パラチオンとは
パラチオン (英: Parathion) とは、強い殺虫作用を持つ有機リン酸エステル系の農薬です。
ニカメイチュウやシンクイムシ類に有効であり、稲、小麦、野菜、果樹、綿等に使用されていました。しかし、人体に対する強い毒性と環境に対する有害性から、現在では農薬として使用することはできません。
「毒物及び劇物取締法における特定毒物」に指定されており、製造および使用が禁じられています。
パラチオンの使用用途
パラチオンは、主に農薬として使用されていた有機化合物です。0.05%~0.1%程度の低濃度溶液として稲、小麦、野菜、果樹、綿等に散布して使用されていました。
ニカメイチュウやシンクイムシ類などの害虫に対して、高い殺虫効果を有します。本剤が害虫体内に吸収されるとコリンエステラーゼ活性が阻害され、神経伝達物質であるアセチルコリンが蓄積し、その結果殺虫効果が発現します。
しかし、パラチオンは人体およびその他の哺乳類・鳥類・水棲生物・昆虫に対して非常に毒性が高いことから、現在では農薬としての使用は禁止です。日本、アメリカ、ヨーロッパ等にて、主要な農作物に対してパラチオンの残留基準が設定されています。
現在、試薬メーカーから販売されているパラチオンは、農薬用途ではなく、残留農薬の試験用試薬用途です。残留農薬試験用試薬としてパラチオンを購入し使用する際には、「毒物劇物取締法に基づく特定毒物研究者指定証」が必要です。
パラチオンの性質
化学式 | C10H14NO5PS |
日本語名 | パラチオン |
英語名 | Parathion |
CAS番号 | 56-38-2 |
分子量 | 291.26g/mol |
融点/凝固点 | 6 ℃ |
沸点 | 375 ℃ |
パラチオンはエステル、アルコール、エーテル、ケトン、芳香族炭化水素などに良く溶ける性質を持っています。水への溶解性は24mg/Lと低いです。
室温では結晶または溶液で、ニンニク類似臭またはフェノール類似臭の独特の臭いを有します。化学的安定性としては、通常の取り扱い条件下では安定です。
また、パラチオンは120℃で引火し、さらに、200℃以上に加熱されると有毒な気体 (一酸化炭素、窒素酸化物、リン酸化物、イオウ酸化物など) を発生させます。パラチオンを使用・保管する際は、火花や熱源などの着火源から遠ざけ、直射日光を避け冷暗所で保管するようにしてください。
パラチオンのその他情報
1. パラチオンの有害性
パラチオンは、「毒物及び劇物取締法における特定毒物」に指定されている化合物です。パラチオンの危険有害性に関する情報として、発がん性、生殖毒性、神経系および視覚器への毒性、経口・経皮・吸入での急性毒性が確認されています。
また、パラチオンの水生環境有害性として、急性および長期間の水生生物への強い毒性があります。
2. パラチオンの安全注意情報
パラチオンは「特定毒物」に指定されており、購入・使用する場合は「毒物劇物取締法に基づく特定毒物研究者指定証」が必要です。パラチオンを使用する際は、厚生労働省が公開している職場のあんぜんサイトに掲載されている安全データシートをよく確認してから作業を開始してください。
経口・経皮・吸入での急性毒性および眼への刺激・毒性を有する化合物であるため、使用する際には保護眼鏡・保護手袋・呼吸用保護具・保護衣を着用し、眼・皮膚・呼吸器を保護した状態で作業してください。また、パラチオンを取り扱う際の設備対策として、取り扱い場所の近くに洗眼および身体洗浄剤のための設備を設け、よく換気された環境で使用することが推奨されています。
3. 廃棄処分方法
パラチオンは周辺環境に対する毒性が強いため、環境中に放出してはならない化合物です。パラチオンを廃棄処分する場合は、内容物および容器を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄する必要があります。
4. パラチオンの別名
パラチオンの別名は、エチルパラチオン、ジエチル-パラ-ニトロフェニルチオフォスフェイト、O,O-ジエチル-O-(4-ニトロフェニル)ホスホロチオアートなどがあります。また、ドイツ企業でのパラチオンの商品名はホリドールです。
厚生労働省による職場の安全データシートや日本国内の大手試薬メーカーのウェブサイトでは、主に「パラチオン」の名称が使用されています。