酸化クロムとは
酸化クロムとは、クロムの酸化物です。
クロムの酸化数によって異なる化合物が存在しますが、単純に酸化クロムと呼ぶ際には酸化クロム (III) のことが多いです。酸化クロム (III) 以外にも、酸化クロム (II) 、酸化クロム (IV) 、酸化クロム (VI) があります。
クロムの酸化物の中では、酸化クロム (III) が最も安定です。酸化クロム (III) は、労働安全衛生法で「名称等を表示すべき危険有害物」に指定されており、PRTR法では「第1種指定化学物質」に該当します。
酸化クロムの使用用途
酸化クロム (III) は、酸やアルカリに対して非常に安定な化合物であり、融点が2,300℃と極めて高く、熱に対してもとても安定です。この特徴を活かし、主に耐火物の原料に使用されています。
その他、ガラスや布地に緑色を着色するための顔料、研磨剤、セラミックの成分としても利用可能です。また、化学用途として、水素化、水素化分解および他の多くの有機変換反応の触媒としてや他のクロム塩の合成にも使用されます。
酸化クロムの性質
酸化クロム (II) は黒色の粉末で、水に溶けません。希硫酸や希硝酸に不溶ですが、塩酸には溶けて水素が発生して青色溶液になります。また、化学的に不安定です。空気中で酸化すると酸化クロム (III) に変わり、加熱によって金属クロムと酸化クロム (III) に不均化します。
その一方で、酸化クロム (III) は非常に安定です。酸やアルカリに溶けず、臭素酸アルカリ水溶液と加熱すると溶けます。酸化クロム (IV) は黒色の粉末で、強磁性を示し、水に溶けません。
酸化クロム (VI) は赤色の結晶で、潮解性があり、毒性が非常に強いです。水に溶けると、クロム酸や二クロム酸を生じます。250°Cで分解すると酸素が発生して、酸化クロム (III) になります。
酸化クロムの構造
化学式は酸化クロム (II) がCrO、酸化クロム (III) がCr2O3、酸化クロム (IV) がCrO2、酸化クロム (VI) がCrO3です。酸化クロム (III) は、六方晶系のコランダム型構造を有し、酸化物イオンが六方最密充填構造を取り、八面体形の間隙の3分の1をクロムイオンが占有しています。
酸化クロム (IV) は、正方晶系のルチル型構造を持っています。酸化クロム (VI) は、斜方晶系の針状結晶です。
固体中で四面体形構造のクロム原子は、頂点を共有しながら鎖状に並んでいます。各クロム原子は隣のクロム原子と、酸素2個を共有しています。
酸化クロムのその他情報
1. 酸化クロムの合成法
クロムアマルガムを空気や硝酸と反応させて酸化すると、酸化クロム (II) が生成します。水素やエタノールを赤熱した酸化クロム (III) と反応させても、酸化クロム (II) が得られます。塩化クロム (II) と炭酸ナトリウムを混ぜて熱するか、クロムカルボニルの熱分解でも生成可能です。
酸化クロム (III) は、クロム鉄鉱からNa2Cr2O7を経由して、高温で硫黄により還元すると製造できます。硝酸クロムなどのクロム塩の分解や二クロム酸アンモニウムの加熱分解でも生成可能です。
酸化クロム (VI) は、硫酸でクロム酸ナトリウムや二クロム酸ナトリウムを処理すると生じます。
2. 酸化クロムの反応
酸化クロム (III) は、両性酸化物です。酸には水和クロムイオンである[Cr(H2O)6]3+になり、濃アルカリには亜クロム酸イオンであるCrO2–や[Cr(OH)6]3-になって溶解します。炭素やアルミニウムの微粉末とともに熱すると、金属クロムに還元されます。塩素や炭素と熱すると塩化クロム (III) が得られ、空気中で他の金属酸化物を酸化するとクロム酸塩を生成可能です。
酸化クロム (VI) は酢酸やアセトンに溶かして、酸化剤として合成反応に利用されます。酸化クロム (VI) を用いた酸化反応では、1.5等量のアルコールを対応するアルデヒドやケトンに変えます。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1308-38-9.html