MMICとは
MMICとは、主にマイクロ波の増幅・スイッチング・ミキシングなどを行うための機能を一つの半導体基板上に集約した集積回路 (IC) のことです。
「Monolithic Microwave Integrated Circuit」の略称であり、モノリシックマイクロ波集積回路を指します。集積回路にはハイブリッド集積回路とモノリシック集積回路の2種類があり、必要な素子を一つの基板に集約することで機能をもたせたものをモノリシック集積回路といいます。
一方で、ハイブリッド集積回路は、モノリシック集積回路などを高密度に集約し、マザーボードやモジュール基板などの上で一つの集積回路にしたものです。
MMICの使用用途
MMICは、スマートフォンに代表される携帯端末や、センサーを活用したRFIDなどの通信、基地局向け送受信IC、衛星放送の受信機など、主にマイクロ波を通信に用いる用途に活用されています。従来のディスクリート部品を組み合わせて作るMIC (マイクロ波集積回路) と比べて、はんだ付け部分などが無いため故障発生の頻度が低いことが特徴です。
また、部品点数が少ないため、MMICを活用することで、小型化、軽量化、低コスト化に貢献します。
MMICの原理
MMICの原理は、マイクロ波の集積回路を構成する上で適した材料であるGaAsやSOIなどの半絶縁性半導体基板上に、受動素子であるインダクタやキャパシタを形成し、高周波損失を抑制した状態で、動作速度に優れる能動素子であるバイポーラトランジスタなどを用いてアナログ集積回路を作成する点にあります。
MMICにおいて、よく用いられる能動素子としては、MESFET,HEMT,HBT,MOSFETなどがあ挙げられます。GaAsやGaN、SOIといった、化合物半導体材料や絶縁性に優れた半導体基板より作成される場合が多いです。
半導体材料が異なれば電子の移動度やバンドギャップエネルギーが異なるため、動作周波数や耐圧などの要求される仕様に適した物性の半導体を選択すると、高出力や高周波に対応させることができます。受動素子を使用する目的は、主にインダクタ、キャパシタ、抵抗がマイクロ波の回路のインピーダンス整合をとることです。
インダクタは、高インピーダンス線路やスパイラルインダクタが多く使用されています。キャパシタは、誘電体・対向電極がサンドイッチのような構造をとったMIM構造や、櫛形電極を並べた構造を持つものなどがあります。
MMICのその他情報
1. マイクロ波用途向けMMICの事例
マイクロ波用途向けMMICの代表的な事例としては、GaAs基板上のMMIC、SOI-CMOSやSiGe基板でのMMIC等があげられます。スマートフォン上に用いられるセルラー向けの高周波パワーアンプやローノイズアンプ、WiFi通信用の高周波パワーアンプやアンテナ周辺の送受信の経路の切り替え用スイッチは、一般にGaAs基板上のMMICやSOI-CMOSのMMICが良く用いられています。
その理由は、基地局への数GHz帯のマイクロ波の電波の送信向けに数Wクラスの電力を増幅して、出力しなければならないために、高い増幅率と高い効率を兼ね備えたトランジスタが形成可能であることと、高周波向けの整合 (マッチング) 回路に用いられる容量やスパイラルインダクタもそれなりに高いQ値が確保できるGaAs基板やSOI基板上のMMICが適切であるためです。
また、トランジスタは、この分野ではHBT (Heterojunction Bipolar Transistor) がよく使われます。これはMOCVD成膜技術の活用により、比較的ばらつき制御がしやすく、かつHEMTデバイスのように負電源バイアスが必要でないためです。
2. ミリ波用途向けMMICの事例
MMICでないと構成が厳しいアプリケーションには、5Gの特にミリ波通信用途向けの事例や、衝突防止車載レーダー向けのミリ波用途などが分野として挙げられます。この場合のアクティブ素子は、周波数特性に優れたGaAsのHEMTデバイスやInP系のHBT、Si系の微細SOI-CMOSやSiGe HBTを用いるのが一般的です。
デバイスの特性を図る性能指標としてカットオフ周波数 (fT) や最大発振周波数 (fmax) がよく利用されますが、次世代通信規格であるBeyond5Gや6G向けのサブTHz領域などの場合は、この周波数を増幅可能な半導体デバイスは非常に限られます。例えば、D-band 140GHzを扱う半導体デバイスとしては fTは少なくとも倍以上の300GHz程度は必要です。
パッシブ素子も、ミリ波帯の場合、伝送損失が非常に大きくなるため、ディスクリート構成というよりはMMIC化で集積を図ることで、各々の回路ブロック間の伝送損失を可能な限り抑制する技術が欠かせません。ミリ波帯のアプリケーションでは、その電力を稼ぐために、ビームフォーミングというアンテナアレイ技術もMMICと組合せて用いられており、Beyond5Gや6G通信向けに研究開発が活性化している状況です。
参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep1985/2/3/2_3_10/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep1993/13/3/13_3_22/_pdf/-char/ja
https://sei.co.jp/technology/tr/bn173/pdf/sei10546.pdf
http://www.ieice-hbkb.org/files/10/10gun_07hen_01.pdf