グルコノデルタラクトン

グルコノデルタラクトンとは

グルコノデルタラクトン (英: gluconolactone) とは、化学式C6H10O6で表される天然の有機化合物です。

ハチミツに多く含まれているため、別名としてハチミツ酸があります。グルコノデルタラクトンは、ブドウ糖 (グルコース) の構造のうち1つのヒドロキシ基がケトンに置き換わった構造を有しており、甘味と酸味を持ちます。

グルコノデルタラクトンは、食品や化粧品の添加物として使用されています。

グルコノデルタラクトンの使用用途

グルコノデルタラクトンは人体に無害な天然のラクトンの1種であるため、膨張剤、凝固剤、pH調整剤、酸味料として食品に使用されています。グルコノデルタラクトン自身の有する甘味と酸味はそれほど強い風味ではないため、食品添加物として使いやすい化合物です。

1. 食品用膨張剤

膨張剤としては特に、重曹とグルコノデルタラクトンの組み合わせての使用が一般的です。ベーキングパウダーの一種として市販されています。ケーキやドーナッツ、パンなどの生地の中で、添加されたグルコノデルタラクトンと重曹はゆっくりと反応し、均一に気泡を作り生地を膨らませます。

従来の膨張剤としては、ミョウバン (硫酸アルミニウム) が一般的に用いられてきました。しかしミョウバンはアルミニウムを含むため、摂取量によっては健康を害する可能性がある食品添加物であり、さらに特有の苦味を有しています。

このミョウバンに比べ、苦味がなくアルミニウム不使用で安全であるという点がグルコノデルタラクトンを膨張剤として使用するメリットです。

2. 食品用凝固剤

食品用凝固剤もグルコノデルタラクトンの主要な用途です。グルコノデルタラクトンは水に溶けるとゆっくりグルコン酸に変化しpHを低下させる性質を持っており、例えばグルコノデルタラクトンを豆乳に加えるとゆっくりと豆乳のpHが下がります。

そして、豆乳のタンパク質が均一に凝固し豆腐になります。従来の豆腐用の凝固剤であるにがりに比べ、簡単に均一な凝固が可能であること、大量生産に対応できることがグルコノデルタラクトンの利点です。特に充填豆腐の大量生産にグルコノデルタラクトンは用いられています。

また、グルコノデルタラクトンはチーズ製造においても重要な添加剤です。牛乳にグルコノデルタラクトンを加えることで、牛乳のタンパク質を凝固させチーズを製造できます。豆腐の製造と同様、グルコノデルタラクトンからグルコン酸に変換される過程でゆっくりと溶液全体のpHが下がっていくため、均一に凝固させることが可能です。

3. pH調整剤

グルコノデルタラクトンのこの穏やかなpH調整能力は食品のpH調整のための添加材としても活用されています。主な用途は麺類や肉加工品、かまぼこなどの魚加工品のpH調整剤です。

4. 酸味料

グルコノデルタラクトンはジュースやジャム、シャーベットなどに酸味を加えるための酸味料としても使用されています。

5. 化粧品添加剤

グルコノデルタラクトンは金属イオンを捕捉するキレート効果を有しており、化粧品やシャンプー、洗顔料の安定剤として使用されています。また、グルコノデルタラクトンと他の多糖類を混ぜるとゲル状に固まる性質を利用し、顔用パックの添加材としても使用されています。

グルコノデルタラクトンの性質

化学式 C6H10O6
日本語名 グルコノデルタラクトン
英語名 gluconolactone
CAS番号 90-80-2
分子量 178.14g/mol

 

グルコノデルタラクトンは水に溶けやすく、アルコールにも可溶です。グルコノデルタラクトンを水に溶かすと、グルコン酸へと徐々に変化します。

グルコノデルタラクトンからグルコン酸への変換効率は加熱によって上昇します。

グルコノデルタラクトンのその他情報

1. グルコノデルタラクトンの別名

グルコノデルタラクトンの別名は、グルコノラクトンやGDLなどがあります。また、ハチミツに豊富に含まれる天然成分であるため、ハチミツ酸という別名もあります。

2. グルコノデルタラクトンの合成方法

グルコノデルタラクトンは、天然ではミツバチによって生体内で生成される化合物です。ミツバチの体内でグルコースから変換されてグルコノデルタラクトンが生成されます。

同様の反応を大量合成に用いたのが、発酵によるグルコノデルタラクトンの合成です。酵素を用いた発酵により、グルコースからグルコノデルタラクトンを効率的に合成することができます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0107-0515JGHEJP.pdf

グリセオフルビン

グリセオフルビンとは

グリセオフルビン (英: Griseofulvin) とは、白色の結晶性粉末です。

グリセオフルビンの化学式はC17H17ClO6で表され、分子量352.77、CAS登録番号は126-07-8の芳香族化合物の一種です。グリセオフルビンのIUPAC名は、(2S,6′R)-7-chloro-2′,4,6-trimethoxy-6′-methyl-3H,4′H-spiro[1-benzofuran-2,1′-cyclohex[2]ene]-3,4′-dioneです。

