耐摩耗鋼板

耐摩耗鋼板とは

耐摩耗鋼板とは、非常に優れた耐摩耗性を持つ鋼板のことです。

摩耗とは物質同士の接触や摩擦によって表面が削れる現象のことであり、機械部品や建築材料など、幅広い分野で問題となっています。耐摩耗鋼板は摩耗に強く耐久性が高いため、過酷な環境下で使用される部品や機械に用いられます。また、一般的な鋼板に比べて薄くても十分な強度を持つため、部品の軽量化にも貢献します。

しかし、耐摩耗性を向上させるために、鋼材には硬質な素材が用いられているため、加工が困難であるというデメリットもあります。そのため製造コストが高くなってしまう場合もあります。

材料は炭素鋼がベースで、クロム、マンガン、モリブデン、バナジウムなどの合金を加えることにより硬度や強度を高めます。また、耐摩耗性だけでなく耐食性や耐熱性などの特性を持つ製品もあります。

耐摩耗鋼板の使用用途

耐摩耗鋼板は、建設機械の分野で使用されることが多いです。建設機械は土砂や岩石といった強い摩擦力を生み出す材料を扱うため、部品の耐久性が求められます。そのため、耐摩耗鋼板が使われます。

例えば、ブルドーザーやダンプトラックの排土板、油圧ショベルのバケット部分など、長時間使用される部分には耐摩耗鋼板が必要です。部品が劣化することで生じるコストやダウンタイムを減らすため、強度や摩耗性に優れた素材が必要だからです。

また、農業機械や鉱業機械、製鉄所の設備などでも耐摩耗鋼板が使用されています。機械や設備では、異物混入や高温・高圧などの過酷な環境下での使用が求められます。そのため、強度や摩耗性だけでなく、耐食性や耐熱性といった性能が必要です。

耐摩耗鋼板の原理

耐摩耗鋼板は、鋼材表面に特殊な合金層を形成することにより耐摩耗性を向上させています。

合金層は、主にクロム、マンガン、モリブデン、バナジウム、ニッケル、ボロン、タングステンなどの元素で構成されています。これらの元素は、鋼材表面に薄い層を形成し、表面を硬化させることが可能です。この硬化した表面は、高い耐摩耗性を持ちます。

また、耐摩耗鋼板は鋼材中に特殊な結晶構造を持つことも特徴のひとつです。結晶構造は鋼材の内部に微小な結晶を形成することで、表面硬度を高める効果があります。結晶構造により、鋼材は耐摩耗性を持つだけでなく強度も向上します。

耐摩耗鋼板のその他情報

1. 耐摩耗鋼板の溶接

耐摩耗鋼板を使用する建設機械用のバケットや排土板などの構造物は、ねじ止めなどの機械締結だけでは作製することができず溶接による接合が必要になる場合があります。

耐摩耗鋼板では、一般的にMAG溶接や被覆アーク溶接などが広く利用されますが、溶接による接合部に要求される特性や施工の状況によって注意すべき点が3つあります。

接合部に耐摩耗特性が必要かどうか
接合部が土砂などと接触する部分でない場合は耐土砂特性が必要でないため、溶接棒も広く選択できます。接合強度だけを考慮すればよいため同種の耐摩耗鋼でなくても良く、溶接性に優れる軟鋼や予熱の必要がないオーステナイト系ステンレス溶接材など、構造物や施工ニーズに合わせることが可能です。

一方で、接合部にも耐摩耗性が要求される場合は、溶接性に優れる耐摩耗鋼を選択する必要があるため、選択肢が狭まります。また、耐摩耗鋼は鋼板の状態で性能が最高となるように設計され作りこまれていますが、接合時に加わる熱によって軟化し耐摩耗性が低下するため、高温での軟化抵抗を向上するシリコン (Si) 添加量が多い耐摩耗鋼などを選択する必要があります。

溶接割れの発生
耐摩耗鋼板はで高い耐摩耗性を発現させるために、炭素やクロムなどの合金元素が大量に添加されていて、溶接割れの感受性の指針の一つである炭素等量が高くなっています。

炭素等量が高いほど耐摩耗特性は高くなりますが、一方で溶接割れがしやすくなるため溶接の際に脆化の原因となる水素の混入を低減したり、予熱により拘束力を低下させるなどの工夫が必要です。

予熱温度の管理
耐摩耗鋼板は一般的に200℃以上の温度に曝されると材料が軟化して、耐摩耗性が低下するため、溶接による熱影響や溶接割れの防止目的で施される予熱によって耐摩耗性などの低下に注意する必要があります。溶接後の残留応力の開放や組織健全化を目的とした後熱処理は基本的に施しません。 

2. 耐摩耗鋼板の熱処理

耐摩耗鋼板では、オーステナイト域から急冷し硬質で耐摩耗性に優れるマルテンサイトを得る「焼入れ」と、靭性を向上させて割れにくくさせる「焼戻し」の2つの熱処理が特に重要になります。

焼入れでは、冷却速度が遅いと硬度が不十分で要求通りの耐摩耗性が得られない点に注意が必要です。焼戻しでは、温度が高すぎると靭性は向上しますが逆に硬さが低下して耐摩耗性が得られなくなるため、両方のバランスを考えた温度設定と管理が重要になります。

参考文献
https://seizotimes.com/%E8%80%90%E6%91%A9%E8%80%97%E9%8B%BC%E6%9D%BF
https://www.morikawa-tc.jp/hardox
https://www.weld.nipponsteel.com/techinfo/weldqa/detail.php?id=27TLDD2

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