ソルビタン脂肪酸エステルとは
ソルビタン脂肪酸エステルとは、ソルビタンのヒドロキシ基 (-OH) に脂肪酸をエステル化反応によって結合させた化合物です。
ソルビタンは、ソルビトールを脱水することで得られる1,4-アンヒドロソルビトール (5員環構造) および1,5-アンヒドロソルビトール (6員環構造) の混合物です。分子中に4つのヒドロキシ基を有します。
ソルビタン脂肪酸エステルの製造では、どのヒドロキシ基に脂肪酸を結合させるかを厳密に制御できません。それぞれのヒドロキシ基にランダムに脂肪酸がエステル結合できるため、反応生成物にはさまざまな分子構造のソルビタン脂肪酸エステルが含まれています。
ソルビタン脂肪酸エステルの使用用途
ソルビタン脂肪酸エステルの使用用途は、例えば界面活性剤です。ソルビタン脂肪酸エステルは、分子中にイオンを有さないため非イオン性界面活性剤として使用されます。その他、プラスチック用の帯電防止剤、防曇剤 (曇り止め) 、離型剤 (金型への付着抑制) などの用途でも使用されます。
界面活性剤として使用される場合、例えば食品用途、化粧品用途、化学工業製品用途などで利用されます。上述したように様々な種類があり、それぞれのソルビタン脂肪酸エステルで化学的な性質が変わるため、ソルビタン脂肪酸エステルの中から各用途に適したものが選択することが大切です。
ソルビタン脂肪酸エステルの性質
ソルビタン脂肪酸エステルの特徴は、主に分子構造にあります。ソルビタン脂肪酸エステルの分子中には、脂肪酸由来の親油基 (疎水基) 、および、ソルビタンの-OH基もしくはエチレンオキサイド由来の親水基が存在します。そのため、水と油のように互いに混ざり合わない物質を結びつけるような性質を有します。換言すると、界面活性性能を発揮します。
ソルビタン脂肪酸エステルは界面活性性能を有するため、乳化剤や分散剤の用途で利用されることが多いです。また、上記のとおり分子中に疎水基および親水基を有するため、例えば親水性物質 (金属など) の表面に付着しつつ疎水性の性質を発揮したり (離型剤) 、疎水性のプラスチックと一旦混ざり合っても表面に移動して親水性の性質を発揮したり (防曇剤) できます。
ソルビタン脂肪酸エステルの構造
ソルビタン脂肪酸エステルの分子構造として、大きく分けてスパン系とツイン系という2種類が存在します。スパン系は、ソルビタンと脂肪酸とが単にエステル結合した化合物です。ツイン系は、ソルビタンおよび脂肪酸に加えてエチレンオキサイドが付加した化合物です。
付加したエチレンオキサイドの数が多くなるほど、ツイン系のソルビタン脂肪酸エステルの親水性は高くなります。スパン系のソルビタン脂肪酸エステルでは、エステル結合した脂肪酸の炭素数が多くなるほど、また結合する脂肪酸の数が増えるほど、親水性が低くなります。
一方、ツイン系のソルビタン脂肪酸エステルでは、エチレンオキサイドの付加数が多いほど親水性が高くなります。ツイン系のソルビタン脂肪酸エステルの分子構造には、スパン系のソルビタン脂肪酸エステルよりも多くのバリエーションがあります。
ソルビタン脂肪酸エステルの種類
ソルビタン脂肪酸エステルの種類は、非常に多いです。ソルビタンと結合する脂肪酸にはいくつか種類があるため、脂肪酸の種類によってソルビタン脂肪酸エステルにもさまざまな種類が存在します。脂肪酸としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられます。
上記例示の脂肪酸は、いずれも有機酸の1種であり、分子中にカルボキシ基 (-COOH) を1つ有します。炭素数はラウリン酸が12、ミリスチン酸が14、パルミチン酸が16、ステアリン酸およびオレイン酸が18です。オレイン酸は不飽和二重結合を有する不飽和脂肪酸であり、その他の脂肪酸はいずれも飽和脂肪酸です。
また、1分子のソルビタンに結合した脂肪酸の数によって、ソルビタン脂肪酸エステルの種類が変わります。結合した脂肪酸の数が増えていくと、ソルビタンモノ脂肪酸エステル (脂肪酸1つ) 、ソルビタンジ脂肪酸エステル (脂肪酸2つ) 、ソルビタントリ脂肪酸エステル (脂肪酸3つ) というように名称も変わります。
ソルビタン脂肪酸エステルのその他情報
ソルビタン脂肪酸エステルの安全性
スパン系のソルビタン脂肪酸エステルは、体内に入って分解されてもソルビタンと脂肪酸が生じるだけであり、危険性は低いと考えられています。したがって、スパン系のソルビタン脂肪酸エステルは、食品添加物の用途で使用される場合があります。ただし、スパン系のソルビタン脂肪酸エステルと同様に、機能する食品添加剤としてはグリセリン脂肪酸エステルの方が多用される傾向にあります。
一方、ツイーン系のソルビタン脂肪酸エステルは、日本において以前は食品添加剤として許可されていませんでしたが、2008年以降になって使用が許可されました。
参考文献
https://www.sccj-ifscc.com/library/glossary_detail/980
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/9005-67-8.html