グリセオフルビンは、1939年にロンドン大学のオックスフォードらにより、ペニシリウム・グリセオフルバム (英: Penicillium griseofulvum) と呼ばれる土壌真菌の一種から発見されました。その後、1946年にブライアンらにより分離、1947年にグローブらによって同定されました。

グリセオフルビンの使用用途

グリセオフルビンは、抗真菌薬として使用されています。

グリセオフルビンの作用機序としては、グリセオフルビンが真菌の細胞骨格に作用して、細胞分裂を阻害することで、真菌の増殖を防ぐことによります。

グリセオフルビンは、日本でかつて経口薬として使用されてきました。しかし、頭痛やめまいなどの副作用が生じること、薬価が低いこと、また他の抗真菌薬が発売されたことなどが理由で、現在はグリセオフルビンは、日本国内では製造販売されていません。

グリセオフルビンの性質

グリセオフルビンの融点は218~222℃で、沸点は570℃、密度は1.4g/cm3です。グリセオフルビンは、エタノールアセトンベンゼンに溶けにくく、水にも溶けません。グリセオフルビンは、Penicillium griseofulvumの菌体やその培養液からクロロホルムで抽出することが出来ます。

グリセオフルビンと同様の抗真菌薬としての効果を示す新薬にはテルビナフィンがあり、グリセオフルビンに比べ短期間で効果を発揮することが知られています。一方で、一部の頭皮感染症に対してはテルビナフィンよりも優れた効果を示すこともあります。

グリセオフルビンを服用した時の副作用としては、アレルギー反応、吐き気、下痢、頭痛、睡眠障害、倦怠感などがあります。肝不全やポルフィリン症の人には推奨されません。妊娠中または妊娠前の数か月に服用すると、産まれてくる赤ちゃんに害を与える可能性があります。

グリセオフルビンのその他情報

1. グリセオフルビンの製造法

グリセオフルビンは、真菌ペニシリウム・グリセオフルバムを発酵させることによって、工業的に得られます。グリセオフルビンの生合成では、6炭素ポリβ-ケト鎖の合成に始まり、クライゼン縮合、アルドール縮合、環化芳香族化などを経てベンゾフェノン中間体を形成します。さらに、メチル化、ハロゲン化、フェノール酸化の後、ラジカルカップリングにより生成したテトラヒドロフラノン種をO-メチル化し、オレフィンの立体選択的還元することで、グリセオフルビンが得られます。

2. 法規情報

グリセオフルビンは、消防法、労働安全衛生法、労働基準法、毒物および劇物取締法などの主要な国内の法規制において、いずれも非該当です。ただし、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) においては、「新規指定化学物質 (第2種)」に指定されているため、注意が必要です。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 粉塵を吸い込まないよう、充分注意する。吸入などして気分が悪い時は、医師の診断、手当てを受ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/126-07-8.html

グアニン

グアニンとは

グアニン (英: Guanine) とは、白色粉末の複素環式化合物です。

IUPAC名は、2-アミノ-1,9-ジヒドロ-6H-プリン-6-オン (英: 2-Amino-1,7-dihydropurin-6-one) で、また別名として2-アミノヒポキサンチン (英: 2-Aminohypoxanthine) や2-アミノ-6-ヒドロキシプリン (英: 2-Amino-6-hydroxypurine) とも呼ばれます。

化学式はC5H5N5Oで表され、分子量は151.13、CAS登録番号は73-40-5です。

グアニンの使用用途

グアニンは、1844年に鳥類の排泄物から発見されました。名称の由来は、スペイン語のグアノで、鳥やコウモリの糞を意味します。また、サケ科やタチウオ、サンマ等の魚類の銀白色部位を構成する主要成分でもあります。

1. 核酸の構成塩基

グアニンは、核酸を構成する主な塩基の1つです。DNAの二重らせん構造中では、シトシンと3本の水素結合を介し、塩基対を形成しています。グアニンの6位のカルボニル基酸素が水素結合アクセプターとして、1位の窒素原子に結合する水素と2位の1級アミン上の水素が水素結合ドナーとして働きます。

また、2015年頃から、DNA中でグアニンが並び、高次構造をとるグアニン4重鎖 (G4) が注目されてきました。G4を安定化する化合物 (G4リガンド) は、がんを抑制する可能性が示唆され、抗がん剤などへの適用を模索する研究がなされています。

2. 化粧品

塗布すると、真珠のように虹色に光を反射することから、結晶性グアニンはシャンプーや、アイシャドウ、マニキュアなどのさまざまな製品への添加物として使用されてきました。

