高周波誘導加熱

高周波誘導加熱とは

高周波誘導加熱

高周波誘導加熱とは、導体に巻き付けたコイルに高い周波数の交流電流を流すことで、導体を加熱する加熱方式のことです。

特に火力を使用せず電源制御だけで行われるこの加熱方法は環境負荷を低く抑えるため、作業環境の改善や地球環境保護の観点からも注目されています。

また、主に金属を加熱するこの方法は、作業対象物を直接触らず加工できるため安全です。さらに、一般家庭用には、IH炊飯器、IHクッキングヒータ、IH鍋、IHホットプレート、IHフライパン等の各種製品が使われています。 なお、IHはinduction heating (誘導加熱) の略称です。

高周波誘導加熱の使用用途

高周波誘導加熱は、工業や一般家庭で様々な用途に使用されています。

1. 一般家庭の用途

電磁調理器 (IH) は、クッキングヒーターとして有名です。IHヒーターはトッププレートとコイルから構成されています。コイルに交流電流を流すことで磁場が生じ、この磁場が調理器具を通過することで渦電流が生じ、調理器具を加熱することができます。

従って、電気を流さない材質 (セラミックス・ガラスなど) の調理器具は、渦電流を発生させられないためIHヒーターで加熱することができません。

2. 工業の用途

加工用途としては、高周波誘導溶接が溶接法として使用されています。IH (誘導加熱) 式自動ろう付け、はんだ付け装置としてIH方式が使用されています。

金属の強度を上げる方法として、焼き入れと焼き戻し装置があります。 たとえば鉄は焼き入れを行うと硬化し機械強度が増しますが、靭性 (粘り強さ) が失われ、脆くなってしまいます。

高周波誘導加熱で焼き入れを行うと、加熱対象の表面が強く加熱され、表面が硬く内部は靭性が高い材料にすることが可能です。この特性を生かし、摺動部のある自動車部品の焼き入れ処理に高周波誘導加熱が用いられることがあります。

高周波焼入れ

図1. 摺動部を持つ部品への高周波焼入れ

各種金属の溶解装置にも使用されます。具体的には、真空溶解炉、金属溶解炉、雰囲気溶解炉などです。アルミ押し出し用ヒータなどの各種ヒータ、接着剤の硬化促進装置に用いられることもあります。

高周波誘導加熱の原理

1. 渦電流の発生

金属 (導体) の周りにコイルを巻きつけて交流駆動の電流を流すと、磁界の方向が絶えず変化する交番磁界が出現します。 導体内に磁界が生じると、レンツの法則によりその金属の中に「渦電流」と呼ばれる電流が発生します。

2. 渦電流による加熱

この「渦電流」により金属内に「ジュール熱」が発生します。ジュール熱の発生原理を図1にて説明します。 

ジュール熱

図2. ジュール熱の発生原理

また、磁界の変化による「ヒステリシス損失」によっても導体が加熱されます。ヒステリシス損失とは、磁場の交流変化に伴い導体の磁性分子が振動・摩擦することで熱としてエネルギーが放出される現象のことです。

渦電流損 (渦電流によるジュール熱) と、ヒステリシス損失は併せて「鉄損」と呼ばれます。高周波誘導加熱においては、渦電流損とヒステリシス損失の相乗効果で導体を加熱しています。

3. 表皮効果と近接効果

交流電流の周波数を高くすると、「表皮効果」が強くなります。表皮効果とは、導体に交流電流・交番磁場を印加した際、渦電流が導体表面に集中する現象のことです。

表皮効果図3. 表皮効果

表皮効果に加え、「近接効果」も生じます。近接効果とは、近接した導線に流れる電流の向きが反対方向の場合、動線同士を引き寄せるような電流密度分布になる効果のことです。

導体は渦電流によるジュール熱により加熱されるため、周波数を高くすると「表皮効果」と「近接効果」の相乗効果により、導体の表面が強く加熱されます。この性質を利用して、材料の表面のみを焼き入れしたい場合などに高周波誘導加熱が用いられることがあります。

高周波誘導加熱の種類

高周波誘導加熱には、直接加熱方式と間接加熱方式の2種類があります。

1. 直接加熱方式

加熱する金属内に直接「渦電流」を流して加熱する方法です。加熱対象に電流が流れる必要があるため、絶縁体はこの方式で加熱することができません。

2. 間接加熱方式

セラミックスやガラス等の絶縁体を加熱する場合は、電気を通す容器 (導体) に加熱する物質 (絶縁体) を入れて加熱を行います。

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