プロパンジオール

プロパンジオールとは

プロパンジオールとは、2種類の構造異性体が存在するプロパンの二価アルコールです。

1つ目の構造異性体は1,2-プロパンジオール (英: propylene glycol) で、モル質量は76.1g/mol、融点は-59℃、沸点は188℃、CAS番号は57-55-6です。プロピレングリコールとも呼ばれ、常温では無味、無色、無臭で吸湿性のある液体です。水、アセトンクロロホルムなどの極性溶媒にはよく溶ける性質があります。人間の皮膚や眼に対しては軽度の刺激性を持ちますが、低用量では慢性的な毒性は見られないとされています。

2つ目は1,3-プロパンジオール (英: 1,3-propane diol) で、モル質量は76.1g/mol、融点は-27℃、沸点は211-217℃です。別名トリメチレングリコールやPODともよばれ、常温では無色の液体です。水、アルコールには完全に混和し、エーテルにもよく溶ける性質を持ちます。人体に対する刺激性が低く、安全性が高い物質です。

プロパンジオールの性質

プロパンジオールの性質は、下記のように種類によって異なります。

1. 1,2-プロパンジオール

1,2-プロパンジオールは、プロパンの1位と3位の炭素にヒドロキシ基が結合した構造です。中央の炭素はキラル炭素となっているため、鏡像異性体が存在します。工業的には、主に酸化プロピレンの加水分解によって合成されてきました。別の合成法として、1,2-ジクロロプロパンを炭酸水素ナトリウム水溶液で処理することによっても合成することができます。

2. 1,3-プロパンジオール

1,3-プロパンジオールは、プロパンの1位と3位の炭素にヒドロキシ基が結合した構造です。化学的には、有機化合物を強力な還元剤や水素で還元したり、アクロレインの水和を行うことによって製造することができます。

しかし、近年ではグリセリンやグルコースを微生物に還元させて合成させる手法が工業化されており、利用されるようになりました。グリセリンは植物や動物の油脂から得ることができる物質なので、この合成法で得られる1,3-プロパンジオールは天然物由来であるといえます。

この方法では、副生成物として乳酸酢酸、2,3-ブタンジオールなども生成することがあり、これらの副生成物を以下に有効活用するかが重要となります。有効活用できる場合は発行を用いた合成法が最もコストが低くなり、さらに環境にも優しい合成法です。

プロパンジオールの使用用途

プロパンジオールの使用用途は種類ごとに下記の通りです。

1. 1,2-プロパンジオール

水よりも低い融点、高い沸点を生かして、溶剤や不凍液、熱媒や冷媒として利用されています。また、生物への毒性が低いことを利用して保湿剤、潤滑剤、防カビ剤などの食品添加物としても利用されます。

医薬品としては、駐車剤や内服薬、外用薬の溶解補助剤として調剤に用いられることがあります。工業的には、樹脂を合成する際の中間原料としても用いられてきました。また、有機化学においては、ピナコール転移を利用したケトンの合成に用いられます。

2. 1,3-プロパンジオール

酸触媒の存在下でカルボニル化合物と反応させることによって、6員環のアセタールを合成することができます。アセタール構造に変換することでカルボニル炭素の反応性を抑えることができるため、カルボニル炭素の保護基として用いられています。エチレングリコールを使用することで5員環のアセタールを合成することもでき、保護基の使い分けが可能になります。

また、肌や眼への刺激が非常に小さく、保湿性と抗菌性をあわせもっていることから、化粧品やヘアケア製品、ボディ、ハンドケア製品、保湿剤、感触改良剤に配合されることもあります。近年ではこの物質は植物油由来のグリセリンから作られているため、天然物由来の化粧品として非常に人気があります。工業的には溶媒や接着剤に用いられたり、ポリエステルの原料としても使用されることが多いです。

プロパンジオールのその他情報

法規情報

プロパンジオールは燃えやすく、消防法において危険物第4類、第3石油類に分類されています。引火点は99℃なので常温で引火することはないですが、火気の近くでの取扱は厳禁です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/96-24-2.html

フルオレン

フルオレンとは

フルオレンの基本情報

図1. フルオレンの基本情報

フルオレンとは、芳香族炭化水素の一つで、光沢がある無色の板状結晶です。

コールタールの蒸留により分離して得られ、水に溶けませんが、エーテル・ベンゼン等に溶けるといった性質をもちます。通常、不純物を含むフルオレンは、蛍光を発する性質があります。特に、アルコール溶液は、弱い紫色の蛍光を発することが特徴です。

また、酸化することでフルオレノンが得られます。フルオレノンは染料製造の中間体として用いられ、化学構造において9位のメチレン基は反応性が高いことが特徴です。メチレン基は塩基の存在下で、アルデヒドやカルボン酸エステルと反応し、エチリデン誘導体やケトン誘導体を生成します。

フルオレンの使用用途

フルオレンは各種薬品合成の原料となる他、有機ELデバイス (有機電子デバイス) において、発光層や電荷輸送層として使用されます。またフルオレノンの製造原料として使用されています。

