ニオブ酸リチウム

ニオブ酸リチウムとは

ニオブ酸リチウムはニオブの酸化物である酸化ニオブリチウムの酸化物である酸化リチウムの混合物で、リチウムナイオベートや酸化ニオブリチウムなどの名前で呼ばれることもあります。ニオブ酸リチウムは天然には存在しません。ニオブ酸リチウムは常温では無臭の個体で、水に不溶です。

ニオブ酸リチウムの結晶を成長させる方法はチョクラルスキー法と呼ばれ、成長した結晶は様々な断面で切断されて使用されます。圧電性や非線形光学効果を持つことが知られています。

ニオブ酸リチウムの使用用途

ニオブ酸リチウムは圧力を加えることで圧力に比例した表面電極が現れる圧電性や、非常に強い光との相互作用によって起きる光の強さに依存しない反応である非線形光学効果などの特性を持ちます。

これらの特性を持つことから、ニオブ酸リチウムは携帯電話や電気工学変調器、共振器などの製造に使われます。特に、タンタル酸リチウムと一緒に携帯電話などの身近な電子機器に搭載されるSAWデバイスの製造に使われることが多いです。SAWデバイスには通信機器の音声データのノイズを除去するSAWフィルタなどがあります。

ナフトキノン

ナフトキノンとは

ナフトキノンとは、ナフタレンに2つの酸素原子が結合した有機化合物です。

酸素原子の結合位置により、1,4-ナフトキノンや1,2-ナフトキノンなどがあります。ナフトキノンの中で、1,4-ナフトキノンが最も一般的です。

1,4-ナフトキノンは、常温で黄色の三斜晶系結晶で、ベンゾキノンに似た芳香を持っています。水には難溶ですが、比較的多くの極性溶媒に可溶です。酸性および酸化性を示します。

空気中で酸化されやすいため、光や空気から遮断された容器で保存します。ナフトキノンは皮膚や粘膜に対して刺激性を持つため、取り扱いには注意が必要です。なお、工業的には触媒下でナフタレンを酸化することで合成されます。

ナフトキノンの使用用途

ナフトキノンは、さまざまな工業的用途を持つ化学物質を合成する原料として使用されています。ディールス・アルダー反応の名で知られるナフトキノンと1,3-ジエンの反応では、アントラキノンを合成可能です。アントラキノンは、さまざまな色素の原料やパルプを製造する際の触媒として用いられます。

また、ナフトキノンのジアゾ誘導体であるジアゾナフトキノンは、半導体の製造過程における水銀露光などに用いられています。ナフトキノンの誘導体には細胞毒性を持つものが多く、抗ウイルス剤や解熱剤などに使用されるものもあります。

1,4-ナフトキノンおよびその誘導体は、抗菌、抗真菌、抗ウイルス、抗炎症、抗がんなどの薬理作用が報告されており、これらの効果を利用した医薬品が開発されています。また、そのほか、高い着色力を持つため、染料や顔料として用いられます。特に、赤色や黄色の染料には、ナフトキノン誘導体が有用です。

ナフトキノンの性質

ナフトキノンは、有機化合物であり、キノン構造を持つナフタレン誘導体です。1,4-ナフトキノンは黄色からオレンジ色の結晶で、特有の刺激臭があります。無水物は融点約124℃、沸点は>300℃と報告されています。

水への溶解度は低いですが、アルコール、エーテル、アセトンなどの極性有機溶媒には溶けやすくなります。二重結合とカルボニル基が環状に並ぶキノン構造は、容易に還元され、ヒドロキノン構造へ変換されます。また、1,4-ナフトキノンは、空気中で酸化されやすいため、光や空気から遮断された容器で保存することが重要です。

ナフトキノンの構造

1,4-ナフトキノンは、二環式の芳香族炭化水素であるナフタレンの1位と4位にカルボニル基が結合した構造を持っています。平面的な構造を持っており、分子内で二重結合とカルボニル基が交互に並ぶ共役系が形成されています。

π電子が全体に広がっているため、紫外線や可視光線を吸収するのが特徴です。この特徴は、染料や顔料としての利用に関連しています。

分子式はC10H6O2であり、IUPAC名は「4H-cyclopenta[def]phenanthrene-4,5(1H,3H)-dione」です。1,4-ナフトキノンの構造は容易に還元される性質を持っており、還元されると、ヒドロキノン構造へ変換されます。

また、この構造は生体内で重要な役割を果たす化合物の基本骨格でもあります。例えば、ビタミンK、ウビキノン (コエンザイムQ) などは、1,4-ナフトキノンの基本骨格を持つ化合物です。 

