乳酸

乳酸とは

乳酸とは、分子内にカルボキシル基 (-COOH) とヒドロキシ基 (-OH) の両方をもつヒドロキシ酸と呼ばれる有機化合物の1種です。

性状は無色〜淡黄色透明の粘性のある液体で、別名で2-ヒドロキシプロパン酸とも呼ばれます。

乳酸の使用用途

乳酸は、生分解性プラスチックの1つであるポリ乳酸やポリエステルポリオール等の原料として使用されています。また、医薬の原料として使用されている他、安定化剤、可溶化剤、緩衝材、pH調整剤などの医薬品添加物としても使用されています。

その他、食品工業でも広く利用されており、酸味料やpH調整剤等として、飲料や味噌、醤油、漬物、チーズ、香料、シロップなど、さまざまな食品に利用されています。化粧品や農薬、染色工業の還元剤、皮革加工用 (脱灰) なども用途の1つで、市販されているものとしては、40%、50%、90%品が主流です。

乳酸の性質

乳酸は分子量90.08で、無臭ですが、酸性でやわらかみのある酸味がある液体です。比重は1.207で、融点が16.8° (DL体) 、沸点が122℃、水、アルコール、エーテル等には非常によく溶けます。一方、クロロホルム、二硫化炭素、ベンゼンなどには不溶です。

乳酸は、生体内では解糖系代謝経路の最終産物であり、多くの動植物の組織に存在しています。また、乳の発酵物や食品にも多く含まれています。

急激な運動により筋肉細胞内で糖がエネルギー源として消費され、乳酸が蓄積します。筋肉に蓄積した乳酸が筋肉痛が発生する考えが以前からありましたが、最近では乳酸が原因物質ではないと言われています。

乳酸の種類

乳酸の分子式はCH3CH(OH)COOHであり、1つの炭素が4種の異なる原子、原子団 (乳酸の場合は、-H、-OH、-COOH、-CHM3) と結合しています。このような炭素を不斉炭素原子と呼び、不斉炭素原子をもつ化合物は分子式が同じでも構造的に異なっています。

鏡像異性体や光学異性体と呼ばれ、別の物質として扱われます (右手と左手の関係と同様) 。このため、乳酸には、L-乳酸、D-乳酸の2種類が存在し、これらの等量混合物をDL-乳酸と呼びます。L-乳酸、D-乳酸の融点はそれぞれ53℃ですが、DL-乳酸は16.8℃です。また天然にはL体が多く存在します。

乳酸のその他情報

1. 乳酸の製造方法

乳酸の製造方法には、乳酸菌等の微生物を用いる発酵法と、アルデヒドと青酸を出発原料として化学合成する方法があります。

発酵法
麦芽でデンプンを糖化し、これに炭酸カルシウムを加えて麦芽汁を作ります。麦芽汁に乳酸菌を加えて6~8時間発酵し、49℃で攪拌し続けると8~10日で発酵が完了します。その後、石灰乳を加えて弱アルカリ性にした後、再結晶により精製を行います。硫酸により再溶解させた後、ろ過、蒸発濃縮により工業用乳酸水溶液が得られます。

合成法
アセトアルデヒドに青酸を作用させ、シアンヒドリンを合成し、これを加水分解することで乳酸を合成します。

     CH3CHO + HCN → CH3CH(OH)CN
     CH3CH(OH)CN + 2H2O → CH3CH(OH)COOH +NH3

2. 乳酸菌について

乳酸菌は、炭水化物を分解して乳酸を産生する微生物の総称です。乳酸菌はヨーグルトやチーズ、バター、漬物、日本酒などの加工食品に含まれています。乳酸菌は食品工業にも応用されており、例えば赤ワインの醸造過程では、乳酸菌を利用してリンゴ酸を発酵除去して乳酸を作ることにより、酸味などの味を調えることが可能です。

このように、リンゴ酸が乳酸菌によって、乳酸と炭酸ガスに分解される反応を、マロラクティック発酵といいます。また、日本酒の醸造過程では、乳酸による酸性化を利用して雑菌の繁殖を防止するため、生酛醸造では乳酸菌を利用します。

一方、速醸酛では乳酸そのものを添加します。生酛系醸造では、乳酸菌の発酵によってできた乳酸を利用するため、微妙な味わいや香りが生産されますが、速醸酛による醸造では、発酵の過程でできる他の発酵産物による微妙な味わいや香りが失われるのが欠点です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/50-21-5.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/79-33-4.html

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