酢酸エチルとは
図1. 酢酸エチルの基本情報
酢酸エチルとは、エステルの1種で、酢酸とエタノールがエステル結合した無色透明の液体です。
自然界ではパイナップルなどの果実に含まれ、その独特の香りの成分となっています。主に有機溶媒として使われており、日本国内での酢酸エチルの市場規模は22〜26万トンと見積もられています。
毒物及び劇物取締法で医薬用外劇物に指定されており、高濃度のものは毒性を持っているため、取り扱いには注意が必要です。
酢酸エチルの使用用途
酢酸エチルは、ほとんどすべての有機溶媒に溶け、速乾性が高いため、塗料、印刷インキ、接着剤、医薬品原料などの溶剤として広く使用可能です。
特に、印刷インキ、接着剤では、短時間で加工ができることが重要であり、速乾性の高い酢酸エチルが多用されます。化粧品業界でも、速乾性の高さが求められるマニキュアや除光液などの溶剤として、酢酸エチルを用いることが可能です。
また、食品衛生法で食品添加物として指定されています。独特の果実香を持ち、揮発性も高いことから、パイナップル、イチゴ、バナナなどの香料として清涼飲料水、菓子などの食品にも使われています。
酢酸エチルの性質
酢酸エチルは、エタノール、ベンゼン、エーテルなど、ほとんどの有機溶媒に可溶です。極性が高いため、最大3%重量の水が酢酸エチルに溶けます。25℃では水に対して10体積%ほど溶けて、温度が低いほど溶ける量が増えます。
融点は−83.6℃で、沸点は77.1℃であり、引火点は−4°Cです。なお、酢酸エチルはエタノールと酢酸が脱水縮合したエステルです。化学式はC4H8O2で、分子量は88.105g/molです。密度は0.897g/cm3で、示性式ではCH3COOCH2CH3と表します。
酢酸エチルのその他情報
1. 酢酸エチルの合成法
フィッシャーエステル合成反応 (英: Fischer esterification) によって、酢酸エチルを得られます。酸触媒に硫酸を使用して、エタノールと酢酸を加熱して脱水縮合すると、酢酸エチルが生じます。酢酸エチルは低沸点であり、反応中に生成した酢酸エチルを、蒸留で連続して取り出すことで、効率的に合成可能です。
ティシチェンコ反応 (英: Tishchenko reaction) によって、塩基触媒を用いてアセトアルデヒドを酢酸エチルに転換できます。形式上は、アセトアルデヒドが不均化して、酢酸とエタノールが反応したように見えます。エタノールに課税している日本などの国では、エタノールの原料コストが高いため、主流のプロセスです。
それ以外にも、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒を使用して、酢酸とエチレンから合成できます。エチレンの代わりとして、エタノールを使うことも可能です。
2. 酢酸エチルの生成
図2. 酢酸エチルの生成
合成法としての価値はありませんが、さまざまな反応によって酢酸エチルが生じることがあります。例えば、エタノールが、無水酢酸、ケテン、塩化アセチルと反応すると、酢酸エチルが生成します。
3. 酢酸エチルの反応
図3. 酢酸エチルの反応
水分を含んだ酢酸エチルは、徐々に加水分解します。酸が存在していると加水分解は加速し、アルカリ水溶液中ではけん化 (英: saponification) によって加水分解します。
酸触媒を用いた場合には、平衡反応で可逆です。その一方で、アルカリ触媒を使用した場合には、加水分解のみが進みます。
4. 溶媒としての酢酸エチル
有機化学実験で酢酸エチルは、アミンやヒドリド還元試薬のような求核試剤と、エステル交換反応を起こす場合があります。したがって、酢酸エチルの利用は限定されます。
その一方で、抽出溶媒やクロマトグラフィーの展開溶媒として利用可能です。とくにクロマトグラフィーでは、低極性溶媒のヘキサンとの混合溶媒が頻繁に使用されています。