには非常に溶けやすい一方で、水にはほとんど溶けません。

化学的な性質としては、引火点が-45℃と非常に低く、極めて引火しやすい点が挙げられます。蒸気は空気と混合すると爆発性の混合気を形成するため、取り扱いには細心の注意が必要です。また、熱、光、または過酸化物などの重合開始剤との接触により、重合反応を起こす可能性があり、爆発性の過酸化物を生成する場合もあります。さらに、酸化剤や酸と激しく反応し、火災や爆発の危険があるため、これらの物質との接触は避けることが大切です。流動や撹拌などにより静電気が発生する場合もあるため、静電気対策も欠かせません。

これらの性質から、安全性に関して消防法により危険物第4類の特殊引火物に指定されており、火気厳禁、換気の良い場所での取り扱い、適切な保護具の着用が求められます。

エチルビニルエーテルの構造

エチルビニルエーテルは、化学式CH2CHOC2H5で表され、ビニル基 (CH2CH-)、エーテル結合 (-O-) 、エチル基 (C2H5-) の3つの主要な部分から構成されることを示します。このビニル基は、2つの炭素原子が二重結合で結ばれているため、高い反応性があります。

この分子全体の特有な性質は、エーテル結合により酸素原子が2つの炭素原子と結合していることが要因です。エチル基は、2つの炭素原子と5つの水素原子からなるアルキル基であり、分子の疎水性を高めています。つまり、エチルビニルエーテルの構造は、ビニル基とエチル基がエーテル結合によって結ばれていることが特徴です。特に、ビニル基の二重結合は、重合反応などの化学反応に関与し、エチル基は溶解性など、分子の物理的性質に影響を与えています。

エチルビニルエーテルのその他情報

使用上の注意点

エチルビニルエーテルは、かつて吸入麻酔薬として使用されていた有機化合物です。しかし、現在ではより安全な麻酔薬が開発されたため、医療現場で使われることはほとんどありません。もし誤って吸い込んでしまった場合、めまい、ふらつき、意識の混濁などの症状が現れる可能性があります。場合によっては、意識を失うこともあるため、注意が必要です。一方、皮膚や眼への刺激性に関する動物を用いた試験の結果では皮膚に炎症反応は見られず、点眼しても刺激症状は発現しませんでした。ただし、これはあくまでも動物実験の結果であるため、皮膚や眼への接触は避けることが重要です。

また、引火点が-45度と非常に低く高い引火性があるため、取り扱い時は保護具の着用してくだい。さらに、エチルビニルエーテルの蒸気と空気の混合気体は非常に爆発性が高く、危険です。安全対策として、熱や火花、高温のヒーターなどの着火源を近くに置かないこと、火花を予防する実験環境で取り扱うことを徹底してください。静電気放電に関する予防措置も重要です。また、酸化剤や酸と激しく反応し、爆発や火災を引き起こす可能性があります。重合反応や有機合成に用いる際は、安全データシート必ず確認し、適切な安全対策を講じたうえで実験を行う必要があります。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0105-0191JGHE.pdf

インドリン

インドリンとは

インドリン (英: Indoline) は、インドール (英: Indole) の2、3位が還元された還元誘導体であり、ベンゼン環と五員環のピロリジン環が縮合した複素環式化合物です。

分子式はC8H9N、分子量は119.16、CAS登録番号は496-15-1であり無色〜黒褐色の液体です。インドリンは、その電子供与性と立体的特性により、医薬品、農薬、染料、機能性材料の合成原料として広く利用されています。

またインドリンは、天然アルカロイドの骨格としても知られ、生理活性を持つ化合物に応用されています。そのため、有機合成化学や製薬分野で重要な役割を担う化学物質です。

インドリンの使用用途

1. 医薬品の合成原料

インドリンは、抗がん剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗精神病薬の中間体です。例えば、インドリン誘導体は、チロシンキナーゼ阻害剤として働き、がん細胞の増殖を抑制する薬の開発に応用されています。また、抗炎症薬としては、プロスタグランジンの生成を抑える成分に組み込まれ、関節炎や自己免疫疾患の治療に利用されるものです。

さらに、インドリン系化合物は神経伝達物質に作用し、統合失調症やうつ病の治療薬の研究にも活用されています。創薬分野では、光学活性を持つインドリン誘導体が特に注目され、新規医薬品の開発に貢献しています。

