イミド

イミドとは

イミドとは、窒素原子を中心として2つのカルボニル基を含む、特定の構造を持った化合物の総称です。アンモニアを骨格に持ち、窒素原子に水素原子と2つのカルボニル基が結合したものや、1級アミンを骨格に持ち、窒素原子に任意の置換基と2つのカルボニル基が結合したものがあります。

イミドと他の化合物を重合したものは、ポリイミドと呼ばれます。多くの場合、イミドと芳香族化合物の重合が用いられます。ポリイミドは耐熱性や耐久性に優れたものが多く、工業的に利用されています。

イミドの使用用途

イミドの主な使用用途は、ポリイミドの原料としての用途です。
ポリイミドは他のポリマーに比べて耐熱性や耐久性に優れている上、化学薬品への耐性が高く、誘電率が低いです。そのため、配線や絶縁層を熱や刺激から守る「ストレスバッファー」や、モバイル端末内の絶縁体として用いられています。

また、単体で使用されているイミドにはフタルイミドなどがあります。フタルイミドのカリウム塩であるフタルイミドカリウムは、加水分解することでアミンを発生することが利用されています。また、アルキル基との化合物であるアルキルフタルイミドは、人工甘味料であるサッカリンや、アゾ染料の原料として用いられています。

イソシアン酸

イソシアン酸とは

イソシアン酸は、HNCOという化学式で表される無機化合物です。常温常圧で無色の気体または液体です。イソシアン酸にはシアン酸と雷酸という2つの異性体が存在します。イソシアン酸は容易にシアン酸へ変化します。

イソシアン酸は、シアン酸イオンに酸を加え、水素イオンを付加することで得られます。尿素から得られる物質であるシアヌル酸を熱分解するという合成方法もあります。

イソシアン酸はベンゼンなどの有機溶媒に可溶で、水にわずかに溶けます。有機溶媒中ではイソシアン酸の形をしばらく保つことができます。

イソシアン酸の使用用途

イソシアン酸には様々な誘導体が存在しています。

イソシアン酸の主要な誘導体の1つが、イソシアン酸メチルです。イソシアン酸メチルは、カルバリルやメソミルなどの農薬の原料として利用されています。

しかし、イソシアン酸メチルはごく微量を吸引しただけで呼吸困難や粘膜への刺激があり、高濃度のイソシアン酸メチルにさらされた場合には肺出血や気管支炎などの重大な疾患が発生します。1984年には、インドのボパールにあるカルバリル工場からイソシアン酸メチルが漏洩し、8000人以上の死者を出しました。

アンモニウム

アンモニウムとは

アンモニウムとは、NH4+という化学式で表される、他原子イオンです。アンモニウムイオンとも呼ばれます。

アンモニウムは、アンモニア(NH3)に水素イオンが結合することによって生成されます。アンモニアを水に溶かすと、一部のアンモニアは水溶液中でアンモニウムとなります。アンモニア水溶液中では、アンモニウムとして存在するものとアンモニアとして存在するものとの間で平衡状態が保たれます。

アンモニウムは、塩化物イオンや炭酸イオンなどとイオン結合して、塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムなどの様々な塩を形成します。

アンモニウムの使用用途

動物が取り入れたアンモニアを体内で分解した時、アンモニウムが発生します。アンモニウムは動物にとっては毒素となるため、他の物質へと置き換えられ、やがて排出されます。
人間の場合、肝臓に存在する尿素回路という回路により、アンモニウムは尿素へ置き換えられます。尿素は腎臓へと運ばれた後、尿として排出されます。

動物が排出した尿素は微生物や植物の栄養源となります。こうしてアンモニウムは窒素源として生態系を循環しています。

アントラニル酸

アントラニル酸とは

アントラニル酸の基本情報

図1. アントラニル酸の基本情報

アントラニル酸 (Anthranilic acid) とは、化学式C7H7NO2で表され、芳香族アミノ酸の1種に分類される有機化合物です。

別名には、「2-アミノ安息香酸」「カルボキシアニリン」「1-アミノ-2-カルボキシベンゼン」などの名称があります。CAS登録番号は、118-92-3です。

分子量137.13、融点146〜148 ℃、沸点200℃であり、常温では白色または淡黄色の結晶粉末です。臭いはありませんが、甘味を持つという特徴があります。密度は 1.412g/mL、酸解離定数pKaは2.17 (アミノ基)、4.85 (カルボキシル基)です。