また、メタリック塗料や模造真珠にも使用されています。グアニン結晶は、複数の透明な層からなる菱形の板状結晶です。屈折率が高いため、層ごとに光を部分的に反射、透過させ、真珠のような光沢が発現します。

グアニンの性質

360 °Cで分解し、常温で固体です。水や有機溶媒にも溶けにくい性質を持ちますが、希薄な酸やアカリにはよく溶けます。酸解離定数 (pKa) はアミド部位が3.3、2級アミン部位が9.2、1級アミン部位が12.3です。

酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標の1つです。pKa が小さいほど、強い酸であることを示します。

グアニンのその他情報

1. グアニンの製造法

フィッシャー・トロプシュ法により、CO、H2、NH3の等モル混合ガスを700℃で15〜24分加熱した後に急冷し、アルミナ触媒下100〜200℃で16〜44時間再度加熱すると、グアニンとウラシルが得られます。

また、トラウベのプリン合成により、アミンで置換されたピリミジンである2,4,5-トリアミノ-1,6-ジヒドロ-6-オキシピリミジン (英: 2,4,5-triamino-1,6-dihydro-6-oxypyrimidine) をギ酸中で数時間加熱することによっても得られます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合
強酸化剤との接触を避けます。局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用することが大切です。使用の際は、個人用保護具を着用します。

火災の場合
グアニンは不燃性で、それ自体が燃えることはありません。ただし、熱分解で一酸化炭素や二酸化炭素、窒素酸化物などの刺激性のガスや蒸気を発生するおそれがあります。消火には水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、乾燥砂などを使用すると良いです。

皮膚に付着した場合
皮膚に付着しないよう注意が必要です。使用時は、必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用します。保護衣の袖は決して捲らず、皮膚が暴露しないようにするのがポイントです。万が一、皮膚に付着した場合は、石けんと大量の水で洗い流します。衣類に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱いで隔離します。症状が続く場合は、医師の診療を受けた方が無難です。

眼に入った場合
眼に対し強い刺激性を持ちます。重篤な損傷を起こす可能性があるので、使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルを着用します。

万が一眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗います。コンタクトを着用している場合で簡単に外せるときは外し、しっかり洗浄します。直ちに、医師の診察が必要です。

保管する場合
保管する際は、遮光性のガラス製容器に入れて密閉します。直射日光を避け、換気がよく、なるべく涼しい場所に保管することが大切です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0107-0109JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Guanine
https://www.jfcr.or.jp/chemotherapy/department/molecular_biotherapy/research/002.html

キサンチン

キサンチンとは

キサンチンの基本情報

図1. キサンチンの基本情報

キサンチンとは、化学式がC5H4N4O2の有機化合物で、分子量が152.11の無色または白色固体です。

ヒト体組織や尿、血液などの体液に含まれています。また、コーヒー豆や紅茶にも含まれていることが知られています。体内でプリン塩基 (英: purine base) から生じる物質です。その後、生成されたキサンチンは、キサンチンオキシダーゼ (英: xanthine dehydrogenase) により尿素に代謝されます。

キサンチンの使用用途

キサンチンの使用用途として、組織低酸素症のマーカーとして使用できる可能性が示唆されています。また、キサンチン誘導体の中には、薬として使用されている物質もあります。

最近の研究で、虚血性障害により体内のキサンチン濃度が上昇する結果が報告されました。そのため、キサンチン濃度を測定し、組織内で酸素が不足しているかどうかを判定できる可能性が示唆されています。

さらに、キサンチン誘導体として、テオブロミン (英: theobromine) やカフェイン (英: caffeine) などが存在します。具体的に、カフェインは、鎮痛剤、眠気除去薬、風邪薬の材料の一部として使用可能です。

キサンチンの性質

キサンチンの互変異性

図2. キサンチンの互変異性

キサンチンを熱すると、一部昇華します。融解せず300℃以上で分解します。水やエタノールには溶けません。鉱酸に可溶で、アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液にも溶解します。酸化酵素の作用によって、尿酸に変わります。

単離したキサンチンは、無色の粉末や微細な針状結晶です。キサンチンには7位の窒素に水素が結合した7H型以外にも、9H型の互変異性体が存在します。そして、ケト-エノール互変異性 (英: keto–enol tautomerism) も有しています。

キサンチンのその他情報

1. キサンチンの合成法

化学的な合成方法として、グアニン (英: guanine) の硫酸溶液に亜硝酸ナトリウムを作用させ、脱アミノ化させることにより、キサンチンは得られます。

生体内では、アデニン (英: adenine) やヒポキサンチン (英: hypoxanthine) の酸化によって、キサンチンが生成します。

2. キサンチンの誘導体の特徴

キサンチンの誘導体の構造

図3. キサンチンの誘導体の構造

キサンチンの誘導体は、キサンチン類とも呼ばれます。カフェインやテオブロミンのほか、テオフィリン (英: theophylline) やパラキサンチン (英: paraxanthine) などは、メチル化したキサンチンの誘導体です。メチル化されたキサンチン類は、ホスホジエステラーゼ (英: phosphodiesterase) の阻害薬やアデノシン (英: adenosine) のアンタゴニスト (英: antagonist) として作用します。

