シクロペンタン

シクロペンタンとは

シクロペンタンとは、化学式:C5H10、分子量:70.13、CAS登録番号:287-92-3の有機化合物です。

シクロペンタンは、無色~ほとんど無色の澄明 (ちょうめい) な特異臭のある液体です。融点/凝固点が-94℃で、沸点または初留点および沸騰範囲が49℃です。そして、水にはほとんど溶けず、エタノールアセトンに極めて溶けやすいという性質があります。

シクロペンタンの使用用途

1. 発泡剤

シクロペンタンは、セルロースエーテル用の溶剤や住宅の断熱材などに使用されている硬質ウレタンフォームといった樹脂の発泡剤に使われています。

2. ハイオクガソリン

また、シクロペンタンは、ガソリンへ添加することで、自動車からの排気ガスに含まれる有害物質を減少させることや自動車のエンジン効率に関わりのあるオクタン価向上にも寄与するという実験結果が公表されています。

オクタン価とは、エンジンノックの起こりにくさの程度を示す目安です。古くから鎖状アルカンは高次に分岐した化合物よりもエンジンノックを起こしやすいことが知られていました。環状アルカンであるシクロペンタンは同じ炭素数のペンタンよりオクタン価が高くなります。

3. 共沸蒸留の溶媒

そのほか、シクロペンタンは、共沸 (きょうふつ) 混合物の分離手段としての蒸溜にも使用されています。共沸とは沸点が異なる2つの液体の混合物が組成を変えずに沸騰する現象です。

共沸混合物から通常の蒸留法を用いて純粋な物質を取り出すことは困難です。そこで、元の成分とは別の溶媒を加えて新たな共沸混合物をつくり、その沸点が元の沸点よりも低くなるように蒸留し、純粋な成分が残留するようにします。この方法を共沸蒸留と呼びます。

シクロペンタンの性質

1. シクロペンタンの構造

シクロペンタンはシクロアルカンまたは脂環式炭化水素と呼ばれる環状構造の炭素骨格をもつ環状飽和炭化水素の1つです。ここで、飽和というのは炭素原子間の結合がすべて飽和結合 (単結合) であることを表しています。

シクロアルカンの一般式は(CH2)n または CnH2nであり、骨格構造は多角形で表されます。シクロペンタンの骨格構造は五角形です。

2. シクロペンタンの安定性

シクロアルカンの炭素数は3以上ですが、炭素数3のシクロプロパンや炭素数4のシクロブタンは化学的に不安定で、環状構造が開いて鎖状のアルカンに変化しやすいという性質を持っています。これは炭素結合の結合角のひずみに起因するものです。

典型的な炭素の結合角は109°に対して、シクロプロパン (正三角形) の結合角は60°、シクロブタン (正方形) の結合角は90°と大きくずれています。このような角ひずみは不安定さの要素であり、簡単に結合が切れる原因となります。

一方、シクロペンタン (正五角形) の結合角は108°でありほとんど角ひずみがありません。水素の数が多いためねじれひずみがあり、折れ曲がった立体配座になっていますが、化学的には安定しています。

シクロペンタンのその他情報

1. ペンタンとの比較

環状のシクロアルカンに対して、鎖状の飽和炭化水素がアルカンです。シクロアルカンの物理・化学的性質は鎖状アルカンと非常によく似ています。

炭素5つの鎖状アルカンはペンタンです。ペンタンもシクロペンタンも常温で液体で可燃性 (引火性) があります。また、両者とも光を当てて塩素を加えれば置換反応を起こします。

2. 法規情報

シクロペンタンは、引火性の高い液体や蒸気として、消防法では「危険物第四類・第一石油類・危険等級Ⅱ」、安衛法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」「危険物・引火性の物」に指定されています。

さらに、シクロペンタンは、危規則でも「引火性液体類」、航空法で「引火性液体」、海洋汚染防止法でも施行令別表第1で「有害液体物質 Y類物質」という指定がされています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0770.html
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_287-92-3.htm

グリセリン酸

グリセリン酸とは

グリセリン酸 (英: glyceric acid) は、分子量が106.08の分子式C3H6O4で表される有機化合物です。

2,3-ジヒドロキシプロピオン酸 (英: 2,3-dihydroxypropionic acid) の別名で、ヒドロキシカルボン酸の一つです。

グリセリン酸の使用用途

D-グリセリン酸は天然の植物に見出された有機酸の一種で、タバコやアーティチョーク、リンゴ、ナッツなど、様々な植物に微量含まれている化合物です。D-グリセリン酸のリン酸エステル誘導体は糖質代謝の中間体として重要です。

加えて、グリセリン酸は肝機能の改善効果やエタノール代謝の促進効果など、複数の生物活性が報告されています。しかし、機能や用途に関する研究は不足しています。近年の研究によって、以下のようなポリマー原料や有機材料の原料として期待されています。