また、熱水やエタノール、エーテルに可溶であるという性質をもちます。

アントラニル酸の使用用途

アントラニル酸は、カドミウムやコバルト等の金属イオンと不溶性のキレート化合物を生成するため、これらの金属イオンの定量に用いられている他、インディゴ等の染料や顔料を合成する際に、合成中間体としても使用されています。例えば、ジメチルアニリンとのジアゾカップリング反応により、アゾ染料であるメチルレッドの合成が可能です。

また、アントラニル酸の誘導体も、種々の利用法があります。例えば、アントラニル酸とメタノールのエステル化合物は、香料として利用される化合物です。

アントラニル酸カルシウムは、工業的にはアクリジンの原料として有用な化合物です。このアクリジンは、アクリジン系染料や医薬品の有機合成原料、生体組織の部分染着試薬として広く利用されています。

アントラニル酸の性質

アントラニル酸の化学反応の例

図2. アントラニル酸の化学反応の例

アントラニル酸は、種々の化学反応が知られています。例えば、アントラニル酸は、ジアゾ化反応を起こしてジアゾニウムイオンを生じることが知られており、このジアゾニウムイオン生成物はベンザイン構造を与えたり、更に二量化したりすることが知られている化合物です。

また、ジアゾ化に続くジメチルアニリンとの反応によって、メチルレッドを調製することが可能です。アントラニル酸とクロロギ酸エチルの反応、もしくはアントラニル酸ナトリウムにホスゲンを反応させることによって、イサト酸無水物を生成することが知られています。

アントラニル酸の種類

アントラニル酸は、一般的には研究開発用試薬製品として販売されています。25g  , 100g , 500gなどの容量の種類があります。室温で保存可能な試薬製品として提供される化合物です。

アントラニル酸は、麻薬及び向精神薬取締法において向精神薬原料に指定されている化合物です。取り扱いの際は法令を遵守して正しく扱うことが必要とされます。

アントラルニルのその他情報

1. アントラニル酸の合成

アントラニル酸の合成

図2 アントラニル酸の合成

工業的・合成化学的には、アントラニル酸は、次亜塩素酸を用いたフタルイミドのホフマン転位、または、o-ニトロ安息香酸の還元によって合成されます。

2. アントラニル酸の生合成と生体内利用

アントラニル酸は哺乳類に対して催乳作用を示すため、ビタミンL1とも呼ばれている物質です。生体内でのシキミ酸経路では、コリスミ酸とグルタミンからアントラニル酸シンターゼによって合成されます。

また、トリプトファンの代謝経路の1つであるキヌレニン経路においては、キヌレニンより生合成されています。アントラニル酸は、さまざまなアルカロイドの前駆体です。アントラニル酸とメタノールのエステル化によって生成されるアントラニル酸メチルは、ブドウやジャスミンに含まれている香気成分です。

3. アントラニル酸の法規制情報

アントラニル酸は、「麻薬及び向精神薬取締法」において、「アントラニル酸及びその塩類」の名称で規制の対象となっており、向精神薬原料に指定されている物質です。そのため、取り扱いの際には、法令を遵守して正しく扱うことが求められています。

参考文献
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907022033346771

アレン

アレンとは

アレンの基本情報

図1. アレンの基本情報

アレンとは、二重結合2つにより炭素原子3つが直鎖上に結合した構造を持つ有機化合物です。

これらの化合物を総称してアレンと呼びます。アレンの中で、最も基本的な構造を持つ化合物はプロパジエンです。プロパジエンのことをアレンと呼ぶ場合もあります。

2,3‐ジブロモプロペンや2,3‐ジクロロプロペンのエタノール溶液に、亜鉛末を作用させると、プロパジエンを合成可能です。その一方で、プロパジエンに硫酸を吸収させて、水を加えて蒸留するとアセトンになります。

アレンの使用用途

狭義の「アレン」であるプロパジエンは、MAPPガスの成分として利用されています。MAPPガスとは、プロパジエンとメチルアセチレンの混合物のことです。MAPPガスははんだ付けや溶接などに用いられています。安全性が高く輸送しやすいですが、コストパフォーマンスが悪いです。

広義の「アレン」に分類される化合物は、あまり工業的に利用されていません。しかし、アレンは反応性に富みさまざまな付加反応を起こすため、有用な化学反応への応用が期待されています。アレンの特徴として、軸方向にキラリティーを持つことなどが挙げられます。

