ピペラジンとは
図1. ピペラジンの基本情報
ピペラジンとは、化学式がC4H10N2で、分子量が86.14の複素環式アミンです。
複素環式アミンとは、環の中に2種類の異なる元素を含んだ環式アミンを指します。ピペラジンは密栓後に遮光して保存する必要があります。一般的に、六水和物のC4H10N2・6H2Oとして入手可能です。
ピペラジンの塩として、クエン酸塩 (3C4H10N2・2C6H8O7) やアジピン酸塩 (C4H10N2・C6H10O4) が挙げられます。
ピペラジンの使用用途
ピペラジンのクエン酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩は、蟯虫や回虫などに対する動物用寄生虫駆除剤として使用されています。寄生虫駆除剤として効果を発揮する作用機序は、次のメカニズムです。
まず、γ-アミノ酪酸 (GABA) 様物質として、GABA受容体に作用します。寄生虫の体性筋細胞に存在するGABA受容体に作用して、神経筋伝達の障害を起こします。蟯虫や回虫を可逆的に麻痺させ、寄生虫を排便とともに体外へ排出可能です。
ピペラジンの性質
ピペラジンは無色葉状晶で、水やエチレングリコールに溶けます。ピペラジンの水溶液は強塩基性を示し、pKaは9.8です。10%の水溶液のpHは10.8〜11.8です。空気中の湿気や二酸化炭素を吸収します。ピペラジンはジエチルエーテルに溶けません。
なお、ピペラジンの融点は104°C、沸点は145〜146°Cです。引火点は65°C、発火点は320°Cです。シクロヘキサン (英: Cyclohexane) のメチレン基2つをNHで置換した構造を持っています。また、ピペラジンのような6員環のことを、ピペラジン環と呼びます。
ピペラジンのその他情報
1. ピペラジンの合成法
ピペラジンは、ピラジン (英: Pyrazine) をナトリウムとアルコールで還元すると得られます。また、水酸化ナトリウムを用いて、1,2-ジクロロエタン (英: 1,2-Dichloroethane) とアンモニアの反応で生成します。さらに、エチレングリコールと1,2-ジアミノエタン (英: 1,2-Diaminoethane) の脱水縮合でも合成可能です。
2. ピペラジンの反応
図2. ピペラジンの反応
ピペラジンの持つアミノ基は、容易に二酸化炭素と反応します。ピペラジンと二酸化炭素の比率によって、ピペラジンカルバメート (英: Piperazine carbamate) やピペラジンビカルバメート (英: Piperazine bicarbamate) が生じます。溶媒中に遊離しているピペラジンは限られているため、揮発性は低く、ピペラジン六水和物が沈殿する速度は低いです。
3. ピペラジンによる二酸化炭素の回収
ピペラジンなどのアミン混合物は、商業的な二酸化炭素の除去 (英: Carbon capture and storage) に広く使用されています。 ピペラジンの熱分解率は低く、メチルジエタノールアミン (英: Methyl diethanolamine) の酸化分解からも保護します。メチルジエタノールアミンピペラジンとピペラジンの組み合わせは、メチルジエタノールアミンピペラジンと他のアミンの混合溶媒よりも安定性が高いです。そして、二酸化炭素を捕捉するための容量が大きく、必要な作業も少なくなります。
4. ピペラジン環を含む医薬品
図3. ピペラジン環を含む医薬品
現在注目されている数多くの医薬品の分子構造に、ピペラジン環が含まれています。医薬品の具体例は、フェニルピペラジン、ベンジルピペラジン、ジフェニルメチルピペラジン、ピリジニルピペラジン、ピリミジニルピペラジンなどです。それ以外にも、ピペラジン環が側鎖を介して複素環部分に結合している三環式化合物 (英: Tricyclic compound) もあります。