ナフトキノンのその他情報

ナフトキノンの製造方法

1,4-ナフトキノンは、通常、ナフタレンから誘導されます。ナフタレンにクロム酸ナトリウムなどの酸化剤を作用させることで、1,4-ナフトキノンが生成されます。

また、他の方法として、アントラキノン誘導体の環縮合や、1,4-ナフトールの酸化などが挙げられます。

テレフタル酸

テレフタル酸とは

テレフタル酸とは、分子式 C6H4(COOH)2で表される、芳香族ジカルボン酸の1種です。

TPA、PTA、p-フタル酸などとも呼ばれます。一般的には、石油から抽出されるパラキシレンをコバルト、マンガン等の触媒下で酢酸と混合し、工業生産されています。

「化学物質排出把握管理促進法第一種指定化学物質」として指定されているほか、「有害大気汚染物質」に該当する可能性がある物質として選定されています。

テレフタル酸の使用用途

テレフタル酸は、化学繊維の中で最も多く使用されているポリエステル繊維、各種工業製品で基盤フィルムと使用されるPET (ポリエチレンテレフタレート) 樹脂、および飲料容器として幅広く用いられているPETボトルの原料に利用されています。

化学品中間物、有機化学製品 (合成繊維、合成樹脂) 、ポリエステル系合繊 (テトロン) 、テトロンフィルム (ルミラー、ダイテフォイル) 、ボトルエンプラ (ポリアリレート) の原料にも有用です。その他、医療用のステントや人工心臓弁などの機械部品、染料、顔料、農薬の原料などにも利用されます。

テレフタル酸の性質

テレフタル酸は、分子式C8H6O4、分子量166.13、CAS登録番号100-21-0で表わされます。

1. 物理的性質

テレフタル酸は、白色無臭の結晶性粉末です。比重は1.51、蒸気密度は5.74です。融点は無く、引火点260℃、402℃で昇華、496℃で自然発火する可燃性の個体 (ガス) です。

燃焼性が低いため、繊維や樹脂の製造に適しています。また、高温下でも変質しにくいことも特徴の1つです。

2. 化学的性質

水への溶解度は0.28g/100mLであり、ほとんど溶解しません。エタノールには極めて溶けにくく、水酸化ナトリウム溶液にはやや溶けやすい性質を持ちます。

通常の取扱いにおいては安全ですが、強酸化剤との接触により激しく反応し、燃焼によって一酸化炭素や、二酸化炭素を発生させるため、高温、強酸化剤との接触を避ける必要があります。

テレフタル酸のその他情報

1. テレフタル酸の安全性

眼に対する重篤な損傷性、眼刺激性、皮膚刺激性があり、呼吸器系への刺激の恐れもあります。長期、又は反復暴露による呼吸器系への臓器障害の危険性もあるため、取扱いには注意が必要です。

また、生殖能または胎児への悪影響の疑いがあることから、誤って吸引、経口摂取した際は直ちに医師の診断、手当を受けることが重要です。

2. テレフタル酸の取扱方法

適切な呼吸器保護具、保護手袋、保護眼鏡 (普通眼鏡型、側板付き普通眼鏡型、ゴーグル型) 、必要に応じて保護衣、保護面、耐薬品性長靴、前掛け (静電気防止対策用) などを着用して作業を行います。

取り扱う作業場には、洗眼器と安全シャワーを設置し、密閉もしくは局所排気装置などの蒸気や粉末が暴露しないよう対策を行う必要があります。

使用時は飲食、喫煙をせず、取扱い後はよく手を洗い皮膚や眼への付着を避けます。

3. 製造・輸出量

テレフタル酸の国内供給量は、1999年以降減少傾向にあり、2003年では製造量1,443,644トンでした。約6割はフィルム、ボトル等の原料に利用され、約4割が繊維に加工されています。

届出排出量及び移動量並びに届出外排出量の集計結果 (平成15年度) によると、1年間で、全国合計で、大気に24kg、公共用水域へ133トン排出され、廃棄物として1,699トン、下水道へ37トン移動していることが報告されています。

排出量のうちほとんどが、繊維工業からの公共用水域への排出です。また全体的に環境への排出量より、廃棄物としての移動量の方が多いです。

4. 環境への影響

テレフタル酸は、加水分解を受けやすい化学結合はないことから、加水分解されません。好気的生分解試験では、生物化学的酸素消費量 (BOD) 測定では74.7%、高速液体クロマトグラフ (HPLC) では100%分解することから、良分解性を持つことが報告されています。

また、嫌気的生分解性試験では、55日後に50%分解することが報告されており、環境中に排出された場合でも容易に生分解され除去されることが推定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0158.html

チオ硫酸ナトリウム

チオ硫酸ナトリウムとは

チオ硫酸ナトリウム (英: Sodium thiosulfate) とは、無臭の白色粉末または無色透明の結晶です。

ナトリウムと硫黄と酸素からなる無機化合物で、無水チオ硫酸ナトリウム (Na2S2O3) とチオ硫酸ナトリウム五水和物 (Na2S2O3・5H2O) の2つの形態があります。CAS番号はそれぞれ、7772-98-7と10102-17-7です。