グリセリン酸のヒドロキシル基をアシル化し、例えば、リノレン酸やパルミチン酸を導入したジアシルグリセリン酸は、化粧品やスキンケア用の組成物として期待されています。また、モノアシルグリセリン酸は皮膚刺激の少ない界面活性剤であることが明らかにされています。

グリセリン酸と糖を反応させて得られるグリコシルグリセリン酸は、皮膚細胞への刺激性が低い、外的ストレスに対して保護作用を示すといった特徴が見出されており、スキンケア・ヘアケア製品類へ応用可能な新素材として期待されています。

上記の通り、グリセリン酸のアシル、及び、グルコシル誘導体には優れた界面活性剤としての機能、生体分子の保護機能があることが報告されています。一方、誘導体化しないグリセリン酸塩単独でも、細胞賦活化機能があることが明らかにされており (エタノール損傷を受けた胃細胞をグリセリン酸カルシウムが賦活化) 、サプリメントへの展開などが期待されています。

その他、グリセリン酸は反応性の異なる2つのヒドロキシル基とカルボキシル基を有するために重合しやすく、生分解性ポリマーとしても展開が期待されています。

グリセリン酸の性質

グリセリン酸はヒドロキシカルボン酸の一つで、化学式ではHOCH2(OH)COOHと表しますが、不斉炭素を持っているため、光学異性体のD体とL体が存在します。

D体とL体は、右手と左手のように互いに重ね合わせられない鏡像の関係にあります。D-グリセリン酸とL-グリセリン酸は化学的性質は同じですが、生物学的作用は異なります。

D-グリセリン酸とL-グリセリン酸が混合したDL-グリセリン酸はシロップ状の液体で、水やエタノールアセトンには溶けますが、エーテルやベンゼンには不溶です。グリセリン酸水溶液として販売されていることが多いです。

グリセリン酸のその他情報

グリセリン酸の製造法

グリセリン酸は上記のように重要な原料ですが、工業的生産方法が確立されておらず高価です。そこで、安価なグリセリンからグリセリン酸を製造する技術開発が行われています。

グリセリンを化学法、あるいは生物法による酸化でDL-グリセリン酸が製造できることが、広く知られています。しかし、分子内にある複数のヒドロキシル基の酸化を制御する必要があります。そこで、様々な方法で高選択的に酸化する技術開発が行われています。

微生物などを上手く利用して、DL-グリセリン酸のラセミ分割を行うと、D-グリセリン酸、L-グリセリン酸をそれぞれ選択的に得られることが知られています。しかし、工程数が多くなってしまうため、微生物を利用して直接D体を得る方法も研究されています。

グリセリンの酸化以外の製造方法として、2,3-ジブロモプロピオン酸の加水分解による方法も知られています。

発酵生産で得られるグリセリン酸は D体であるのに対し、L-グリセリン酸は医薬品等に応用可能な L-糖誘導体の合成原料として有望です。そこで、新たなプロセスによるL体生産技術の開発も進められています。グリセリン酸の光学異性体を制御可能な微生物プロセスの開発により、L体含有量の多いD-グリセリン酸が得られるようになってきています。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/12/5/12_203/_pdf/-char/ja
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090325/pr20090325.html

グアイアコール

グアイアコールとは

グアイアコールの基本情報

図1. グアイアコールの基本情報

グアイアコールとは、分子式がC7H8O2で表される、メトキシ基を持つフェノール類の1種です。

2-ヒドロキシアニソール、メチルカテコール、o-メトキシフェノールとも呼ばれます。グアヤコールやグアイヤコールとも表記されます。

グアイアコールはオーク樽内で熟成したワインから産生される天然の香料化合物です。グアイアコールと2,4,6-トリクロロアニソール (英: 2,4,6-Trichloroanisole) は、ワインの中でコルクを腐らせる原因物質と言われています。

グアイアコールの使用用途

グアイアコールは、クレオソート (英: creosote) の主成分です。クレオソートとは、ブナ属植物などから得た木タールを蒸留して、生成されたフェノール類の混合物です。

殺菌・防腐作用があり、各種下痢・腸内異常発酵・食中毒の内服薬として利用されています。そのほか、去痰・鎮咳作用があり、慢性気管支炎の治療薬に用いられています。

また、独特な芳香臭から香料などの合成原料としても利用可能です。さらに、バニラの香りの原料であるバニリンの調整物質としても使われています。

グアイアコールの性質

グアイアコールの融点は28°C、沸点は204〜206°Cです。特異臭があり、無色から薄黄色の液体または無色の結晶固体です。水にはやや溶けにくく、メタノールエタノールには混和します。

