クロックバッファとは
クロックバッファは、あるプリント基板のシステム内でクロックが複数の論理回路に到達するまでの遅延差を極力小さくし、タイミングを合わせる (同期を取る) ために用いられるICです。
複数の論理回路を動作させる場合、回路間で同期を取る必要があります。このときにシステム全体を統制する信号が必要で、そのために使用される、ある周波数の周期的な信号がクロックです (音楽におけるメトロノームのようなもの) 。
クロックに連動して動作する回路群を同期回路と呼びます。クロックはシステム内で分岐して、多数の論理回路に伝搬します。しかし、このクロックが同期されていないと、論理回路の誤作動によってシステム全体が所望の動作をしなくなってしまうおそれがあるため、クロックバッファが必要です。
クロックバッファの使用用途
クロックバッファはパソコン、通信システム、産業用機器など幅広い分野で使用されます。
具体的な使用用途は以下の通りです。
一例として、パソコンの動作の核となるCPU(Central Processing Unit)を挙げると、クロック信号によって各回路 (制御装置、演算装置、レジスタ、記憶装置とのインターフェース、入出力装置とのインターフェース) の同期を取ることによって、動作を統制しています。
また、いずれの用途についても、複数の回路間の情報やデータのやり取りをより正確に同期させることが安定動作のために必要不可欠です。
クロックバッファの原理
クロックバッファは回路方式によって、「Non-PLL Buffer」と「PLL Buffer」に分類されます。
内部でPLL (phase-locked loop:位相同期ループ) を使用するかどうかが大きな違いです。PLLとは、入力される周期的な信号に対しフィードバック制御を加えることによって、別の発振器から位相が同期した信号を出力する回路を指しますそれぞれの特長は以下の通りです。
- Non-PLL Buffer
PLLを介さずに入力信号を分配するためジッタ劣化 (周期のブレ) が少ない。 - PLL Buffer
入力信号と出力信号の間の遅延が極めて小さい。
クロックバッファはクロック信号を複数出力できるので、クロック信号源とクロックバッファをそれぞれ1個ずつ用意すれば、同じ周波数のクロックで動作する複数の回路群で使用可能なクロックを生成させることができます。
そのため、部品コストの削減やプリント基板のレイアウトの容易化を実現できるのがメリットです。他にも、一部製品ではレベル変換可能、設定が容易であるという特長もあります。
クロックバッファの選び方
入力信号の要求仕様、出力クロックの周波数、信号数、電圧、ジッタ、スキュー、入出力間遅延、クロックバッファの電源電圧、パッケージ外寸、ピン数、消費電力、コストなど、デバイスのデータシートで確認したうえで、設計するシステムに最適なデバイスを選定します。
システム中の各回路群に分配されるクロックが100%同じタイミングでスイッチングするのが理想ですが、現実に実現できることはまずありません。しかし、回路の誤作動を未然に防ぐためにも特性の優れたデバイスを選定することが重要です。
クロックバッファのその他情報
クロックバッファの使い方と役割
システム内で安定的に使用できるクロックを生成するには、クロック信号源とそれを補完し複数の回路群に適切に分配するためのクロック製品が必要です。
1. クロック信号源
クロック信号源としては共振器や発振器が用いられます。共振器とは、固有の周波数をもった振り子のことです。
単独では動作せず、セラミック・水晶・SAWのカテゴリーに分けられます。発振器とは、振り子を振動させ始めて振動を持続させる回路 (発振回路) と、共振器をパッケージにした製品のことです。水晶・SAW・シリコン・MEMS発振器などがあります。
2. クロック製品
クロック信号源を補完するクロック製品の一つがクロックバッファです。発振器の出力信号をクロックバッファに入力します。その入力信号と同じ周波数のクロック信号を複数出力するのがクロックバッファの役割です。
発振器を補完するクロック製品には他に、クロックジェネレータ (複数の周波数を生成可能)、ジッタクリーナ (ジッタ性能を改善)、RFシンセサイザ(高周波を出力)があり、仕様やコストなどシステムに求められる要件によって設計者が使い分ける必要があります。
参考文献
https://www.marubun.co.jp/service/technicalsquare/a7ijkd000000bojg.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep/13/4/13_4_259/_pdf/-char/ja