五水和物には2種の多形体があり、無水物には複数の多形体が存在しています。チオ硫酸アニオンは四面体構造をしており、その結合距離から硫黄同士は単結合性、硫黄と酸素は二重結合性であることが示唆されています。

チオ硫酸ナトリウムの性質

無水チオ硫酸ナトリウムは不透明な結晶性粉末で、融点は220℃と高く、水に溶け、エタノールに溶けません。還元力が強く、水分を吸収しやすい特徴があります。チオ硫酸ナトリウム五水和物は、無臭、無色透明の単斜晶系の結晶で融点は48.5℃と低く、一般的にハイポと呼ばれ、漂白剤等に使用されます。

チオ硫酸ナトリウムの使用用途

チオ硫酸ナトリウムの使用用途は主に下記の通りです。

1. 医療

チオ硫酸ナトリウムは、シアン化物中毒の治療に使用されます。その他の医療用途には、白癬の局所治療、血液透析、化学療法のいくつかの副作用の緩和などがあり、世界保健機関の必須医薬品リストに掲載されています。例えば米国では、化学療法薬シスプラチンを投与されている小児癌患者の難聴リスクを軽減するために、チオ硫酸ナトリウムが承認されています。

2. 写真加工

チオ硫酸ナトリウムは、写真、フィルム、印刷版製造業界での定着剤として、一般的に使用される化学物質です。写真乳剤の代表的な成分である、ハロゲン化銀を溶解させる性質を利用しています。この性質は、イギリスの化学者のジョン・ハーシェルによって発見されました。

3. 水処理

チオ硫酸ナトリウムは、水処理分野において、飲料水や廃水の脱塩素剤や殺菌剤、循環冷却の銅腐食防止剤、ボイラー水システムの脱酸剤などに使用されます。脱塩素などの還元反応は、ヨウ素還元反応と同様の形式で起こります。チオ硫酸ナトリウムは、臭素やヨウ素と反応して溶液から遊離臭素を除去できるので、化学実験室において、臭素やヨウ素、またはその他の酸化剤を安全に廃棄するために一般的に使用されます。

4. その他

その他にも、金採掘、皮革 (なめし)、製紙・繊維産業における残留物を除去するための漂白剤、染料合成、分析化学、銀の湿式製錬などにも利用されており、その用途は多岐に渡ります。

チオ硫酸ナトリウムのその他情報

1. チオ硫酸ナトリウムの製法

チオ硫酸ナトリウムは、工業的規模では主に硫化ナトリウムまたは硫黄染料製造の液体廃棄物から製造されます。実験室では、亜硫酸ナトリウムの水溶液を硫黄で加熱するか、または水酸化ナトリウム水溶液と硫黄を沸騰させることによって調製できます (6NaOH+4S→2Na2S+Na2S2O3+3H2O)。

2. チオ硫酸ナトリウムの反応

チオ硫酸ナトリウムは、300°Cに加熱すると硫酸ナトリウムとポリ硫化ナトリウムに分解します。チオ硫酸アニオンが水溶液中のヨウ素と化学量論的に反応する性質があるため、チオ硫酸ナトリウムはヨードメトリーの滴定剤としても使用されます。酸で処理すると特徴的に分解し、チオ硫酸 (H2S2O3) を得ることもできます。

3. 法規情報

チオ硫酸ナトリウムは、毒物及び劇物取締法、消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) など、主要な法規制のいずれにも該当していません。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、直射日光を避け冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

ソルビタン脂肪酸エステル

ソルビタン脂肪酸エステルとは

ソルビタン脂肪酸エステルとは、ソルビタンのヒドロキシ基 (-OH) に脂肪酸をエステル化反応によって結合させた化合物です。

ソルビタンは、ソルビトールを脱水することで得られる1,4-アンヒドロソルビトール (5員環構造) および1,5-アンヒドロソルビトール (6員環構造) の混合物です。分子中に4つのヒドロキシ基を有します。

ソルビタン脂肪酸エステルの製造では、どのヒドロキシ基に脂肪酸を結合させるかを厳密に制御できません。それぞれのヒドロキシ基にランダムに脂肪酸がエステル結合できるため、反応生成物にはさまざまな分子構造のソルビタン脂肪酸エステルが含まれています。

ソルビタン脂肪酸エステルの使用用途

ソルビタン脂肪酸エステルの使用用途は、例えば界面活性剤です。ソルビタン脂肪酸エステルは、分子中にイオンを有さないため非イオン性界面活性剤として使用されます。その他、プラスチック用の帯電防止剤、防曇剤 (曇り止め) 、離型剤 (金型への付着抑制) などの用途でも使用されます。

