フェライト系ステンレス

フェライト系ステンレスとは

フェライト系ステンレスとは、鉄とクロムを主成分とするステンレスの1種で、常温でフェライト相を構成する合金の総称です。

フェライト系ステンレスは耐食性に優れており、一般的な鉄鋼よりも錆びにくい特性を持っています。これにより、さまざまな分野で幅広く使用されています。

鋼種によってはモリブデンやニオブ、などの元素を含みますが、他のステンレスに頻繁に用いられるニッケルはほとんど含有していません。

フェライト系ステンレスの使用用途

フェライト系ステンレスは成形加工性と耐食性に優れ、溶接性も良好です。構成元素であるクロムの割合や添加元素によって特徴が大きく異なるため、その使用用途も多岐に渡ります。

1. 建築・建設業界

外壁や屋根、柱などの建築部材に使用され、耐久性が求められる建築物に適しています。

2. 食品加工業

食品の加工装置やコンテナなどの接触部分に用いられ、耐腐食性が重視される食品産業に適しています。

3. 医療機器

外科手術用の器具や医療機器に利用され、高い清潔性と耐薬品性が要求される医療分野で重宝されています。

4. 自動車産業

自動車の排気管や部品、車体部分などに使用され、耐久性や耐熱性が求められる自動車産業に適しています。

フェライト系ステンレスの性質

フェライト系ステンレスは、さまざまな性質を持っています。なお、ニッケルの添加がほぼ無いことから、オーステナイト系ステンレスと比較して安価です。

1. 磁性

フェライト系ステンレスの特徴は、その鋼種によってさまざまですが、共通する特徴として強磁性を有する点が挙げられます。これはフェライト系ステンレスの結晶構造が、体心立方格子であることに起因しています。そのため、同様の結晶構造を有するマルテンサイト系ステンレスは常磁性であるのに対し、面心立法格子であるオーステナイト系ステンレスは非磁性です。

2. 強度

フェライト系ステンレスは熱処理による硬化がほぼ無いことでも知られており、焼入れ焼き戻しによる強度の向上がみられないことから、高強度が必要な用途には不向きです。

3. 脆性

フェライト系ステンレスは、温度条件によって脆化が起こることでも知られています。高温脆性は400~540度の範囲内、550~800℃の温度範囲内での保存により脆化が進行します。

また、低温域でも、衝撃抵抗が急激に低下する延性脆性遷移温度があります。なお、低温脆性は炭素と窒素の含有率を小さくした高純度フェライト系ステンレスを用いることで改善が可能です。

4. その他

その他の特徴として、一般的に耐食性、加工性、強度は、SUS304などを代表とするオーステナイト系ステンレスよりは劣り、SUS403などを代表とするマルテンサイト系ステンレスよりは優れる傾向が見られます。

フェライト系ステンレスの種類

鋼種を示すSUSの名称の数字が400番台のものが、フェライト系ステンレスです。代表的なフェライト系ステンレスとしてはSUS430が挙げられ、その他のフェライト系ステンレスはこのSUS430に種々の元素を添加したものや、元素比率を変えたものがあります。

なお、SUS430から改善される物性とSUSの種類は以下の通りです。

1. 耐酸化性 (SUS405)

クロム含量18%から13%に減らし、アルミを加えることで、耐酸化性を改良しています。

2. 加工性 (SUS410L, SUS429)

クロム含量を減らしています。

3. 被削性 (SUS430F)

硫黄の添加により、切削加工のしやすさを向上させています。

4. 加工性、溶接性 (SUS430LX, SUS430J1L)

チタンやニオブの添加や、炭素量の低減により加工、溶接性を向上させています。

5. 耐食性 (SUS443J1, SUS434, SUS436J1L, SUS436L, SUS444)

モリブデンや、さらにチタン、ニオブの添加により、耐食性を向上させています。オーステナイト系のSUS304と同等の耐食性を持ち、屋外パネルや化学プラントはもちろんのこと、海水中などでの腐食環境下でも使用されています。

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