アクロレインとは
図1. アクロレインの構造
アクロレイン (Acrolein) とは、炭素-炭素二重結合を有する、不飽和アルデヒドの一種です。
IUPAC命名法では、 2-プロペナール (2-propenal) と表記されます。また、慣用名には、アクリルアルデヒド (acrylic aldehyde) 、プロペンアルデヒド (propenaldehyde) などの名称があります。示性式は、CH2=CHCHOです。
アクロレインは分子量56.06、融点-88℃、沸点53℃です。常温では無色若しくはやや黄色みがかった液体であり、強い刺激臭を持ちます。水に可溶で、溶解度は20g/100mL (20 ℃) です。
また、アクロレインは、油脂の熱分解の際に生成されます。強い刺激臭を持ち、有毒です。引火性も高く、熱や火花などで容易に発火します。
このため、各種法令では、以下のように指定されています。
- 毒物及び劇物取締法: 劇物
- 消防法: 第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体
- 労働安全衛生法: 有害物表示対象物
多くの法規制が適用されているため、取り扱いの際は注意が必要です。
アクロレインの使用用途
アクロレインは、グリセリンやアリルアルコールの合成原料として使用されます。また、繊維処理剤や架橋結合剤などのほか、メチオニンなどの医薬品合成時の原料にも使われています。コロイド状オスミウ ム、ロジウム、ルテニウムの製造、溶剤、抽出も用途の一つです。
アクロレインは、塗料に含まれる樹脂成分にも使用されていた歴史を持ちますが、現在はシリコン樹脂塗料が主流になったことから、ほとんど使用されていません。
また、人体においては脳梗塞の発症時に血液中にアクロレインが増加することが知られています。脳梗塞においては、脳の血管が詰まり、周囲の細胞が壊れます。この際に、細胞から漏出したポリアミンがポリアミンオキシダーゼにより分解され、その結果、代謝物としてアクロレインが血中に増加するのです。そのため、アクロレインは、脳梗塞のリスク (無症状性脳梗塞) の検出を行うバイオマーカーとして、注目されています。
アクロレインの原理
アクロレインの原理を性質や合成方法、化学反応の観点から解説します。
1. アクロレインの性質
アクロレインは、分子内に炭素-炭素二重結合とアルデヒド基を持つ、最も構造が簡単な鎖式不飽和アルデヒド化合物です。CH2=CHCHOと表され、分子量は56.07、常温では無色または淡黄色液体であり、密度は 0.8389 (20 ℃) です。また、刺激臭を呈します。
反応性が高く、容易に重合して樹脂状の固体となります。特に光、アルカリ、強酸の存在下において不安定です。空気中でも酸化や重合が進行するため、ヒドロキノンなどの重合禁止剤が安定剤としてしばしば用いられます。
2. アクロレインの合成方法
図2. アクロレインの一般的な合成方法
アクロレインは、実験室的合成法では、グリセリンを硫酸水素カリウムなどの脱水剤を用いて脱水することで合成されます。一般的な工業的製法は、グリセリンの高温の蒸気を硫酸マグネシウムに通じる合成方法です。
3. アクロレインの化学反応
図3. アクロレインの反応の例
アクロレインは、求核剤の1,4-付加を受ける、α,β-不飽和カルボニル化合物です。マイケル付加反応のアクセプターとして、多くの反応の例があります。一例として、メチオニンの合成過程における、3-メチルチオプロパナールの生成反応が挙げられます。
尚、還元するとプロピオンアルデヒドを経てプロパノールを生成します。これは、アルデヒド基より先にオレフィン部分が還元されるためです。
アクロレインの種類
アクロレインは、不安定な化合物のため、あまり製造販売されていません。ただし、研究用試薬としては若干の流通があります。
研究用試薬としては、以下のような形状で市販されています。
- 100ug/mLまたは10mg/mL水溶液
- 100ug/mLもしくは1,000ug/mLのメタノール:水=9:1溶液
- 5.0mg/mLパラジオキサン溶液
非常に不安定な化合物のため、通常、冷蔵または冷凍試薬です。重合体や酸化体が生成して濁っている場合は、蒸留などによって精製した後、速やかに用いる必要があります。