2. 農薬

インドリン誘導体は、優れた生理活性を持ち、農業用殺菌剤や殺虫剤の有効成分です。特に、インドリンを含む化合物は、特定の酵素や受容体に作用し、病原菌や害虫の生命活動を阻害することで効果を発揮します。例えば、真菌の細胞膜合成を阻害する殺菌剤として、果樹や穀物の病害防除に使われています。

また、昆虫の神経系に作用する殺虫剤としても有効です。最近では、環境負荷を低減するために標的選択性を高めた農薬の開発が進んでおり、インドリン誘導体はその候補化合物として研究されています。

3. 染料および顔料の原料

インドリンは、鮮やかな色調と高い耐久性を持つ染料や顔料の合成に利用されます。特に、インドリン構造を持つ化合物は、電子供与性に優れ、発色特性が良好であるため、合成染料や蛍光色素の原料として用いられます。代表例として、インジゴ染料 (デニムの青色染料) の合成や、衣類・皮革製品の染色です。

また、インドリン誘導体は、有機EL (OLED) やレーザー色素の分野でも活躍しており、ディスプレイや光学デバイスの発色材として利用されています。さらに、光学機能を持つフォトクロミック材料 (紫外線に反応して色が変化する材料) にも応用されており、調光レンズやスマートウィンドウの開発に貢献しています。

インドリンの性質

1. 物理的性質

インドリンは、常温常圧で無色から淡黄色の液体です。融点は約-15°C、沸点は約220-222°Cであり、中程度の揮発性を持ちます。密度は約1.06 g/cm3 (25°C) で水よりわずかに重く、水にはほとんど溶けませんが、エタノールなどの有機溶媒にはよく溶解します。

屈折率は約1.566で、光学特性にも影響を及ぼします。蒸気圧は低めですが、加熱すると容易に蒸発し、可燃性の蒸気を発生させます。また、誘電率が低く、電気的にはほぼ絶縁です。

2. 化学的性質

インドリンは酸化還元反応を受けやすい特性を持ち、酸化されるとインドールに変化し、還元されるとテトラヒドロインドリンへと転換します。この性質を活かし、有機合成化学において酸化・還元プロセスのモデル分子や、触媒反応の評価指標として用いられます。

特に、パラジウム (Pd) 、ロジウム (Rh) 、イリジウム (Ir) などの遷移金属触媒を利用した水素化や酸化反応において、インドリン誘導体は反応の選択性や触媒の活性を調査するための有用な化合物です。酸解離定数 (pKa) は約5.2で、比較的弱い酸性を示します。

3. 生理活性

インドリン誘導体は、生体内で抗酸化作用を示すことが報告されており、フリーラジカルを除去する能力を持つため、老化防止や神経変性疾患の治療薬候補です。また、一部のインドリン誘導体は、神経伝達物質の受容体に作用し、中枢神経系の調整に関与することが明らかになっています。

そのため、神経保護作用を持つ医薬品としての開発が期待されており、記憶障害の改善やストレス耐性の向上を目的とした薬剤設計が応用先です。さらに、インドリン骨格を持つ化合物は抗糖尿病薬や心血管系疾患治療薬としての可能性も研究されています。

インドリンの構造

1. 基本構造と特徴

インドリンは、ベンゼン環と五員環のピロリジン環が縮合した複素環化合物です。インドールと似ていますが、五員環部分が部分的に飽和しており、芳香族性が低下しています。

窒素原子は非芳香族環に組み込まれているため、インドールよりも塩基性が高く、求電子置換反応を受けやすい性質を持ちます。また、π電子が完全に共役していないため、構造は完全な平面ではなく、わずかに歪んだ立体配置です。

2. インドールとの構造的な違い

インドリンとインドールは類似した骨格を持つものの、五員環の芳香族性の有無が大きな違いです。インドールは完全に共役したπ電子系を持ち、強い芳香族性を示しますが、インドリンは五員環部分が部分的に飽和しているため、電子の非局在化が制限され、芳香族性が低下します。

この構造の違いにより、インドリンは酸化を受けやすく、容易にインドールへ変換可能です。また、インドリンの窒素原子は、インドールの窒素よりも電子供与性が強く、塩基性が高く、酸と反応して塩を形成しやすいという特性を持ちます。

3. 立体構造と分子内相互作用

インドリンは、非芳香族の五員環を含むため、柔軟な立体構造です。五員環部分は部分的に飽和しているため、完全な平面構造を取らず、わずかに折れ曲がった立体配置になります。

また、インドリンの窒素はプロトン化されやすく、酸性条件下ではカチオン (N+) を形成し、分子の電荷分布の変化が可能です。さらに、インドリン誘導体では、置換基の位置によって分子の立体配置が変化し、水素結合やπ-πスタッキングなどの相互作用が分子の安定性や化学的特性に影響を与えます。