例えば、カフェインは、キサンチンの1番、3番、7番の窒素に、メチル基が結合した化合物です。そのため、1,3,7-トリメチルキサンチンとも呼ばれます。ヒトに対して興奮作用があるため、世界で最も広く使用されている精神刺激薬です。

その他、キサンチンを塩基として有する核酸も、まれに存在します。

3. 薬としてのキサンチンの誘導体

キサンチン類は、アルカロイド (英: alkaloid) の一群を占めています。穏和な興奮剤や気管支拡張剤として働き、気管支喘息の発作の際に対症薬として使用可能です。

その一方で、交感神経作用のアミンとしてアデノシンは、眠気を催す作用を強く阻害します。効果が生じる濃度範囲が広いだけでなく、治療域が狭いため、喘息の長期管理薬には他の薬が選択されやすいです。血中治療域は10-20µg/mLで、中毒症状には震え、いら立ち、吐き気、頻拍、不整脈などが見られます。

カルバゾール

カルバゾールとは

カルバゾールの基本情報

図1. カルバゾールの基本情報

カルバゾールとは、化学式がC12H9Nで表される複素環式化合物です。

ジベンゾピロール (英: dibenzopyrrole) とも呼ばれます。1872年にコールタール中から発見されました。また、原油にも含まれていることが知られています。カルバゾールの精製には、コールタールの分留で得られるアントラセン油を用います。このアントラセン油からカルバゾールを分離精製して得ることが可能です。

カルバゾールの使用用途

カルバゾールの使用用途は多岐に渡り、主なものとして、染料、プラスチックの合成原料、写真乾板、有機エレクトロルミネッセンスなどが挙げられます。カルバゾールには光導電性を有する誘導体が存在します。光導電性を活かして、複写機の感光ドラムに初めて利用されました。

また、カルバゾールを基本骨格とするカルバゾールアルカロイドも多数存在し、抗菌作用、抗酸化作用、抗腫瘍作用など様々な有用性を持つことが知られています。例えば、カルベジロール (英: Carvedilol) は降圧剤として、カルプロフェン (英: Carprofen) は動物用の抗炎症剤として、カルバゾマイシン (英: Carbazomycin) は農薬として使用可能です。

カルバゾールの性質

カルバゾールの融点は246.3°C、沸点は354.69°C、引火点は220°Cです。アセトンには溶けますが、水には溶けません。

カルバゾールの窒素原子は、電子を放出しやすいです。窒素からベンゼン環の対角線の方向に電子求引基を導入すると、分子が電気双極子を持ちます。

カルバゾールの構造

カルバゾールは窒素原子を持つ複素環式化合物であり、分子量が167.206の無色の結晶です。

ピロールの2,3-位と4,5-位にベンゼン環が1個ずつ縮合した構造を有しています。水素の位置の違いによって互変異性体が考えられますが、窒素上に水素を有する9H-カルバゾールのことを通常指します。

カルバゾールのその他情報

1. 古典的なカルバゾールの合成法

カルバゾールの合成

図2. カルバゾールの合成

ブヘラのカルバゾール合成 (英: Bucherer carbazole synthesis) は、古典的な合成法です。亜硫酸水素ナトリウムを用いて、アリールヒドラジン (英: arylhydrazine) とナフトール (英: naphthol) の反応によって、カルバゾール類が生成します。

2. ボルシェ・ドレクセル環化によるカルバゾールの合成

実験室でカルバゾールは、ボルシェ・ドレクセル環化 (英: Borsche–Drechsel cyclization) を用いて合成されています。

この反応では、まずフェニルヒドラジン (英: phenylhydrazine) とシクロヘキサノン (英: cyclohexanone) を縮合させることで、ヒドラゾン (英: hydrazone) を得ることが可能です。次に触媒に塩酸を使用した転位反応と閉環反応によって、テトラヒドロカルバゾール (英: tetrahydrocarbazole) を合成します。最後に四酸化三鉛 (Pb3O4) を使った酸化によって、カルバゾールが生成します。

3. グレーベ・ウルマン反応によるカルバゾールの合成

グレーベ・ウルマン反応 (英: Graebe–Ullmann reaction) によっても、カルバゾールを合成可能です。この反応では、まずN-フェニル-1,2-ジアミノベンゼン (英: N-phenyl-1,2-diaminobenzene) がジアゾニウム塩になった後、即座に1,2,3-トリアゾール (英: 1,2,3-triazole) に変換されます。1,2,3-トリアゾールは不安定であり、温度を上昇させると窒素が脱離して、カルバゾールが得られます。

