チオ硫酸ナトリウム

チオ硫酸ナトリウムとは

チオ硫酸ナトリウム (英: Sodium thiosulfate) とは、無臭の白色粉末または無色透明の結晶です。

ナトリウムと硫黄と酸素からなる無機化合物で、無水チオ硫酸ナトリウム (Na2S2O3) とチオ硫酸ナトリウム五水和物 (Na2S2O3・5H2O) の2つの形態があります。CAS番号はそれぞれ、7772-98-7と10102-17-7です。

五水和物には2種の多形体があり、無水物には複数の多形体が存在しています。チオ硫酸アニオンは四面体構造をしており、その結合距離から硫黄同士は単結合性、硫黄と酸素は二重結合性であることが示唆されています。

チオ硫酸ナトリウムの性質

無水チオ硫酸ナトリウムは不透明な結晶性粉末で、融点は220℃と高く、水に溶け、エタノールに溶けません。還元力が強く、水分を吸収しやすい特徴があります。チオ硫酸ナトリウム五水和物は、無臭、無色透明の単斜晶系の結晶で融点は48.5℃と低く、一般的にハイポと呼ばれ、漂白剤等に使用されます。

チオ硫酸ナトリウムの使用用途

チオ硫酸ナトリウムの使用用途は主に下記の通りです。

1. 医療

チオ硫酸ナトリウムは、シアン化物中毒の治療に使用されます。その他の医療用途には、白癬の局所治療、血液透析、化学療法のいくつかの副作用の緩和などがあり、世界保健機関の必須医薬品リストに掲載されています。例えば米国では、化学療法薬シスプラチンを投与されている小児癌患者の難聴リスクを軽減するために、チオ硫酸ナトリウムが承認されています。

2. 写真加工

チオ硫酸ナトリウムは、写真、フィルム、印刷版製造業界での定着剤として、一般的に使用される化学物質です。写真乳剤の代表的な成分である、ハロゲン化銀を溶解させる性質を利用しています。この性質は、イギリスの化学者のジョン・ハーシェルによって発見されました。

3. 水処理

チオ硫酸ナトリウムは、水処理分野において、飲料水や廃水の脱塩素剤や殺菌剤、循環冷却の銅腐食防止剤、ボイラー水システムの脱酸剤などに使用されます。脱塩素などの還元反応は、ヨウ素還元反応と同様の形式で起こります。チオ硫酸ナトリウムは、臭素やヨウ素と反応して溶液から遊離臭素を除去できるので、化学実験室において、臭素やヨウ素、またはその他の酸化剤を安全に廃棄するために一般的に使用されます。

4. その他

その他にも、金採掘、皮革 (なめし)、製紙・繊維産業における残留物を除去するための漂白剤、染料合成、分析化学、銀の湿式製錬などにも利用されており、その用途は多岐に渡ります。

チオ硫酸ナトリウムのその他情報

1. チオ硫酸ナトリウムの製法

チオ硫酸ナトリウムは、工業的規模では主に硫化ナトリウムまたは硫黄染料製造の液体廃棄物から製造されます。実験室では、亜硫酸ナトリウムの水溶液を硫黄で加熱するか、または水酸化ナトリウム水溶液と硫黄を沸騰させることによって調製できます (6NaOH+4S→2Na2S+Na2S2O3+3H2O)。

2. チオ硫酸ナトリウムの反応

チオ硫酸ナトリウムは、300°Cに加熱すると硫酸ナトリウムとポリ硫化ナトリウムに分解します。チオ硫酸アニオンが水溶液中のヨウ素と化学量論的に反応する性質があるため、チオ硫酸ナトリウムはヨードメトリーの滴定剤としても使用されます。酸で処理すると特徴的に分解し、チオ硫酸 (H2S2O3) を得ることもできます。

3. 法規情報

チオ硫酸ナトリウムは、毒物及び劇物取締法、消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) など、主要な法規制のいずれにも該当していません。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、直射日光を避け冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

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