アレンの性質

アレンの化学的性質は、一般的なアルケンとは大きく異なります。共役ジエンや孤立ジエンなどと比較すると、アレンはとても不安定です。アレンのC–H結合は、ビニル基のC-H結合よりも弱く、酸性が強いです。

アレンは[2+2]環化付加反応や[4+2]環化付加反応を起こします。遷移金属触媒を用いると、形式的環化付加反応が進行します。

アレンのうち最も基本的な構造を有するプロパジエンは、甘い臭気を持つ無色の気体です。融点は-136.3°C、沸点は-34.4°Cです。水にはほとんど溶解しません。分解しやすいですが、安定性は高く、メチルアセチレンとともに溶接燃料に使用されます。

アレンの構造

アレンの合成

図2. アレンの合成

アレンのように、二重結合が2つ以上連続した構造を集積二重結合と呼びます。化学式はR2C=C=CR2と表わされます。二重結合が3個以上連続した構造を持つ化合物の呼称は、クムレン (英: Cumulene) です。アレンのRをアルキル基としたR2C=C=CR–のような置換基は、アレニル基 (英: allenyl group) と呼ばれます。

最も基本的な構造を有するアレンである、プロパジエンの化学式はH2C=C=CH2です。プロパジエンは、化学式がH3C-C3≡CHのメチルアセチレンとの平衡状態として存在しています。アレンの合成には特殊な合成法が、必要な場合も多いです。ただし工業的にプロパジエンは、メチルアセチレンとの混合物から合成されています。

アレンのその他情報

1. アレンの幾何構造

アレンの中心炭素原子は、σ結合とπ結合を2個ずつ持っています。末端にある炭素原子2個は、sp2混成軌道を有します。炭素原子3個は直線構造を形成しており、結合角は180°です。末端炭素原子2個は平面構造を形成し、各平面は配置が90°ねじれています。

2. アレンの分子対称性

アレン分子は、2枚羽のプロペラに例えられることが多いです。すなわちアレンは4個の置換基を有し、中心炭素原子を通って2種類の末端CH2平面から、45°傾いた2本の2回回転対称軸C2が存在します。

C=C=C結合軸に沿って3個目の2回回転対称軸を有し、2個のCH2平面はいずれも鏡映対称面になっています。以上のことから、アレン分子の対称性は点群D2dに属し、置換基を持たないアレンは総双極子モーメントがない非極性分子です。

3. アレンの異性体

アレンの異性体

図3. アレンの異性体

アレン分子の持つ炭素原子2個が、異なる置換基2種類と結合した誘導体は、鏡像異性体を有します。アレン分子を軸に沿って見た際の置換基の優先順位によって、R配置とS配置を決定可能です。奥側より手前側が優先され、手前と奥の相対配置によって決まっています。

このように、アレンは珍しい光学特性を有するため、有機材料の合成でビルディングブロックに利用されます。

アルドール

アルドールとは

アルドールは、アルデヒド基とヒドロキシ基を同時に持つ化合物の総称です。アルドールは、2つのアルデヒドがアルドール反応を起こすことによって生成されます。

また、アルデヒド基とヒドロキシ基を同時に持つ物質の一つである3-ヒドロキシブタナールをアルドールと呼ぶ場合もあります。3-ヒドロキシブタナールはC4H8O2という化学式で表される有機化合物です。常温常圧で無色の液体です。

3-ヒドロキシブタナールはアセトアルデヒドのアルドール反応によって得られる、広義のアルドールにおける基本的な物質です。

アルドールの使用用途

3-ヒドロキシブタナールは、かつては睡眠薬などとして利用されていましたが、現在では使用されていません。

広義のアルドールは、二つの炭素原子をつなげる主な反応として知られている「アルドール反応」の生成物です。

アルドール反応とは、カルボニル化合物から生成するエノラートとケトンからヒドロキシカルボニル化合物が合成される反応のことです。2つの反応物が共にアルデヒドであった場合、合成される化合物はアルデヒド基とヒドロキシ基を両方持つことになります。つまり、アルデヒド同士のアルドール反応ではアルドールが生成されます。この性質は、「アルドール反応」という名前の由来となっています。

アニリン塩酸塩

アニリン塩酸塩とは

アニリン塩酸塩 (英: Anilinium chloride) とは、芳香族アンモニウム塩に分類され化学式C6H8ClNで表される有機化合物で、アニリニウムイオンと塩化物イオンの塩です。