4. カルバゾールの関連化合物

カルバゾールの関連化合物

図3. カルバゾールの関連化合物

カルバゾールの関連化合物として、ピロールやインドールがあります。ピロールは五員環構造を有する複素環式芳香族化合物のアミンであり、インドールはピロール環とベンゼン環が縮合した構造を持っています。

ウラシル

ウラシルとは

ウラシルとは、化学式C4H4N2O2で表せられる塩基で、リボ核酸 (RNA) を構成する4つの塩基のうちの1つです。

RNA中の塩基配列では、ウラシルはUで表されます。また、ウラシルは、分子量112.09で、無色の固体です。

アデニングアニンシトシンといった塩基は、DNAとRNAの両方に含まれますが、ウラシルはRNAのみに存在します。DNAの塩基配列をもとにRNAが合成される際に、DNA中のチミンの配置にウラシルが置き換わることで、DNAの塩基配列がRNAに転写されます。

ウラシルの使用用途

ウラシルは、RNAのピリミジン塩基の1つであり、RNAの構成要素として重要な役割を持ちます。RNAは、遺伝子情報の伝達やタンパク質の合成に必要な分子であり、ウラシルはDNAの塩基配列をもとにRNAが転写される際に使用されます。

また、ウラシルは抗がん剤や核酸医薬品の合成原料として医薬品分野で広く使用されている物質です。ウラシルの5位にフッ素を導入した物質は、抗がん剤フルオロウラシル (5-FU) として使われています。フルオロウラシルは、胃がん、肝がん、卵巣がんなど幅広いがん種に抗腫瘍効果をもたらします。

ウラシルの性質

ウラシルは、RNAの4つの核酸塩基のうちの1つです。白色の粉末状の有機化合物で、分子式C4H4N2O2を持ちます。ウラシルは水に微溶、アルコールに可溶です。

酸化やニトロ化、アルキル化などの反応を容易に起こします。フェノールと次亜塩素酸ナトリウムの存在下では、ウラシルは紫外線で可視化できることが知られています。RNAでは、ウラシルはアデニンと塩基対を形成し、DNA転写時にチミンと置き換えられます。チミンは、ウラシルのメチル化によって生成されます。

ウラシルはアデニンと塩基対を形成する際、水素結合受容体としても水素結合供与体としても機能します。

  • 化学式: C4H4N2O2
  • 分子量: 112.09g/mol
  • 外観: 白色の結晶性粉末
  • 融点: 335〜338℃
  • 沸点: 440℃

ウラシルの構造

ウラシルは、シトシンやチミンと同様に、ピリミジン環を持つ塩基です。リボース糖やリン酸に容易に付加され、リボヌクレオシドであるウリジンを形成します。

さらに、ウリジンがリン酸化されると、ウリジン一リン酸 (UMP) 、ウリジン二リン酸 (UDP) 、ウリジン三リン酸 (UTP) が生成されます。これらの分子はそれぞれ体内で生合成され、生命機能の維持に重要な役割を有しています。

ウラシルが無水ヒドラジンと反応すると、ウラシル環が開環することが OOいられています。このとき、反応のpHが10.5以上になると、ウラシルアニオンが形成され、反応がより遅くなります。

pHが低下した場合でも、ヒドラジンのプロトン化によって同様に反応は遅いです。ウラシルの反応性は、温度が変化しても変わりません。

ウラシルのその他情報

フルオロウラシルの作用機序

フルオロウラシルは、フッ化ピリミジン系の代謝拮抗剤で、抗がん剤として使用されます。古くからある薬剤で、後発医薬品も多数流通しています。

1990年代よりフルオロウラシルのプロドラッグ化などの改良を施し、より強い効果が期待される薬剤が開発されています。フルオロウラシルは、ウラシルの5位水素原子がフッ素原子に置き換わった構造をしています。

体内でリン酸化され、活性本体である5-フルオロデオキシウリジン-5’-一リン酸 (FdUMP) に代謝されます。このFdUMPがDNAに組み込まれることで、DNA合成が阻害され、がん細胞の増殖を抑制します。

また、FdUMPがチミジル酸シンターゼ (TS) 活性を阻害することにより、細胞内でのチミンの合成が阻害され、DNAが作れなくなるという作用機序も有しています。フルオロウラシルは体内で5-フルオロウリジン三リン酸 (FUTP) に代謝され、UTPの代わりにRNAに組み込まれることで、RNAプロセシングおよび、mRNA翻訳を妨げます。

イソプロピルアンチピリン

イソプロピルアンチピリンとは

イソプロピルアンチピリンは、分子量230.306で、化学式C14H18N2Oで表せられる化学物質です。イソプロピルアンチピリンは、別名でプロピフェナゾンとも呼ばれます。

