トランスファーピペットとは
トランスファーピペット (英: Transfer pipette) とは、液体の移し替えに使われる道具です。
主にポリエチレン素材のディスポーザブルな製品でワンピース型 (一体成型) をしており、ポリエチレンスポイトとも呼ばれます。バルブ (膨らんだ部分) を押して空気を追い出し、先端を液につけてからバルブを戻すことで内部が陰圧となり、液体が吸い上げられます。
吸い上げ後にバルブを押し、内部にある液体を押し出すことで、必要な一定の量 (すなわちバルブの容積) を分注することが可能です。
トランスファーピペットの使用用途
トランスファーピペットは簡易に液体の計量または移し替えができるディスポーザブルな道具という特長を活かし、研究開発、医療、介護、衛生、生産・建築現場、農業、飲食品産業など幅広い分野で使われています。
- 臨床検体 (血液、血清、尿など) の計量、分注
- 潤滑油や塗料の作業現場での移し替え
- 農薬や液体肥料の計量
- 試薬の少量分注
- 菌数検査、組織細胞培養、臨床研究、微生物実験
- 組織細胞培養、臨床研究、微生物実験
- 液体の商品・試供品の小分け、詰替え作業
- 実験や製造時の充填作業
トランスファーピペットの原理
トランスファーピペットのバルブ部を指で押し、チューブやビンの液体に浸した後、押していた指を離すと液体が吸い上げられます。再び押すことで液体を吐き出すことが可能で、この一連の操作により移し替えと計量を行います。
計量は、バルブ部を押したときに吐き出される容積 (吸い上げられる容積と同じ) に依存しています。自然に押したときにある程度再現性良く吐出・吸引が出来るように設計されており、バルブを一度押したのちに吸い上げられる容量が吸引容量です。
トランスファーピペットの選び方
1. 吸引容量
製品を選ぶ時は作業内容によって吸引容量を考慮して選択する必要があります。指で押す設計であるため、吸引容量は最大でも3mLです。最小は20μL程度です。
2. 寸法、形状
作業内容 (特に差し込む箇所) に合わせて、ステムの長さや太さ、先端のテーパーあるなしを選択します。長さは51mmから239mmまで様々です。
吸い上げたのちに、軽くバルブを押しながらバルブ部分に吸い上げられた試料を微量ずつ滴下できますが、このときに落ちてくる一滴分の滴下量は主に先端形状 (細さ) によって決まります。この点でも作業内容を考慮し、適した製品を選ぶことが好ましいです。
3. 滅菌
ガンマ線滅菌またはガス (EOG) 滅菌後、個別包装した製品は細菌汚染のリスクが排除されているため、無菌操作が必要な実験で使用することができます。
トランスファーピペットのその他情報
1. 材質
原材料として使われる低密度ポリエチレンは、溶出成分が少なく無毒性です。細胞およびタンパク質が吸着して損失することが起こりにくい素材です。表面が低親和性なので、細胞および貴重なタンパク質の結合による損失を防止します。
熱可塑性であり、ピペットの先端をヒートシーリングすると、そのまま冷凍保存することも可能になります。
2. 形状
長くて柔軟なステム部分は柔らかくてよく曲がるので、細い小容量のチューブに差し入れて液体を吸い上げることもできます。
3. 使用上の注意点
ほとんどの製品がポリエチレン製であるため、その観点で注意点を以下に記載します。
耐薬品性が限定的
アルカリには強く、塩酸・亜硫酸・次亜塩素酸にも耐えますが、硝酸・クロム酸などの強酸化性酸には弱いです。おおむね有機溶剤には弱いですが、イソプロピルアルコールは扱うことができます。
耐熱性が低い
70~90℃程度までしか耐えません。オートクレーブ滅菌して使用することはできず、滅菌はガンマ線またはEOGガスで行う必要があります。
超低温に耐えない
低密度ポリエチレンの耐低温性は‐60℃までとされ、吸い上げた試料を封入して冷凍保存する場合でも、超低温 (-80℃など) にすることは避けるべきです。液体窒素凍結も避ける必要があります。
参考文献
https://www.thermofisher.com/search/browse/featured/jp/ja/80013351/Transfer+Pipettes
https://www.watson.co.jp/product/transfer/index.html
http://www.sunyes.co.jp/sehin/transfar.html