CAS登録番号は、 142-04-1です。別名には、塩酸アニリン、塩酸ベンゼンアミン、塩酸フェニルアミン、塩化アニリン、アニリン塩、塩化フェニルアンモニウムアニリン塩酸塩などの名称があります。

IUPAC命名法による名称は塩化アニリニウムです。アニリン塩酸塩は、毒物及び劇物取締法において劇物に指定されています。

アニリン塩酸塩の使用用途

アニリン塩酸塩の主な使用用途は、染料原料及び有機合成原料です。アニリン塩酸塩を酸化するとアニリンブラックという不溶性の黒色染料となることが知られており、繊維質上でこの反応を行うことによる染色方法があります。

また、5度以下でアニリン塩酸塩と亜硝酸を反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウムが生成します。この塩化ベンゼンジアゾニウムはフェノール塩と混合するとジアゾカップリングを起こす物質です。

ジアゾカップリングの生成物は、赤から黄色の色素であるため、染色に用いられます。また、アニリン塩酸塩は、アニリン合成における中間体としても用いられる物質です。

アニリン塩酸塩の性質

アニリン塩酸塩の基本情報 (1)

図1. アニリン塩酸塩の基本情報

アニリン塩酸塩は、分子量129.59、融点198℃、沸点245℃ (分解) であり、常温常圧では白色の板状結晶です。

空気および光に曝露すると暗色になります。密度は1.22g/mL、水への溶解度は107g/100mL (20℃) です。水の他にエーテルやエタノールにも溶解します。ベンゼンには溶けません。

アニリン塩酸塩の種類

アニリン塩酸塩は、主に研究開発用試薬製品や、産業用化学薬品として販売されています。産業用化学薬品の用途としては、医薬原料・フラックス・有機合成原料などが想定されています。

研究開発用試薬製品には、25g、100g、500gなどの容量の種類があります。実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的です。冷蔵もしくは室温にて保管されます。

アニリン塩酸塩のその他情報

1. アニリン塩酸塩の合成

アニリン塩酸塩の合成

図2. アニリン塩酸塩の合成

アニリン塩酸塩は、アニリンに濃塩酸を加えることで得られます。また、ニトロベンゼンをスズと塩酸を用いて還元するアニリンの合成方法では、生じたアニリンと過剰の塩酸とが反応して塩酸塩を与えることがあります。

2. アニリン塩酸塩の化学反応

アニリン塩酸塩の化学反応

図3. アニリン塩酸塩の化学反応

アニリン塩酸塩は弱塩基であるため、水酸化ナトリウムなどの強塩基を加えることにより、アニリンが遊離します。また、アニリンの重要な化学反応の1つは、塩化ベンゼンジアゾニウムの合成反応です。

アニリン塩酸塩と亜硝酸を5度以下で反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウムを生じます。塩化ベンゼンジアゾニウムは、フェノール塩とのジアゾカップリング反応によって種々のジアゾ化合物を与えます。一般的にジアゾ化合物は、色素・染料として有用な化合物です。

3. アニリン塩酸塩の反応性

アニリン塩酸塩は通常の取扱い条件下では安定ですが、可燃性であり、加熱や酸との接触により分解する物質です。特に酸化剤と激しく反応し、アニリン、窒素酸化物および塩化水素を含む、有毒で腐食性のフュームを生じます。

4. アニリン塩酸塩の危険性と法規制情報

アニリン塩酸塩は、GHS分類にて下記の危険性が指摘されています。

  • 急性毒性 (経口) : 区分4
  • 生殖細胞変異原性: 区分2
  • 発がん性: 区分1B
  • 生殖毒性: 区分2
  • 特定標的臓器毒性 (単回ばく露): 区分1 (血液系、神経系)
  • 特定標的臓器毒性 (反復ばく露): 区分1 (血液系、神経系)

これらの危険性により、アニリン塩酸塩は毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが重要です。

参考文献
https://stableisotope.tn-sanso.co.jp/msds/img/TNI00025.pdf

アゼチジン

アゼチジンとは

アゼチジン (英: Azetidine) とは、化学式 C3H7Nで表される飽和四員環複素環化合物です。

シクロブタンの炭素原子のうち、1つが窒素原子に置換した構造をしています。CAS登録番号は503-29-7であり、別名はトリメチレンイミン、アザシクロブタン、1,3-プロピレンイミンなどです。

