キレート剤

キレート剤とは

キレート剤

キレート剤とは、様々な悪影響の原因となる金属イオンと錯体を形成し、活性を低下させるための薬剤です。

使用されるキレート剤には様々な種類が存在しますが、基本的にはアミノカルボン酸構造をベースに有しています。EDTAやDTPAなどが代表的ですが、結合する金属イオンの種類や水溶性が異なるため、用途により選択されています。

なお、アミノカルボン酸構造:とは、分子内にアミノ基 (-NH2) とカルボキシル基 (-COOH) の両方をもつ構造を指します。

キレート剤の使用用途

1. 工業用途

キレート剤は高い水溶性の付与や安定化作用があるため、溶液のバランス調製やイオン濃度調節に利用されます。他にも特定の金属のみと結合反応するキレート剤を使用することで、有価金属の回収や有害金属の分別廃棄にも応用できます。

2. 医療用途

鉄過剰症とは、何らかの原因で体内に鉄が過剰に蓄積し、疲労感や体の節々の痛みなど様々な症状が引き起こされる病気です。鉄は適量であれば良い働きをしますが、過剰に存在すると悪影響を及ぼします。

これを改善する薬として、鉄キレート剤があります。主な成分はデフェロキサミン、デフェラシロクスなどの有機分子です。鉄とキレート錯体をつくり、体外に排出する作用があります。このように、体内で過剰に存在する金属成分や放射性物質を排出し、適正なコントロールが可能です。

3. 家庭用用途

主に食器用洗剤や洗濯洗剤に添加されており、その洗浄性能を司る界面活性剤を金属イオンから守る役割を果たしています。

キレート剤の性質

最も代表的なキレート剤であるEDTAの場合、金属イオンとキレート剤が反応して生成した化合物はキレート錯体と呼ばれ、液中にて沈殿せずに可溶状態を維持します。EDTAは水溶液中で金属イオンと1:1の割合で配位結合することが知られています。

カニのハサミをイメージさせる立体構造で錯体を形成し、中に金属が挟み込まれる形で金属封鎖作用が発揮されます。金属封鎖作用とは、水中に含まれるカルシウムイオンや鉄イオンなどと他のイオンが結合するのを阻止する働きのことです。

例えば、洗濯用洗剤にはキレート剤が含まれていますが、これはマイナスの電荷を持つ界面活性剤と水道水中のカルシウムイオンや鉄イオンとの結合を阻止する狙いがあります。界面活性剤は洗浄成分なので、水中の金属イオンと結合すると洗浄能力が著しく低下します。そのため、金属イオンが界面活性剤と反応結合しないように、金属封鎖作用を持つキレート剤を加えています。

用途に応じてEDTAやDTPA、HEDTAなど豊富な種類のキレート剤が選択できます。種類によって配位結合する金属イオンの種類や性能などが異なるため、選定の際は注意と確認が必要です。

キレート剤の種類

食品に使用されるキレート剤は目的や用途に合わせて、種類が数多くあります。代表的なキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸クエン酸フィチン酸グルコン酸の4つです。

1. エチレンジアミン四酢酸 (EDTA)

エチレンジアミン四酢酸(EDTA)

酸化防止剤として、EDTA二ナトリウムとEDTAカルシウム二ナトリウムの2種が指定されています。酸化を促進する金属イオンを捕まえる働きをします。一部制約が設けられており、缶詰や瓶詰食品にしか使用できません。使用基準によっては、EDTA二ナトリウムを最終食品の完成前にEDTAカルシウム二ナトリウムにして不活性化する必要があります。

2. クエン酸

クエン酸

食品の風味向上用の酸味料として使用されています。レモンやオレンジなどの柑橘類の主成分として有名です。体内に入ったミネラルとキレート錯体を生成し、吸収しやすくする働きがあります。

3. グルコン酸

グルコン酸

食品の発酵状態を調整する働きがあり、味噌や塩の代替品として使用されてます。 それ以外にも、臭気のマスキング剤、pH調整剤、変色防止剤など幅広く活用可能です。 グルコン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトンなどの成分で添加されています。

4.フィチン酸

フィチン酸

変色防止剤や酸化防止剤などに活用され、米ぬかやナッツ類に多く含まれている物質です。カルシウム、鉄、亜鉛などのミネラルとキレート錯体を生成して保持します。含有量が多いとキレート作用が強くなりすぎるため、必須ミネラルの吸収を阻害する懸念があります。

キレート剤のその他情報

キレート剤の添加量計算方法

キレート剤がどのくらいの量の金属イオンと錯体を形成できるかを表す指標にキレート価 (chelation value,CV) があります。これは、キレート剤1gが何mgの炭酸カルシウムと配位結合できるかによって定義され、単位はmgCaCO3/gです。

EDTA・4Hの場合、CVは342mgCaCO3/gとなり、この値は次の計算で求めることができます。EDTAとカルシウムイオンは1:1で結合するので、1molのEDTA・4Hをカルシウムイオンで飽和させるには炭酸カルシウムも1mol必要となります。

従って、炭酸カルシウムの分子量は100、EDTA・4Hの分子量は292とした場合、炭酸カルシウム342mgとの結合のためにEDTA・4Hが1g必要です。このようにキレート剤がどのくらいの金属を封鎖できるかがわかれば、実際にキレート剤を使用する際の添加量目安を算出することができます。

参考文献
http://www.chelest.co.jp/products/chelete-faq/
https://www.kajitaku.com/column/dry-cleaning/3346
https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/an/product/1200319_6917.html
https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_no78.pdf
https://www.tama5ya.jp/product/1180
https://www.ffcr.or.jp/tsuuchi/1983/08/6BB374E0F2184E87492567D200267A90.html
https://www.kyoritsu-foods.co.jp/event/kuensan/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/6/99_1267/_pdf

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