ピネン

ピネンとは

ピネンの異性体群

図1. ピネンの異性体群

ピネン (英: Pinene) とは、化学式がC10H16で表される有機化合物で、環状テルペン系炭化水素の一種です。

ピネンは六員環と四員環からなる構造をしており、二重結合の位置が異なるα-ピネンとβ-ピネンの2つの構造異性体が存在します。α-ピネンは1位と6位に、β-ピネンは1位と7位の位置に、二重結合がある化合物です。更に、これらの構造異性体は、それぞれが2種の鏡像異性体をもつため、ピネンには合計4種の異性体が存在することになります。CAS登録番号は、混合物: 1330-16-1、(1R)-(+)-α-ピネン体: 7785-70-8、(1S)-(−)-α-ピネン: 7785-26-4、(1R)-(+)-β-ピネン: 19902-08-0、(1S)-(−)-β-ピネン: 18172-67-3です。

ピネンの名称はマツ (英: pine) に由来し、その名の通り松脂や松精油の主成分です。その他にも多くの針葉樹に含まれ特有の香りのもととなっています。分子量は136.24であり、水に不溶ですが、酢酸エタノールアセトンには任意に混和します。

ピネンの使用用途

α-ピネンは、香料や医薬品の原料として広く使用されている化合物です。合成樟脳・テルピネオール・ペリラルデヒドの原料として用いられています。また、塗料などの溶剤としても利用されています。

また、ピネンの熱分解によって製造されるミルセンは、メントール・シトラール・ゲラニオール・ネロール・リナロール等の原料です。香料工業において広く用いられています。

α-ピネンとβ-ピネンをカチオン重合することによって生成された各種のテルペン樹脂は、接着剤や粘着剤の製造に用いられています。

ピネンの性質

1. ピネンの生合成と精製

ピネンの生合成経路においては、α体、β体ともにゲラニル二リン酸が出発原料です。リナロイル二リン酸の環化を経て骨格が完成し、最終段階で脱離するプロトンの位置によってα体とβ体に分かれます。

ピネンは、多くの精油に含まれており、テレビン油の主成分でもあります。テレビン油を分留することで、α-ピネンおよびβ-ピネンの両方が得られますが、α-ピネンは、β-ピネンと比べて、非常に多く得られることが特徴です。

α-ピネン
αピネン

図2. α-ピネン

α-ピネンは、融点 -55℃、沸点156℃であり、常温では無色透明な液体です。臭いは松の特異臭と形容され、比重は0.8592g/mLです。

α-ピネンの四員環は反応性が高く、特に酸性条件ではワーグナー・メーヤワイン転位が容易に進行することが知られています。また、希硫酸または無水酢酸条件ではテルピネオール誘導体やテルピンが、塩酸条件ではボルネオールまたはリモネンの骨格をもつ塩化物が生成します。

β-ピネン
βピネン

図3. β-ピネン

β-ピネンは、融点 -61.5℃、沸点166℃であり、常温では無色透明な液体です。臭いは特徴のあるテレビン油臭と形容され、比重は0.87g/mLです。β-ピネンは、ローズマリーやパセリ、バジル、イノンド、バラなどに含まれていることが知られています。

ピネンの種類

製品として市販されているピネンには、研究開発用試薬や、溶剤・香料原料などとして販売されている工業用途品などがあります。

研究開発用試薬製品は、鏡像異性体の混合物としてα-ピネン/β-ピネンとして販売されている場合や、それぞれの純物質として販売されている場合があります。容量の種類は、5mL、25mL、500mLなどです。通常、室温保管可能な試薬製品として取り扱われます。

工業用途で販売される場合は、テルペン油溶剤の一種として、販売されます。工場などでの需要に合わせ、15kg缶、170kgドラム缶など、大型の荷姿で共有されることも多い物質です。α-ピネン/β-ピネンなどと表記され、鏡像異性体の混合物として販売されていることが多いです。

ピネンのその他情報

ピネンの安全性情報と法規制

ピネンは、α-ピネン、β-ピネン共に、消防法では第4類引火性液体、第二石油類非水溶性液体に指定され、労働安全衛生法では危険物・引火性の物に指定されています。法令を遵守した適切な取り扱いが求められる物質です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-2124JGHEJP.pdf
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-1971JGHEJP.pdf

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