フルオレノンは、「電子写真感光体」「機能性樹脂」「有機中間体」などの原料として利用されている化合物です。各種誘導体は、「感光体」「光機能材料」「機能性樹脂」「有機中間体」「有機EL」といった分野で注目されています。

樹脂に導入することで、高屈折率と低複屈折が両立できる効果や、耐熱性を高める効果など、類を見ない樹脂特性が得られます。そのため、「液晶ディスプレイ」「携帯用カメラレンズ」「半導体関連材料」などとして幅広く使用されています。

蛍光色素や染料の原料としても使われ、特に緑色から黄色の蛍光を発するフルオレセインという染料は、生化学的分析などで広く使われています。またフタル酸や酢酸エステル、アミンなどの芳香族化合物の合成に利用されるなど有機合成反応の試薬としても使用されます。その他、燃料添加剤としても使われることも知られており、燃料中の硫黄化合物を除去する効果から、環境保護のための燃料添加剤として利用されます。

フルオレンの性質

フルオレンは無色透明の固体で、融点は116〜118℃、沸点は295℃、密度は1.17 g/cm3 (20℃) です。水に対する溶解度は0.005 g/100mLで、健康被害の報告はないものの吸入すると呼吸器刺激、頭痛、めまいなどの症状が現れることがあります。

1. 物理的性質

無色透明の結晶性固体であり、芳香性があります。水には溶けにくく、アルコールやベンゼン、トルエンなどの有機溶媒には良く溶けます。水との界面活性は低く、界面活性剤としてはあまり適していません。

2. 化学的性質

フルオレンは芳香族炭化水素であり、ベンゼン環に比べて反応性が高く、有機合成反応に利用されます。フルオレンは芳香族性を持ち、ベンゼン環同士がπ結合で結合しているため、共役系を持ちます。光によって励起されると、独自の蛍光を発します。そのため、蛍光染料の原料や発光材料として利用されます。

化学的に安定で、光や空気に対しても安定しており、強い芳香性と独特の香りがあります。高い融点と沸点を持ち、熱にも強く、有機溶媒には溶解する性質を持っており、光を吸収する性質があることから、発光性があるとされています。

フルオレンのその他情報

1. フルオレンの合成

フルオレンの合成法は多く存在しますが、代表的なものは下記の通りです。

ディールス・アルダー反応
ディールス・アルダー反応は、ジエンとエノンが反応してシクロヘキサジエンを生成する反応です。この反応を用いることで、シクロヘキサジエンを開環することでフルオレンを得ることができます。

フリーデル・クラフツ反応
フリーデル・クラフツ反応は、芳香族化合物の合成に広く用いられています。この反応を用いることで、ベンゼン環にアルミニウム塩化物などのルイス酸を用いてアシル化した後、脱水素反応によってフルオレンを得ることができます。

シクロアディション
シクロアディションは、二重結合を持つ化合物同士が反応して環状化合物を生成する反応です。この反応を用いることで、フルオレンの前駆体であるジフェニルブテンを生成し、さらに酸化反応を行うことでフルオレンを得ることができます。

熱分解
ジハロビフェニルを原料としたフルオレンの合成

図2. ジハロビフェニルを原料としたフルオレンの合成

芳香族炭化水素を高温で熱分解することでフルオレンを生成することができます。この方法は比較的簡単で、フルオレンを大量に合成することができますが、生成物に不純物が多く含まれることがあるため、精製が必要となります。

またジヨードビフェニル等のジハロビフェニルを原料としたパラジウム触媒存在下でのクロスカップリング反応によってフルオレン誘導体が合成できます。

2. フルオレン誘導体合成の反応機構

フルオレン誘導体のクロスカップリング・環化反応機構

図3. フルオレン誘導体のクロスカップリング・環化反応機構

フルオレン誘導体は以下に示す反応機構によって形成されます。

0価のPdが酸化され2価のPdへと変化しながら付加する酸化的付加が起こり、銅アセチリドとの金属交換反応でアセチレンが結合した後、2価のPdが0価へと還元されながら脱離する還元的脱離するクロスカップリング反応を2回繰り返すことで環化反応が進行します。

ピリジン

ピリジンとは

ピリジンとは、ベンゼンの炭素原子を窒素で置換した構造をもつ複素環式化合物のひとつです。

他にも「アザベンゼン」とも呼ばれています。

ピリジンの使用用途

ピリジンの主な使用用途には以下の例があります。

1. 求核剤

ピリジンの窒素原子には孤立電子対が存在するため、ピリジンは弱塩基性を示します。そのためピリジンは溶媒としてだけではなく求核剤としても利用することが可能です。

例として、無水酢酸を用いたアルコールのアセチル化が挙げられます。溶剤としてピリジンを用いることで、ピリジンが無水酢酸のカルボキシ基に求核攻撃します。その結果、酢酸イオンが脱離するとともに、求電子活性種であるN-アセチルピリジニウムイオンが発生します。これにより、アルコールの求核攻撃が促進され、円滑にアセチル化が進行します。

2. 医薬品原料

ピリジンは医薬品原料にも用いられます。例えば抗菌剤であるジンクピリチオンの原料として利用されており、塗料やシャンプーなどに混ぜ合わせることで防汚剤や殺菌剤として機能します。