毒性や刺激性があるため、口内粘膜に誤って触れた場合には、すぐ洗浄する必要があります。成人の致死量は3〜10gです。

なお、グアイアコールはフェノールの2位にメトキシ基を有し、2-メトキシフェノールとも呼ばれます。分子量は124.13で、示性式は2-CH3OC6H4OHと表されます。

グアイアコールのその他情報

1. グアイアコールの合成法

グアイアコールの合成

図2. グアイアコールの合成

1826年にオットー・パウル・ウンフェルドルベン (英: Otto Paul Unverdorben) によって、初めてグアイアコールは分離されました。炭酸カリウムと硫酸ジメチルを使用して、o-カテコール (英: o-catechol) をメチル化すると、グアイアコールを合成できます。

実験室でグアイアコールは、さまざまな方法で調製可能です。アニソールから2段階で誘導されるo-アニシジン (英: o-Anisidine) を、ジアゾニウム誘導体を介して加水分解すると、グアイアコールは生成します。カテコールをジメチル化し、選択的なモノ脱メチル化によっても、グアイアコールを合成可能です。

2. グアイアコールの反応

グアイアコールの反応

図3. グアイアコールの反応

バイオマス由来のグアイアコールは、「グリーン燃料 (英: green fuels) 」として、多種多様な化合物を合成するための有用な前駆体です。例えば、ペルオキシダーゼ (英: Peroxidase) の定量化に利用されます。

ペルオキシダーゼとは、酸化的にペルオキシド構造を切断し、2個のヒドロキシル基へ分解できる酵素です。過酸化水素の存在下で、ペルオキシダーゼによってテトラグアイアコール (英: tetraguaiacol) が生成します。テトラグアイアコールは、420~470nmの吸光度で定量化できる着色化合物です。

3. グアイアコールの構造異性体

グアイアコールの置換基の位置が異なる構造異性体は、3-メトキシフェノールと4-メトキシフェノールです。3-メトキシフェノールはメトキシ基を3位に持ち、4-メトキシフェノールはメトキシ基を4位に有します。

3-メトキシフェノールはm-メトキシフェノール、 m-グアヤコール、m-ヒドロキシアニソール、3-ヒドロキシアニソール、レゾルシノールモノメチルエーテルとも呼ばれます。

メキノール、4-ヒドロキシアニソール、パラグアイアコールなどは、4-メトキシフェノールの別名です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/GHS_MSD_DET.aspx

キナゾリン

キナゾリンとは

キナゾリンの基本情報

図1. キナゾリンの基本情報

キナゾリン (Quinazoline) とは、芳香族化合物の一種で分子式C8H6N2で表される有機化合物です。

ベンゼン環とピリミジン環の2個の6員環が縮合した構造を持ちます。CAS登録番号は253-82-7です。分子量130.15、融点49-50℃、沸点243℃であり、常温では白色から淡黄色の結晶又は結晶性粉末です。

特異臭を呈します。エタノールアセトンに溶けますが、水には溶けにくいです。密度は1.351g/cm3、酸解離定数pKaは3.51、引火点は106℃です。また、キナゾリンは、消防法や毒劇法といった主な国内法規での指定適用はありません。

キナゾリンの使用用途

キナゾリンの主な使用用途は、有機合成原料です。また、誘導体であるキナゾリン系化合物は様々な分野で応用されています。

医療分野では、キナゾリン誘導体は、抗マラリア剤や、脳腫瘍などのがんの治療薬などです。他にキナゾリン環を含む薬剤としては、降圧薬 (α受容体遮断薬) のドキサゾシンが挙げられます。

また、エレクトロニクスの分野でもキナゾリン系化合物は有機EL材に有効とされている物質です。ディスプレイなどへの応用が進められています。

キナゾリンの性質

図2. キナゾリンの水和反応(上)と位置番号(下)

キナゾリンは、N3位でプロトン化 (及びメチル化) される性質があります。N3位がプロトン化されることで、C4位に水分子を始めとする種々の付加反応が起こります。

また、キナゾリン溶液を酸性またはアルカリ性で加熱すると、加水分解します。分解生成物は2-アミノベンズアルデヒド (またはその重合体) 、ギ酸アンモニア (若しくはアンモニウムイオン) です。 

キナゾリンのピリミジン環は芳香族求電子置換反応を受けにくい性質ですが、2位よりは4位のほうが反応性は高いとされます。ピリミジン環よりもベンゼン環部位のほうがより求電子置換反応を受けやすい性質です。また、2位または4位のハロゲン置換体は容易に芳香族求核置換反応を受けます。

キナゾリンの種類

キナゾリンは、主に研究開発用の試薬製品として販売されています。主に有機合成の原料として使用されています。

製品容量の種類は1g , 5gなどです。少量での提供となっており、比較的高価な試薬であるということができます。室温で取り扱われる試薬製品です。

また、種々のキナゾリン誘導体も試薬製品として販売されており、有機合成原料として使用されています。市販されているキナゾリン誘導体には、4-クロロキナゾリン、4-ヒドラジノキナゾリン、キナゾリン-2-カルボン酸塩酸塩、2-メチル-4(3H)-キナゾリノンなどがあります。