界面活性剤として使用される場合、例えば食品用途、化粧品用途、化学工業製品用途などで利用されます。上述したように様々な種類があり、それぞれのソルビタン脂肪酸エステルで化学的な性質が変わるため、ソルビタン脂肪酸エステルの中から各用途に適したものが選択することが大切です。

ソルビタン脂肪酸エステルの性質

ソルビタン脂肪酸エステルの特徴は、主に分子構造にあります。ソルビタン脂肪酸エステルの分子中には、脂肪酸由来の親油基 (疎水基) 、および、ソルビタンの-OH基もしくはエチレンオキサイド由来の親水基が存在します。そのため、水と油のように互いに混ざり合わない物質を結びつけるような性質を有します。換言すると、界面活性性能を発揮します。

ソルビタン脂肪酸エステルは界面活性性能を有するため、乳化剤や分散剤の用途で利用されることが多いです。また、上記のとおり分子中に疎水基および親水基を有するため、例えば親水性物質 (金属など) の表面に付着しつつ疎水性の性質を発揮したり (離型剤) 、疎水性のプラスチックと一旦混ざり合っても表面に移動して親水性の性質を発揮したり (防曇剤) できます。

ソルビタン脂肪酸エステルの構造

ソルビタン脂肪酸エステルの分子構造として、大きく分けてスパン系とツイン系という2種類が存在します。スパン系は、ソルビタンと脂肪酸とが単にエステル結合した化合物です。ツイン系は、ソルビタンおよび脂肪酸に加えてエチレンオキサイドが付加した化合物です。

付加したエチレンオキサイドの数が多くなるほど、ツイン系のソルビタン脂肪酸エステルの親水性は高くなります。スパン系のソルビタン脂肪酸エステルでは、エステル結合した脂肪酸の炭素数が多くなるほど、また結合する脂肪酸の数が増えるほど、親水性が低くなります。

一方、ツイン系のソルビタン脂肪酸エステルでは、エチレンオキサイドの付加数が多いほど親水性が高くなります。ツイン系のソルビタン脂肪酸エステルの分子構造には、スパン系のソルビタン脂肪酸エステルよりも多くのバリエーションがあります。

ソルビタン脂肪酸エステルの種類

ソルビタン脂肪酸エステルの種類は、非常に多いです。ソルビタンと結合する脂肪酸にはいくつか種類があるため、脂肪酸の種類によってソルビタン脂肪酸エステルにもさまざまな種類が存在します。脂肪酸としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられます。

上記例示の脂肪酸は、いずれも有機酸の1種であり、分子中にカルボキシ基 (-COOH) を1つ有します。炭素数はラウリン酸が12、ミリスチン酸が14、パルミチン酸が16、ステアリン酸およびオレイン酸が18です。オレイン酸は不飽和二重結合を有する不飽和脂肪酸であり、その他の脂肪酸はいずれも飽和脂肪酸です。

また、1分子のソルビタンに結合した脂肪酸の数によって、ソルビタン脂肪酸エステルの種類が変わります。結合した脂肪酸の数が増えていくと、ソルビタンモノ脂肪酸エステル (脂肪酸1つ) 、ソルビタンジ脂肪酸エステル (脂肪酸2つ) 、ソルビタントリ脂肪酸エステル (脂肪酸3つ) というように名称も変わります。

ソルビタン脂肪酸エステルのその他情報

ソルビタン脂肪酸エステルの安全性

スパン系のソルビタン脂肪酸エステルは、体内に入って分解されてもソルビタンと脂肪酸が生じるだけであり、危険性は低いと考えられています。したがって、スパン系のソルビタン脂肪酸エステルは、食品添加物の用途で使用される場合があります。ただし、スパン系のソルビタン脂肪酸エステルと同様に、機能する食品添加剤としてはグリセリン脂肪酸エステルの方が多用される傾向にあります。

一方、ツイーン系のソルビタン脂肪酸エステルは、日本において以前は食品添加剤として許可されていませんでしたが、2008年以降になって使用が許可されました。

参考文献
https://www.sccj-ifscc.com/library/glossary_detail/980
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/9005-67-8.html

セミカルバジド

セミカルバジドとは

セミカルバジド (英: Semicarbazide) とは、尿素の誘導体の1つで、尿素のNH2基のうち1つがヒドラジノ基で置換されている構造の有機化合物です。

セミカルバジドの分子式はCH5N3Oであり、CAS登録番号は、57-56-7です。通常、塩酸塩の形で広く販売され、流通しています。セミカルバジド類縁体で、セミカルバジドの酸素原子が硫黄原子に置き換わった構造をしているものはチオセミカルバジドと呼ばれています。

