サリチル酸とは
図1. サリチル酸の基本情報
サリチル酸とは、皮膚疾患の外用薬や鎮痛内服薬として用いられている化合物です。
ただし、そのままサリチル酸を服用すると、消化器障害の副作用により、腹膜炎の原因になる場合があります。ベータヒドロキシ酸の1種であり、植物ホルモンの1つです。
サリチル酸は、化学合成が比較的容易な物質です。天然にも広く存在しており、具体的にはシモツケやシモツケソウに多く含まれています。サリチル酸のエステルであるサリチル酸メチルの形でも、冬緑油や白樺油などの植物精油に存在しています。
サリチル酸の使用用途
サリチル酸には、殺菌作用、消炎鎮痛作用、皮膚の角質軟化作用があります。そのため、医薬の分野で主に皮膚疾患の外用薬として利用される場合が多いです。また、サリチル酸の誘導体であるアセチルサリチル酸は、サリチル酸の鎮痛効果を保ちつつ、内服時の副作用が軽減されているので、鎮痛内服薬として広く使用可能です。
さらに、角質除去を目的として洗顔料などにも配合されているほか、染料中間物や防腐剤としても利用されています。かつては食品にも防腐剤として使われていましたが、現在は食品添加物としての使用はできません。
サリチル酸の性質
サリチル酸は常温常圧で固体で、昇華性のある無色の針状結晶です。融点は159℃で、2.6kPaでの沸点は約211℃であり、引火点と発火点はそれぞれ157°Cと545°Cです。
エタノール、エーテルに溶けやすく、水に溶けにくいです。無臭でわずかな酸味があります。
サリチル酸の構造
サリチル酸は、ベンゼンの持つ1個の水素原子がカルボキシ基に置換され、カルボキシ基のオルト位にある1個の水素原子が水酸基に置換された構造をしています。
化学式はC7H6O3で、モル質量は138.12g/molです。示性式はHOC6H4COOHで、密度は1.443g/cm3です。
サリチル酸のその他情報
1. サリチル酸の合成法
図2. サリチル酸の合成
サリチル酸は比較的簡単な化学構造を有するので、ヤナギから抽出する必要はなく、全合成が容易です。工業的には、高温高圧下でナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を反応させた後、さらに硫酸や塩酸を加えることでサリチル酸を遊離させています。
この一連の反応を利用したサリチル酸の製法は、コルベシュミット法 (英: Kolbe-Schmitt reaction) と呼ばれています。それに対して、同条件でカリウムフェノキシドと二酸化炭素を反応させると、カルボキシ基をパラ位に導入可能です。
パラヒドロキシ安息香酸が、およそ90%生成します。メチルエステルからブチルエステルまではパラベンと呼ばれており、防腐剤として利用されています。
2. サリチル酸の反応
図3. サリチル酸の反応
フェノール性の水酸基を有するサリチル酸は、塩化第二鉄の水溶液により青~赤紫色の呈色反応を起こします。無水酢酸との反応によってアセチル化して、アセチルサリチル酸が生成します。アセチルサリチル酸は代表的な解熱鎮痛剤の1つです。
非ステロイド性抗炎症薬の代名詞と言われる医薬品であり、消炎、解熱、鎮痛、抗血小板作用などを有しています。
3. サリチル酸の作用
サリチル酸の作用の1つは、AMP活性化プロテインキナーゼ (英: 5′ adenosine monophosphate-activated protein kinase) の活性化です。サリチル酸やアスピリンの一部の効果を、説明できると言われています。
4. サリチル酸の代謝
ヒトに投与されたサリチル酸は、代謝されずにそのまま腎臓から尿中に排泄される場合もあります。例えば、大量のアセチルサリチル酸を服用した中毒時など、ヒトの血中にサリチル酸が多く含まれている状態になっても、尿中に大量のサリチル酸を排泄可能です。
特に尿のpHがアルカリ側に傾いた場合には、尿中のサリチル酸の排泄量が増加します。尿中に50μg/ml以上のサリチル酸が存在する場合には、塩化第二鉄水溶液によって呈色反応が起きます。