安息香酸

安息香酸とは

安息香酸とは、化学式がC6H5COOHである代表的な芳香族カルボン酸です。

外観は昇華性のある無色の針状、または鱗片状の結晶です。名前の由来は、天然樹脂の1種である安息香中に存在するためで、ベンゼンカルボン酸、カルボキシベンゼンなどの別名があります。

天然にも広く存在しており、クランベリー、すもも(プラム/プルーン)、梅の果実、笹の葉などに含まれています。

安息香酸の使用用途

安息香酸は、菌やカビ、微生物の繁殖を抑える効果があるため、醤油・清涼飲料水などの食品や化粧品、香水、シャンプー、石鹸、歯磨き粉などにも、防腐剤やpH調整剤として広く使用されています。また、医薬として、局所の殺菌・防カビ剤や角質軟化剤、肝機能診断薬、袪痰剤、膀胱炎や気管支炎治療等に使用されています。

さらに、媒染剤や防錆剤、合成繊維等の有機合成原料にも利用可能です。かつてはフェノールを合成するための原料としての用途が主でしたが、フェノールをより効率的に合成できる別の方法が開発されたため、現在はフェノーる原料としての用途ではほとんど使われていません。

発育促進や飼料効率が良くなる効果があることで、家畜の飼料の添加剤としても使われます。安息香酸は動植物など天然にも多く存在し、食品添加物としても長年の使用実績があります。食品用添加剤としては、安息香酸の塩である安息香酸ナトリウムがよく使用されています。

安息香酸の性質

安息香酸はベンゼン環の1個の水素がカルボン酸に置換された分子構造です。このため、弱酸性を示します。

安息香酸の分子量は122.13で、比重は1.2659、引火点は121.1℃、融点は121.25℃、沸点は249.2℃で、100℃から昇華し始めます。安息香酸は、冷水には溶けにくいですが、熱水にはよく溶けます。また、エタノール等のアルコールやアセトン、エーテル、クロロホルム、ベンゼン、四塩化炭素、二硫化炭素、テレペン油などの有機溶媒にも溶解です。

370℃以上に加熱すると分解して、ベンゼン、炭酸ガス、少量のフェノールおよび一酸化炭素を生成します。また体内に取り込まれると肝臓で馬尿酸に代謝されて対外に放出されます。安息香酸は、酸として、種々の金属塩やエステル、アミド等を生成します。

安息香酸のその他情報

安息香酸の製造方法

安息香酸は、19世紀中期までは主に天然物からの分離によって作られていました。工業的なには、塩化ベンゾイルのさらし粉 (次亜塩素酸カルシウム) 熱溶液処理、トルエンの直接酸化、無水フタル酸からの脱炭酸反応によって製造されます。

第二次世界大戦前は、無水フタル酸の脱炭酸反応による製造がほとんどでしたが、現在はトルエンの空気酸化により製造が主流になっています。

1. 塩化ベンゾイルのさらし粉熱溶液処理
塩化ベンゾイルの加水分解により安息香酸を生成させる反応です。さらし粉は反応を促進させる触媒として使用します。副生物として塩化水素が発生します。

           C6H5COCl + H2O → C6H5COOH + HCl

2.トルエンの直接酸化
トルエンやエチルベンゼン、クメンなどの一置換の芳香族の酸化で安息香酸が得られますが、工業的にはトルエンを原料にして作られています。トルエンを過硫酸マンガンや二酸化マンガンなどの酸化剤を用いて直接酸化します。反応物から蒸留により安息香酸を分離します。

          2C6H5CH3 + 3O2 → 2C6H5COOH + 2H2O

3.無水フタル酸の脱炭酸
ナフタリンを酸化亜鉛触媒を用いて、340℃で酸化すると無水フタル酸が得られます。生成した無水フタル酸は気相で脱炭酸されて安息香酸を生成します。また液体の無水フタル酸を酸化ニッケルか酸化銅触媒を用いて220℃の加熱により脱炭酸され安息香酸が生成します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/65-85-0.html

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