タフトライド処理

タフトライド処理とは

タフトライド処理とは、塩浴軟窒化処理と呼ばれる表面硬化処理の商標名で、鉄系金属の表面に炭素と窒素を侵入させ、炭化物と窒化物による硬化層を形成させる熱処理方法です。

熱処理の方法としては、溶融塩浴熱処理法に分類されます。ドイツのデグサ社が開発したタフトライド法 (tafftriding) によるもので、デグサ社が特許と商標権を持っています。

日本ではデグサ社から商標権を得た事業者がタフトライドの名称を使用していましたが、2007年に独占契約の交渉が決裂したことを受け、現在は「イソナイト法」という商標が使われています。実際の処理方法も同一です。ただし、ものづくりの現場では現在でもタフトライドという商標が広く認知されています。

タフトライド処理の使用用途

タフトライド処理は鋳鉄、ステンレス、炭素鋼等の機械部品に使われています。特に耐久性が求められる部品に使われており、表面硬さの向上による耐摩耗性、耐焼付き性、耐食性の向上が期待できます。具体的な使用用途は、以下の通りです。

1. 自動車用部品

エンジンギア、エンジンバルブ、カムシャフト、クランクシャフト、オイルポンプ、ユニバーサルジョイント

2. 各種家電製品

各種切削部品、プレス部品

3. 金型

アルミサッシ用押し出し金型

4. 工具

キリ、ボブカッター

5. ポンプ用部品

ベーンポンプ、ソレノイドポンプ、スクリューポンプ

6. 機械部品

スクリューヘッド、船のメーンシャフト用ギアカップリング、スラストワッシャ、旋盤チャック

タフトライド処理の原理

タフトライド処理は、まず鉄系部材を高温 (500~600℃) のシアン化合物溶液に1~3時間浸します。処理品の表面では高温溶液により金属元素と窒素が結合して、硬い窒化膜が形成されます。窒化膜の厚さは数十ミクロン程度の薄い層ですが、硬度は加工前の材料に比べて非常に高く、耐摩耗性、耐かじり性 (焼き付き防止) 、耐食性、耐熱性を改善することが目的です。

塩浴軟窒化とは別に「窒化」と言う処理もあります。窒化と軟窒化の違いは、硬化層である窒化膜の厚さです。窒化の方が硬化層は厚くなりますが、処理時間が長くなります。軟窒化が1~3時間ほどの処理時間であるのに対して、窒化では20時間以上の処理時間が必要です。タフトライド、イソナイトともに軟窒化処理に含まれます。

タフトライド処理の特徴

タフトライド処理には、大きく6つの特徴があります。

1. すべての鉄系金属に有効である

タフトライド処理は全ての鉄系金属に対して使えます。普通鋼、構造用合金鋼、工具鋼、高速度鋼、ステンレス鋼、各種鋳鉄、鉄系焼結金属など、それぞれの材質と目的に合わせた処理が可能です。

2. 寸法変化が少ない熱処理方法である

鉄系金属の熱処理方法として知られる焼き入れは、処理すると寸法変化が生じてしまいます。焼き入れは処理温度が高く、材料を硬化させるために「変態」という、金属材料の結晶格子構造の変化を利用しているためです。

結晶格子構造が変化することによって、一つの結晶格子に含まれる鉄の原子の数も変わるので、形状にも影響が出てきます。タフトライド処理であれば、影響が出る温度よりも低い温度で処理されるため、焼き入れのような寸法変化は極めて少ないです。

3. 耐摩耗性の向上

塩浴軟窒化によって金属の表面層には化合物層が形成されます。この化合物層は硬さが高く、部品の耐摩耗性を向上させることができます。さらに、化合物層には非金属的性質があり、動摩擦係数はμs=0.05~0.12と低い値を示します。塩浴軟窒化された最表面は初期摩耗で滑らかになり、相手と馴染みやすいこともあわせて、耐摩耗性の向上が見込まれます。

4. 疲労強度の向上

塩浴軟窒化処理によって、金属材料の表面に硬い化合物層が形成されるため、部品の疲労強度を向上させることができます。疲労強度が高くなれば、部品を小型軽量に設計したり、より負荷の高い使い方もできます。その他、金属材料の種類を低廉化するとによって、製品のコストダウンにつなげることも可能です。

5. 耐焼付き性の向上

前述した変態を利用した焼き入れでは、温度が高くなると材料の軟化が起こります。タフトライド処理された化合物層は300~600℃の温度域でも軟化することがないので、部品に高い耐焼付き性を与えられます。

6. 耐食性が高い

処理によって形成された化合物層は炭素や窒素が多く含まれるため、非金属的性質を持っています。よって腐食しにくく、亜鉛めっきやユニクロめっきと同程度の耐食性を有しています。タフトライド処理は、部品の機械的強度と耐食性を同時に向上させることができます。

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