酢酸ブチルとは
酢酸ブチルとは、分子式C6H12O2で表される酢酸とブタノールのエステルです。
酢酸ブチルは、別名ブチルアセテートとも呼ばれ炭化水素系エステルに分類されます。分子量は116.16g/molで、化学物質個々に付与されるCAS番号は123-86-4です。
酢酸ブチルは、常温常圧では無色透明の液体であり、果実臭と呼ばれる甘い独特の匂いをもつことが特徴です。また、エタノールに極めて溶けやすく、水には溶けにくいという性質をもっています。
酢酸ブチルの原料であるブタノールには、4種類の構造異性体が存在します。そのため、酢酸ブチルにも同様に、酢酸n-ブチル・酢酸イソブチル・酢酸sec-ブチル・酢酸tert-ブチルといった、4種の構造異性体が存在します。
酢酸ブチルの使用用途
酢酸ブチルは、各種溶剤として幅広く使用されています。具体的な溶剤の用途としては、塗料やインキ用をはじめ、各種樹脂、化粧品、医薬品、接着剤、香料、レザー、エナメル、ショウ脳、ゴムなどです。
酢酸ブチルは塗料やインキの溶媒としてはやや沸点が高く、「重い」溶媒です。そのため、単独では常温常圧で乾燥が進みにくく、他の沸点が低い「軽い」溶媒に加えて、揮発性を調整する目的で使用されることが多いです。分かりやすい例としては、爪用のマニキュアの溶媒の用途に酢酸エチルに加えて使用されます。
また、酢酸ブチルは、硝酸セルロースやエチルセルロース、ポリスチレン、メチルメタクリレート樹脂等のフィルムをコーティングしている樹脂面に対して、優れた流動性とブラシ耐性があることから、ラッカーの溶剤としても有用です。食品関係では、その香気を活かし、果実エッセンスや着香剤、香辛料等の原料として、キャンディ、アイスクリーム、チーズなどに果物の香りを付けるため、酢酸ブチルが使用されています。
酢酸ブチルの性質
酢酸ブチルの融点は-74℃、沸点は124℃です。沸点は高い温度ですが、20℃での蒸気圧が1.3 kPaと比較的高いために常温でも揮発が進むとともに香気を発します。
酢酸ブチルの4種の構造異性体は、それぞれに性質が異なります。ですので、例えば酢酸n-ブチルと酢酸イソブチルはリンゴやバナナのような香り、酢酸tert-ブチルはブルーベリーのような香りです。それぞれ異なる匂いをもっており、これらは分けて使用されます。
酢酸ブチルは、自然界において、ブドウやイチゴ、リンゴなど果物の揮発性香気成分として存在しています。
酢酸ブチルのその他情報
1. 酢酸ブチルの安全性
酢酸ブチルの人体や環境への安全性は比較的高く、急性毒性はGHS区分の区分外です。ただし、軽度の目刺激性と気道刺激性があります。また、高濃度の酢酸ブチルを吸引すると、頭痛や吐き気、眩暈、呼吸困難、意識喪失といった症状が出ることがあるため、取り扱いには注意が必要です。
酢酸ブチルは常温で揮発性がある有機物なので引火性が高く、火災や爆発を引き起こす可能性があります。消防法では、可燃性液体として、危険物第4類、第二石油類非水溶性液体に指定されています。
よって指定数量以上の保管や使用は、有資格者のもと定められた設備で行わなければいけません。労働安全衛生法においても、その容器に名称を表記し、使用者にはその危険性を通知すべきことが定められています。
2. 酢酸ブチルの製造法
酢酸ブチルは、酢酸とブタノールを原料とし、エステル化反応によって製造されます。具体的には、酢酸とn-ブタノールを硫酸等の酸触媒の存在下で反応させることで脱水縮合によりエステル化する方法です。
工業的には上記の方法で得られた粗酢酸ブチルを脱低沸物蒸留塔を用いて低沸物を除去し、その残留液である缶出液を脱高沸物蒸留塔によって蒸発させ、その塔頂から気体の酢酸ブチルを留出物として得る方法などが用いられます。
食品や電子機器製造用溶媒として高純度が要求される用途では、蒸留工程を工夫し、脱低沸物蒸留塔からの抜き出し位置を変え、高沸物不純物をあらかじめある程度除去する方法が提案されています。