イソプロピルアンチピリンの働きとしては、プロスタグランジンに対する合成阻害作用を有します。

炎症や痛みに関与する生理活性物質であるブラジキニンによる痛みの作用は、プロスタグランジンにより増強されることが知られています。イソプロピルアンチピリンは、このプロスタグランジンを阻害することで、ブラジキニンに対するプロスタグランジンの痛み増強作用を抑制します。

イソプロピルアンチピリンの使用用途

上記の通り、イソプロピルアンチピリンは、ブラジキニンに対するプロスタグランジンの増強作用を抑制するため、解熱鎮痛剤として使用されています。イソプロピルアンチピリンは、医療用医薬品として使用されるだけでなく、市販の風邪薬にも配合され、広く使用されています。

イソプロピルアンチピリンの副作用として、ショック、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症などが報告されています。そのため、イソプロピルアンチピリンは、いくつかの国では製造が禁止されています。日本では、重篤な副作用の発生件数は、医療用医薬品で年間1万人当たり0.03-0.3件となっています。このデータに基づき、イソプロピルアンチピリンによるリスクは高くはないと判断されています。

イソプロピルアンチピリンの性質

イソプロピルアンチピリンの融点は103℃~105℃、沸点は約372℃で、常温では固体です。イソプロピルアンチピリンは、水にはわずかにしか溶けませんが、酢酸には極めて溶けやすく(100%)、エタノール(96%)や塩化メチレンにも溶けやすいです。ただし、高温や強酸、強アルカリに対して不安定で、分解することがあります。

薬理学的な作用としては、プロスタグランジン合成を阻害することで、解熱・鎮痛・抗炎症作用を示します。また、血小板凝集抑制作用も持っています。プロスタグランジンは頭痛や生理痛の原因となる物質の一つです。

また、イソプロピルアンチピリンには解熱効果があります。体温調節中枢に作用して皮膚血管を拡張し、熱の放散を促します。

イソプロピルアンチピリンの構造

イソプロピルアンチピリンは、ピラゾロン骨格を持つ化合物で、イソプロピル基とベンゼン環を有しています。ピラゾロンは、五員環の構造を持つピラゾリンという化合物から、水素原子の一つがカルボニル基に置き換わったものを指します。ピラゾリンは、五員環の隣り合った二つの位置に窒素原子を持つ複素環式化合物です。

イソプロピル基はプロパン(CH3CH2CH3)の中央の炭素から水素を1個除去した形のアルキル基です。「イソプロピル」の「イソ」とは「アルキル基の末端に分岐がある」ことを意味しています。

ベンゼン環は、6個の炭素原子からなる環状構造です。ベンゼン環をもつ化合物を総称して芳香族化合物と呼びます。したがって、イソプロピルアンチピリンは芳香族化合物の一種です。

イソプロピルアンチピリンのその他情報

1.  イソプロピルアンチピリンの安全情報

イソプロピルアンチピリンのようにピラゾロン骨格を基本骨格とする解熱鎮痛薬は、ピリン系解熱鎮痛薬といわれています。ピリン系解熱鎮痛薬は、効き目も強く作用時間も長いのですが“ピリン疹”といわれる発疹や、浮腫、造血障害などの副作用があるため、注意が必要です。

イソプロピルアンチピリンの副作用として、ショック、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症などが報告されています。そのため、イソプロピルアンチピリンは、いくつかの国では製造が禁止されています。日本では、重篤な副作用の発生件数は、医療用医薬品で年間1万人当たり0.03-0.3件となっています。このデータに基づき、イソプロピルアンチピリンによるリスクは高くはないと判断されています。

イソプロピルアンチピリンが禁止されている国は、スリランカ、マレーシア、タイ、トルコなどです。日本をはじめイタリア、ドイツ、スペイン、南米、インド、パキスタン、インドネシア等では使用されています。

参考文献
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001le8l-att/2r9852000001len4.pdf

アントラセン

アントラセンとは

アントラセンの基本情報

図1. アントラセンの基本情報

アントラセン (anthracene) は、有機化合物の一種であり、ベンゼン環が3個縮合したアセン系多環芳香族炭化水素です。

分子式 C14H10、分子量178.23、融点218℃、沸点342℃であり、昇華性があります。常温では白色固体ですが、400–500nmにおいて紫の蛍光を発します。水に溶けにくく、水への溶解度は 0.00013g/100mL (20℃) です。エタノールトルエンにも難溶ですが、熱トルエンには溶解します。CAS登録番号は120-12-7です。

アントラセンの使用用途

アントラセンは、アリザリン・インダンスレンなどのアントラキノン系染料をはじめとする、各種合成染料の原料です。また、染料中間体として重要なアントラキノンやカーボンブラック、なめし剤などの原料にも用いられています。

カーボンブラックの製造方法は、アントラセンなどの芳香族成分を豊富に含んだクレオソート油やエチレン残渣油などの石炭系・石油系重質油を用いるものです。アントラセンには、他にも、塗料、防虫剤、木材の防腐剤、除草剤、植物成長調整剤、蛍光色素、などといった用途が挙げられます。そのほか、三重項の増感剤または消光剤などの用途もあります。