アゼチジンは、GHS分類において引火性液体、皮膚腐食性/刺激性に分類されます。アゼチジンの法規制は、労働安全衛生法において危険物・引火性の物、また消防法において第4類第一石油類に指定されています。

アゼチジンの使用用途

アゼチジンの主な使用用途は、研究開発用試薬製品や有機合成材料などです。アゼチジンは、その合成の段階で四員環の窒素原子部分にさまざまな保護基を導入することが可能であり、その制御によって医薬品の側鎖部分として有用な化合物です。アゼチジンそのもの自体はあまり使用頻度の高くない化合物であると言えますが、その構造を有する誘導体であるアゼチジン系化合物が医薬品として用いられています。

アゼチジン化合物の医薬品としての研究は、1950年代の後半から盛んになり、現在では関節リウマチ、多発性硬化症、骨粗しょう症および骨溶解、がんの予防または治療剤などとしての利用、研究が進められています。アゼチジン及び誘導体は天然でもあまり多く含まれる物質では有りませんが、天然ではムギネ酸やアゼチジン-2-カルボン酸などの誘導体が存在します。

アゼチジンの性質

アゼチジンの基本情報

図1. アゼチジンの基本情報

アゼチジンの分子量は57.09、沸点は61-62℃であり、常温での外観は、無色から淡黄色の液体です。特異臭があります。

アゼチジンの窒素原子の孤立電子対

図2. アゼチジンの窒素原子の孤立電子対

引火点は、密閉式引火点試験で-21℃です。密度は0.847g/mLで、水と混和する性質があります。多くの二級アミンより塩基性が強く、共役酸の酸解離定数pKaは11.29です。

これは、炭素鎖が環状構造になっており、窒素原子の孤立電子対 (lone pair) が立体障害を受けにくく張り出した構造になっているためと考えられます。引火性が強く、皮膚を腐食させる性質がある物質です。

アゼチジンの種類

アゼチジンの誘導体

図3. アゼチジンの誘導体

アゼチジンは、一般的に研究開発用試薬製品として販売されている物質です。容量の種類には250mg、1g、5g、25gなどの種類があります。実験室で取り扱いやすい容量での提供ですが、比較的高価な化合物と言えます。通常、冷蔵で保管されることの多い試薬製品です。

また、アゼチジンは、塩酸塩としても販売されています。その他、誘導体では、窒素原子上に置換基が導入された各種化合物のほか、炭素原子上に置換基が導入された化合物ではアゼチジン-2-カルボン酸、アゼチジン-3-カルボン酸、アゼチジン-3-オールなど、が挙げられます。

アゼチジンのその他情報

1. アゼチジンの合成

アゼチジンの合成方法には、3-ブロモプロピルアミンと水酸化カリウムとの反応や、p-トルエンスルホニルアゼチジンを金属ナトリウムで還元する方法などが知られています。p-トルエンスルホニルアゼチジンは、1,3-ジブロモプロパンとp-トルエンスルホンアミドから得ることが可能です。

2. アゼチジンの反応性

アゼチジンは、希塩酸中で加熱すると開環し,3-クロロプロピルアミン,3-アミノプロパノールなどが生成します。通常、適切な保管環境においては安定ですが、熱、炎、火花を避けるべきとされています。混触危険物質は、強酸化剤、強酸です。

3. アゼチジンの危険性と法規制情報

アゼチジンは、GHS分類において以下に指定されている物質です。

  • 引火性液体: 区分2
  • 皮膚腐食性/刺激性: 区分1B
  • 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性: 区分1

取り扱いの際は、熱、炎、火花を避け、保護手袋・保護衣・保護眼鏡・保護面などの適切な保護具を着用することが必要です。法令では、消防法において、第4類引火性液体、第一石油類, 危険等級II、非水溶性液体に指定されています。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/281069

アセト酢酸

アセト酢酸とは

アセト酢酸の基本情報

図1. アセト酢酸の基本情報

アセト酢酸 (英: Acetoacetic acid) とは、化学式がC4H6O3で表されるカルボン酸化合物の一つです。

3-オキソブタン酸 (英: 3-Oxobutanoic acid) とも呼ばれます。分解しやすいため、アセト酢酸として取り扱うことはまれで、通常アセト酢酸エチルやアセト酢酸メチルとして使用可能です。

一般的に取り扱われているアセト酢酸エチルは、GHS分類で引火性液体、眼刺激性に分類されており、消防法で危険物第4類に指定されています。労働安全衛生法、労働基準法、PRTR法、毒物および劇物取締法では、いずれも非該当です。

