クロロホルムとは
クロロホルムとは、脂肪族塩素化合物の一つです。
メタンの水素原子3個が塩素に置換した構造をしていることから、トリクロロメタンとも呼ばれます。
クロロホルムの使用用途
クロロホルムの使用用途は、主にクロロジフルオロメタンとフロンの原料です。
1. クロロジフルオロメタンの原料
クロロホルムは、工業的には、ポリテトラフルオロエチレン (PTFE) などのフッ素樹脂の原料であるクロロジフルオロメタン (HCFC-22) の製造等に使用されます。蛍石と硫酸を反応させることで生成するフッ酸とクロロホルムを反応させることで、クロロジフルオロメタンが生成します。
2. フロンの原料
クロロホルムは、フッ素系冷媒等として使われるフロンの製造にも用いられます。しかし、オゾン層を破壊するおそれのある物質を指定して、物質の製造、消費および貿易を規制することを目的とするモントリオール議定書により、オゾン層破壊物質であるフロンの製造量は年々減少しています。
3. その他
クロロホルムには、医薬・農薬用抽出溶剤としての用途もあり、ペニシリン等の抗生物質、ビタミンやアルカロイド等の抽出精製のために使用されています。また、クロロホルムを重水素化した重クロロホルムは、NMR測定用の重溶媒として広く用いられています。
その他、様々な物質 (脂質、油、ゴム、アルカロイド、ワックス、ガッタパーチャ、樹脂など) に用いる溶剤や天然物等の抽出分離剤等としても利用されています。
クロロホルムは、かつては吸入麻酔剤として使用されていました。しかし、クロロホルムが心臓・腎臓等に有害であり、発がん性もあることが判明したことから、ジエチルエーテルなどに取って代わられていき、現在では麻酔剤としてはほぼ使われていません。
クロロホルムの特徴
クロロホルムは、特有のエーテル臭をもつ無色の液体であり、比重 (水=1) は1.48、沸点は61℃、融点はマイナス64℃です。揮発性が高く、麻酔作用があります。
水には不溶ですが、ほとんどの有機溶媒と混ざる性質を持つ、非常に溶解性の高い溶剤です。また、酸には安定ですが、アルカリにはあまり安定ではありません。液体状態のクロロホルムは不燃性ですが、蒸気の状態になると燃えます。
クロロホルムは、土壌や地表水から容易に揮発し、空気中で分解してホスゲン、ジクロロメタン、塩化ホルミル、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素を生成します。一般的な市販品には、メタノールやエタノール、アミレンなどが安定剤として添加されています。クロロホルムの空気中における半減期は、55〜620日とされています。
クロロホルムのその他情報
1. クロロホルムの合成方法
塩素とクロロメタン、あるいはメタンを約500℃で加熱すると、フリーラジカルの塩素化反応によってクロロメタン類の混合物 (クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素) が生成します。クロロホルムは、これらの生成物を蒸留分離することで工業的に製造されています。
クロロホルムは、エタノールまたはアセトンと次亜塩素酸カルシウムとの反応(ハロホルム反応)や、四塩化炭素と水素との反応などによっても生成されます。
クロロホルムは様々な海藻から自然生成することが知られています。また、菌類も土壌中でクロロホルムを生成すると考えられています。その他、水道水の塩素処理によっても、有機物と塩素の反応によってクロロホルムが生成します。
2.クロロホルムの安全性
クロロホルムを吸入すると、咳、めまい、し眠、感覚麻痺、頭痛、吐き気、嘔吐、意識喪失を引き起こすことがあります。大量に吸入すると、心拍の低下、最悪の場合は死に至る可能性もあります。呼吸器、肝臓、腎臓への発がん性も疑われています。
クロロホルムを目に対してばく露すると、痛み、発赤、催涙を引き起こします。また、皮膚にばく露すると、発赤、痛み、皮膚の乾燥を引き起こします。取り扱い時には安全メガネや保護手袋を着用する必要があります。
参考文献
https://www.env.go.jp/earth/ozone/montreal_protocol.html
http://www.nihs.go.jp/hse/cicad/full/no58/full58.pdf