ピリジンとは
ピリジンとは、ベンゼンの炭素原子を窒素で置換した構造をもつ複素環式化合物のひとつです。
他にも「アザベンゼン」とも呼ばれています。
ピリジンの使用用途
ピリジンの主な使用用途には以下の例があります。
1. 求核剤
ピリジンの窒素原子には孤立電子対が存在するため、ピリジンは弱塩基性を示します。そのためピリジンは溶媒としてだけではなく求核剤としても利用することが可能です。
例として、無水酢酸を用いたアルコールのアセチル化が挙げられます。溶剤としてピリジンを用いることで、ピリジンが無水酢酸のカルボキシ基に求核攻撃します。その結果、酢酸イオンが脱離するとともに、求電子活性種であるN-アセチルピリジニウムイオンが発生します。これにより、アルコールの求核攻撃が促進され、円滑にアセチル化が進行します。
2. 医薬品原料
ピリジンは医薬品原料にも用いられます。例えば抗菌剤であるジンクピリチオンの原料として利用されており、塗料やシャンプーなどに混ぜ合わせることで防汚剤や殺菌剤として機能します。
他にも、鎮痛剤や無水金属塩の溶剤・反応媒介剤、医薬品原料、界面活性剤、飼料添加剤の原料、合成ゴムの加硫促進剤の原料などとして使われています。
ピリジンのその他情報
1. ピリジンの特徴
ピリジンは無色透明な液体で、揮発性が高く特異臭があり吸湿性が強いです。水だけでなくアルコール、エーテル、ベンゼンなどの有機溶剤にも溶けます。
消防法では第4類第1石油類水溶性液体、PRTR法では第1種指定化学物質に該当します。保存の際は、遮光した容器で冷所かつ通気性が良い場所で保管するようにして下さい。
水生生物に非常に強い毒性があります。加水分解性を受ける結合がないため、一度自然界に排出されるとほとんど分解されず水中に蓄積してしまいます。廃棄する際は中和処理ののち地方自治体の指示に従ってください。
ピリジンは、人体に対しては皮膚や消化管、肺など様々な経路から吸収されますが、体内組織への蓄積は比較的起こりにくく、未反応の状態または代謝物として排泄されやすいです。ただし許容濃度をはるかに超えて曝露すると、中枢神経を抑制して皮膚および気管を刺激します意識の低下を引き起こすことがあるので、取り扱いには十分注意が必要です。
2. ピリジンの合成法
ピリジンは沸点が115℃と高く、減圧除去することが困難な溶媒です。そのためピリジンを除去したい場合は、トルエンと混ぜて共沸させたり希塩酸を用いて分液することで水層に移したりするのがおすすめです。
ピリジンの合成法のひとつとして、「Hantzsch (ハンチュ) のピリジン合成法」が挙げられます。これは、2分子のβ-ケトエステルと1分子のアルデヒドに対してアンモニアを作用させると得られるジヒドロピリジンを、硝酸によって酸化することでピリジンに誘導する合成法です。この方法を用いると、多置換ピリジン誘導体も合成することができます。
3. ピリジンの反応性
ピリジンはベンゼン同様に共鳴が起こり芳香族性をもつことが知られています。ただし、窒素の電子陰性度が炭素よりも大きいため、ピリジンの芳香環上のπ電子密度はベンゼンよりも小さくなります。そのためピリジンはベンゼンと比較して芳香族求電子置換反応を起こしにくい一方で、芳香族求核置換反応を起こしやすいという性質があります。
芳香族求電子置換反応を起こす場合は厳しい反応条件が必要となります。例えば、ピリジンの水素原子をニトロ基に置換する場合は、濃硝酸と発煙硫酸を加え、300℃で反応させる必要があります。その際は、3位の炭素上で選択的に反応が進行します。
硫酸や硝酸などの強酸化性物質と反応し、火災や爆発を起こすことがあります。また熱分解によって、有害な一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、シアン化物を生成します。過去には災害の事例もあるため、作業者および監督者は中毒、火事、環境のリスクを把握したのちに使用することが推奨されます。
参考文献
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento147_09_sanko_01_02.pdf
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/prtr/2.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0178.html