他にも、鎮痛剤や無水金属塩の溶剤・反応媒介剤、医薬品原料、界面活性剤、飼料添加剤の原料、合成ゴムの加硫促進剤の原料などとして使われています。

ピリジンのその他情報

1. ピリジンの特徴

ピリジンは無色透明な液体で、揮発性が高く特異臭があり吸湿性が強いです。水だけでなくアルコール、エーテル、ベンゼンなどの有機溶剤にも溶けます。

消防法では第4類第1石油類水溶性液体、PRTR法では第1種指定化学物質に該当します。保存の際は、遮光した容器で冷所かつ通気性が良い場所で保管するようにして下さい。

水生生物に非常に強い毒性があります。加水分解性を受ける結合がないため、一度自然界に排出されるとほとんど分解されず水中に蓄積してしまいます。廃棄する際は中和処理ののち地方自治体の指示に従ってください。

ピリジンは、人体に対しては皮膚や消化管、肺など様々な経路から吸収されますが、体内組織への蓄積は比較的起こりにくく、未反応の状態または代謝物として排泄されやすいです。ただし許容濃度をはるかに超えて曝露すると、中枢神経を抑制して皮膚および気管を刺激します意識の低下を引き起こすことがあるので、取り扱いには十分注意が必要です。

2. ピリジンの合成法

ピリジンは沸点が115℃と高く、減圧除去することが困難な溶媒です。そのためピリジンを除去したい場合は、トルエンと混ぜて共沸させたり希塩酸を用いて分液することで水層に移したりするのがおすすめです。

ピリジンの合成法のひとつとして、「Hantzsch (ハンチュ) のピリジン合成法」が挙げられます。これは、2分子のβ-ケトエステルと1分子のアルデヒドに対してアンモニアを作用させると得られるジヒドロピリジンを、硝酸によって酸化することでピリジンに誘導する合成法です。この方法を用いると、多置換ピリジン誘導体も合成することができます。

3. ピリジンの反応性

ピリジンはベンゼン同様に共鳴が起こり芳香族性をもつことが知られています。ただし、窒素の電子陰性度が炭素よりも大きいため、ピリジンの芳香環上のπ電子密度はベンゼンよりも小さくなります。そのためピリジンはベンゼンと比較して芳香族求電子置換反応を起こしにくい一方で、芳香族求核置換反応を起こしやすいという性質があります。

芳香族求電子置換反応を起こす場合は厳しい反応条件が必要となります。例えば、ピリジンの水素原子をニトロ基に置換する場合は、濃硝酸と発煙硫酸を加え、300℃で反応させる必要があります。その際は、3位の炭素上で選択的に反応が進行します。

硫酸硝酸などの強酸化性物質と反応し、火災や爆発を起こすことがあります。また熱分解によって、有害な一酸化炭素二酸化炭素、窒素酸化物、シアン化物を生成します。過去には災害の事例もあるため、作業者および監督者は中毒、火事、環境のリスクを把握したのちに使用することが推奨されます。

参考文献

https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento147_09_sanko_01_02.pdf
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/prtr/2.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0178.html

ピペリジン

ピペリジンとは

ピペリジンの基本情報

図1. ピペリジンの基本情報

ピペリジン (Piperidine) とは、複素環式アミンに分類される有機化合物です。

化学式はC5H11Nで表され、6員環構造をもちます。CAS登録番号は、110-89-4です。分子量85.15、融点-7℃、沸点106℃であり、常温では無色の液体です。密度は0.8606g/cm3 (20℃) 、特有のアミン臭を持ちます。

別名には、「ヘキサヒドロピリジン」「ペンタメチレンイミン」「アザシクロヘキサン」「シクロペンチミン」などがあります。水とは混和し、アルコール、エーテル、ベンゼンクロロホルムにも可溶です。

ピペリジンの使用用途

ペプチド固相合成法とピペリジン

図2. ペプチド固相合成法とピペリジン

ピペリジンの主な用途は、ゴムの加硫促進剤や溶剤、エポキシ樹脂の硬化剤などです。非常に単純な分子構造を持つため、様々な医薬品の部分構造になっています。代表的なものとして、モルヒネ、ピチジン、フェンタニルが挙げられます。

また、実験室におけるピペリジンの重要な用途の一つが、ペプチド固相合成における脱保護反応です。ペプチド固相合成法は、化学的にペプチドを合成する際に一般的に用いられる方法です。この合成方法では、表面をアミノ基で修飾した高分子ゲルのビーズなどを固相として用い、脱水縮合反応によって1つずつアミノ酸鎖を伸長していきます。

伸長させるアミノ酸同士が自己縮合するのを防ぐため、反応点以外の官能基が保護基によって保護されたアミノ酸を用います。つまり、アミノ酸の縮合による伸長と、脱保護を交互に繰り返す合成の流れです。

ペプチド固相合成法のうち、Fmoc合成法では、N端の保護基として9-フルオレニルメトキシ基 (Fmoc基) を用います。このFmoc基の除去に、2級アミンであるピペリジンが用いられています。

