グリシンとは
図1. グリシンの基本情報
グリシンとは、側鎖が水素原子のみのアミノ酸です。
タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうちの一つで、その中で不斉炭素原子を持たない唯一のアミノ酸です。略号は、GlyあるいはGと表されます。
グリシンは様々な働きを持っており、人の体内で生成可能です。特に中枢神経系では不可欠な物質で、脊髄や脳幹に高濃度で存在しています。コラーゲンを構成する主要なアミノ酸であり、コラーゲン中の約3分の1を占めています。
グリシンの使用用途
グリシンは、金属を溶かしやすくする、キレート効果を持っています。この性質を利用して、精密機器などの洗浄剤、研磨剤として用いることが可能です。微生物により分解されやすいため、環境に優しいキレート剤と言えます。調味料や日持ちを向上させる手段として、さまざまな食品にグリシンを利用可能です。
それ以外にも、最も単純なアミノ酸であることから、他のアミノ酸の合成原料としても使われます。それに加えて、コラーゲン、ポルフィリン、グルタチオン、クレアチンのような、多種多様な生体物質の原料として使用可能です。
グリシンの性質
グリシンは、白色の固体です。エタノールやピリジンに溶解しますが、エーテルには溶けません。水に溶けやすく、カルボキシル基の酸解離定数はpKa = 2.34、アミノ基の酸解離定数はpKa = 9.6です。自然な甘みを持ち、菌の働きを抑える静菌作用にも優れています。
グリシンの構造
図2. グリシンの構造
グリシンとは、2-アミノ酢酸のことです。地球生物のDNAに規定された20種のアミノ酸の一つでもあります。アミノ酸の構造の側鎖が水素原子 (–H) であり、不斉炭素がありません。したがって、生体を構成しているα-アミノ酸の中で、唯一立体異性体 (D-, L-) を持っていません。
化学式はC2H5NO2で、モル質量は75.07g/molです。示性式はH2NCH2COOHで、密度は1.1607g/cm3です。グリシンは非極性側鎖アミノ酸に分類されています。両性イオンであり、酸性側とアルカリ性側のいずれでも解離します。具体的には、pH = 2.4未満でアンモニウムカチオンになり、 pH = 9.6以上でグリシネートになります。
グリシンのその他情報
1. グリシンの生合成と代謝
グリシン開裂系はテトラヒドロ葉酸によって、グリシンを開裂し、テトラヒドロ葉酸は5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸になります。その一方で、グリシンヒドロキシメチルトランスフェラーゼの働きで、可逆的にグリシンをL-セリンに相互変換可能です。そして、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸がテトラヒドロ葉酸に変わる反応が触媒されます。
もしグリシンが脱アミノ化すると、グリコール酸が生成し、酸化によってグリオキシル酸が生じます。ヒトにおいてグリオキシル酸は、エチレングリコールがしゅう酸に代謝されるときの中間体です。酸化すると有害なシュウ酸が生成し、酸化反応を避けるためにも、グリシンの代謝は重要です。
2. グリシンの反応
図3. グリシンの反応
酸塩化物を用いると、グリシンは馬尿酸やアセチルグリシンなどのアミドカルボン酸に変換されます。亜硝酸を使用することで、グリシンからグリコール酸が得られます。グリシンとヨウ化メチルの反応では、アミンが四級化されて、天然生成物であるトリメチルグリシンを生成可能です。
そのほか、グリシンは縮合して、ペプチドを生成します。その第一段階は、グリシンのジペプチドであるグリシルグリシンの形成です。ほかにも、グリシンやグリシルグリシンの熱分解によって、環状ジアミドである2,5-ジケトピペラジンが得られます。
また、グリシンはアルコールとエステルを形成し、グリシンメチルエステル塩酸塩として単離可能です。さらに、アミノ基とカルボキシ基を有するため、二官能性分子としてさまざまな試薬と反応します。