アジリジンとは
図1. アジリジンの基本情報
アジリジンとは、化学式がC2H5Nで示される有機化合物です。
別名、エチレンイミン (英: Ethylene imine) とも呼ばれます。水酸化ナトリウムとβ‐アミノエチル硫酸を反応させると、アジリジンが得られます。工業的には、1,2-ジクロロエタンとアンモニアからアジリジンを製造可能です。
アジリジン類には共通する毒性があります。DNAの核酸塩基などの求核剤に、開環しながら結合するため、アジリジン類の変異原性に繋がります。
アジリジンの使用用途
アジリジンは、接着剤、繊維処理剤、ポリエチレンイミンの原料、農薬の原料、イオン交換樹脂の製造などに用いられています。しかし、皮膚や粘膜へのアジリジンの暴露は、人体に非常に強い毒性を示します。有毒であるため、取り扱いには注意が必要です。
アジリジン基を持つアジリジン化合物は、ケミタイトとして販売されています。このケミタイトは、塗料、粘接着剤、コーティング剤の架橋剤に使用されています。
アジリジンの性質
アジリジンの融点は-77.9°C、沸点は55〜56°Cであり、無色で透明の液体です。アジリジンは、アンモニアのような特有の匂いを有します。
アジリジンの酸解離定数は7.9であり、直鎖状脂肪族アミンと比較すると塩基性は弱いです。
アジリジンの構造
図2. アジリジンの関連化合物
アジリジンは三員環の構造を有します。1個の窒素原子と2個の炭素原子から構成される、ヘテロ三員環化合物です。分子量は43.07で、20°Cでの密度は0.8321g/mlです。
シクロプロパンやエチレンオキシドなどと同じく、角ひずみが生じています。アジリジンの持つ原子の結合角はおよそ60°であり、通常の炭化水素のような109.5°よりも非常に小さいためです。
これらの化合物の結合は、バナナ型結合モデル (英: bent bond) を用いて説明できます。すなわち、バナナのような形をした共有結合のことです。
アジリジンの結合角によって、窒素原子が反転する障壁は十分高いため、N-クロロ-2-メチルアジリジンのトランス体とシス体は分離できます。
アジリジンのその他情報
1. アジリジンの合成
アミノ基が隣接したハロゲンの分子間求核置換反応によって、アジリジンをハロアミンから合成可能です。ヒドロキシ基を優れた脱離基に変換すれば、同様の反応はアミノアルコールでも進行します。ハロアミンの環化反応はガブリエルエチレンイミン法 (英: Gabriel Ethylenimine Method) と、アミノアルコールの環化反応はウェンケル合成 (英: Wenker synthesis) と呼ばれています。
アジ化合物の光分解や熱分解によって生じるニトレンが、アルケンに付加すると、アジリジンを合成可能です。また、アジ化合物とアルケンの付加環化反応で得られるトリアゾリンが、熱分解や光分解により窒素原子が脱離すると、アジリジンが生成します。
さらに、エポキシドをアジ化ナトリウムの存在下で開環し、トリフェニルホスフィンを用いた還元によって窒素原子を除去しても、アジリジンが得られます。
2. アジリジンの反応
図3. アジリジンの反応
立体的ひずみが大きいアジリジン環は、求核剤により開環反応が起こります。アミン、アルコール、チオールなどが、アジリジンに付加すると、アミノエチル化生成物を生成可能です。ギルマン試薬 (英: Gilman Reagent) やアルキルリチウムも、求核剤として効果的です。
開環反応を応用して、トリメチルシリルアジドと非対称性を有する配位子を用いて、オセルタミビル (英: oseltamivir) を不斉合成する反応も知られています。
アジリジンは、ポリエチレンイミン (PEI) と呼ばれる多種多様な高分子誘導体を生成します。ポリエチレンイミンは、架橋剤やコーティングの前駆体として有用です。
参考文献
https://www.env.go.jp/chemi/report/h26-01/pdf/chpt1/1-2-2-01.pdf