キリナゾリンのその他情報

1. キナゾリンの合成

キナゾリンの合成

図3. キナゾリンの合成

キナゾリンの合成は、歴史的にはキナゾリン-2-カルボン酸の脱炭酸が最初に報告されています。現在考えられる効率的な合成方法の1つは、4-クロロキナゾリンに対してトシルヒドラジド基を導入し、塩基によってこれを除去する方法です。

キナゾリン誘導体の合成方法のうち、有名な人名反応にはニーメントウスキーのキナゾリン合成 (Niementowski quinazoline synthesis) があります。この反応は、アントラニル酸とアミドから4-オキソ-3,4-ジヒドロキナゾリンの誘導体を合成する反応です。

2. キナゾリンの誘導体

キナゾリン環を持つ分子は種々の薬剤に用いられています。抗マラリア剤や、降圧剤などの他、近年の例では、分子標的治療薬の一種であるチロシンキナーゼ阻害薬を挙げることができます。具体的な薬剤は、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ラパチニブなどです。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0232-5326JGHEJP.pdf
特表2017-507971、2017-503001、2017-520905

オキサゾール

オキサゾールとは

オキサゾールの基本情報

図1. オキサゾールの基本情報

オキサゾール (Oxazole) とは、複素環式芳香族化合物のアミンの一種に分類され、化学式C3H3NOの有機化合物です。

CAS登録番号は、288-42-6です。分子量は69.06、融点-87〜 -84℃、沸点69-70℃であり、常温では無色からうすい黄色の液体です。密度は1.05 g/mL、共役酸のpKaは0.8となっています。

引火点が19℃と低いことから、引火性の高い液体や蒸気です。そのため、消防法では「危険物第四類・第一石油類・危険等級Ⅱ」に指定されており、労働安全衛生法では「危険物・引火性の物」とされます。また、危険物の規制に関する規則でも「引火性液体類」、航空法では「引火性液体」という指定がされている物質です。

オキサゾールの使用用途

オキサゾールは、耐熱性高強度ポリマーの原料として有益であることから多方面での活用が図られている物質です。用途の一例には、建築養生シートなどがあり、特に耐熱耐圧が要求される「産業用シート材」への利用があります。

その他、エレクトロニクス分野では、耐熱性に優れていることから半導体チップに使われている絶縁膜や「電子デバイス用ヒートシンク」に使用される接着ポリマーフィルムなどが挙げられます。

オキサゾールの性質

オキサゾールの反応の例

図2. オキサゾールの反応の例

オキサゾールは芳香族化合物の一種です。ただし、チアゾールよりは芳香族性が少ないとされます。イミダゾールの窒素が酸素に置換した異性体ですが、オキサゾールは弱い塩基性を示します。

オキサゾールの共役酸のpKaは0.8であり、イミダゾールの共役酸のpKaが約7であることと対照的です。反応性の上では、オキサゾールのC2位を脱プロトン化すると、開環したイソニトリルが生成することがあるとされます。また、オキサゾールのジエン構造に対してディールス・アルダー反応が進行すると、酸素を失ってピリジン体が生成します。

4-アシルオキサゾールは、熱による転位反応であるコンフォースによってアシル残基がC5位に転位することが知られている化合物です。また、オキサゾール類は種々の酸化反応を起こすことが知られている化合物群です。例えば、4,5-ジフェニルオキサゾールに3当量の硝酸セリウムアンモニウム (CAN) を加えることにより、ホルムアミド安息香酸が生成することが報告されています。

なお、この反応では平衡半反応によりオキサゾール1当量あたり3当量の水が消費され、4当量のプロトン・4当量の電子から4価のセリウムが誘導されます。

オキサゾールの種類

オキサゾールは主に研究開発用の試薬製品として販売されています。容量の種類は1g , 10gと少量での提供となっており、高価な化合物です。

大量に入手したい場合は、別途メーカーへの個別見積もりが必要になります。室温で取り扱われることも、冷蔵で保管されることもある試薬です。

また、非ハロゲン化ヘテロ環ビルディングブロックとしてオキサゾールの類縁体は、試薬として多くのものが販売されています。具体例としては、2,4,5-トリメチルオキサゾール、ベンゾオキサゾールやその誘導体を挙げることができます。

オキサゾールのその他情報

オキサゾールの合成

オキサゾールの合成の例

図3. オキサゾールの合成の例

オキサゾールの合成法には種々の報告があります。古典的な合成方法として、以下が挙げられます。

  • 2-アシルアミノケトンの脱水反応によるロビンソン・ガブリエル合成反応
  • シアノヒドリンとアルデヒドを原料とするフィッシャーのオキサゾール合成反応
  • α-ハロケトンとホルムアルデヒドより合成するブレデレク反応等

