マルチプレクサとは
マルチプレクサとは、複数の入力信号を単一の出力信号に選択的にルーティングするスイッチングデバイスです。
デジタル回路のマルチプレクサでは、デジタル信号 (ビット) が選択的に通過して、データを1つのチャネルに集約します。一方、アナログ回路のマルチプレクサでは、アナログ信号 (電圧や電流) を選択的に通過させることで、多様な信号源からの情報を1つのチャネルに統合します。
このように、マルチプレクサは回路設計の効率化と高度化に対する強力なツールとなり得ます。
マルチプレクサの使用用途
マルチプレクサは、デジタルおよびアナログ回路設計の多くのアプリケーションで広く使用されます。特にデジタルICのマルチプレクサは、データの選択と切り替えを行うデジタル回路の要として、さまざまなシステムで活用されています。
1. データ選択回路
マルチプレクサは複数のデータ入力から1つを選択して出力します。このため、CPUとメモリなどの間で転送するデータを選択するデータセレクタとして用いられます。アドレス指定により必要なデータを選び出せるので、データ転送回路で重要な機能を担っています。
2. アナログ/デジタル変換回路
アナログ入力をデジタルデータに変換するADコンバータでは、マルチプレクサがアナログ入力の選択に用いられます。1つのADコンバータで複数チャネルの変換を実現できるため、回路規模の縮小化が図れます。
3. 通信機器
有線や無線通信機器では、複数のチャネルのデータを1本の伝送路にまとめるためにマルチプレクサが使われます。マルチプレクサによりデータを時分割多重化し、伝送効率の向上が実現します。
4. 計測・制御システム
センサなどからの複数チャネルのデータを集約するのにマルチプレクサが活用されます。マルチプレクサを用いることで、計測系統を簡略化できます。
マルチプレクサの原理
マルチプレクサは、デジタルとアナログの両方で用いられますが、基本的な仕組みは共通しています。
1. デジタルマルチプレクサ
デジタルマルチプレクサは、複数のデジタル入力を1つのデジタル出力に選択的に接続するデバイスです。これは、デジタルスイッチのような役割を果たします。複数の入力ラインがあり、それぞれに対応する制御信号が存在します。
制御信号により、任意の入力ラインが出力ラインに接続されます。入力ラインの選択は、バイナリ値 (0または1) の制御信号により行われます。例えば、2入力マルチプレクサでは、1ビットの制御信号でどちらの入力が出力に接続されるかを選択可能です。制御信号が0の場合は1つ目の入力が選択され、制御信号が1の場合は2つ目の入力が選択されます。
2. アナログマルチプレクサ
アナログマルチプレクサは、複数のアナログ入力から1つを選択してアナログ出力します。内部の主要な構成要素は、アナログスイッチとアドレスデコーダです。
アドレスデコーダは、選択する入力チャネルを指定するデジタルアドレスを入力とします。アドレスデコーダはこのアドレス信号に基づき、対応するアナログスイッチの制御信号を生成します。アナログスイッチはこの制御信号により、指定されたアナログ入力をアナログのまま出力します。
このように、アナログマルチプレクサもデジタルのアドレス指定で任意のアナログ入力を選択可能です。アナログ信号の切り替えが高速に行えるため、通信機器などで活用されています。
マルチプレクサの選び方
マルチプレクサを選ぶ際には、以下の点に注意が必要です。
1. 使用用途
マルチプレクサにはアナログ、デジタル、高周波など用途に合わせた種類があります。用途と必要な特性に合ったタイプを選択が重要です。
2. 入力と出力の数
マルチプレクサの入力と出力の数は、システムの規模に合わせて選択します。入力数が多いほど規模の大きなシステム構成が可能になります。
3. 速度性能
マルチプレクサの切り替え速度は、用途によって重要な性能です。高速な切り替えが必要な用途の場合は、速度特性を確認します。
4. 動作周波数範囲
アナログ型のマルチプレクサでは、動作可能な周波数範囲が性能を左右します。使用する周波数帯域に対応しているか確認が必要です。
5. 消費電力
マルチプレクサの消費電力も、仕様を確認すべき点の1つです。低消費電力デバイスを選ぶことで、システムの省電力化に寄与できます。