ジャイロトロン

ジャイロトロンとは

ジャイロトロンとは、超電導コイルにて発生させた磁場に電子を巻き付け高速の回転エネルギーにて加速し、空胴共振器にて高出力のミリ波帯のマイクロ波へ変換放出させる真空管装置のことです。

ジャイロは、「回転」という意味でつけられたもので、CRM現象を利用しています。このCRMとは「Cyclotron resonance maser (サイクロトロン共鳴メーザー現象) 」と呼ばれる電磁力で回転させた電子の運動エネルギーがマイクロ波という電磁波へ変換される現象です。

ミリ波帯とは、波長で1mm~10mm、周波数では30GHz~300GHzの電波帯域を指し、直進性が高く多量の情報を載せられる周波数帯域です。

ジャイロトロンの使用用途

ジャイロトロンの使用用途は、以下の通りです。

  • 産業分野
    セラミック焼結
  • 研究開発分野
    実験室レベルにおける核融合実験装置のプラズマ関連 (加熱・計測など)
  • サブTHz帯
    衛星通信、簡易無線、加入者系無線アクセス (38GHz帯) 、車載用各種レーダー、LiDAR、ADAS、自動運転など

ジャイロトロンは、ミリ波帯というこれからBeyond 5G/6G通信用途に向けて増々その活用が期待されている電波の比較的大電力の発信源となることから、各方面で応用の検討が繰り返されています。

ジャイロトロンの原理

ジャイロトロンの原理は、内部の電子銃から放出された電子が、超電導磁場を通過する際にらせん状の回転運動エネルギーを得て、空胴共振器内部でミリ波帯の高出力電磁波エネルギーに変換される「サイクロトロン共鳴メーザー現象」にあります。

高電圧 (100kV程度) をかけた電子銃から発射された電子を超電導磁石 (10T(テスラ)以下) で作られた磁場を通過させることにより、電子に高速の回転エネルギーを与えます。回転エネルギーを得た電子は、らせん状になりながら最終的に電子を取り込む真空管内のコレクターに向かいます。

らせん状になって進む電子は、経路の途中に置かれた共振器を通過することで、電子のエネルギーを共振させます。共振した電子の一部のエネルギーが、運動エネルギーを失い、失ったエネルギーが電磁波に変換されるという仕組みです。

発生した電磁波は、その後反射を繰り返し、最終的に人工ダイヤモンドといったジャイロトロンに設けられた窓を経由して、ジャイロトロンから放射されます。これによって、高出力なミリ波帯の電磁波として使用することが可能です。

ジャイロトロンのその他情報

1. 核融合の開発とジャイロトロン

未来の発電技術として有望視されている核融合技術ですが、その動作のためには、ジャイロトロンから得た高出力なサブTHz帯のミリ波を約100m先の核融合炉まで伝送し、プラズマに打ち込んでプラズマを加熱します。その結果、核融合反応が始まります。

近未来のクリーンエネルギー発電のために世界各国の研究機関が主導する国際的な共同プロジェクト「ITER(国際熱核融合実験炉)」の運転開始も2025年に現在予定されており、核融合施設の実験のために、加熱や各種計測用ジャイロトロンの開発もまた活性化している状況です。

2. ジャイロトロンの周波数

核融合施設で現在有望視されているのが、「トカマク型核融合炉」です。この炉体の施設では、非常に強力な超電導磁場で内部のプラズマを超高温に加熱しなければなりません。その際、核融合炉体の中心と端部で超電導磁場の磁力の大きさが異なるため、炉体内部をできるだけ広く有効活用するために、ジャイロトロンの共振発振周波数も、複数選択できるような構成が望まれています。

2022年に日本の国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構が発表したところによると、開発中のジャイロトロン内部の機器の改良で170GHz/137GHz/104GHzという3つのミリ波帯周波数で1メガW級の300秒連続運転動作を実現し、核融合の実用化に向け、ジャイロトロン技術開発で一歩前進を遂げました。

また、ジャイロトロンの発振周波数の高周波数化という観点では、国立福井大学の遠赤外開発領域センターでの研究開発で2005年に1013GHz (THz帯へのブレークスルー) が実現されており、国内外の様々な研究分野への応用展開に向けた共同研究開発が加速している状況です。

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