また、オキサゾールの誘導体の合成方法としては、プロパルギルアミドの環化異性化反応や、ベンゾイルクロリドとイソニトリルの反応によって合成する方法などが報告されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/82558-50-7.html

エチルビニルエーテル

エチルビニルエーテルとは

エチルビニルエーテル (英: Ethyl Vinyl Ether) とは、特有のエーテル臭を有する無色の液体で、化学式 CH2CHOC2H5の有機化合物です。

別名として、エトキシエテン、ビニルエチルエーテル、3‐オキサ‐1‐ペンテンなどがあります。厚生労働省による職場の安全データシートや日本国内の大手試薬メーカーのウェブサイトでは、主に「エチルビニルエーテル」の名称が使用されています。

エチルビニルエーテルは、主にポリマーの原料や有機合成試薬、吸入麻酔として用いられています。エチルビニルエーテルの引火点は-45度と低く、容易に引火してしまうため、危険物第4類の特殊引火物に定められています。

エチルビニルエーテルの使用用途

エチルビニルエーテルは、主にポリマー合成における原料モノマー、有機化学反応における試薬、吸入麻酔として使われています。また、エチルビニルエーテルは、有機溶媒に溶けやすいことから塗料や接着剤の溶剤としても活用されています。

エチルビニルエーテルはビニル基構造を有しており、重合によってポリエチルビニルエーテルへと変換することが可能です。例えば、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒としてエチルビニルエーテルをカチオン重合することにより、ポリエチルビニルエーテルが得られます。ポリビニルエーテル類は、接着剤やインク材料、コーティング材料の原料です。

有機合成試薬としては、様々な有機化学反応の原料として使われています。また、エチルビニルエーテルは吸入麻酔としても使用されています。厚生労働省による職場の安全データシートによると、エチルビニルエーテルの吸入による外科麻酔濃度は6%です。

エチルビニルエーテルの性質

化学式 CH2CHOC2H5
日本語名 エチルビニルエーテル
英語名 Ethyl Vinyl Ether
CAS番号 109-92-2
分子量 72.11 g/mol
融点/凝固点 -115℃
沸点または初留点および沸騰範囲 36℃
引火点 -45℃

 

エチルビニルエーテルは、エタノール、エーテル、アセトンに溶けやすい性質を持っています。一方で、水には不溶です。

エチルビニルエーテルのその他情報

1. エチルビニルエーテルの有害性

エチルビニルエーテルは、吸引麻酔として使用されている有機化学化合物です。そのため、エチルビニルエーテルを吸入してしまった場合、めまいや眠気などが起こる可能性があります。エチルビニルエーテルを使用する際は、換気の良い場所で作業し、必要に応じて呼吸器の保護具を着用してください。

エチルビニルエーテルの皮膚や眼への毒性や刺激については、動物試験によって刺激なしとの結果が得られています。しかし、非常に引火しやすい危険物であるため、エチルビニルエーテル取り扱い時は保護手袋、保護メガネ、保護具の着用が推奨されています。

2. エチルビニルエーテルの使用上の注意

エチルビニルエーテルは、消防法により危険物第4類の特殊引火物に指定されている危険物です。引火点が-45度と非常に低いため、熱・火花・火炎によって簡単に引火します。また、エチルビニルエーテルの蒸気と空気の混合気体は爆発性を有しています。

安全対策は、熱や火花、高温のヒーターといった着火源を近くに置かないこと、火花を発生させない実験環境で取り扱うこと、静電気放電に関する予防措置を実施することなどです。また、エチルビニルエーテルは酸化剤や酸と激しく反応し、爆発や火災を発生させるおそれがあります。

一度に大量に使用する場合は、特に注意して取り使わなければなりません。重合反応や有機合成にエチルビニルエーテルを用いる際は、安全データシートをよく確認し、安全対策をとったうえで実験を行ってください。

3. エチルビニルエーテルの安定性

エチルビニルエーテルは、熱や光によって重合反応が進行することがあります。そのため、エチルビニルエーテルが試薬として販売される際は、通常、安定剤として水酸化カリウムが0.1%程度添加されています。試薬を安定に保つため、冷暗所での保管が必要です。

4. 廃棄処分方法

エチルビニルエーテルは、環境に放出してはならない化合物と定められています。そのため、エチルビニルエーテルを廃棄処分する場合は、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して適切に処分してください。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0105-0191JGHE.pdf

インドリン

インドリンとは

インドリン (英: Indoline) とは、無色〜黒褐色の液体です。

IUPAC名は、2,3-ジヒドロ-1H-インドール (英: 2,3-Dihydro-1H-indole) 、また別名として2,3-ジヒドロインドール (英: 2,3-Dihydroindole) とも呼ばれます。

