酪酸

酪酸とは

酪酸の基本情報

図1. 酪酸の基本情報

酪酸とは、炭素数4の脂肪族カルボン酸の1つで、油状の無色の液体です。

酪酸はバターの腐敗臭のような不快な匂いがします。極微量でも哺乳類は、酪酸の臭いを探知することが可能です。酪酸にはイソ酪酸と呼ばれる構造異性体が存在するため、酪酸は正酪酸とも呼ばれます。

酪酸はグリセリドとして動物の乳脂に含まれている他、糖や乳酸の醗酵により生成し、エステルとして植物精油中に含まれています。また、工業的にはブチルアルデヒドやブチルアルコールの酸化によって生成可能です。

酪酸の使用用途

酪酸は、ワニスの製造原料として利用されています。その他にも、4-ヘプタノンのような有機合成原料や乳化剤として使用可能です。さらに、酪酸はあらゆるバイオ燃料の前駆体としても使用できる他、酪酸がエステル化することで、合成香料の製造に使われるといった用途があります。

着香剤などの食品添加物に使用されるなど、食品加工や調味料の製造にも利用されています。また、酪酸には栄養価を高めたり、感染症や病気を予防したりする効果があるため、動物飼料に利用可能です。がんや過敏性腸症候群向けの医薬品製造にも、酪酸が使用されています。

酪酸の性質

酪酸の密度は0.96g/cm3で、分子量は88.11です。常圧だと、融点は−7.9℃、沸点は164℃です。酪酸はカルボキシ基を有し、水とよく混和します。

食塩水には溶けにくいため、多量の食塩を酪酸水溶液へ加えると分離することが可能です。酪酸の水溶液は酸性を示します。常温ではpKa = 4.82の弱酸で、類似化合物である酢酸のpKa = 4.76と近いです。酪酸はエタノールやエーテルにも溶けやすいです。

酪酸は直鎖状のカルボン酸で、分子式はC4H8O2、示性式はCH3(CH2)2COOHです。ブタン酸やn-ブタン酸などの別名で呼ばれることもあります。

酪酸のその他情報

1. 天然における酪酸

酪酸はバターから得られたため、ラテン語でバター「butyrum」が語源となり、酪酸「butyric acid」と呼ばれるようになりました。脂肪酸の分解の過程で生合成されるため、天然に広く分布しています。

体外に分泌される皮脂にも含まれており、酪酸は蒸れた足が発する悪臭の原因物質の1つです。乳汁を原料とするチーズやバターをはじめ、植物にも含まれています。銀杏の異臭の原因です。

2. エネルギー源としての酪酸

酪酸は微生物により作られる場合もあり、草食性動物においては重要なエネルギー源になっています。具体的には、哺乳類の反芻胃や大腸で食物に含まれるセルロースや、ヘミセルロースを細菌が嫌気醗酵して酪酸のような短鎖脂肪酸を生成可能です。

吸収された酪酸は、β酸化によってアセチルCoAに分解されて、クエン酸回路によってエネルギー源として使用されます。大腸内で生成した酪酸は、優先的に結腸の細胞においてエネルギー源として利用可能です。酪酸は腸管増殖因子として作用するため抗炎症作用があり、傷害腸管の修復に関与しています。

3. 酪酸の構造異性体

酪酸の構造異性体

図2. 酪酸の構造異性体

酪酸の構造異性体には、イソ酪酸があります。IUPAC命名法で2-メチルプロピオン酸とも呼ばれており、イソ酪酸の示性式は(CH3)2CHCOOHです。

天然には遊離した状態で存在しています。マメ科やセリ科の植物中には、他の分子とエステル化した形で存在する場合もあります。

4. 酪酸の関連化合物

飽和脂肪酸の構造

図3. 飽和脂肪酸の構造

酪酸と同じ飽和脂肪酸の具体例として、プロピオン酸吉草酸が挙げられます。プロピオン酸はプロパン酸とも呼ばれ、示性式はCH3CH2COOHです。

吉草酸はペンタン酸とも呼ばれ、示性式はCH3(CH2)3COOHです。すなわち、プロピオン酸は炭素数3の飽和脂肪酸で、吉草酸は炭素数5の飽和脂肪酸と言えます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です