ピペリジンの原理

ピペリジンの化学反応

図3. ピペリジンの化学反応

1. ピペリジンの製造方法

ピペリジンは、工業的にはピリジンの還元によって製造されます。代表的なものは、硫化モリブデン (IV) 触媒を用いた、水素化反応です。

また、エタノール、金属ナトリウム、液体アンモニアを用いた、Birch還元によってもピリジンをピペリジンに還元することができます。

2. ピペリジンの化学反応

ピペリジンは、ケトンをエナミンに変換する反応に広く使用されています。生成するエナミンの代表的な利用方法として、Storkエナミン反応があります。

この反応は、生成したエナミンをアルキルハライド、アシルハライド、Michealアクセプターなどの求電子剤と反応させることにより、α置換を行うものです。置換基の挿入後、加水分解を行うことにより、エナミンを再びケトンへと変換することができます。また、有機合成化学では、溶媒や塩基として広く使用されています。

3. ピペリジンの性質

ピペリジンは、引火性の高い液体です。蒸気は空気より重いため、遠距離発火することもあります。燃焼すると分解し、分解生成物は窒素酸化物などの有毒ガスを発します。そのため、消防法においては、第4類引火性液体、第一石油類水溶性液体に指定されている化合物です。

人体に対しては有毒で、特に目、皮膚、気道に対して腐食性を示します。高濃度の蒸気を吸入すると肺水腫を起こすことがあります。

ピペリジンの種類

ピペリジンは、主に研究・開発用試薬として販売されています。通常、ガラス瓶で販売され、25mL , 100mL , 500mLなどの種類があります。

常温保存可能な試薬として取り扱われますが、人体への有害性があり、また引火性も高い液体です。取り扱いの際は注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/110-89-4.html
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/BNT00189
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907013648227781
https://www.chemicoco.env.go.jp/detail.php?chem_id=1510&lw=4
http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/aegl/agj/ag_piperdine.pdf

ピペラジン

ピペラジンとは

ピペラジンの基本情報

図1. ピペラジンの基本情報

ピペラジンとは、化学式がC4H10N2で、分子量が86.14の複素環式アミンです。

複素環式アミンとは、環の中に2種類の異なる元素を含んだ環式アミンを指します。ピペラジンは密栓後に遮光して保存する必要があります。一般的に、六水和物のC4H10N2・6H2Oとして入手可能です。

ピペラジンの塩として、クエン酸塩 (3C4H10N2・2C6H8O7) やアジピン酸塩 (C4H10N2・C6H10O4) が挙げられます。

ピペラジンの使用用途

ピペラジンのクエン酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩は、蟯虫や回虫などに対する動物用寄生虫駆除剤として使用されています。寄生虫駆除剤として効果を発揮する作用機序は、次のメカニズムです。

まず、γ-アミノ酪酸 (GABA) 様物質として、GABA受容体に作用します。寄生虫の体性筋細胞に存在するGABA受容体に作用して、神経筋伝達の障害を起こします。蟯虫や回虫を可逆的に麻痺させ、寄生虫を排便とともに体外へ排出可能です。

ピペラジンの性質

ピペラジンは無色葉状晶で、水やエチレングリコールに溶けます。ピペラジンの水溶液は強塩基性を示し、pKaは9.8です。10%の水溶液のpHは10.8〜11.8です。空気中の湿気や二酸化炭素を吸収します。ピペラジンはジエチルエーテルに溶けません。

なお、ピペラジンの融点は104°C、沸点は145〜146°Cです。引火点は65°C、発火点は320°Cです。シクロヘキサン (英: Cyclohexane) のメチレン基2つをNHで置換した構造を持っています。また、ピペラジンのような6員環のことを、ピペラジン環と呼びます。

ピペラジンのその他情報

1. ピペラジンの合成法

ピペラジンは、ピラジン (英: Pyrazine) をナトリウムとアルコールで還元すると得られます。また、水酸化ナトリウムを用いて、1,2-ジクロロエタン (英: 1,2-Dichloroethane) とアンモニアの反応で生成します。さらに、エチレングリコールと1,2-ジアミノエタン (英: 1,2-Diaminoethane) の脱水縮合でも合成可能です。

2. ピペラジンの反応

ピペラジンの反応

図2. ピペラジンの反応

ピペラジンの持つアミノ基は、容易に二酸化炭素と反応します。ピペラジンと二酸化炭素の比率によって、ピペラジンカルバメート (英: Piperazine carbamate) やピペラジンビカルバメート (英: Piperazine bicarbamate) が生じます。溶媒中に遊離しているピペラジンは限られているため、揮発性は低く、ピペラジン六水和物が沈殿する速度は低いです。

3. ピペラジンによる二酸化炭素の回収

ピペラジンなどのアミン混合物は、商業的な二酸化炭素の除去 (英: Carbon capture and storage) に広く使用されています。 ピペラジンの熱分解率は低く、メチルジエタノールアミン (英: Methyl diethanolamine) の酸化分解からも保護します。メチルジエタノールアミンピペラジンとピペラジンの組み合わせは、メチルジエタノールアミンピペラジンと他のアミンの混合溶媒よりも安定性が高いです。そして、二酸化炭素を捕捉するための容量が大きく、必要な作業も少なくなります。