化学式C8H9N、分子量119.16の複素環式化合物です。CAS登録番号は496-15-1で、インドール (C8H7N) の2、3位が還元された構造を有します。インドリンの窒素原子が2位に位置する異性体は、イソインドリン (C8H9N) といいます。

インドリンの性質

インドリンの沸点は220℃で、融点 は-21°C、比重 (密度) は1.063g/mL (at25℃) です。エタノールに極めて溶けやすく、水にはほとんど溶けない性質を有しています。

インドリンの窒素原子は、芳香環を形成しないため電子密度が減少せず、インドールに比べ塩基性が高くなります。酸解離定数 (pKa) は5.2です。酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標のひとつです。pKa が小さいほど強い酸であることを示します。また、窒素原子は求核性を有するので、窒素原子上に置換基を導入することが可能です。

引火点が92℃の可燃性液体であることから、消防法では「危険物第四類・第三石油類・危険等級Ⅲ」に指定されています。そのほかの毒劇法や安衛法といった、主な国内法規での指定はされていません。

インドリンの使用用途

インドリンは、医薬品などの有機合成化合物の中間体として使用されています。医薬品中間体とは、原料メーカーより仕入れた原料から薬品メーカーが最終の薬剤の成分となる原薬をつくるまでの工程でできる化合物を指す言葉です。

また、黄色系色素としても知られていることから顔料・染料といった分野での活用が知られています。黄色系色素としてのインドリンは、エレクトロニクス分野でも「色素増感型太陽電池」といった光電変換素子としての活用が期待されています。

インドリンのその他情報

1. 製造方法

インドリンは、インドール (C8H7N) の接触還元により合成可能です。コールタールの蒸留精製により得られ、接触還元には、銅クロマイト、ラネーニッケル、ニッケル−チタンなどの金属触媒が使用されます。

保管の際はガラス製の遮光された容器に入れて密閉し、換気がよく涼しい場所に保存します。

2. 使用上の注意

引火性
インドリンは引火性液体であるため、高温のものや裸火、火花などの着火源から離れて使用することが大切です。また、静電気放電によりインドリンの蒸気に引火する可能性があるため、静電気を避けるためにアースを取るなどの適切な措置が必要です。

火災が生じた場合は、インドリンの熱分解で刺激性のある有毒なガスや蒸気を放出することがあります。消火には二酸化炭素や粉末消火剤、 水噴霧、フォーム、消火砂が有効で、使えない消火剤は特にありません。

人体への影響
インドリンは腐食性や刺激性があるため皮膚に付着させないことが大切です。使用時は必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用し、保護衣の袖は捲らないようにします。万が一皮膚に付着した場合は石けんと大量の水で洗い流します。痛みなどの症状が続く場合は、医師の診療を受けましょう。

眼に対し強い刺激性を持ちます。重篤な損傷を起こす可能性があるので、使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルを着用しましょう。万が一インドリンが眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗し、必ず医師の診察を受けます。

また、特定標的臓器毒性や気道刺激性があります。インドリンの蒸気を直接吸い込まないよう、局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用することが大切です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0175JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_496-15-1.html

インダン

インダンとはインダンの基本情報

図1. インダンの基本情報

インダンとは、二環性炭化水素の一種で、特異臭のある有機化合物です。

無色~うすい黄色の澄明 (ちょうめい) な液体で、CAS登録番号は496-11-7です。メタロセン (英: metallocene) 触媒を代表として、有機合成化学の中間体になっています。

引火性液体および蒸気として消防法で「危険物第四類・第二石油類・危険等級Ⅲ」に指定されているほか、安衛法で「危険物・引火性の物」、危規則で「引火性液体類」、航空法でも「引火性液体」に指定されています。

インダンの使用用途

インダンは、医薬をはじめ農薬や染料の原料、光機能材料や機能性樹脂の原料として使われています。光機能材料とは、光の照射でその性質が変化したり、通常と異なる動きをする材料のことです。身近な応用例は、蛍光体としての白色LED (英: Light Emitting Diode) です。

白色LEDとする方法は、いくつか考えられています。なかでも主流といわれているのは、構造が簡単で発光効率が一番良い「青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせ」で、この黄色蛍光体に光機能材料が使われています。

インダンの性質

インダンの融点は-51℃、沸点は176℃で、引火点は47℃です。エタノールアセトンに混和します。ただし、水にはほとんど溶けません。

また、インダンは二環性の炭化水素です。インデン (英: indene) と構造が似ていますが、インダンには五員環中に二重結合がありません。化学式はC9H10で表され、分子量は118.18g/molです。触媒を用いることで、キシレン (英: xylene) のような他の芳香族化合物へ、インダンから変えることも可能です。