セミカルバジドの使用用途

1. 一般的な用途

セミカルバジドは薄層クロマトグラフィー (TLC) の発色試薬として用いられます。セミカルバジドをTLCプレート上のα-ケト酸に噴霧すると、紫外線照射下で結果を見ることが可能です。セミカルバジドは耐水性や耐黄変性に優れているため塗装の硬化剤としても使用されています。

また、セミカルバジドはアルデヒドやケトン、糖類と反応して結晶を生じます。セミカルバジドとケトンまたはアルデヒドの縮合反応によって生じるイミン誘導体を総称してセミカルバゾンと呼びます。

生じたセミカルバゾンの融点を測定することでセミカルバジドと反応したアルデヒドやケトンを同定することが可能です。そのため、セミカルバジドはアルデヒドやケトンの検出や同定に幅広く使用されています。

2. 合成上の用途

セミカルバジドは、有機合成原料として有用な化合物です。具体的な例としては、ニトロフラン系の抗菌剤 (フラゾリドン、ニトロフラゾン、ニトロフラントインなど) の合成中間体として用いられます。

セミカルバジドの性質

セミカルバジドの基本情報

図1. セミカルバジドの基本情報

セミカルバジドは、分子量75.07、融点96℃であり、常温常圧では無色の柱状結晶固体です。水やエタノールに易溶ですが、エーテルやベンゼンなどには溶けません。密度は1.29g/mLです。

セミカルバジドの種類

セミカルバジドは、一般的には塩酸塩の形で研究開発用試薬製品や工業用化学薬品として販売されています。試薬製品としては、塩酸塩には5g、25g、100g、300g、500gなどの容量の種類があります。

室温で取り扱い可能として販売されることも、冷蔵保管として販売されることもある化合物です。塩酸塩以外には6wt.%ほどの濃度でシリカゲルとの混合物で販売されている場合があり、こちらの容量は25g、100gなどの種類です。

また、塩酸塩は、医農薬原料、中間体、有機合成用原料などの用途で工業用に販売されている場合があります。この場合の荷姿はダンボールであり、工場などの需要に合わせて大型容量で販売されています。

セミカルバジドのその他情報

1. セミカルバジドの合成

セミカルバジドの合成例

図2. セミカルバジドの合成例

セミカルバジドは、尿素とヒドラジン水和物との反応によって合成されます。その他の合成方法では、ニトロ尿素の還元やシアン酸カリウムとヒドラジン硫酸塩の反応などが挙げられます。

2. セミカルバジドの化学反応

セミカルバジドは、カルボニル化合物ととの縮合反応によってイミン誘導体が得られます。このイミン誘導体はセミカルバゾンと呼ばれています。セミカルバゾンは、オキシムや2,4-ジニトロフェニルヒドラジンのように結晶性が高く融点が高音になるため、セミカルバゾンの形成反応は反応生成物の同定に有用です。

また、セミカルバジドはアゾジカルボンアミドの分解反応によって生じる物質でもあります。

3. 塩酸セミカルバジド

塩酸セミカルバジドの基本情報

図3. 塩酸セミカルバジドの基本情報

セミカルバジドは、一般的には塩酸塩である塩酸セミカルバジド (セミカルバジド塩酸塩) の形で販売されています。塩酸セミカルバジドは、分子式 CH6ClN3O、分子量111.53の物質であり、CAS登録番号は 563-41-7です。

融点176℃ (分解) であり、常温では無臭の白色結晶です。水に溶けやすく、エタノールにほとんど溶けません。加熱したエタノールにはわずかに溶解します。通常、有機合成原料などとして用いられることが多いです。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/563-41-7.html

セドロール

セドロールとは

セドロール (英: Cedrol) とは、三環性セスキテルペンのアルコール化合物です。

IUPAC名は、(1S,2R,5S,7R,8R) -2,6,6,8-テトラメチルトリシクロ [5.3.1.01,5] ウンデカン-8-オール (英: (1S,2R,5S,7R,8R) -2,6,6,8-tetramethyltricyclo [5.3.1.01,5] undecan-8-ol) です。別名として、(+) -セドロール (英: (+) -Cedrol) やα‐セドロール (英: α-Cedrol) 、8α-セドラン-8β-オール (英: 8α-Cedran-8β-ol) とも呼ばれます。

天然にはヒノキ科やスギ科の針葉樹の精油 (シダーオイル) に含まれており、セドレノールという名で販売される場合もあります。

セドロールの使用用途

1. 香料

セドロールは、森の香りやヒノキの香りとして知られており、香料として広く使われています。自律神経は、交感神経と副交感神経の2種からなり、体や脳が活発に動いているときは交感神経が優位に、寝ているときやリラックスしているときには副交感神経が優位に働いています。

セドロールは、交感神経の活動を抑制し、副交感神経を活性化させることから、リラックス効果を持つ化合物です。このリラックス効果から、セドロールの摂取により寝つきが良くなるとされています。