4. ピペラジン環を含む医薬品

ピペラジン環を含む医薬品

図3. ピペラジン環を含む医薬品

現在注目されている数多くの医薬品の分子構造に、ピペラジン環が含まれています。医薬品の具体例は、フェニルピペラジン、ベンジルピペラジン、ジフェニルメチルピペラジン、ピリジニルピペラジン、ピリミジニルピペラジンなどです。それ以外にも、ピペラジン環が側鎖を介して複素環部分に結合している三環式化合物 (英: Tricyclic compound) もあります。

パパベリン

パパベリンとは

パパベリン (英: Papaverine) とは、アヘンアルカロイドの1種です。

IUPAC名は1- [ (3,4-ジメトキシフェニル) メチル] -6,7-ジメトキシ-イソキノリン (英: 1- [ (3,4-dimethoxyphenyl) methyl] -6,7-dimethoxyisoquinoline) です。別名として、6,7-ジメトキシ-1- (3,4-ジメトキシベンジル) イソキノリン (英: 6,7-Dimethoxy-1- (3,4-dimethoxybezyl) isoquinolien) やRobaxapapとも呼ばれます。

パパベリンの使用用途

パパベリンは、医薬品に使用され、アヘン中に0.8〜1%存在します。同じくアヘンから抽出されるモルヒネと比べ、中枢への作用や麻酔効果は弱いです。中枢作用の代わりに、パパベリン塩酸塩は、内臓平滑筋や血管平滑筋を弛緩させる作用を持ちます。

内臓を動かしている平滑筋の異常性緊張や痙れんを抑制させるため、消化管の緊張による腹痛を緩和することが可能です。具体的には、胃炎や胆管・胆のう系の疾患に伴う内臓平滑筋の痙攣に用いられます。

また、血管平滑筋の弛緩により、血行を促進することも可能です。具体的には、急性動脈塞栓や急性肺塞栓、冠循環障害、末梢循環障害による血管の拡張および、上記症状の改善に使用されます。

パパベリンの性質

化学式はC20H21NO4で表され、分子量は339.39です。CAS番号は58-74-2で登録されています。パパベリンは融点147°C、常温で白色結晶性、密度1.337g/ml (20℃) の固体です。

光や湿気に不安定な性質を持ちます。アルコールやエーテル、アセトン、ベンゼン、ピリジンなどに溶けます。クロロホルムや石油エーテルへの溶解度は低く、水へは17 °Cで35mg/Lとほとんど溶けません。

酸性・アルカリ性の程度を表すpHは2.0〜2.8、酸解離定数 (pKa) は8.07 (25 °C) です。酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標の1つです。pKa が小さいほど強い酸であることを示します。

パパベリンの種類

パパベリンは、通常塩酸塩 (cas登録番号: 61-25-6) として販売されています。パパベリン塩酸塩は、化学式C20H22ClNO4で表される分子量375.85の白色結晶または結晶性粉末です。

融点は、220〜225℃で、アルコールやクロロホルムに溶け、水へは25mg/mlの溶解性を持ちます。

パパベリンのその他情報

1. パパベリンの製造法

パパベリンの生成法は、アヘンから単離する方法と化学合成による方法の2種類です。現在は、化学合成により得る方法が主流です。

フェネチルアミンとアシルクロライドのショッテン・バウマン反応 (英: Schotten-Baumann Reaction) によりアミドを合成した後、五酸化リンを用いたビシュラー・ナピエラルスキー反応 (英: Bischler-Napieralski Reaction) と呼ばれる環化反応により3,4-ジヒドロイソキノリンを得ます。続いて温和な条件下、脱水素反応によりパパベリンが合成できます。

2.パパベリンの副作用

便秘やめまい、ほてり、口の渇き、動悸などが報告されています。重篤な副作用は特になく、安全性の高い薬として知られています。

眼圧上昇を引き起こす恐れがあるため、緑内障患者への使用には注意してください。

3. パパベリンの法規情報

パパベリンは、以下の国内法令に指定されています。

  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則
    毒物類・毒物 (危規則第3条危険物告示別表第1)
  • 航空法
    毒物類・毒物 (施行規則第194条危険物告示別表第1)

4. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
強酸化剤は、混触禁止物質に指定されています。取り扱い時および保管時の接触は避けてください。

取り扱う際は、必ず保護衣と保護手袋、保護メガネを着用し、局所排気装置内で使用してください。

火災の場合
燃焼すると、一酸化炭素 (CO) 、二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NOx) 、塩化水素 (HCl) ガスなどの有毒なガスと蒸気を生成することがあります。水スプレー (水噴霧) 、二酸化炭素 (CO2) 、粉末消火剤、泡、消火砂などを用いて消火してください。使用禁止の消火剤は特にはありません。

保管する場合
パパベリンは、光によって変質するおそれがあります。遮光したガラス製の容器に入れて密閉して保管してください。保管場所は、直射日光の当たらない、換気がよく涼しい場所が好ましいです。