インダンのその他情報

1. インダンの誘導体

インダンの誘導体

図2. インダンの誘導体

インダンの誘導体である多種多様なメチルインダンやジメチルインダンは、医薬品原料などに利用されています。インダンの誘導体は、触媒に金属ナトリウムとエタノールを使用して、酢酸エチルとフタル酸ジエチル (英: Diethyl phthalate) の反応によって、間接的に得ることが可能です。

具体的にメチルインダンには、五員環にメチル基が結合した1-メチルインダン (英: 1-Methylindane) や2-メチルインダン (英: 2-Methylindane) があります。それ以外にも、ベンゼン環にメチル基が結合した4-メチルインダン (英: 4-Methylindane) や5-メチルインダン (英: 5-Methylindane) も存在します。

2. インダンの関連化合物

インダンの関連化合物

図3. インダンの関連化合物

インデンは、インダンに構造が似た化合物です。インデンは五員環中に二重結合を持っており、分子式はC9H8です。インデンは容易に重合反応を起こすため、工業的に熱可塑性を有するクマロン-インデン樹脂 (英: coumarone‐indene resin) の原料でもあります。

テトラリン (英: tetralin) もインダンと構造が似ていますが、テトラリンは飽和した六員環を持っています。テトラリンは1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン (英: 1,2,3,4-tetrahydronaphthalene) とも呼ばれ、化学式はC10H12です。

インダンのその他の誘導体には、1,3-インダンジオン (英: 1,3-indandione) などが知られています。1,3-インダンジオンはインダン骨格を有するβ-ジケトンであり、分子式はC9H6O2です。

3. インダンと呼ばれる他の化合物

水素化インジウム (英: Indium trihydride) も、インダンと呼ばれます。ただし、綴りや読みが同一の水素化インジウムはインジガン (Indigane) とも呼ばれています。水素化インジウムの化学式はInH3です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0003JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_496-11-7.html

イソホロン

イソホロンとは

イソホロンの基本情報

図1. イソホロンの基本情報

イソホロン (Isophorone) とは、化学式C9H14Oで表され、環状ケトン構造を持つ有機化合物です。

天然ではクランベリー類に含まれています。CAS登録番号は78-59-1です。分子量は138.21、融点は-8.1℃、沸点は215.2℃であり、常温では無色からうすい黄色の澄明な液体です。

臭いは特異臭と形容されます。密度は0.92g/mLです。エタノールアセトン・エーテルに極めて溶けやすく、水にはほとんど溶けません。

イソホロンの使用用途

イソホロンの誘導体

図2. イソホロンの誘導体

イソホロンの主な使用用途は、溶剤、塗料や、農薬の原料などです。溶剤としては、接着剤、コポリマー、被覆材、仕上げ材、殺虫剤などに用いられ、塗料ではインクやペンキ、ラッカーなどがあります。

その他の用途は、合成中間体や、木製品の保存剤や床の防水剤などです。農業の分野では、酸アミド系除草剤の溶剤があります。イソホロンを溶剤として利用する方法は、クメン法でフェノールを製造する際に副生するアセトンの処理方法を探す過程の中で見つかったと言われています。

イソホロンは、塗料分野においてはポリウレタン樹脂塗料の原料で知られるイソホロンジイソシアネート (C12H18N2O2、CAS登録番号:4098-71-9) の合成中間体であり、接着剤関連ではエポキシ樹脂硬化剤の原料で知られるイソホロンジアミン (C10H22N2、CAS登録番号:2855-13-2) の合成中間体です。

イソホロンの性質

イソホロンは、引火点90℃、自然発火点462℃である可燃性液体です。通常の取扱いにおいては安定であるとされていますが、火災時の燃焼により、一酸化炭素二酸化炭素などの有害ガスが発生します。

強酸化剤、酸化剤、強塩基と反応するため、保管においてはこれらの物質との混触を避けるべきです。なお、イソホロンは、水溶液を日光に晒すと[2+2]光環化付加反応を起こして二量体化します。

イソホロンの種類

イソホロンは主に研究開発用の試薬製品や、産業用の有機溶剤として販売されています。試薬製品では、5mL , 25mL , 100mL , 500mL , 1Lなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。室温で保管可能な試薬製品です。

産業溶剤としては、工場等へ向けて大型の荷姿で販売されています。荷姿には、1L缶、4L缶、18L缶、ドラム缶、コンテナ、タンクローリーなどがあります。

イソホロンのその他情報

1. イソホロンの合成

イソホロンの合成

図3. イソホロンの合成

イソホロンは3分子のアセトンの自己縮合により合成されます。具体的な合成の流れは下記の通りです。

  1. 2分子のアセトンがアルドール縮合後に脱水して、メシチルオキシドが生成する。
  2. 別の1分子のアセトンがエノラート化した後にこの中間体に対してマイケル付加する。
  3. 環化、脱水によりイソホロンが生成する。