インドリンのその他情報

1. 製造方法

インドリンは、インドールを還元することで合成できます。工業的には、コールタールの蒸留によって得られるインドールを原料とし、接触還元する方法が一般的です。還元反応には、銅クロマイト、ラネーニッケル、ニッケル-チタンなどの金属触媒が用いられます。

保存する際は、光や酸素の影響を受けないよう、ガラス製の遮光容器に密封し、換気が良く涼しい場所に保管することが推奨されます。

2. 引火性

インドリンは可燃性の液体であるため、高温の物体や火花、裸火の近くでは取り扱わないことが重要です。静電気の放電によっても蒸気が着火する恐れがあるため、静電気防止措置 (アース接続など) も施さないといけません。

万が一、火災が発生すると、インドリンは高温で分解し、有害な蒸気や刺激性のあるガスを放出する可能性があります。消火には二酸化炭素、粉末消火剤、水噴霧、フォーム、消火砂などが有効です。なお、引火点が92℃の可燃性液体であることから、消防法では「危険物第四類・第三石油類・危険等級Ⅲ」に指定されています。

3. 人体への影響

インドリンは腐食性および刺激性を持つため、皮膚への接触を避けなければなりません。目に入ると強い刺激を引き起こし、重篤な損傷を与える可能性があります。作業時には保護メガネやゴーグルを着用し、誤って目に入った場合は速やかに清潔な水で数分間すすぎます。

さらに、インドリンは特定の臓器に対する毒性や気道刺激性を持つため、蒸気を直接吸い込まないよう注意が必要です。安全のため、局所排気装置 (ドラフトチャンバー) 内での作業を徹底することが推奨されます。

インダン

インダンとは

インダンの基本情報

インダンは、特有のにおいを持つ二環式炭化水素の一種です。

無色から淡黄色の澄んだ液体で、CAS登録番号は496-11-7に指定されています。メタロセン触媒をはじめ、有機合成化学の中間体として広く利用されている存在です。また、引火性を持つため、各種法規制の対象となっています。

消防法では「危険物第四類・第二石油類・危険等級Ⅲ」に分類され、安衛法では「危険物・引火性の物」として指定されています。さらに、危険物規則では「引火性液体類」、航空法でも「引火性液体」に分類されており、取り扱いには十分な注意が必要です。

インダンの使用用途

インダンは、独特な二環式構造と化学的性質を持ち、多くの分野で利用されています。主な用途は以下のとおりです。

1. 医薬品の原料および中間体

インダン誘導体は、医薬品の開発に不可欠です。特に、抗炎症薬や神経保護剤の成分として期待され、現在も研究が進められています。

2. 農薬および染料の原料

農薬や染料の合成において、インダンは重要な中間体です。化学的に安定しながらも反応性が高く、効果的な農薬成分や多様な染料の製造に活用されています。

3. 光機能材料の原料

光機能材料の分野でも、インダンは有用な原料です。光を照射すると性質が変化する特性を持ち、蛍光体や光学デバイスの開発に利用されています。

4. 機能性樹脂の原料

電子機器や自動車部品の製造にも、インダンが欠かせません。高い耐久性と加工性を備え、多くの産業でその特性が評価されています。

5. メタロセン触媒の構成要素

電子機器や自動車部品の製造にも、インダンが欠かせません。高い耐久性と加工性を備え、多くの産業でその特性が評価されています。

インダンの性質

インダンは、化学式 C₉H₁₀ で表される二環式炭化水素です。ベンゼン環とシクロペンタン環が融合した構造を持ち、無色から淡黄色の液体として存在します。その特徴は、以下のとおりです。

1. 化学的安定性

インダンは、五員環部分に二重結合を含みません。そのため、化学的に安定しています。この性質を活かし、さまざまな化学反応の中間体として幅広く利用されています。

2. 物理的性質

融点は約 -51.4℃、沸点は約 176.5℃で、引火点は約 50℃です。可燃性があるため、取り扱い時には十分な注意が必要です。

3. 多様な用途

インダンは、メタロセン触媒や医薬品の原料、有機合成化学の中間体として活用されています。独特な構造と性質を持つため、さまざまな分野での応用が可能です。

インダンの選び方

インダンを選ぶ際には、以下のポイントを考慮すると適切な製品を選択できます。

1. 純度の確認

用途に応じて、必要な純度を満たす製品を選択してください。例えば、富士フイルム和光純薬株式会社のインダンは、95.0%以上の純度を持つ製品が提供されています。

2. 物性の確認

インダンは無色から淡黄色の液体で、融点は約-51.4℃、沸点は約176.5℃、引火点は約50℃です。これらの物性を確認し、取り扱い時の安全性や保管条件を考慮してください。