また、セドロールを吸引することにより、脳内ではα波が放出されることから、途中覚醒がなくなり睡眠の質が上昇し、ネガティブな感情を抑えることも可能です。そのため、リラックス効果をもたらす製品としてアロマオイルや入浴剤などの製品に用いられています。

2. その他

鎮静作用のほかに、セドロールは抗酸化作用や抗炎症作用、その他の有益な作用が認められています。一部の研究では、セドロールが妊娠した雌の蚊を誘引することが報告されており、セドロールをトラップとして使用することで、マラリアの感染拡大の防止が期待されています。

セドロールの性質

化学式はC15H26Oで表され、分子量は222.37です。CAS番号は77-53-2で登録されています。セドロールは融点86°Cで、沸点は286°C、常温で白色の結晶性粉末、密度1.01g/mlの固体です。

ごく薄い黄色を呈することもあります。メタノール中で再結晶すると、針状結晶が得られ、シダーウッド様の香気を持ちます。アルコールやクロロホルムなどの有機溶媒に溶け、水には、25 °Cで11.3 mg/Lとあまり溶けません。

セドロールのその他情報

1. セドロールの製造法

工業的には、シダーウッド油の分留によりセドロールが得られます。得られた固体は、メタノールからの再結晶で精製することが可能です。純度によっては、半固体、または液体として単離されます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
酸化剤は、セドロールの混触危険物質に指定されています。取り扱う際、および保管の際は、接触させないよう気を付けてください。

取り扱う際は、皮膚や眼との接触を避けるため、必ず保護手袋と密閉ゴーグルなどの側板付き保護メガネ、袖が長い保護衣を着用し、局所排気装置 (ドラフトチャンバー) 内で使用してください。取り扱い後は、手などをしっかり洗います。

火災の場合
燃焼により、一酸化炭素 (CO) や二酸化炭素 (CO2) へと分解し、その蒸気を生成するおそれがあります。粉末や泡、水噴霧、二酸化炭素が適切な消火剤です。消火作業は、風上から行います。

皮膚に付着した場合
セドロールは、皮膚刺激性を持ちます。薬品が付着した衣類は、すぐに脱いで隔離します。薬品が付いた箇所は、十分な水と石けんでしっかり洗浄してください。皮膚刺激が続く場合や発疹、かぶれなどが見られる場合は、医師に連絡して手当てを受けます。

眼に入った場合
セドロールは、強い眼刺激性があります。眼に入った際は、眼を傷つけないよう気を付けて、水でしばらくの間洗浄してください。コンタクトレンズを着用している場合は、容易に外せる際は外してから洗います。眼への刺激が続く場合は、医師に連絡して診察を受けてください。

保管する場合
容器を密閉して、酸化剤などの混触危険物質から離し、冷暗所に保管してください。保管している部屋は施錠します。

参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/en/sds/C2854_JP_JA.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Cedrol
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpa/8/2/8_KJ00001053451/_pdf/-char/ja

スルファミン酸

スルファミン酸とは

スルファミン酸の基本情報

図1. スルファミン酸の基本情報

スルファミン酸とは、硫酸のヒドロキシ基をアミノ基に置換して得られる構造を有する水溶性の化学物質です。

アミド硫酸とも呼ばれます。常温では白色の固体で、加熱すると205°Cで分解します。エタノールに溶けにくいです。固体は吸湿性がなく、純品を得やすいです。スルファミン酸は尿素と発煙硫酸を用いて合成できます。

スルファミン酸は亜硝酸と反応すると、窒素ガスを生じます。還元剤として働くため、硝酸との反応では亜酸化窒素を生成可能です。

スルファミン酸の使用用途

スルファミン酸は、人工甘味料であるチクロ (英: Cyclamate) の原料です。別の人工甘味料であるアセスルファムカリウムも、スルファミン酸から合成されます。

スルファミン酸と2-エチルヘキサノールの反応では、硫酸2-エチルヘキシルを合成可能です。硫酸2-エチルヘキシルは、綿のシルケット加工で湿潤剤として使用されます。また、酸塩基滴定では標準物質として用いられます。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を正確に求めるため、標定に利用可能です。

さらにスルファミン酸は、金属やセラミックの洗浄剤や錆び落としに使用されます。塩酸の代わりにスルファミン酸が主成分のトイレクリーナーもあり、塩酸特有の臭いがしません。

スルファミン酸の性質

スルファミン酸は水に溶けると強い酸性を示します。酸解離定数はKa = 1.01×10−1です。スルファミン酸水溶液はほぼ無臭で、刺激性はありません。容易に金属塩を溶かしますが、金属を腐食しません。