参考文献
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Papaverine

トリエチレングリコール

トリエチレングリコールとは

トリエチレングリコールの基本情報

図1. トリエチレングリコールの基本情報

トリエチレングリコール (Triethylene glycol, TEG) とは、分子式C6H14O4で表される有機化合物です。

二価アルコールの一種であり、グリコールが3分子縮合した構造をしています。分子内にヒドロキシ基 (アルコール性水酸基) とエーテル結合を含みます。CAS登録番号は112-27-6です。

分子量150.174、融点-7℃、沸点285℃、密度1.1255g/mL の、常温では無色透明で粘り気がある液体です。弱い甘み臭があります。水とエタノールに溶けやすいものの、エーテルには難溶です。

トリエチレングリコールは引火点が177℃と高いものの、可燃性であるため危険物第4類引火性液体・第3石油類 (水溶性液体) ・危険等級Ⅲに指定されています。人体に対しては、皮膚に対する刺激性は強くなく、毒性もそれほど強くありません。ただし、眼に対しては刺激があり、吸入した場合には呼吸器へ刺激を与える可能性があるとされているため、注意が必要です。

トリエチレングリコールの使用用途

トリエチレングリコールの主な用途は、以下の通りです。

  • 空気調湿剤
  • ガス吸収剤
  • 溶剤
  • ブレーキ液
  • セロファン柔軟剤
  • 有機合成原料
  • ビニルポリマーの可塑剤
  • 天然ガスパイプライン
  • フォトレジスト剝離液の添加物

1. 天然ガスパイプライン

二酸化炭素 (CO2) 、硫化水素 (H2S) やその他のガスの脱水に用いられています。ガスの脱水ではエチレングリコール (MEG) 、ジエチレングリコール (DEG)も用いられますが、トリエチレングリコールが蒸発損失が少ないとされ、最も広く使用されています。

2. フォトレジスト剝離液の添加物

近年注目されている用途の一つに、半導体基板製造におけるフォトレジスト剝離液の添加物があります。半導体基板における電極構造は、フォトレジストを使って光でパターニングすることによってマイクロメートルレベルでの加工が可能になっています。

パターニング後のフォトレジストはフォトレジスト剥離液で完全に流し落とす必要がありますが、剥離液にトリエチレングリコールを添加しておくことで、狙った効果を加えることが可能です。

3. その他

化粧品製造における減粘剤、香料などに使用される場合もあります。空気中にエアロゾル化されたときには消毒特性を発揮するため、空気消毒剤および消毒剤スプレーの有効成分として使用されています。

また、引火点が高い上に有毒な蒸気を発生しないことや、皮膚吸収されないという特徴があることから、化学分野では比較的取り扱いやすい有機溶剤の位置づけです。そのため、溶媒として用いられることもしばしばあります。

トリエチレングリコールの原理

同種のグリコール・合成

図2. トリエチレングリコールと同種のグリコール類 (左下) /  トリエチレングリコールの合成 (右上)

トリエチレングリコールは、モノエチレングリコール、ジエチレングリコールと性質はおおむね同じで、主要な用途も原料も同じです。グリコールの数が増えるのに従い、沸点と粘り気が増します。

トリエチレングリコールは、エチレンオキシド (オキシラン) に対して酸触媒存在下で水を作用させることにより合成されます。この反応では、モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-の各種エチレングリコールが混合物で得られます。

トリエチレングリコールの種類

トリエチレングリコールは、研究開発用の試薬製品および、工業用薬品などの種類があります。研究開発用の試薬製品は、500mL , 25gなどの試薬瓶で販売されることが多いですが、1kg , 3kg , 20kgなどの大容量でも市販されています。安定であり、常温保存可能な試薬です。

工業用薬品は、調湿剤、セルロース、その他の樹脂溶剤として主に利用されます。使用スケールが大きいため、主に石油缶 (20kg)、ドラム (225kg)、コンテナ (1000L) などの荷姿で販売されています。

参考文献
https://www.nite.go.jp/
https://www.chemicoco.env.go.jp/detail.html?=&chem_id=3160
hhttps://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907051339946594

テトラヒドロフラン

テトラヒドロフランとは

テトラヒドロフランの基本情報

図1. テトラヒドロフランの基本情報

テトラヒドロフランとは、環内に1個の酸素原子をもつ、飽和5員環複素環式化合物の一種です。

別名、THFやオキソランとも呼ばれます。年間約20万トン生産されており、工業的に最も広く使用される生産方法は、1,4-ブタンジオールの酸触媒脱水です。

酸素の配位性を用いて、ルイス酸や金属イオンの配位子に使用可能です。ボランとの安定な錯体であるBH3•THFなどの溶液が市販されています。

引火点は−14.5°Cと低いため、日本では消防法によって「危険物第四類(第一石油類 危険等級2水溶性)」に指定されています。

テトラヒドロフランの使用用途

テトラヒドロフランは、溶解力の強い溶剤です。その特徴を活かす形で、下記のような用途に使用されています。

  • ポリ塩化ビニル樹脂等の合成樹脂の溶剤や有機合成反応溶媒
  • 合成皮革等のコーティング溶剤
  • ビニル系・エポキシ系接着剤の溶剤
  • 印刷インキ溶剤
  • 感光性樹脂等の特殊な樹脂用の溶剤

