トルエン

トルエンとは

トルエンとは、芳香族炭化水素に属する有機化合物の一種で、独特の匂いをもつ無色透明の液体です。

水には極めて溶けにくいですが、アルコールなどの各種有機溶媒と混和するほか、有機物や高分子を溶解させることができるため、合成実験の溶媒、塗料や印刷インキの溶剤などに用いられています。しかし、引火性、有害性が高く、消防法や毒劇法などの法令に該当しています。

そのため、取り扱い時には静電気などの着火源が発生しないようにする、使用時の中毒を防ぐために換気を行うなどの安全対策が重要です。

トルエンの使用用途

トルエンは様々な有機物を溶解させることができるため、多くの合成反応の溶媒として用います。幅広い有機物、高分子を溶解させられるうえ、揮発性も高いため塗料や印刷インキ、油性接着剤の溶剤としても用いられる場合が多いです。

また、石油化学においてトルエンはベンゼンなどと同様に、様々な芳香族化合物の原料となり、例えば安息香酸やトリニトロトルエン、ベンズアルデヒドなどが挙げられます。また、トルエンは、ベンゼンやキシレンなどの他の重要な化学原料を製造する際にも用いられています。

トルエンの化学反応

トルエンの化学反応

図1. トルエンの化学反応

トルエンは、比較的安定している化合物ですが、所定の条件では酸化反応などを起こします。例えば、トルエンは濃硝酸と濃硫酸の混合物を用いることでニトロ化するほか、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤を用いることで酸化して安息香酸になります。

その他、高圧下で触媒を作用させることでトルエンは水素化してメチルシクロヘキサンに変換されます。一般的に、このようなトルエンを原料とする反応は大規模な石油化学プラントで用いられるため、長期の安定稼働が重要です。

触媒などの反応で用いる化合物についても長寿命であることが求められており、各社ではコスト削減に向けたプロセス改良、新規触媒設計が検討されています。

トルエンのその他情報

トルエンの安全性

トルエンは様々な業界で溶剤や出発原料として用いられていますが、毒性や引火性を有する化合物です。そのため、使用時には様々な観点からの配慮が必要です。

1. トルエンの引火性
トルエンの引火性

図2. トルエンの引火性

トルエンは消防法上の危険物第4類第一石油類に該当する化合物で、引火点が4.4℃であり、室温で容易に引火する可能性があります。通常の取り扱いでは科学的に安定ですが、強い酸化剤やクロロホルムなどと接すると発火する可能性があるため、混合混触危険に十分な注意が必要です。

また、上記の通りトルエンは引火性が高いため、プロセス中に発生した静電気によって引火する可能性もあります。例えば、タンクやドラムに入ったトルエンをホースで勢いよく流すとトルエン中に静電気が蓄積します。特に、トルエンの流速が大きいとき、容器が樹脂などの非導電性であるとき、アースを取っていないときは静電気による引火リスクが大きいです。

過去の災害事例でトルエンに関する静電気引火事故が多数報告されています。上記の静電気対策を行うとともに、窒素ガスを常に流して酸素を断つなどの対策が求められます。また、トルエンを取り扱う従業員への十分な教育やトルエンが勢いよく流れないようなホースを導入するなどの対策も重要です。

2. トルエンの有害性
トルエンの有害性

図3. トルエンの有害性

トルエンは毒劇法の劇物に該当しており、人体にも有害な化合物です。トルエンには生殖毒性や中枢神経系への毒性が高いことが知られており、何度もばく露されることによる有害性も確認されています。シンナー吸引による中毒がかつて社会問題になりましたが、この中毒の要因もトルエンによるものです。

トルエンは揮発性が高いため、意図的に吸引するつもりがなくとも換気性が悪い場所で使用すると中毒になる危険性があります。例えば、締め切った屋内で長時間トルエンを含む塗料などを使用しているとトルエン中毒になる可能性があります。中毒を避けるため、合成実験でトルエンを溶媒として使用する場合はドラフトを使用する、塗料やインクを使用するときは換気するなどの対策を徹底しなければなりません。

参考文献

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/108-88-3.html

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です