スルファミン酸を水中で加熱すると、アンモニアが放出され、硫酸になります。冷水中で徐々に、80°C以上ですぐに加水分解し、硫酸水素アンモニウムに変わります。

スルファミン酸の構造

スルファミン酸の構造

図2. スルファミン酸の構造

スルファミン酸の化学式はH3NSO3で、モル質量は97.10g/mol、密度は2.15g/cm3です。液体アンモニア中で、水素イオンを2段階放出し、ジアニオンを生じます。

スルファミン酸の構造は、4種の異性体の中で、中性型ではなく、互変異性体である双性イオン型の1つを取っています。中性子回折法の結果により、結晶中では水素原子3つがすべて窒素から1.03Åの距離に位置しているためです。硫黄原子と酸素原子の結合距離は1.44Å、硫黄原子と窒素原子の結合距離は1.77Åです。硫黄-窒素結合は、長い単結合性と短い二重結合性があります。

スルファミン酸のその他情報

1. スルファミン酸の反応

スルファミン酸やスルファミン酸塩を、過剰な次亜塩素酸イオンと反応させると、N-クロロスルファミン酸イオンやN,N-ジクロロスルファミン酸イオンが可逆的に生成します。そのため、スルファミン酸は、ピニック酸化 (英: Pinnick oxidation) などの亜塩素酸塩によるアルデヒドの酸化で、次亜塩素酸塩の捕捉剤 (英: scavenger) として使用されます。

スルファミン酸とアルコールを加熱すると、対応する硫酸エステルを生成可能です。クロロスルホン酸や発煙硫酸などと比べると高価ですが、非常に温和な反応であり、芳香環のスルホン化も起こりません。尿素が触媒として働き、生成物はアンモニウム塩になります。100°C以下で触媒が存在しない場合には、スルファミン酸とエタノールは反応しません。

2. スルファミン酸を用いたチクロの合成

スルファミン酸からチクロの合成

図3. スルファミン酸からチクロの合成

水酸化ナトリウムを用いて、スルファミン酸とシクロヘキシルアミンが反応すると、人工甘味料であるチクロを合成可能です。チクロは少しベージュ色を帯びている板状結晶であり、サイクラミン酸ナトリウムやN-シクロヘキシルスルファミン酸ナトリウムとも呼ばれます。チクロの甘さは、砂糖の30〜50倍程度です。高濃度の場合には、わずかに後味が苦くなります。

スルファミン酸ニッケル

スルファミン酸ニッケルとは

スルファミン酸ニッケル (英: Nickel sulfamate) とは、無臭の青色あるいは緑色の固体です。

スルファミン酸ニッケルのイオン化合物で、化学式はNi(SO2NH2)2、分子量は250.85、CAS登録番号は13770-89-3です。スルファミン酸ニッケルのIUPAC名はビス(スルファミン酸)ニッケル(II)で、ビス-ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルといった名称で呼ばれることもあります。

スルファミン酸浴やスルファミン酸ニッケル浴と呼ばれる金属の表面処理に使用されます。

スルファミン酸ニッケルの使用用途

ニッケルは耐食性があるため、金属製品の表面に行うニッケルめっきが広く利用されています。ニッケルめっきには様々な方法がありますが、スルファミン酸浴は最も一般的なニッケルめっきであるワット浴とは異なり無光沢のニッケルめっきです。スルファミン酸ニッケル浴は金属の表面に耐食性や装飾を付与するめっきや、母型に金属イオンを電析させることで金属の型を作る電鋳に使用されます。

電鋳は高い精度で金属を複製することができるため、精密機械やロケットなどの部品に使われています。用途に応じた様々な濃度のスルファミン酸ニッケル溶液がめっき薬として販売されています。また、展開剤や光沢剤などを使用せず、純粋なニッケルに近いめっきであるという特徴があります。

多くのニッケルめっきでは応力緩和剤として硫黄を使用しますが、スルファミン酸浴は硫黄を使用しないため電子部品などにも用いることができるという利点があります。

スルファミン酸ニッケルの性質

スルファミン酸ニッケルの融点は125℃ (三水和物) ですが、沸点や密度などは知られていません。水には溶解するため、日本国内では四水和物の粉末の他、水溶液の形で流通しています。

ニッケルめっきに利用される、スルファミン酸ニッケル浴は電着応力がほとんどなく電流密度を高くでき、管理が簡単という特徴があります。pHは3.5~5.0、温度は40~60℃、抗張力は6300kg/cm2、延率は20~30%、電着応力は35kg/cm2です。ワット浴の電着応力は1260kg/cm2、塩化ニッケル浴の電着応力は2800~3500kg/cm2ですので、大きな差があります。

スルファミン酸ニッケルのその他情報

1. スルファミン酸ニッケルの製法

スルファミン酸ニッケルは、ニッケル粉末または炭酸ニッケル(II)をスルファミン酸と酸性条件下で反応させることで生成します。
 Ni+2H3NSO3→Ni(SO3NH2)2+H2
 NiCO3+2H3NSO3→Ni(SO3NH2)2+CO2+H2O

