エームス試験

エームス試験とは

エームス (英: Ames) 試験とは、化学物質が遺伝子に突然変異を引き起こす力 (変異原性) を持っているかどうかを、細菌を用いて評価する試験です。

変異原性試験とも呼ばれます。この試験はカリフォルニア大学B. N. Ames博士によって開発され、化学物質の発がん性などを評価するために使用されています。

エームス試験の使用用途

Ames試験 (変異原性試験) は、化学物質の変異原性を検出する目的で実施されています。例えば、新しい医薬品や農薬の開発において、安全性評価のために使用されます。また、化学物質が環境中での健康被害の原因になる可能性がある場合、エームス試験はその評価にも使用されます。

人体や環境への有害性が懸念される化学物質の安全性を評価するため、労働安全衛生法、医薬品医療機器等法、農薬取締法などでは、エームス試験を含む遺伝毒性試験の実施が義務付けられています。

化学物質を使用する産業分野においては、労働者の健康を守るために、労働安全衛生法によってエームス試験の実施が義務付けられています。また、医薬品や医療機器の開発や製造においても、安全性の確保のためにエームス試験が必要とされ、医薬品医療機器等法によって規制されています。同様に、農薬についても農薬取締法によって安全性の確保が求められており、エームス試験が必須の試験とされています。

エームス試験の原理

1. 原理

エームス試験の原理は、遺伝子操作によってアミノ酸合成をできなくした細菌を使用して、化学物質の変異原性を評価することにあります。化学物質を細菌が繁殖する培地に添加し、突然変異を起こした細菌を検出するための遺伝子突然変異試験を行います。変異原性の強い化学物質は、より多くの突然変異を引き起こすことが知られています。

がんの原因物質の多くが変異誘発物質であることから、変異を引き起こす作用の強さによって発がん性を評価することができます。また、細菌のコロニーの大きさや形成状態によって、試料に変異原性があるかどうかを判断することができます。

2. 試験方法

具体的には、ネズミチフス菌のヒスチジン要求株を使用します。ヒスチジン要求株とは環境に必須アミノ酸のヒスチジンがないと増殖できない変異株です。ヒスチジン要求株を化学物質を含む培地で培養します。

化学物質に変異原性があれば、菌が分裂する過程で突然変異が起こり菌自身でヒスチジンを生産できるようになります。その結果菌が増殖してコロニーを形成するため、コロニー数を計測することで突然変異を起こす性質があるか調べることができます。

3. 発がん性との関連

エームス試験は、化学物質の変異原性を検査する試験であり、がんを引き起こすかどうかを判断する試験ではありません。しかし、がんの原因物質の大部分は変異誘発物質であるため、エームス試験の結果は潜在的な発がん性を評価するために利用されることがあります。ただし、エームス試験の結果だけで発がん性を決定することはできず、他の種類の試験結果と組み合わせて総合的に判断する必要があります。

エームス試験の種類

エームス試験には、直接試験と間接試験の2つの種類があります。

直接試験では、化学物質が細菌に直接影響を与えるために使用されます。一方、間接試験では、化学物質が肝臓などの代謝器官を通過した後に、変異原性を示す代謝産物を生成することによって評価されます。具体的には、肝臓の代謝活性化の働きを加えるために、ラットの肝臓を処理して得られた「S9 mix」という試薬を細菌と化学物質含む培地に加えます。

エームス試験のその他情報

試験の規定

日本国内のガイドライン (医薬品医療機器等法、農薬取締法労働安全衛生法など) では、試験方法として予備試験と本試験を行うことが定められています。一方、ヨーロッパなどで用いられているOECD の化学物質ガイドラインでは、再現性確認として本試験を2 回同一条件で繰り返すことが義務付けられています。予備試験と合わせると3回行うことになります。

化学物質の発がん性を動物実験等で検査することは非常にコストがかかります。エームス試験は非常に迅速で比較的低コストであり、化学物質の変異原性を高精度に評価できるという利点があります。しかし、この試験は細菌を用いるため、動物実験に比べて生物の複雑な反応や副作用を評価することができないという欠点もあります。

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