アジピン酸

アジピン酸とは

アジピン酸は、化学式(CH2)4(COOH)2で表される有機化合物です。工業的に最も重要なジカルボン酸で、白色で無臭の結晶性粉末です。別名、ヘキサン二酸、1,4-ブタンジカルボン酸とも呼ばれます。
アジピン酸自然界で見られることは稀ですが、火焔菜(カエンサイ)など一部の植物に含まれており、さわやかな酸味があります。歴史的には種々の脂肪を酸化させることで調製していたため、ラテン語で「動物の脂肪」を意味するadeps、adipisを冠してアジピン酸と名付けられました。

アジピン酸の性質

エタノールに溶けやすく、熱水やアセトンにも可溶です。水にわずかに溶け、水溶液は酸性を示します。

1分子あたり2つの酸性基を持ち、水中で2つのプロトンを放出できる二塩基酸の一つです。pKa値4.4と5.4において、2段階のプロトン解離を起こします。

2つのカルボン酸基が4つのメチレン基で隔てられているため、アジピン酸は分子内縮合反応します。水酸化バリウムを加えて高温で処理するとケトン化し、シクロペンタノンが生成します。
(CH2)4(CO2H)2 → (CH2)4CO + H2O + CO2

また、アジピン酸を高温で加熱すると、無水アジピン酸になります。

アジピン酸の製法

アジピン酸は、シクロヘキサンを酸化することにより得られます。まず、ケトンアルコールオイルと呼ばれるシクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物を用意し、これを硝酸で酸化することで、多段階の経路を経てアジピン酸を得ます。反応の初期にシクロヘキサノールはケトンに変換され、亜硝酸が放出されます。
C6H11OH + HNO3 → (CH2)5CO + HNO2 + H2O

多段階の反応過程で、次式に従ってシクロヘキサノンはニトロソ化され、C-C結合が切断されます。

HNO2 + HNO3 → NO+NO3- + H2O
OC6H10 + NO+ → OC6H9-2-NO + H+

この製法の副産物として、グルタル酸コハク酸があります。ここにおいて、アジピン酸に対して約1対1のモル比で亜酸化窒素(N2O)が生成されます。

亜酸化窒素が発生しない、代替製造方法としては、次式に従ってブタジエンをヒドロカルボキシル化する方法や、過酸化水素を用いてシクロヘキセンを酸化開裂させる方法が提案されています。

CH2=CH-CH=CH2 + 2 CO + 2 H2O → HO2C(CH2)4CO2H

アジピン酸の使用用途

アジピン酸は、各種有機合成原料として使用され、特にナイロン-66やポリエステル樹脂などの高分子製造の原料モノマーとして多く利用されています。また、アルキド樹脂や医薬品等の合成原料としても利用されています。

アジピン酸は他にも、食品添加物として酸味料、品質改良剤、膨張剤等に使われています。また、酸の標準物質として、アルカリ標準液の標定にも用いられています。

アジピン酸をオクチルアルコール、デシルアルコール等とエステル化して得られるジエステルは、可塑剤や合成潤滑油として使用されています。

アジピン酸の安全性

アジピン酸は、他のカルボン酸と同様に、軽度の皮膚刺激性があります。毒性は穏やかで、ラットに経口摂取させた場合の致死量は中央値で3600mg/kgです。

環境面としては、アジピン酸の生産において排出される亜酸化窒素(N2O)は、成層圏のオゾン層破壊を引き起こす物質であること、また二酸化炭素の約300倍の温室効果を有することが指摘されています。そのため、この排出を抑制する必要があり、アジピン酸メーカーでは、次式に従って、亜酸化窒素を触媒作用によって窒素と酸素に変換するプロセスを導入しています。
2 N2O → 2 N2 + O2

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