炭化タングステンとは
炭化タングステンとは、タングステンと炭素の化合物です。
タングステンカーバイド (英: tungsten carbide) とも呼ばれています。炭化タングステンは縦弾性係数 (ヤング率) が大きく、剛性が非常に高いです。さらに、硬度、強度ともに高く、耐腐食性に優れています。
天然の炭化タングステンは、中国のチベット自治区の山南市チュスム県で発見され、2007年にチュスム県にちなんでクソング鉱 (英: Qusongite) と名付けられました。タングステンカーバイドの粉塵を吸入すると、珪肺症のような肺線維症を引き起こします。WC-Co系合金は発癌性物質だと言われています。
炭化タングステンの使用用途
炭化タングステンは、主に超硬合金の原料に用いられています。とくに炭化タングステン (WC) とコバルト (Co) を混合して焼結結合させると機械的性質に優れており、超硬合金と言えばWC-Co系合金を指すことが多いです。ほかにも炭化タングステン (WC) とニッケル (Ni) で組成されたWC-Ni系合金などがあります。
別の物質を添加して、耐酸化性や耐食性などを向上でき、WC-Co系合金に炭化チタン (TiC) や炭化タンタル (TaC) などを加えた超硬合金もあります。いずれの超硬合金も剛性や硬度、強度が高くて、熱膨張率が低く、旋削チップ、ドリル、エンドミルなどの切削工具に使用可能です。また、耐摩耗性にも優れているため、伸線用ダイスや圧延ロール、金型などに広く利用されています。
炭化タングステンの性質
炭化タングステンの融点は2,870°Cで、沸点は6,000°Cです。灰色または黒色の固体で、光沢があります。
炭化タングステンのヤング率はおよそ550GPaで、鋼の2倍ほどの剛性を持っています。コランダム、ルビー、サファイアなどのα-酸化アルミニウムに匹敵する硬さです。
炭化タングステンの構造
炭化タングステンは等モル量の炭素原子とタングステン原子から構成されている無機化合物です。化学式はWCで表され、モル質量は195.851g/molです。
六方晶のα-炭化タングステンと立方体のβ-炭化タングステンの2種類が存在します。六方晶系型のタングステン原子間の距離は291pmで、隣接層のタングステン原子間の最短距離は284pmであり、タングステン-炭素結合長は220pmです。α-炭化タングステンの密度は15.63g/cm3です。
炭化タングステンのその他情報
1. 炭化タングステンの合成法
1,400〜2,000°Cで炭素とタングステンが反応すると、炭化タングステンが得られます。タングステンまたは酸化タングステン(VI)を用いた一酸化炭素と二酸化炭素の混合ガスと水素ガスによる流動層法では、900〜1,200°Cでも合成可能です。
グラファイトと酸化タングステン(VI)を、900°Cで加熱しても炭化タングステンが生成します。670°Cの水素に晒した後に、1,000°Cのアルゴン雰囲気下で浸炭しても合成可能です。
還元剤として水素を用いて、炭素源としてメタンと670°Cで六塩化タングステンを反応させると、炭化タングステンは得られます。還元剤の水素と炭素源のメタノールを、350°Cで六フッ化タングステンと反応させても生成可能です。
2. 炭化タングステンの反応
炭化タングステンは酸に耐性があり、水、塩酸、硫酸に溶けません。フッ硝酸 (硝酸とフッ化水素酸の混合溶液) や王水には溶解します。炭化タングステンは500~600°Cで酸化し始めます。室温でフッ素ガスと反応し、400°C以上で塩素と反応しますが、乾燥した水素とは反応しません。
微粉末状の炭化タングステンは、過酸化水素水溶液中で容易に酸化します。高温高圧下で炭酸ナトリウム水溶液と反応して、タングステン酸ナトリウムが生じます。
参考文献
https://www.kojundo.co.jp/dcms_media/other/WWI01PAG.pdf