ACリアクトルとは
ACリアクトルとは、交流電気・電子回路に挿入する素子の一種です。
主に、インバータの力率改善や高調波抑制などを目的に設置されます。大電流を扱う回路では必要となる素子です。
ACリアクトルの使用用途
ACリアクトルは交流回路に対して用いられます。具体的な使用用途は、以下の通りです。
- インバータを駆動装置とする空調設備
- 工作機械や電車
- 電気自動車
昨今、話題となる脱炭素化社会実現へ向けて、産業界ではCO2を直接発生しない電気を用いる装置が増加しています。交流送電やインバータに代表される交直変換装置に対して、ACリアクトルはその需要を増しています。
ACリアクトルの原理
ACリアクトルは、全体のほとんどがコイルです。コイルと絶縁充填剤、架台などの部品で構成されます。コイルは電線を複数回巻いた部品です。巻く回数が多いほどリアクタンス成分が増加します。電源に挿入されるコイルはチョークコイルなどとも呼ばれます。
また、鉄心を中心に電線を巻く鉄心型リアクトルと鉄心を持たない空芯リアクトルがあります。絶縁充填剤は、コイルに流れる電気が外部へ漏れないように絶縁するための充填剤です。主に、絶縁樹脂や油紙などが用いられます。コイルや架台は金属で構成されるため、一般的にリアクトルの耐熱温度は絶縁充填剤によって決定されます。
コイルは金属電線を複数回巻いた塊なので、体積に比べて重量があります。そのため、金属の架台で支持しますが、金属架台は多くの場合、床や壁面に縫い付けるための穴を開けてあります。
ACリアクトルのその他情報
1. ACリアクトルとDCリアクトルの違い
ACリアクトルのACとは、「Alternating Current (交流電流) 」の略です。それに対して、「Direct Current (直流電流) 」を扱うDCリアクトルと呼ばれる素子があり、どちらもインバータ向けに使用されます。
インバータは内部で交流電流を直流化し、直流をスイッチングして交流出力します。電流・電圧の波形を大きく変化させるため、歪みが生じて回路全体の力率を遅らせつつ高調波を発生させます。ACリアクトルとDCリアクトルの設置目的は、インバータ回路の力率改善や高調波抑制です。
DCリアクトルは一般的にインバータの内部直流回路に接続されます。交流を直流化する際の脈流を平滑化するために設置され、力率・高調波の改善効果がACリアクトルよりも高いのが特徴です。ACリアクトルはインバータの出力回路に設置されます。改善効果が高いDCリアクトルを優先して設置し、それでも高調波などが問題となる場合にACリアクトルを設置するのが一般的です。
また、遅れ力率や高調波を考慮する必要がない小規模な負荷回路に対しては、どちらも省略される場合があります。
2. リアクトルの種類
リアクトルは用途に応じて名称が異なります。主に使用されるリアクトルは限流リアクトル、分路リアクトル、AC / DCリアクトルなどです。
限流リアクトル
電気回路には、短絡事故時に安全に回路を遮断することができる遮断器を設置します。遮断器は高電圧化・高電流化するほど性能を向上させる必要があり、高価です。
リアクトルには電流を遅らせる特性があるため、限流リアクトルを回路に直列設置することで短絡時の電流を制限します。これにより、安価な遮断器を採用することが可能となります。
分路リアクトル
分路リアクトルは力率改善用リアクトルです。夜間の電力消費が少ない場合などには送配電線が進相してしまうことがあります。分路リアクトルを回路に並列設置することで、進相した系統力率を遅らせて改善します。
AC / DCリアクトル
上述した通り、インバータの力率改善や高調波抑制を目的に設置されます。なお、これらのリアクトルは規模や材料は異なりますが、構造の違いはありません。リアクトルは全て電線をコイル状に巻いた構造です。