3. 法規制の確認

インダンは引火性があるため、各種法規制の対象となっています。例えば、消防法では「危険物第四類・第二石油類・危険等級Ⅲ」に分類されています。

4. メーカーの選択

信頼性の高いメーカーから購入することが重要です。富士フイルム和光純薬株式会社や東京化成工業株式会社など、複数のメーカーがインダンを取り扱っています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0003JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_496-11-7.html
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202102231362118817
https://www.jfe-chem.com/product/fine-chemicals/indene/

イソホロン

イソホロンとは

イソホロンの基本情報

イソホロン (Isophorone) とは、化学式C9H14Oで表される環状ケトン構造を持つ有機化合物です。

天然ではクランベリー類に含まれています (CAS登録番号78-59-1、分子量138.21) 。密度は0.92g/mL、沸点は215.2℃、融点は-8.1℃で、常温では透明でほぼ無色の液体です。特異臭があり、エタノールアセトン・エーテルに極めて溶けやすい一方、水にはほとんど溶けません。

イソホロンの使用用途

イソホロンの誘導体

図2. イソホロンの誘導体

イソホロンは主に、溶剤、塗料、農薬の原料などに使われます。溶剤では、接着剤、殺虫剤、仕上げ材など、塗料では、インクやペンキ、ラッカーなどが代表的な用途です。その他、合成中間体や、木製品の保存剤や床の防水剤などにも用いられています。

農業分野では酸アミド系除草剤の溶剤として利用されていますが、この利用方法は、クメン法によってフェノールを製造する際に副産物として発生するアセトンを有効に処理する手段を模索する中で発見されました。塗料の分野では、ポリウレタン樹脂塗料原料のイソホロンジイソシアネート (C12H18N2O2) の合成中間体として優れた耐久性と耐水性を発揮します。接着剤の分野では、エポキシ樹脂硬化剤原料のイソホロンジアミン (C10H22N2) の合成中間体として接着力や耐熱性に優れ、工業用途や建設分野などで広く利用されています。

イソホロンの性質

イソホロンの引火点は90℃、自然発火点は462℃で可燃性液体です。通常は安定して取り扱うことができますが、火災時の燃焼では一酸化炭素二酸化炭素などの有害ガスが発生します。強酸化剤、酸化剤、強塩基と反応するため、保管する際にはこれらの物質との接触を避けるよう細心の注意を払うことが重要です。なお、水溶液の状態で日光に当たると、「[2+2]光環化付加反応」と呼ばれる特定の化学反応を起こし、分子が2つ結合して1つの分子 (二量体) になります。

イソホロンの種類

イソホロンには「アルファイソホロン」と「ベータイソホロン」の2つの異性体があります。前者は一般的に幅広く利用されています。後者は前者と同様の性質がありますが、反応性・毒性が前者とは異なる場合があり、少量しか存在しません。

イソホロンにはさまざまな誘導体があります。「イソホロンジアミン」と「イソホロンジイソシアネート」が代表的です。前者にはアミノ基が2つあり、エポキシ樹脂硬化剤やポリウレタン原料として使われます。後者は前者をさらに反応させて得られる化合物です。イソシアネート基を2つ持ち、反応性が高く、特に水分と反応しやすいのが特徴です。これを活かし、耐候性や耐薬品性が求められる用途 (塗料、接着剤、シーリング材など) に使用されます。このように、基本構造が同じであるため類似の性質がありますが、それぞれ用途が異なります。

イソホロンのその他情報

イソホロンの合成

図3. イソホロンの合成

イソホロンは3分子のアセトンの自己縮合により合成されます。まず、2分子のアセトンがアルドール縮合反応を経て脱水し、メシチルオキシドを生成します。次に、別の1分子のアセトンがエノラート化し、この中間体に対してマイケル付加反応を行います。最終的に、環化および脱水反応を経てイソホロンが生成されます。メシチルオキシドとイソホロンの収率は、それぞれ反応条件に大きく依存します。このため、最適な収率を得るためには、反応条件の調整が重要です。

