デジタルマルチメーターとは
デジタルマルチメーターは、一般に直流電圧・交流電圧・直流電流・抵抗値など基本的な電気特性を測定する装置です。旧来の電圧計、電流計及び抵抗計はメーター指針が測定値を指示するアナログ表示であったのに対し、複数の測定機能を備えかつ3桁から8桁の数値表示であることからデジタルマルチメーターと呼ばれます。また、静電用容量や交流周波数、温度など測定機能を拡張した機種も販売されています。
尚、小型軽量で、工事現場等での使用に適したコンパクトな機種は、デジタルテスターとも言われます。表示桁数は4桁程度、測定精度は直流電圧の場合0.05~0.1%、交流電圧では0.5~1%程度が一般的な性能です。実験室での精密な測定には精度が不十分ですが、屋外へ持ち出す用途では使いやすいものです。そのような使い方を想定して、落下にも耐えるよう頑丈な構造を持った機種も販売されています。
デジタルマルチメーターの使用用途
デジタルマルチメーターは、実験室における測定、工場の生産ラインにおける製品の電気調整、電気設備の工事や保守点検など、様々な場面で利用されています。
受電設備や動力制御盤に組み込まれていることが多いです。このような場合、電流・電圧・抵抗値といった基本的なパラメーターに加え、静電容量・周波数・温度などを測定する機能が組み込まれているものあります。
また、上記のように専門的な用途だけでなく、一般家庭での電子工作などに使える安価なものも販売されています。
デジタルマルチメーターの原理
デジタルマルチメーターの中枢は高精度/高分解能のA/Dコンバータと、そのデジタル出力を基に測定値を算出するプロセッサから構成されます。
1. 直流電圧測定
2つのプローブ間の電圧を増幅(微小電圧の場合)もしくは減衰(高電圧の場合)するアンプやアッテネータを通してダイナミックレンジ内の電圧に変換し、A/Dコンバータの入力電圧とします。A/Dコンバータはその入力電圧に対応するデジタル値を出力し、プロセッサはこのデジタル値とアンプのゲインやアッテネータの減衰率を基にプローブ間の電圧を算出して、表示器に直流電圧値を表示します。
2. 交流電圧測定
整流回路を通して交流電圧を直流電圧に変換してから、A/Dコンバータに入力し、以降直流電圧と同様の処理を経て、表示器に交流電圧値を表示します。
3. 抵抗測定
デジタルマルチメーターに内蔵した定電流電源から2本のプローブを介して、被測定抵抗に一定の電流を流します。この時プローブの両端に現れる直流電圧をA/Dコンバータに入力することで被測定抵抗の両端電圧が測定できます。この電圧値と定電流電源の電流値から、プロセッサが被測定抵抗の抵抗値を算出します。
4. 電流測定
直流電流の測定には、デジタルマルチメーター内の微小抵抗器に流れる被測定電流によって発生する微小抵抗器両端の電圧をA/Dコンバータに入力します。このA/Dコンバータの出力値からプロセッサで電流値を算出し、表示器にその電流値を表示します。交流電流の場合は、微小抵抗器両端の交流電圧を整流回路で直流電圧に変換し、A/Dコンバータに入力します。
5. A/Dコンバータ
デジタルマルチメーターのA/Dコンバータは非常に高精度(高分解能)、例えば7桁の表示には24bit以上、が求められるので、一般に二重積分型が採用されます。その為変換に要する時間は比較的長く、1秒間に数回測定する事が精一杯です。但し表示桁数を減らしてA/Dコンバータの変換時間を短縮することで、測定時間を短縮させることも可能です。
デジタルマルチメーターの使い方
デジタルマルチメーターの使い方は以下の通りです。
1. 電圧・電流測定
デジタルマルチメータでは、Hi端子とLo端子の2つの入力端子間に被測定系を接続します。直流電圧測定の際、Hi端子は高電圧側、Lo端子は定電圧側に接続すると、Lo端子側の電位を基準にHi端子側の電圧を表示します。直流電流測定の際、Hi端子から被測定電流が流れ込みLo端子から流れ出す場合に電流値はプラスと表示され、逆方向の場合はマイナスと表示されます。交流電圧、電流や抵抗の測定では極性を考慮する必要はありません。
2. 測定レンジの設定
最大入力定格以内の電圧、電流であれば、Autoレンジ機能により自動的に最適なレンジに切り替わるので、一般的な使い方では最適なレンジを探す作業は不要ですが、生産ラインでの調整時など測定時間の短縮が求められる場合は、予想される測定値を基に手動でレンジ設定することになります。
3. 被測定回路への影響
デジタルマルチメーターを接続することにより、被測定系に影響を与えて測定値が変動することがあります。例えば、暗い環境下で光センサーの出力電圧を測定する場合など、非常にインピーダンスが高い回路にデジタルマルチメーターを接続すると、その内部インピーダンスが測定系の負荷となり、本来の出力電圧より低い値を示すことがあります。
同様に、インピーダンスが小さい回路の電流を測定する場合は、デジタルマルチメーター内の電圧検出用微小抵抗が、被測定回路に無視できない誤差を発生させることがあります。従って、デジタルマルチメーターが被測定回路に与える影響を考慮した上で、使用の可否を判断して下さい。
4. 低抵抗測定
抵抗の測定において4端子測定が可能なデジタルマルチメーターがあります。特に低抵抗値の計測において、プローブと被測定抵抗器との接触抵抗が誤差の原因となる場合に、4端子測定は極めて有効な手法です。4端子と云われる通り、一対の端子の定電流電源と、一対の端子の電圧計から構成されるもので、被測定抵抗器の両端に定電流電源を接続して定電流を流します。
電圧計は定電流端子の内側、抵抗器側のポイント、にプローブをあてて抵抗器の両端電圧を測定します。この測定電圧と定電流値から抵抗値を算出します。定電流端子の接触抵抗は電圧の測定値に影響しないこと、電圧計のプローブの接触抵抗は電圧計の内部抵抗10MΩに対して無視できるレベルであることから、低抵抗を正確に測定できます。
参考文献