尿素SCRシステムとは
SCRとは「選択接触触媒還元脱硝法:Selective Catalytic Reduction」と「シリコン制御整流素子:Silicon Controlled Rectifier」を総称します。
主に尿素SCRは、前述した選択接触触媒還元脱硝法のことを指します。選択接触触媒還元脱硝法は、ディーゼル機関が排出する窒素酸化物(NOx)を浄化する仕組みです。2022年現在、この方法は、主に尿素水溶液を使用しており、尿素SCR、もしくは尿素SCRシステムと呼びます。
シリコン制御整流素子は、スイッチング特性があり、3端子の4層構造を有しており、電力制御回路に使用されています。
以下のトピックより、選択接触触媒還元脱硝法は、SCR法と略称して表記します。
尿素SCRシステムの使用用途
2022年において尿素SCRは、自動車や船舶、火力発電所などの排気ガス処理で使用されています。しかし、1989年ごろは、ディーゼル車において、まだ研究段階であり、この方法をディーゼル車へ適用する試みが、辻村氏・他3名により「日本機械学会論文集, NO.890-50 (1989-10), p.348」にて行われました。また、1992年には、ディーゼルエンジン用の後処理システムに対する研究動向を酒井氏が「日本機械学会誌, 95巻, 882号, 1992年, p.405-409」にて報告しています。
2004年までは、自動車での実用化は、行われていませんでした。同年に、株式会社日産ディーゼル工業(現:UDトラックス株式会社)が、世界で初めて尿素SCRシステム(名称:FLENDS)を自動車に組み込み、実用化しています。
2003年10月1日(2006年4月1日より新基準による規制)より開始したディーゼル車の排出ガス規制もあり、尿素SCRの需要は、これからも拡大していくことが予想されます。
尿素SCRシステムの原理
尿素SCRシステムは、まず、排気ガスを酸化触媒に通すことで、NOからNO2に変化させます。ここでCOやHCの低減が行われます。次に、SCR触媒の前段階の排気ガスに対して、尿素水を噴射制御ユニットから噴射し、尿素が加水分解したことで生じたNH3を還元剤として利用します。そして、SCR触媒上で、NH3が、NOxと反応することで、NOxを無害なN2に変化させます。最後に、酸化触媒を通過して、NH3が低減されます。酸化触媒は、アンモニアスリップ用として活用されます。アンモニアスリップとは、排ガスが低温時にアンモニアが残存する、もしくは外気中に排出されてしまう現象です。
尿素SCRは、高品位な尿素水溶液が必要不可欠です。なぜなら、不純物が混在している場合に、堆積物の原因や正常な還元の妨げになるためです。高品位尿素水としては 「AdBlue:アドブルー」が、一例として挙げられます。AdBlueは、ドイツ自動車工業会(VDA)が、商標として登録している製品です。日本国内においても多く利用されています。しかし、AdBlueは、さまざまな要因が重なり、2021年12月に日本国内において品薄の状態に陥りました。一般的なディーゼル車は、尿素水の供給が断たれてしまうと再始動ができないため、物流業界などが大きな影響を受けました。
また、尿素水を製造するためには、原料である尿素が必要です。尿素は、一般的にガス状態のアンモニアと二酸化炭素を高温高圧の条件下におくことで合成しています。そして、このほかの方法として、2020年、東京工業大学が、排水中などに含まれるアンモニア(炭酸塩類)から尿素の合成に成功したことを発表しました。近年は、個体で安定的な水素キャリアとしても注目を集めています。この研究は、2020年2月18日にネイチャーリサーチ社の科学雑誌「Scientific Reports」において「論文タイトル:Organic bases catalyze the synthesis of urea from ammonium salts derived from recovered environmental ammonia」として公開されています。
以上のことから、尿素SCRは、今後の課題として尿素水の安定的な供給を検討する必要があります。しかし、さまざまな研究と開発が行われているため、インフラが整備されるのも時間の問題ではないでしょうか?