上記のように、溶剤として幅広く使用されています。さらに、グリニャール反応 (英: Grignard reaction) やウィッティッヒ反応 (英: Wittig reaction) 等の反応溶媒や、医薬・農薬等の製造における反応及び精製溶媒としても使用可能です。

テトラヒドロフランは、ナイロン・ポリエーテル・ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の合成原料としても使用されています。石油化学工業における抽出剤としての利用や、塩化ビニル樹脂の熱収縮フィルムや防湿剤といった用途でも用いられています。

テトラヒドロフランの性質

テトラヒドロフランは、エーテルに似た独特の香りを有する無色の液体です。多くの有機溶媒や水によく溶けます。テトラヒドロフランの密度は20°Cで0.8892g/mL、融点は−108.4°C、沸点は66°Cです。

テトラヒドロフランは酸化によって、γ-ブチロラクトン (英: Gamma-Butyrolactone) に変えることもできます。また、テトラヒドロフランは飽和の5員環に、1つの酸素を含む環状エーテルです。テトラヒドロフランの化学式はC4H8O、分子量は72.11です。

テトラヒドロフランのその他情報

1. テトラヒドロフランの合成法

テトラヒドロフランは、ホルムアルデヒドアセチレンの縮合により得られる1,4-ブチンジオールの水素化で生成します。

フランまたは無水マレイン酸の接触還元によっても、テトラヒドロフランを得ることが可能です。

さらにn-ブタンを酸化して無水マレイン酸を得たのちに、水素化することで、テトラヒドロフランを得る方法もあります。

2. テトラヒドロフランによる過酸化物の生成

テトラヒドロフランによる過酸化物の生成

図2. テトラヒドロフランによる過酸化物の生成

テトラヒドロフランは、空気と長く接触すると、爆発性を有する過酸化物を生成します。とくに長期保存したテトラヒドロフランを、蒸発乾固することは危険です。テトラヒドロフランの酸化を防ぐために、市販品にはp-クレゾール (英: p-Cresol) やヒドロキノン (英: Hydroquinone) が少量添加されています。

3. テトラヒドロフランの開環重合

テトラヒドロフランの開環重合

図3. テトラヒドロフランの開環重合

テトラヒドロフランは開環重合によって、ポリエーテルであるポリテトラメチレンエーテルグリコール (英: Poly tetramethylene ether glycol) を生成します。ポリテトラメチレンエーテルグリコールはPTMGやPTMEGと略されることもあり、ポリオキシテトラメチレングリコール (英: Polyoxy tetramethylene glycol) やポリテトラヒドロフラン (英: Poly tetrahydrofuran) とも呼ばれます。

一般的なポリテトラメチレンエーテルグリコール製品の分子量は、1,000から2,000です。20℃前後でワックス状に固化します。弾性繊維のスパンデックス (英: Spandex) や熱可塑性エラストマーを代表とする、ポリウレタン (英: Polyurethane) の原料に利用されます。

テトラメチルシラン

テトラメチルシランとは

テトラメチルシランの基本情報

図1. テトラメチルシランの基本情報

テトラメチルシラン (Tetramethylsilane, TMS) とは、分子式Si(CH3)4、もしくはSiMe4 (Me = CH3) で表される有機ケイ素化合物です。

有機ケイ素化合物のなかではもっとも単純な構造を持つ化合物であり、正四面体構造をもつ非極性分子に分類されます。CAS登録番号は75-76-3です。

分子量88.23、融点-102.2℃、沸点26.6℃、密度0.648g/cm3 であり、常温では無色透明の液体です。揮発性で石油臭があります。エタノールジエチルエーテルに極めて溶けやすい物質ですが、水にはほとんど溶けません。

極めて引火性の高い液体であり、0℃以下でも引火するとされます。そのため、消防法では第4類引火性液体、非水溶性液体、特殊引火物に指定されています。

通常の保管方法においては安定ですが、強酸化剤、強酸、強塩基などとの混触は厳禁です。

テトラメチルシランの使用用途

テトラメチルシランは主に、1H、13C、29Siを用いる核磁気共鳴分光法  (NMR分光法) の内部標準物質や、化学気相成長 (CVD) における二酸化ケイ素や炭化ケイ素の前駆体材料などに用いられます。テトラメチルシランのNMRピークは低周波数側に大きくシフトします。これは、テトラメチルシランのケイ素原子は炭素原子よりも電気陰性度が低く、水素原子・炭素原子を強く遮蔽化するためです。

つまり、有機化合物一般の試料ピークとは干渉しません。そのため、テトラメチルシランのシングレットピークはδ 0.0と定義されています。また、化学的に反応性に乏しく揮発性が高く、NMR測定後に簡単に除去することができることも利点です。NMRで標準物質として用いる場合は特に、空気中の水分を吸わせないよう、開封・使用時は手早く行わなくてはいけません。結果に影響を与えてしまう恐れがあります。

もう一つの用途である化学気相成長 (CVD) とは、様々な物質の薄膜を形成する蒸着法の一つです。石英などで出来た反応管内で加熱した基板物質上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板表面あるいは気相での化学反応により膜を堆積します。この方法においては、テトラメチルシランは二酸化ケイ素や炭化ケイ素の前駆体です。どちらの化合物になるかは、その成長条件に依存します。