アントラセンの原理

アントラセンの原理を製造方法と化学反応の観点から解説します。

1. アントラセンの製造方法

アントラセンの主な合成方法

図2. アントラセンの主な合成方法

工業的には、石炭タールのアントラセン油留分から分離、精製することによって製造されています。また、実験室における主な合成方法は、アントラキノンの還元、塩化ベンジル2分子を塩化アルミニウムを触媒として縮合する反応、テトラブロモベンゼンとベンゼンの縮合反応などです。

2. アントラセンの化学反応

アントラセンの様々な反応

図3. アントラセンの様々な反応

アントラセンは、光反応性の化合物です。紫外光を当てると [4+4] 環化反応を起こして二量体が生成します。 この二量体は、加熱または300nm以下の波長の紫外線の照射によって、単量体へと戻すことが可能です。この可逆的な結合とフォトクロミックの性質が、アントラセンの特徴であり、様々な誘導体の応用の基礎となっています。

また、中央の環の反応性が高く、芳香族求電子置換反応は主に9,10位で起こります。容易に酸化され、酸化の生成物はアントラキノン (C14H8O2) です。還元によって9,10-ジヒドロアントラセンが生じます。また、一重項酸素とは、Diels-Alder反応によって、中央の環で[4+2]環化反応を起こします。

尚、ベンゼン環が折れ曲がって縮合した異性体であるフェナントレンの方が生成熱が大きいため、いわゆる安定な化合物であると言えます。

アントラセンの種類

アントラセンは、主に化学薬品・試薬として、販売されています。容量には、1g , 25g , 100g , 500gなどがあります。純度は、90% , 96% , 97% , 99%など、製品によって異なるため留意が必要です。室温保存可能な試薬であり、通常は常温試薬として販売されています。

重水素化誘導体である、アントラセンd-10も一部販売されています。これは、アントラセンの10個の水素をすべて重水素に置換したもので、重水素化合物のひとつです。GC-MS分析の内部標準として使用される用途が主流です。こちらに関しては冷蔵試薬として取り扱われることもあります。

アントラセンのその他情報

アントラセンの安全性

アントラセンは、皮膚に対する刺激があります。そのため、労働安全衛生法では「 健康障害防止指針公表物質」に、PRTR法では「第一種指定化学物質」に指定されている化合物です。

尚、 加熱や強酸化剤の影響下において分解し、刺激性で有毒なヒュームを生じるとともに火災や爆発の危険があるとされています。取り扱いの際は注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/120-12-7.html
https://www.env.go.jp/chemi/report/h18-12/pdf/chpt1/1-2-2-02.pdf
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/YOT00228

アミノピリン

アミノピリンとは

アミノピリンの基本情報

図1. アミノピリンの基本情報

アミノピリンとは、ピラゾロン (英: pyrazolone) 誘導体の一つで、無色または白色の結晶です。

別名、アミノフェナゾン (英: Aminophenazone) やアミドピリン (Amidopyrine) とも呼ばれます。13Cで標識されているアミノピリンを使用した呼気検査は、肝機能試験でシトクロムP450 (英: Cytochrome P450) の代謝活性の非観血的方法として用いられています。

アミノピリンの使用用途

アミノピリンは、ドイツのヘキスト社 (英: Hoechst) により解熱鎮痛剤として販売され、広く使用されていました。アミノピリンが作用する主な理由は、発熱や痛みを引き起こす生理活性物質であるプロスタグランジン (英: prostaglandin) の合成を阻害できるためです。また、視床下部に作用するため鎮痛作用を有します。

しかし、アミノピリンによって、無顆粒球症を引き起こすなどの強い副作用が報告されました。さらに、発がん性物質であることが示唆されたため、現在は解熱鎮痛剤として使用されなくなりました。

アミノピリンの性質

アミノピリンは、クロロホルムエタノールによく溶け、エーテルや水にも溶けます。融点は、107〜109℃です。わずかな苦味がありますが、においはありません。

光で変化します。還元性を有し、酸化剤が存在すると、青~紫色を呈します。また、ピラゾロン骨格を有しています。化学式はC13H17N3Oで表せます。分子量は231.29358です。

アミノピリンのその他情報

1. アミノピリンの合成法

アミノピリンの合成の歴史は、1884年にルートヴィヒ・クノール (英: Ludwig Knorr) によって、アンチピリン (英: antipyrine) 、塩酸亜硝酸ナトリウムから、4-アミノアンチピリンが合成されたことで始まりました。

その後、1896年から1897年にかけて、ヴィルヘルム・フィレーネ (英: Wilhelm Filehne) が、4-アミノアンチピリンからアミノピリンを創製しました。