2. 法規情報

スルファミン酸ニッケルは、消防法や毒物および劇物取締法には指定がありません。一方で、労働安全衛生法では「特定化学物質第2類物質、管理第2類物質」、「名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物」、「危険性又は有害性等を調査すべき物」、「作業環境評価基準」に該当します。労働基準法では「疾病化学物質」、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では「特定第一種指定化学物質」、化審法では「優先評価化学物質」に指定されています。さらに、スルファミン酸ニッケルは、大気汚染防止法や水質汚濁防止法にも指定がありますので、取り扱いには注意が必要です。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 粉塵を吸い込まないよう、充分注意する。吸入などして気分が悪い時は、医師の診断、手当てを受ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに多量の水と石鹸で洗い流す。皮膚刺激又は発疹が生じた場合には、医師の診察や手当てを受ける。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/13770-89-3.html

スピラマイシン

スピラマイシンとは

スピラマイシンとは、C43H74MN214という化学式で表され、ラクトンに糖が結合した配糖体の構造をとった16員環マクロライド系抗菌薬の有機化合物です。

妊婦がトキソプラズマに感染した結果、胎児に発生し得る、先天性のトキソプラズマ症の予防に用いられています。スピラマイシンは、フランスの土壌から分離された放線菌が生成する抗生物質として1954年に発見され、トキソプラズマ症への抑制効果が発見されました。

日本でスピラマイシンの適用が認められたのは、2018年になってからのことです。

スピラマイシンの使用用途

スピラマイシンの使用用途は、先天性トキソプラズマ症の予防薬です。スピラマイシンは細菌を殺すのではなく、細菌の増殖を抑制する効果を示すため、抗生物質としては制菌的な用途で用いられています。

トキソプラズマ症はトキソプラズマ原虫によって引き起こされる感染症で、健康な成人が感染してもほとんど症状は現れません。世界人口の三分の一が、トキソプラズマ症に感染しているとも言われています。

妊婦が感染した場合、胎児が先天性のトキソプラズマ症を発症することがあります。トキソプラズマ症を感染した胎児は重篤化する危険性があり、死産や流産だけでなく、水頭症、視力障害、精神・運動機能障害など 胎児に重大な障害を残す危険があります。

トキソプラズマ症には予防ワクチンが存在しませんが、妊婦に対してスピラマイシンを投与することで、先天性トキソプラズマ症を予防することが可能です。

スピラマイシンの性質

スピラマイシンは、細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合し、タンパク質の生合成を阻害することで、細菌の増殖を抑制します。この作用機序により、スピラマイシンは細菌を殺す (細菌毒性) のではなく、細菌の増殖を抑える (細菌静止性) 抗生物質として働きます。

1955年から経口投与用の製剤として使用されていますが、米国では1987年に非経口投与用も実用化されました。スピラマイシンは吸収されたあと、全身に広く分布します。胃内で加水分解を受けてネオスピラマイシンに変換されます。スピラマイシンは、主に胆汁を介して排泄されることが特徴です。

健康な成人男性では、投与後 7 時間までに投与量の約 4 %が尿中に排泄されました。妊娠中の投与では、スピラマイシンとその代謝物であるネオスピラマイシンは、胎盤および胎児に移行することが確認されています。

一般的に安全性が高いとされていますが、一部の患者で副作用が発生することがあります。主な副作用は、消化器症状 (吐き気、嘔吐、下痢) 、アレルギー反応 (発疹、かゆみ) などの肝機能障害です。

スピラマイシンの構造

スピラマイシンは、マクロライド系の抗生物質であり、特徴的な大環状ラクトン環 (マクロライド環) を持つ化合物です。ピラマイシンの基本構造は、16員環のマクロライド環で構成されています。

マクロライド環は、他のマクロライド抗生物質 (エリスロマイシンやクラリスロマイシンなど) でも共通して見られる構造です。ピラマイシンの構造には、2箇所に計3つの糖構造が結合しています。

これらの糖類は、スピラマイシンの水溶性や安定性に寄与しており、また細菌に対する抗菌活性にも影響を与えることが知られています。

スピラマイシンのその他情報

スピラマイシンの製造方法

スピラマイシンは、主に微生物を利用した生物学的製造法 (発酵法) によって生成されます。一般に、マクロライド系抗生物質はその複雑な構造から、およそ半数程度が化学合成ではなく、生物学的に作られています。

スピラマイシンの生産には、通常、放線菌 (Streptomyces属) の1種である「Streptomyces ambofaciens」が用いられます。本菌を用いて培養・抽出し、クロマトグラフィーや再結晶によってスピラマイシンを得ることができます。