クライオスタットとは
図1. クライオスタットのイメージ
クライオスタットとは、研究開発などにおいて試料を低温に保つために極低温を実現し保持するための機器です。
冷媒 (液体ヘリウムや液体窒素など) 、ペルチェ素子や冷凍冷却器などを利用して低温を作り出し、恒温槽内の真空容器に保持することで極低温を保つ機構、冷媒を細いノズルから直接対象物に吹き付ける機構などの装置があります。独立した装置として分光学的分析等に用いられる以外にも、クライオ電子顕微鏡や半導体測定装置、超電導デバイスを用いた装置などに利用されている機器です。
クライオスタットの使用用途
クライオスタットは、研究開発などにおいて、安定した低温環境を作り出す必要がある場合に用いられます。紫外・可視・赤外吸収分光測定、蛍光分光測定、円二色性分光測定などの様々な光学測定や、電気物性測定、交流帯磁率測定、ホール効果測定、などの物性測定をごく低温で行う際に用いられる装置です。クライオスタットを用いることにより、試料や装置などの低温保持、装置の熱振動の抑制、試料の熱力学的ダメージの抑制などを行うことが可能です。
顕微鏡との併用が可能な装置では、顕微鏡による試料の観察用途でも用いられる他、電気的接触が可能な装置では、抵抗測定やピエゾ素子、ダイオード、温度計などへの接続が行われます。超電導コイルや超電導マグネットを使用する際にもクライオスタットが用いられることがあり、極低温を安定して維持する必要のある超電導分野ではクライオスタットの需要が高いと言えます。
クライオスタットの原理
1. 冷却機構
クライオスタットの冷却機構としては、液体窒素や液体ヘリウムなどの冷媒やペルチェ素子などの電気的素子、冷凍機などが利用されます。
2. システム構成
クライオスタットのシステム構成は、真空容器と組み合わせた密閉型システムと冷媒を直接吹き付ける機構の開放型システムの2種類があります。密閉型システムでは、冷却される対象物は断熱材で囲まれた恒温槽内の真空容器に密閉され、外部との熱接触が遮断されます。
このシステムでは低温を保持することが比較的容易であり、数ケルビンの極低温まで温度を下げることも可能です。欠点としては、装置全体の構造が複雑で試料の交換などの作業が煩雑になることが挙げられますが、トップロード式など、装置構造の工夫でより簡便になるよう工夫されている製品もあります。
一方、細いノズルを用いて液体窒素等の冷媒を試料に直接吹き付ける機構は、開放型システムと呼ばれます。構造が比較的単純で、対象物を直接観察しながら冷却が可能であり、操作性が高いことが特長です。一方、最低到達温度はあまり低くなく、通常数十ケルビン程度に留まります。
3. 光学窓
図2. クライオスタットにおける分光学的分析のイメージ
クライオスタットでは、試料は低温を維持するために断熱材で囲まれた恒温槽内に静置されますが、分光学的観察のため、光学窓が設けられています。
クライオスタットの種類
図3. 超電導マグネット付きクライオスタットのイメージ
クライオスタットには、様々な種類があり、用途やニーズに合わせたものを選択することが必要です。例えば、極低温冷凍機などの無冷媒型の装置を用いることにより液体ヘリウムや液体窒素などの冷媒が不要となり、冷媒コストを抑えることができます。
最低到達温度は、前述の密閉型システムでは4Kから1.7Kほどまでの極低温であるのに対し、開放型システムでは数十K程度が限界となっています。また、光学窓などの数・種類なども製品によって異なっている他、製品によっては超電導マグネットが付いていたり端子が外部に伸びていて試料への電気的接触が可能になっているものもあります。
クライオスタットのその他情報
クライオスタットが組み込まれている装置
なお、クライオスタットは独立した装置として用いられる以外に、下記のような装置にも組み込まれています。
- クライオ電子顕微鏡
- 医療用MRI装置
- 半導体測定装置
- 極低温光学測定装置
- 天体観測装置用センサー部
- 核融合炉
- タンパク質結晶構造解析用装置
参考文献
https://www.nagase-nte.co.jp/product/cold/cryostat.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunkou1951/26/2/26_2_81/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscta1974/2/4/2_4_110/_pdf
http://lab.agr.hokudai.ac.jp/emlab/manual/CRYOSTAT.pdf