2. アミノピリンによる効能の比較

アンチピリンと同じく、アミノピリンには解熱効果があります。その効力は、アンチピリンのおよそ3倍です。

鎮痛作用は、アンチピリンやイソプロピルアンチピリンより強いです。

3. アミノピリンの副作用

1922年に頸部疾患が発症し、原因が無顆粒球症だと報告されました。アミノピリンが原因の血球減少は、因果関係が認められていましたが、その後も広く一般的に使われました。無顆粒球症の発生率は、日本人の場合は非常に稀です。ただし発生した場合の死亡率は、20〜50%です。

アミノピリンによって、消化管内でニトロソ化反応が起こります。この反応が発癌に繋がる可能性が指摘されたため、使用を禁止する国が増えました。1977年に日本でも経口での利用が禁止され、1979年に日本薬局方から削除されました。現在では一部の動物用医薬品としてのみ、注射剤が用いられています。

4. アミノピリンの薬物動態学

ルバゾン酸の構造

図2. ルバゾン酸の構造

グルクロン酸抱合によって、体内でアミノピリンは尿素と結合して、ルバゾン酸 (英: Rubazonic acid) などに変わって、尿中に排泄されます。このとき尿は赤色を呈します。

5. アミノピリンの関連化合物

ピラゾロンの構造

図3. ピラゾロンの構造

アミノピリンは、ピラゾロン誘導体です。ピラゾロンとは、カルボニル基を持っており、複素環式化合物に分類される5員環のラクタムです。ピラゾリン (英: pyrazoline) の1個の水素基がカルボニル基に変換された構造であり、3-ピラゾロンや5-ピラゾロンが存在します。

アンチピリンやイソプロピルアンチピリンも、ピラゾロン誘導体です。

銅ハンマー

銅ハンマーとは

銅ハンマーはその名の通り、素材に非常に柔らかい金属であるを使用しています。金属部分を叩く時に、ベース素材に打撃傷をつけたくない場合に用いられます。

ヘッドの硬さは、一般的な材質の中では鋼鉄が最も硬く、次いで軟鉄で、アルミ、真鍮、銅の順に柔らかくなります。さらに柔らかい材質として鉛、プラスチックと続きます。
打撃傷を避けるために柔らかい材質のものとして、プラスチックハンマーを選びがちですが、釘などの打撃には力が足りません。

また、銅素材のヘッドのため、強く打ち込んだとしても、火花が出ない特性があります。可燃性ガスの存在が近くにある現場でも、安心して使えます。防爆ハンマーとは可燃性液体を扱う作業現場において安全に使用できるようデザインされた防爆仕様のハンマーのことです。

銅ハンマーの使用用途

銅製の特性である柔らかさを活かして、外観の整形に多用されます。また、材質が弱く、打撃にデリケートな物を扱う場合にも適しています。「石材」や「コンクリート」などの表面形状の補修に該当します。

また、叩きながら押し込めるため、「金型製造の仕上げ」や「整形」「修理修正」などにも重宝されています。例えば、車体のボディ部分、ドライブシャフト周辺の作業もそのひとつです。特に繊細な造りのスピンドルナットなどのネジ部を傷めないように、銅ハンマーが頻用されています。

打撃により火花が出ない特性から、可燃性のガスの漏洩の可能性のある化学工場や火力発電所の現場で効果を発揮します。ガス配管そのものや配管が入り組んだ場がその一例です。また、粉塵も発火の可能性があるため、細かい粒子が滞留する様な場所での作業に適しています。

銅ハンマーは、非磁性体で構成されているため、強い磁場が発生している装置などには、鉄やステンレスではなく銅製の工具が頻用されます。

銅板を叩くときは銅ハンマーを使うことにより銅板が変質しにくい良さがあります。他の材質は、錆などの劣化を誘発する恐れがあります。

銅ハンマーの選び方

  • ヘッド材質
    一般的な材質は、鋳造銅で構成されるハンマーヘッドで、安価です。
    一方で、現場作業や頻度の高い使用になる場合は、耐久性が増強された伸銅品が適切です。伸銅性ハンマーは、鋳造銅ハンマーより約3倍も強力です。そのため、多少のことでは、変形しにくく長く使用できます。
    さらに、ヘッドの内部を鉄製としているタイプもあり、逆に全て銅で作られているハンマーを全銅タイプといいます。部分的に鉄を用いたハンマーは、打撃性が向上しています。
    また、銅だけでは弱すぎる場合には、ヘッドの片方が別の材質で構成された、コンビハンマーも市販されています。銅よりも硬い素材を選ぶことも、さらに弱い素材を選ぶことも可能です。
  • ヘッドの交換
    銅ハンマーは、比較的柔らかい材質のため、凹みや欠けといった変形を伴い易い工具です。そこで、使用頻度が高い場合や強度の高い材質に対して打ち込むことが多い場合は、ハンマーヘッドを交換できるタイプが維持費を低く抑えることができます。