酢酸ビニルとは
図1. 酢酸ビニルの基本情報
酢酸ビニルとは、ビニルアルコールと酢酸のエステルです。
ビニルアセタート (英: vinyl acetate) とも呼ばれています。無色透明の可燃性液体です。甘い香りやかすかな刺激臭があります。有機合成原料、PVA (ポバール、ポリビニルアルコール) 、塗料などに利用可能です。
酢酸ビニルの製法は1912年に発見されたアセチレン法から始まり、エチレン法、エチリデンジアセタート法と推移しています。なお、酢酸ビニルモノマーの生産拠点は、米国、中国、日本、台湾に集中しています。
酢酸ビニルの使用用途
酢酸ビニルは、主にポリ酢酸ビニルとポリビニルアルコールを製造するために使用されます。これらのポリマーは、さまざまな工業製品やコンシューマー製品で使用可能です。
ポリ酢酸ビニルは、塗料、接着剤、人工芝、義歯安定剤、ガムペースト、ワイヤー、自動車用プラスチック燃料タンク、食品包装容器等に幅広く利用されています。
その一方で、ポリビニルアルコールは、液晶ディスプレイの偏光板原料、繊維加工、紙加工剤、乳化分散剤、セラミックバインダー等に利用可能です。
酢酸ビニルの性質
酢酸ビニルの融点は−100.2°Cで、沸点は72〜73°Cです。光や熱によって容易に重合して、ポリ酢酸ビニルが生成します。そのため、ヒドロキノン (英: hydroquinone) のような重合禁止剤が微量に含まれています。
実験で用いる場合には、重合禁止剤を除去するため、精製が必要です。酢酸ビニルを希酸やアルカリで加水分解すると、酢酸とアセトアルデヒドが生じます。酢酸ビニルは紫外線で分解して、ケトン、アルデヒド、アルコールなどが生成します。
酢酸ビニルは、酢酸とビニルアルコールから構成されるエステルです。分子式はC4H6O2と表されます。分子量は86.09で、比重は0.9312です。
なお、国際がん研究機関によると、酢酸ビニルは「ヒトへの発がん性が疑われる物質」に分類されています。10,000ppmでマウスに食道がんが見られたと報告例があります。ただし、ヒトに対して発がん性が現れる証拠は得られていません。
酢酸ビニルのその他情報
1. 酢酸ビニルの合成法
図2. 酢酸ビニルの合成
工業的に酢酸ビニルは、パラジウム触媒の存在下で、エチレンと酢酸の酸素との反応によって合成されます。この反応はワッカー酸化 (英: Wacker oxidation) と呼ばれています。
酢酸ビニルは金属触媒の存在下で、アセチレン (英: acetylene) に酢酸を付加して製造可能です。1912年に水銀 (II) 触媒を使用して、フリッツ・クラッテ (英: Fritz Klatte) によって合成されました。現在では、触媒に酢酸亜鉛が選択されています。
それ以外にも、エチリデンジアセテート (英: ethylidene diacetate) の熱分解によって、酢酸ビニルが生成します。
2. ポリ酢酸ビニルの合成
図3. ポリ酢酸ビニルの合成
酢酸ビニルのラジカル重合によって、ポリ酢酸ビニルが得られます。ポリ酢酸ビニルは、無色透明の熱可塑性樹脂です。エチレンと酢酸ビニルをモノマーとして用いることで、エチレン酢酸ビニルコポリマーが合成できます。
エチレンと酢酸ビニルの共重合体であり、酢酸ビニルユニットの接着性と柔軟さを有する合成樹脂です。紙容器類のコーティング材や布・紙ラベルの接着剤を代表として、多種多様な用途があります。それに加えて、ポリ酢酸ビニルの酢酸エステル結合を加水分解して、ポリビニルアルコールが生成します。
ポリビニルアルコールは、親水性が高い合成樹脂です。ビニルアルコール (英: vinyl alcohol) は分子構造が不安定であり、モノマーとして重合ができません。したがって、酢酸ビニルを経由して、ポリビニルアルコールは製造されます。