ピルビン酸とは
ピルビン酸は、化学式C3H4O3で表される有機化合物で、英語名はpiruvateです。ピルビン酸は、常温では無色の液体で、酢酸に似た酸味臭を呈します。ピルビン酸の融点と沸点はそれぞれ13.6℃、165℃です。また、CAS番号は127-17-3です。
水、エーテル、エタノールなどのさまざまな極性溶媒、および無極性溶媒と任意の比率で混合することができます。
赤リンゴなどの果物や野菜、黒ビール、赤ワインなどに含まれています。
ピルビン酸の性質
1.ピルビン酸の合成法
ピルビン酸の実験室での合成方法としては、酒石酸と硫酸水素カリウムを加熱下で反応させることによりピルビン酸を得ることが出来ます。また、大規模なスケールで合成する際には、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)の酸化や、あるいは塩化アセチルとシアン化カリウムの反応から得られるシアン化アセチルの加水分解によって合成することができます。
ピルビン酸は、ヒト生体内では、エネルギー(ATP)を得るためや、その他の物質の原料として非常に重要な役割を果たしています。
2.解糖系におけるピルビン酸
一つ目に、ピルビン酸はグルコースを分解する一つ目の段階である解糖系の最終生成物です。
解糖系では、まずグルコースが様々な反応を経て二つの分子に分割され、2分子のピルビン酸へと変換されます。解糖系はATPを生成するだけでなく、その後の代謝の段階においてATPを生成するために必要な物質を合成する重要な反応です。
ここで生成したピルビン酸はさらに様々な反応の原料となります。
3.クエン酸回路におけるピルビン酸
解糖系で生成したピルビン酸は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼによってアセチルCoAに変換されます。アセチルCoAは様々な反応に利用されますが、主な使い道として、オキサロ酢酸に変換されてクエン酸回路に組み込まれるというものがあります。
クエン酸回路では、オキサロ酢酸が様々な反応を経て構造を変え、最終的に1分子のアセチルCoAと結合してもう一度オキサロ酢酸に戻るという反応が行われます。この回路ではNADHやFADH2などの補酵素が生成し、これらの物質は電子伝達系で多くのATPを生成することが役割です。
また、ピルビン酸カルボキシラーゼという酵素によって、ピルビン酸は直接オキサロ酢酸に変換されることもあります。この酵素によって反応が進められる場合では、解糖系の逆反応が起きます。
4.その他の生体内での反応
その他の反応としては、低酸素時の代謝において不足したNAD+を補充するためにピルビン酸を乳酸に発酵させるといった反応があります。この反応では乳酸デヒドロゲナーゼによってピルビン酸が乳酸に還元されるため、同時にNADHがNAD+に酸化されます。
また、アミノ酸を体内で生成するために、アラニントランスアミラーゼによってピルビン酸からアラニンが合成されます。
ピルビン酸の使用用途
ピルビン酸の使用用途として、生物学実験での試薬が挙げられます。
ピルビン酸は生物のエネルギー供給に重要な役割を果たすだけでなく、グルタミン酸からピルビン酸へのアミノ基転位により、アミノ酸の1種であるアラニンを産生します。
このようにピルビン酸は、アミノ酸、タンパク質、ATP合成など、生物の生体内反応に極めて重要な化合物です。そのためピルビン酸は、細胞や微生物を培養するために用いられています。具体例として、ピルビン酸は、ピルビン酸ナトリウムとして細胞培養液の材料や細胞培養液の添加物として使用されています。
また、ピルビン酸はヒトにとって欠かせない栄養素です。そのため、サプリメントなどにも含まれていることもあります。
ピルビン酸をメチル化して合成できるピルビン酸メチルは、香料などとして食品添加物に使用されることがあります。ピルビン酸メチルは水中でピルビン酸に加水分解されるため、摂取しても危険性はないとされています。