なお、メシチルオキシドとイソホロンの各収率は反応条件に依存するとされています。

2. イソホロンの法規制情報

イソホロンは、前述の通り可燃性液体であることから、消防法では「危険物第四類・第三石油類・危険等級Ⅲ」に指定されている化合物です。

また、労働安全衛生法では「名称等を通知すべき危険物および有害物」「名称等を表示すべき危険物および有害物」、化審法で「優先評価化学物質」に指定されているほか、海洋汚染防止法でも指定対象となっています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0179JGHEJP.pdf 
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_78-59-1.html https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Isophorone
https://www.env.go.jp/chemi/report/h23-01/pdf/chpt1/1-2-2-02.pdf

イソブチルビニルエーテル

イソブチルビニルエーテルとは

イソブチルビニルエーテルの基本情報

図1. イソブチルビニルエーテルの基本情報

イソブチルビニルエーテル (Isobutyl vinyl ether) とは、化学式 C6H12Oで表され、エーテル結合を有する有機化合物です。

別名には、1-エテンオキシ-2-メチルプロパン、イソブトキシエテン、ビニルイソブチルエーテルなどの名称があります。CAS登録番号は、109-53-5です。

分子量100.16、融点-132℃、沸点83℃であり、常温では無色透明の液体です。エーテル類特有の甘い香りを放つ特徴があります。密度は0.77g/mLであり、水にはほとんど溶けません。エーテル、ベンゼンアセトン、アルコールに溶けやすい性質です。

イソブチルビニルエーテルの使用用途

イソブチルビニルエーテルは、主に有機合成原料として使用されている物質です。製造物は医薬品、可塑剤、腐食防止剤など様々な分野で使用されています。

また、重合によって生成するポリマー類も産業用途で用いられています。ホモポリマーは、接着剤、ペイント、ワニス、潤滑剤、グリース、エラストマーなどに用いられます。また、オレフィンやシロキサン、ジイソシアネートなどを共重合成分とするコポリマーは、接着剤、コーティング剤、繊維仕上剤、潤滑油添加剤などの用途で使用される物質です。親和性、親水性、塑性等を与え、作業性、染色性、強度、柔軟性、透明性、光沢などを向上させる作用があります。

塩化ビニルとの共重合体は、塗料樹脂に使用されることが多く、この塗料樹脂は船舶、防さび、石材・コンクリート、ポリオレフィンなど、多岐にわたって使用されている物質です。それ以外では、アリルビニルエーテルとの共重合体、アクリル酸メチルアクリロニトリルとの三元共重合体なども市販され、利用されています。

イソブチルビニルエーテルの性質

イソブチルビニルエーテルの化学反応の生成物の例

図2. イソブチルビニルエーテルの化学反応の生成物の例

イソブチルビニルエーテルは、分子内にオレフィン構造を含むため、熱、光などの影響や過酸化物などの重合開始剤との接触により重合することがあるとされます。

アルカリに対しては安定ですが、酸による加水分解を受ける他、ルイス酸存在下では重合反応を起こす物質です。酸性条件においてアルコールと反応すると、アセタールが生じます。

また、引火点は-15℃と低く、自然発火点は195℃です。保管の際は、熱、火花、裸火、静電放電、光などの条件を避け、酸化剤との混触を避ける必要があります。

イソブチルビニルエーテルの種類

イソブチルビニルエーテルは、工業用薬品及び研究開発用試薬製品として販売されています。研究開発用試薬製品としては5mL , 25mL , 250mL , 500mL , 5g , 25gなどの容量の種類で提供される薬品です。室温もしくは冷蔵で保管される試薬製品であり、メーカーによって取り扱いが異なります。安定剤としてトリヘキシルアミンが含まれている場合があります。

工業用では100g , 1kg , 25kg , 150kgなどの容量の種類があり、ドラム缶などで提供されます。工業的用途は、主に有機合成原料やコーティング剤などです。

イソブチルビニルエーテルのその他情報

1. イソブチルビニルエーテルの合成

イソブチルビニルエーテルの合成

図3. イソブチルビニルエーテルの合成

イソブチルビニルエーテルは、イソブタノールアセチレンのレッペ反応によって合成することが可能です。

2. イソブチルビニルエーテルの取り扱い・法規制情報

イソブチルビニルエーテルは、前述の通り、引火点が低く、引火性の高い物質です。そのため、消防法では、第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体に指定されており、労働安全衛生法では、危険物・引火性の物に指定されています。法令を遵守した適切な取り扱いが必要です。

裸火などの火気から遠ざける他、防爆型の電気機器、換気装置、照明機器を使用するなどの対策を取る必要があります。また、皮膚刺激性・眼刺激性が指摘されている物質でもあります。保護手袋、保護眼鏡などの適切な保護具を用いた取り扱いが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/109-53-5.html