被膜剤とは
被膜剤とは、対象物の表面に被膜を形成して外界からの影響を低減する機能を持つ薬剤です。
大きく分けて主に医療分野で皮膚を保護する目的の被膜剤と、工業分野で金属材料などの表面を保護する目的の被膜剤の2種類があります。この記事では、工業分野で使用する被膜剤を解説します。
被膜剤は対象物同士の潤滑性を高める目的でも使用されており、挿入や結合の際の摩擦を低減するのに効果的です。例えば、自動車の等速ジョイントなどに使用されています。
被膜剤の使用用途
被膜剤は、対象物の表面に被膜を形成し、外界からの影響を低減する機能を持っています。一番身近な例は、水の影響を低減する撥水機能を持つ被膜剤です。また、被膜剤は対象物の表面を保護する対象物同士が接触する場合の摩擦を減らす目的でも使用されています。この用途の最もメジャーなのは、自動車の分野です。
1. 撥水効果のある被膜剤
撥水効果のある被膜剤は雨具の撥水性を高めるのに使用されており、製品として製造する過程でも使用されていますが、撥水効果が薄れてきた場合に使う一般用としても販売されています。一般販売されている撥水性を持たせる被膜剤は撥水スプレーなどとして流通しており、だれでも入手可能です。
2. 自動車関連の表面保護および摩擦低減する被膜剤
表面保護および摩擦低減する被膜剤は、自動車の等速ジョイントの保護に好適です。等速ジョイントは、エンジンからの動力をタイヤに伝える仕組みを有しており、摩擦だけではなく、焼付きなどによる耐荷重能も考慮しなければなりません。そのため、耐荷重能も有している被膜剤であるモリブデングリースなどを使用して、性能を保持しています。
また、この特性を持つ被膜剤は、褪色したモールや樹脂部分などの補修にも好適です。自動車のサイドミラーやドアバイザー、ワイパーアーム、レンズ・モールなどは、樹脂を加工して成形されているため、経年劣化により傷や褪色が発生します。被膜剤は、表面の傷に入り込むため、褪色した表面に光沢を与え、美観を向上するだけではなく、新しく生じる小さな傷を保護する性能も有しています。
3. その他の分野で表面保護および摩擦低減する被膜剤
表面保護および摩擦低減をする被膜剤は、耐火物のスポーリング防止にも好適です。高温下で使用される耐火レンガやキャスタブル耐火物などは、熱伝導率が大きくないため、急熱急冷が生ずると、内外の温度差により破壊されてしまいます (スポーリング現象) 。こうした問題を防ぐために被膜剤を塗布することで、耐熱性の向上や膨張の抑制、急冷の防止などの効果を得ることが可能です。
最後に、被膜剤を伸線加工の前処理工程で使用する場合を解説します。伸線加工は金属の延性や展性を利用することで、被加工材を棒や線、もしくは管状に引き抜く加工方法です。伸線加工では、線材表面の反応性を高めるために脱スケールが必須です。
しかし、その際に塩酸や硫酸などを使用して、酸洗いが必要となり、スラッジが生じたり、錆が発生するなどの問題が発生します。伸線加工時の被膜剤は、主にダイスを通して伸線される際に、潤滑剤を引き込みやすくする目的で使用されますが、上記に挙げた問題を解決するために新しい被膜剤の開発も進められています。
被膜剤の原理
被膜剤は液体や固体、粉体の形状を有している製品が一般的です。被膜剤は、スプレーやビンなどの容器に充填されて販売されており、製品ごとに撥水や保護、耐熱、潤滑などの機能が表示されています。
その原理は、対象物の表面を保護する観点では表面被覆の原理とほぼ同様です。表面被覆は、対象物表面に膜を形成して表面から侵入してくる劣化因子を遮断して対象物を保護する仕組みです。被膜剤も同様の原理で対象物を保護しています。なお、劣化因子には、水や酸素、塩分、炭酸ガスなどが挙げられます。
被膜剤のその他情報
被膜剤の活用
被膜剤は、「被膜剤の使用用途」で述べた撥水加工や自動車分野以外の分野で使用される以外に、耐火物のスポーリング防止や伸線加工の前処理工程にも使用されています。順番に解説します。
1. 耐火物分野での使用
高温下で使用される耐火レンガは、熱伝導率が大きくありません。そのため、急熱急冷が生ずると内外の温度差により破壊されるスポーリング現象が生じます。被膜剤を塗布すれば、耐熱性の向上や膨張の抑制、急冷の防止などが可能です。
2. 延線加工分野での使用
伸線加工は金属の延性や展性を利用して、被加工材を棒や線、もしくは管状に引き抜く加工方法です。伸線加工では、線材表面の反応性を高めるために脱スケールを行っています。
しかし、その際に塩酸や硫酸などを使用した酸洗いを行うため、錆が発生する問題が生じます。この際、被膜剤を利用すれば、表面の錆の発生を防止可能です。
被膜剤はもともと、主にダイスを通して伸線する際にダイスに引き込みやすくするために使用されていました。しかし、上記のような効果も期待できることから、両方の効果に優れた新しい被膜剤の開発も進められています。