テトラメチルシランの原理

テトラメチルシランの原理を合成方法と化学反応の観点から解説します。

1. テトラメチルシランの合成方法

テトラメチルシランの合成

図2. テトラメチルシランの合成方法

テトラメチルシランを実験室で合成するための方法の一つは、乾燥したジブチルエーテル中で調製した臭化メチルマグネシウムに、クロロトリメチルシランまたは四塩化ケイ素を加える方法です。この方法で生成したテトラメチルシランは一般的に充填塔を用いて2回精留精製されます。

2. テトラメチルシランの化学反応

テトラメチルシランのリチオ化反応

図3. テトラメチルシランのリチオ化反応

クロロメタンとケイ素の直接反応によりメチルクロロシラン (SiClx(CH3)4-x  x = 1, 2, 3) を生成させる反応において、副生成物として生じます。

n-ブチルリチウムと反応させると、リチオ化されて Si(CH3)3CH2Li を与えます。この化合物はアルキル化試剤として調製され、広く利用される化合物です。

テトラメチルシランの種類

テトラメチルシランは、主に化学試薬として販売されています。その他には、工業用に薄膜作成用の薬液としての流通などがあります。

試薬としてのテトラメチルシランは、10mL , 25mL , 100mL , 10g , 50gなどの容量の種類があります。沸点が27.5℃と低いため、冷蔵での保管が必要な試薬です。生化学用試薬やNMR測定用試薬、内部標準試薬として、定量や測定用溶媒に用いられます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/75-76-3.html
https://www.chemicoco.env.go.jp/
https://www.nite.go.jp/
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/HPV00065

テトラブロモエタン

テトラブロモエタンとは

テトラブロモエタンの基本情報

図1. テトラブロモエタンの基本情報

テトラブロモエタン (Tetrabromoethane, TBE) とは、分子式C2H2Br4のハロゲン化炭化水素の一種である有機化合物です。

IUPAC命名法による正式名称は、1,1,2,2-テトラブロモエタンです。1つの炭素原子に3つの臭素原子が結合すると熱力学的に不安定になるため、1,1,1,2-テトラブロモエタンとはなりません。他の名称には、「アセチレンテトラブロミド」「四臭化アセチレン」などがあります。CAS登録番号は、79-27-6 です。

分子量345.65、融点0℃、沸点243.5℃であり、常温では無色から黄色の液体です。樟脳とヨードホルムの臭いに似た刺激臭を呈します。4つの臭素原子を含むことにより、密度は2.967g/mLと比較的重くなっています。

水にはほとんど溶けません (溶解度0.063g/100mL、20℃) が、エタノール、エーテル、クロロホルム酢酸エチルヘキサンに対して任意の割合で混和します。

消防法、毒劇法、PRTR法では規制を受けていない物質です。労働安全衛生法では、「 名称等を表示すべき危険物及び有害物」及び「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に該当しています。

テトラブロモエタンの使用用途

テトラブロモエタンを使用した比重選別

図2. テトラブロモエタンを使用した比重選別

テトラブロモエタンの主な用途は、溶剤、スチレン樹脂難燃剤、TPA触媒などです。高分子材料の難燃化は、ハロゲン化合物、リン化合物、窒素化合物、無機化合物を添加分散したり反応させることによってなされます。

臭素化ポリスチレンは最も難燃効率が高いとされており、テトラブロモエタンは臭素化ポリスチレンを製造する際の溶媒に用いられます。それ以外のテトラブロモエタンの重要な用途の一つは、比重選別です。比重選別とは、リサイクル現場などで粉砕した金属種を分けるのに用いられる方法です。

例えば、砂や石灰石、ドロマイトなどはテトラブロモエタンに浮き、閃亜鉛鉱、方鉛鉱や黄鉄鉱などは沈殿します。これは、密度が2.967g/mLと高く、有機化合物の中では比較的重いことを利用したものです。また、液相をとる温度範囲が比較的広く、蒸気圧が低いことから、ブロモホルムの代用としても使用されることがあります。

テトラブロモエタンの原理

テトラブロモエタンの性質

図3. テトラブロモエタンの性質

テトラブロモエタンは、1,2-ジブロモエチレンへの臭素付加反応により合成することが可能です。テトラブロモエタンは、光や熱により徐々に分解し、黄褐色を帯びる性質があります。難燃性ですが、強熱下では分解し、可燃性です。

燃焼や強熱による分解では、一酸化炭素、臭素、臭化カルボニルおよび臭化水素を含む、有毒で腐食性のフュームを生じます。強アルカリ物質、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は金属粉と混触すると激しく反応します。

また、軽金属 (アルミニウム、マグネシウム) 、 亜鉛、鉄に対して腐食作用を及ぼします。一方、黄銅は耐久性があり、反応しません。

テトラブロモエタンの種類

現在販売されているテトラブロモエタンは、主に研究開発用試薬製品が一般的です。容量500gなどのガラス瓶で主に販売されています。常温保管可能な試薬ですが、人体に対して有害であるため、適切に保管することが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/79-27-6.html
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/KN201085
https://www.nite.go.jp/