アセト酢酸の使用用途

アセト酢酸は不安定な化合物であり、通常アセト酢酸として取り扱われません。アセト酢酸はアセト酢酸メチルやアセト酢酸エチルなどのエステル体をけん化して得られ、有機合成の反応中間体として取り扱われます。

またアセト酢酸は、生化学的に観測されることが多いです。具体的には、糖尿病患者や絶食時に激しい運動を行った際などには、血液中のアセト酢酸濃度が高まることが知られています。種々の原因によって、熱量供給が脂肪として賄われるような状態では、脂肪酸が分解されます。そしてアセチルCoAが増加し、結果としてアセト酢酸が形成されるためです。このような状態をケトーシスと呼び、食欲低下、消化管機能の低下症状などが見られる場合があります。

アセト酢酸の性質

アセト酢酸の反応

図2. アセト酢酸の反応

アセト酢酸の融点は36.5°Cです。不安定な液状で、長時間の放置や加熱によって、アセトンと炭酸ガスに分解します。

アセト酢酸の酸型の半減期は、37°Cの水中で140分です。その一方で、陰イオンである塩基型の半減期は130時間で、約55倍分解が遅くなります。

アセト酢酸はpKaが3.58の弱酸で、アルキルカルボン酸と似ています。

アセト酢酸の構造

アセト酢酸の構造

図3. アセト酢酸の構造

アセト酢酸はケト酸の一種です。ケト酸とは、カルボキシ基とカルボニル基を含む有機酸のことです。アセト酢酸の示性式はCH3COCH2COOHで表されます。モル質量は102.09g/molです。

アセト酢酸は最も単純なβ-ケト酸です。ケト-エノール互変異性 (英: keto-enol tautomerisation) を示し、エノール型は共役と分子内水素結合によって、部分的に安定化されています。この平衡は溶媒に大きく依存します。極性溶媒ではケト型が優勢で、水中では98%です。それに対して非極性溶媒では、エノール型が25~49%です。

アセト酢酸のその他情報

1. アセト酢酸の合成法

ジケテン (英: diketene) の加水分解によって、アセト酢酸が得られます。アセト酢酸エステルは、ジケテンとアルコールの反応によって生成します。アセト酢酸エステルの加水分解でも、アセト酢酸を調製可能です。一般的にアセト酢酸は0°Cで合成され、アセトンと二酸化炭素に分解しやすいため、すぐに使用されます。

アセト酢酸エステルは、アセトアセチル化反応 (英: acetoacetylation reaction) に使用され、アリライドイエロー (英: arylide yellows) やジアリライド (英: diarylide) などの染料の製造に広く利用されています。ジケテンはアルコールやアミンと反応して、対応するアセト酢酸誘導体を生成します。

2. アセト酢酸の検出

糖尿病性ケトアシドーシスの確認のため、ケトジェニック・ダイエット中や低炭水化物ダイエット中の糖尿病患者の尿に含まれるアセト酢酸を測定します。この測定ではニトロプルシドや類似の試薬でコーティングされたディップスティックを使用します。アセト酢酸の共役塩基であるアセトアセテートの存在下で、ニトロプルシドはピンク色から紫色に変化するため、目で評価可能です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0105-0038JGHEJP.pdf

アセタール

アセタールとは

アセタールとは同一炭素がエーテル結合を二つ有する構造を持つ化合物の総称であり、一般的な構造式としてはRCH(OR’)2であらわされます。また、このような構造をもつ代表的な化合物であるアセトアルデヒドのジアセタール、すなわち1,1-ジエトキシエタンの略称として用いられることもあります。

後者の1,1-ジエトキシエタンは、無色の揮発性液体であり、GHS分類において引火性液体、眼刺激性、特定標的臓器毒性(単回ばく露)に分類されています。また、法規制は、労働安全衛生法において危険物・引火性の物、また消防法において第4類引火性液体に指定されています。

アセタールの使用用途

一般的なアセタールの使用用途は、樹脂原料、有機合成における保護中間体などが挙げられます。また、アセタールを略称として有する1,1-ジエトキシエタンは、有機溶剤や合成香料の原料として用いられます。

アセタール構造を有する樹脂は、一般にアセタール樹脂、ポリアセタールと呼ばれ、モノマーであるホルムアルデヒドの重合によって製造されます。強度、弾性率、耐衝撃性に優れたエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているポリマーのひとつです。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/105-57-7.html