超短パルスレーザー

超短パルスレーザーとは超短パルスレーザー

超短パルスレーザーは、ひとつのパルス幅(時間幅)が数ピコ秒から数フェムト秒のレーザーのことを指します。ピコ秒とは、時間単位のひとつであり、約1兆分の1秒です。一方、フェムト秒も時間単位のひとつであり、約1000兆分の1秒です。

光は、1秒間に約30万kmを進むとされています。しかし、1ピコ秒における光の進む距離は、約0.3mmで、1フェムト秒における光の進む距離は、約0.3umとされています。

このことから、超短パルスレーザーは、時間幅が非常に短いパルスのレーザーであることが分かります。また、パルスとは、短時間に大きな変化をする信号の総称のことをいいます。

超短パルスレーザーは、その極めて短いパルス性によりレーザー加工部の周辺に熱の影響をほとんど与えません。さらに、多くの材料に対して、高品質なレーザー加工が可能です。

超短パルスレーザーの使用用途

超短パルスレーザーは、ピーク強度が高く、分子が多光子を吸収し「イオン化を引き起こす多光子イオン化」もしくは「光の強い電場によるトンネルイオン化」に伴う非線形吸収により、透明材料に対しても強い吸収を生じさせることができます。

そして、フェムト秒レーザー光を透明材料の内部で、集光することにより材料内部の3次元加工が可能となります。

また、加工の対象となる材質には、硬度の高いダイヤモンドから硬度の低いガラス、柔らかい樹脂、複合材、石英、セラミックまでがあり、幅広く取り扱うことができます。

超短パルスレーザーは、熱をほとんど与えないため、バリが生じず、ミクロン単位での調整ができます。そのため、穴あけやトリミング、マイクロテクスチャなどの繊細な加工が可能となります。

さらに、フェムト秒パルスレーザーは、ピコ秒パルスレーザーよりも精密な加工を施すことができます。

しかし、ナノ秒パルスレーザーは、熱による影響を少なからず与えてしまうため、バリが生じる可能性があります。

超短パルスレーザーの原理

レーザーの発振方法には、大別して連続発振とパルス発振の2種類があります。連続発振の仕組みを有するレーザーをCW(Continuous Wave)レーザーと呼び、レーザーが連続的に発振を行います。

そして、もう一方をパルスレーザーと呼び、レーザーが断続的に発振を行います。

また、パルス発振には、直接変調法や外部変調法、Qスイッチ法、モード同期法などの仕組みがあり、それぞれの発生するパルス幅が異なります。

超短パルスレーザーでは、一般的にパルス幅がピコ秒とフェムト秒を取り扱うモード同期法が用いられています。時間と周波数のあいだのフーリエ変換関係により、超短パルスを生じるためには、十分なスペクトルの広がりと、その位相が一定関係でなければなりません。この条件を生み出す最適な方法として、モード同期法が活用されています。

モード同期法

モード同期法には、一般的に強制モード同期と受動モード同期(自己モード同期)の2種類があります。

  • 強制モード同期

    強制モード同期は、レーザー共振器のなかに損失、もしくは位相の変調器を置き、変調周波数を縦モード間隔に合わせることで、モード間の位相を同期する方法です。

  • 受動モード同期

    受動モード同期は、共振器のなかに可飽和吸収体を変調器の代わりに入れます。これにより、パルスの先端部分は、吸収体によって削られます。後端部分がレーザー媒質の飽和によって削られることで超短パルスが得られます。

超短パルスレーザーの価格

超短パルスレーザーは、パルス幅がピコ秒以下、フェムト秒領域になり、その構造ゆえに高額なレーザーの部類に入ります。

発振波長は、基本波である1ミクロン帯の赤外から、2倍波のグリーン、3倍波の紫外まで用途に応じて様々な仕様があります。また、微細加工に適したものから理科学研究用のものまであり、一般的に数千万円の価格帯となります。

超短パルスレーザーの歴史

レーザーは、1960年代に初めてルビーレーザーと呼ばれるパルス発振のレーザーが開発されました。当時のルビーレーザーは、ノーマル発振に区分されており、出力が短パルスでした。しかし、Qスイッチ法が開発されて以来、実用的なレーザーとなり、昨今でも活用されています。

Qスイッチ法

Qスイッチ法は、主にパルス幅がus(マイクロセカンド)からns(ナノセカンド)までを取り扱います。Qスイッチ法によるレーザーの出力は、パルス発振を用いており、短い時間で、一気に大きな出力を得る方法です。

この方法では、レーザーの結晶が反転分布し、大きくなるまでQ値を低くすることにより、レーザーの発振を制限しています。そして、反転分布が一定の大きさに達した際に、Q値を高くすることで強いパルス光を生じます。

主に電子部品や半導体部品の加工に使用されています。

上記のようにQスイッチ法が確立されたことで、ルビーなどを母体に用いた固体のレーザーよりもピークパワーが向上し、単一での高出力なナノ秒パルスを再現できるようになりました。

その後は、1965年にルビーレーザーが改良され、1966年には、ガラスレーザーにおいて、可飽和吸収体によるモード同期発振が実現しました。これによりピコ秒でのレーザー出力が可能となりました。

そして、1968年には、出力されるパルスを外部から圧縮することで、サブピコ秒のレーザー出力が実現しています。

また、1970年代には、ピコ秒の全盛期時代が到来します。この時期にYAGレーザーや色素レーザーが出現し、パルス動作の速いモード同期が活用され始め、実用的なピコ秒レーザーが使用できるようになりました。

さらに、1974年には、連続励起色素レーザーによって、サブピコ秒パルスの直接発生が実現しました。

YAGレーザー

YAGレーザーは、その名前にも使用されているイットリウム(Y)とアルミニウム(A)、ガーネット(G)などの結晶に強い光を与えることで、励起し、レーザー光を得る方法です。

この方法では、電極などを使用しないため、管理が楽になり、短時間での加工や加工の自動化が容易になります。

色素レーザー

色素レーザーは、液体レーザーと呼ばれるレーザーの一種で、アルコールや水などに染料を溶かすことにより、レーザーの媒質にしています。このレーザーは、波長の範囲が広く、連続的な波長の可変が可能です。また、応用範囲も広く、ガンの治療やウランの濃縮などに活用されています。

1981年には、衝突パルスモード同期という方法が開発され、フェムト秒時代が幕を開けます。そして、1982年には、パルス圧縮法が開発されたことでパルス幅が短縮されました。

その後、1990年代に突入すると、自己モード同期によるチタンサファイアレーザーが開発され、安定的で高性能なフェムト秒レーザーの普及が進みました。

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