酸化銀とは
酸化銀とは、酸素と銀の化合物です。
酸化銀には、酸化銀 (I) と一酸化銀が存在しますが、通常は酸化銀 (I) のことを指します。酸化銀 (I) は、硝酸銀の濃水溶液に水酸化ナトリウムの希水溶液を加えることで得られる、暗褐色の粉末です。
それに対して一酸化銀は、灰黒色の粉末です。銀とオゾン (O3) との反応のほか、硝酸銀水溶液とペルオキソ二硫酸塩である(NH4)2S2O8との反応によって生成されます。
酸化銀の使用用途
1.酸化銀 (I)
酸化銀 (I) は、触媒や飲料水の殺菌、着色ガラスや導電性ガラスの製造、ガラスの研磨、有機合成のヒドロキシ基導入剤、脱ハロゲン化剤、医療などの用途として、幅広く用いられています。
また、酸化銀 (I) には、非常に高い殺菌作用や消臭効果等があることから、化粧品に配合することも可能です。
2. 一酸化銀
一酸化銀は、酸化剤や分析試薬等の用途に用いられます。さらに、負極に亜鉛、正極に酸化銀、電解液にアルカリ水溶液を使用した小型一次電池である酸化銀-亜鉛アルカリ電池にも利用されています。
酸化銀の性質
酸化銀 (I) は、熱や光に対して不安定です。酸化銀 (I) を太陽光にさらしたり、熱したりすることで、銀と酸素に分解します。およそ160℃で分解し始めて、250~300℃で急激に分解し、酸素を放出して金属銀になります。
完全に分解して、単体の銀になるのは300~340℃です。また、酸化銀 (I) はエタノールなどに不溶です。一酸化銀は反磁性を示します。100℃以上で、酸素と銀に分解されます。
一酸化銀は最も強い酸化剤の1つです。一酸化銀は冷水には溶けませんが、アンモニア水には溶けます。
酸化銀の構造
1. 酸化銀 (I)
酸化銀 (I) の化学式はAg2Oで、式量は231.74、密度は7.14g/cm3です。結晶構造は立方晶系を取っており、酸化銅(I) と同一の結晶構造です。
銀原子が面心立方に、酸素原子が体心立方に配列しています。面心立方と体心立方の2種の格子が互いに入り組むことで、酸化銀 (I) の格子を作っています。4個の銀原子によって酸素原子が正四面体形に取り囲まれており、銀-酸素原子間距離 (Ag―O) は2.043Åで、銀-銀原子間距離 (Ag―Ag) は3.336Åです。
2. 一酸化銀
一酸化銀の化学式はAgOと書かれますが、銀 (II) の酸化物ではありません。X線回折の結果によると、AgIAgIIIO2のような銀 (I) と銀 (III) の混合酸化物であると考えられています。
一酸化銀の式量は123.9で、密度は7.48g/cm3です。一酸化銀は過酸化銀とも呼ばれますが、過酸化物イオン (O22-) を持っていません。
酸化銀のその他情報
1. 酸化銀 (I) の反応
酸化銀 (I) は水にはわずかに溶け、Ag(OH2)2–という加水分解物が生じます。Ag2Oの懸濁液は、HO2CCF3、HF、HCl、HBr、HIなどの酸と反応します。また、酸化銀 (I) はアルカリ塩化物水溶液との反応によって、塩化銀 (I) やアルカリ水酸化物を得ることが可能です。さらに酸化銀 (I) は、湿った状態で二酸化炭素を吸収します。
酸化銀 (I) はアンモニア (NH3) やチオ硫酸イオン (S2O32-) を含む水溶液に溶けます。ジアンミン銀 (I) イオン ([Ag(NH3)2]+) とビス(チオスルファト)銀(I)酸イオン ([Ag(S2O3)2]3-) のような錯イオンをそれぞれ形成して溶解するためです。
2. 酸化銀 (I) の応用
酸化銀 (I) は有機化学において、温和な酸化剤として用いられています。具体的には、アルデヒドの酸化によるカルボン酸の合成などに利用可能です。この酸化反応では、アルカリ水酸化物と硝酸銀によって、よくイン・サイチュ (英: in situ) で調製されています。
一酸化銀と同じく、酸化銀 (I) は酸化銀電池にも使用されます。それ以外にも、微細な電子回路を製造するために、導電性材料として用いられる銀粉の代わりに、酸化銀 (I) を使うことも可能です。酸化銀(I)は粉末化が容易で、加熱によって導電性の銀に変換できます。