イソホロンは、前述の通り可燃性液体であることから、危険物・有害物として消防法・労働安全衛生法・化審法・海洋汚染防止法で指定対象となっています。使用の際には、揮発性が高いため、吸入による健康リスクを避ける必要があります。また、皮膚・目に触れると刺激を引き起こす可能性があるため、手袋・保護メガネなどを着用し直接触れないようにしてください。さらに、可燃性があるため、火気・直射日光などの高温を避け、乾燥した冷暗所に保管することが重要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0179JGHEJP.pdf 
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_78-59-1.html https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Isophorone
https://www.env.go.jp/chemi/report/h23-01/pdf/chpt1/1-2-2-02.pdf

イソブチルビニルエーテル

イソブチルビニルエーテルとは

イソブチルビニルエーテルの基本情報

イソブチルビニルエーテル (Isobutyl vinyl ether) とは、化学式 C6H12Oで表され、エーテル結合を有する有機化合物です。

別名には、1-エテンオキシ-2-メチルプロパン、イソブトキシエテン、ビニルイソブチルエーテルなどの名称があります。CAS登録番号は、109-53-5です。

分子量100.16、融点-132℃、沸点83℃であり、常温では無色透明の液体です。エーテル類特有の甘い香りを放つ特徴があります。密度は0.77g/mLであり、水にはほとんど溶けません。エーテル、ベンゼンアセトン、アルコールに溶けやすい性質です。

イソブチルビニルエーテルの使用用途

イソブチルビニルエーテルは、主に有機合成原料として使用されている物質です。製造物は医薬品、可塑剤、腐食防止剤など様々な分野で使用されています。

また、重合によって生成するポリマー類も産業用途で用いられています。ホモポリマーは、接着剤、ペイント、ワニス、潤滑剤、グリース、エラストマーなどに用いられます。また、オレフィンやシロキサン、ジイソシアネートなどを共重合成分とするコポリマーは、接着剤、コーティング剤、繊維仕上剤、潤滑油添加剤などの用途で使用される物質です。親和性、親水性、塑性等を与え、作業性、染色性、強度、柔軟性、透明性、光沢などを向上させる作用があります。

塩化ビニルとの共重合体は、塗料樹脂に使用されることが多く、この塗料樹脂は船舶、防さび、石材・コンクリート、ポリオレフィンなど、多岐にわたって使用されている物質です。それ以外では、アリルビニルエーテルとの共重合体、アクリル酸メチルアクリロニトリルとの三元共重合体なども市販され、利用されています。

イソブチルビニルエーテルの性質

イソブチルビニルエーテルの化学反応の生成物の例

図2. イソブチルビニルエーテルの化学反応の生成物の例

イソブチルビニルエーテルは、分子内にオレフィン構造を含むため、熱、光などの影響や過酸化物などの重合開始剤との接触により重合することがあるとされます。

アルカリに対しては安定ですが、酸による加水分解を受ける他、ルイス酸存在下では重合反応を起こす物質です。酸性条件においてアルコールと反応すると、アセタールが生じます。

また、引火点は-15℃と低く、自然発火点は195℃です。保管の際は、熱、火花、裸火、静電放電、光などの条件を避け、酸化剤との混触を避ける必要があります。

イソブチルビニルエーテルの種類

イソブチルビニルエーテルは、工業用薬品及び研究開発用試薬製品として販売されています。研究開発用試薬製品としては5mL , 25mL , 250mL , 500mL , 5g , 25gなどの容量の種類で提供される薬品です。室温もしくは冷蔵で保管される試薬製品であり、メーカーによって取り扱いが異なります。安定剤としてトリヘキシルアミンが含まれている場合があります。

工業用では100g , 1kg , 25kg , 150kgなどの容量の種類があり、ドラム缶などで提供されます。工業的用途は、主に有機合成原料やコーティング剤などです。

イソブチルビニルエーテルのその他情報

1. イソブチルビニルエーテルの合成

イソブチルビニルエーテルの合成

図3. イソブチルビニルエーテルの合成

イソブチルビニルエーテルは、イソブタノールアセチレンのレッペ反応によって合成することが可能です。

2. イソブチルビニルエーテルの取り扱い・法規制情報

イソブチルビニルエーテルは、前述の通り、引火点が低く、引火性の高い物質です。そのため、消防法では、第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体に指定されており、労働安全衛生法では、危険物・引火性の物に指定されています。法令を遵守した適切な取り扱いが必要です。

裸火などの火気から遠ざける他、防爆型の電気機器、換気装置、照明機器を使用するなどの対策を取る必要があります。また、皮膚刺激性・眼刺激性が指摘されている物質でもあります。保護手袋、保護眼鏡などの適切な保護具を用いた取り扱いが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/109-53-5.html