塩素とは
塩素とは、元素記号がClで表されるハロゲン元素です。
一般的に塩素と呼ぶ場合には、塩素の単体である塩素分子 (Cl2) を指すことが多いです。塩素原子は、NaClやMgCl2のような金属の塩として主に存在しています。自然界だけでも1,500種類以上の塩素化合物があります。
工業的には、食塩水や融解塩化物の電気分解によって製造可能です。電気分解によって発生した塩素ガスは、高圧によって液体となり、ボンベやタンクに充填されます。
塩素の使用用途
塩素は水にかなり溶けやすく、水溶液には漂白作用と殺菌作用があります。この性質を利用して、水道水やプールの消毒、漂白剤などに使われています。ただし、塩素系の漂白剤を酸性の洗剤などと混ぜると有毒な塩素ガスを生じるため、取り扱いには注意が必要です。
塩素化合物は、プラスチック製品、工業部品、医薬品など、幅広い分野で利用されています。化学工業製品の基礎的な原料として、塩素は欠かせない物質です。
主に塩化ナトリウムの形で人体に摂取され、血液や体液の成分として存在します。特に、塩酸は胃酸の構成要素として、消化を促進する役割を担っています。
塩素の性質
塩素原子は電子親和力が大きいため、イオン化する場合には通常1価の陰イオンになります。常温で塩素分子は刺激臭のある、黄緑色の有毒な気体です。塩素分子の融点は−101°C、沸点は−34.1°Cです。化学的に非常に活発で、多くの物質と反応します。
なお、塩素の原子量は35.45、電子配置は[Ne] 3s2 3p5です。7から−1までの酸化数を取ります。塩素分子の分子量は70.90で、比重は2.49です。塩素分子の結晶構造は斜方晶系です。
塩素のその他情報
1. 地球上に存在する塩素
地球上には天然元素の中で、塩素は18番目に多く存在する元素です。気体、鉱物、イオンのような状態でマントル中に99.6%、地殻中に0.3%、海水中に0.1%含まれています。
地球の質量のおよそ6×1027gに対して、マントルには22×1024g、地殻におよそ60×1021gの塩素が存在すると考えられています。海水の平均塩素濃度は19.354g/kgです。そのため、およそ1.36×108km3の海水のうち、主に塩化ナトリウムの状態で、26×1021gの塩素が存在すると予想されています。
それ以外にも、河川水、湖水、地下水だけでなく、雪氷圏、対流圏、成層圏などにも、あらゆる形で塩素が含まれています。
2. 塩素の化合物
塩化物イオンまたは置換基として塩素を含んでいる化合物は、塩化物や塩素化合物と呼ばれています。塩素を含んだ有機化合物も多く知られており、ほぼすべての元素と塩素は安定な化合物を作ります。
しかし、塩素を含む多くの物質は毒性があり、環境中に放出されても分解されにくいです。焼却時にダイオキシンを生じるため、法令で規制されている化合物も多いです。
3. 塩素の同位体
塩素には、32〜40g/molの同位体が存在します。安定同位体は75.77%含む35Clと24.23%含む37Clの2つです。
環境中には放射性同位体である36Clが、わずかに存在しています。安定同位体に対する36Clの存在比は、およそ7×10-13です。宇宙線中の陽子と36Arの衝突で破砕して36Clが生成しているほか、地表では35Clの中性子捕獲や40Caのミュー粒子捕獲でも36Clが生成します。
36Clの半減期は30万8,000年であり、36Sや36Arに崩壊します。36Clは親水性で、不活性な同位体です。よって36Clは、6万年〜100万年の放射年代測定に役立ちます。その上、1952年〜1958年に実施された大気中核実験で、大量の36Clが海水から生じました。大気中の36Clの残留時間は1週間であり、過去50年間の地下水の年代を知ることも可能です。