炭素繊維

炭素繊維とは

炭素繊維

炭素繊維とは、組成の大部分が炭素からできていて、軽くて強い特徴をもつ繊維です。

カーボン繊維、カーボンファイバーとも呼ばれ、繊維状にした有機化合物を耐炎化した後、1,000℃以上の高温加熱処理 (焼成) することで、原料の有機化合物に含まれる水素、窒素原子を除去し、炭素原子の含有率を90%以上にしています。

炭素繊維の使用用途

炭素繊維は、強度を確保しつつ軽量化できるという特長を活かし、金属材料の代替として多方面で使用されます。さらに柔軟性、電子伝導性があり、腐食しにくい、燃えにくいという特徴があるため、使用分野は幅広いです。

炭素繊維は単独で使用されることは少なく、一般的に樹脂・セラミック・金属などの素材と複合した炭素繊維複合材料として使用されます。具体的には、軽量化と高強度が求められる航空機、ロケット、人工衛星や、軽くて扱いやすいことから義足などの外科装具、車椅子や介護用ベッドなどの介護機器などです。

特に車関係では、車両の軽量化に伴い低燃費化に貢献できます。このため、レース系の車両には炭素繊維開発当初の頃から注目され、使用されていました。また、炭素繊維は強度と弾性率が高いことから、ゴルフシャフト、釣り竿、リール、自転車のフレーム、テニスラケット、スキー、スノーボードなど、スポーツ用品分野の用途もあります。

今後は、コンクリート構造物に炭素繊維シートを貼って耐震性を補強することや、吊り橋のケーブルや鉄骨などの代替材料として使用することなど、建築・土木分野への利用も期待されています。

炭素繊維の種類

炭素繊維は、原料によってPAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維の2種類に分類されます。現在は、PAN系炭素繊維が主流で、全世界の炭素繊維生産量の90%を占めています。

1. PAN系炭素繊維

PAN (ポリアクリロニトリル) 繊維から作られる炭素繊維で、強度と弾性率が非常に高く宇宙産業など高い信頼性を求められる産業分野から、身近なものではレジャー用品やスポーツの分野で幅広く使用されています。

この中で最も利用されているのは産業分野です。車関連ではボンネット、スポイラー、ガソリンタンクその他多くの部品に使用されています。その他、板ばねやギアなどのように金属部品の代替材料として使用されています。

2. ピッチ系炭素繊維

ピッチ系炭素繊維は、弾性率を調整できる特徴があります。このため、高弾性を必要としない部分や、逆に高弾性が必要な製品に使用されています。ピッチ系炭素繊維の中でも、さらにメソフェーズピッチ繊維、等方性ピッチ繊維に分けられます。

メソフェーズピッチは、原料の分子が液晶状態となって配向し光学的異方性を持っており、これから得られるメソフェーズピッチ繊維は、高強度、高弾性率の高性能炭素繊維 (HPCF) です。一方の等方性ピッチは、構成分子がランダムに配向しており、光学的には等方性です。

これから得られる等方性ピッチ繊維は強度、弾性率といった機械的な物性は、メソフェーズピッチ繊維に劣りますが、それ以外の部分においては同等の性能を持ち、弾性率が低めの汎用炭素繊維 (GPCF) となります。

炭素繊維のその他情報

炭素繊維の製造方法

炭素繊維は原料の違いにより、PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維がありますが、どちらも製造工程としてはおよそ以下の通りです。

  • 耐炎化:空気中で200~300℃の温度で加熱することで繊維を酸化させ、後工程での溶融を防止
  • 炭素化:不活性雰囲気下で800~1600℃に加熱することで水素、窒素、酸素を繊維中から除去
  • 黒鉛化:不活性雰囲気下で2,500~3,000℃に加熱することで、炭素を黒鉛化し弾性率向上

1. PAN系炭素繊維
アクリル繊維 (PAN繊維) を原料にして作られます。耐炎化工程では、空気中で200〜300℃の熱を加えてアクリル繊維の分子を環状構造にします。炭素化工程では、不活性ガス中で1000℃以上の熱を加え、分子構造を炭素の結晶構造へと変化させます。

炭素化工程終了の段階でも高強度・高弾性率の炭素繊維ができあがっていますが、さらに2,000℃以上の熱を加える黒鉛化工程を経ると、強度は若干低下しますが、弾性率の高い黒鉛繊維が得られます。

2. ピッチ系炭素繊維
石炭・石油を乾留して得られたタールを、蒸留した際に残る石炭ピッチ・石油ピッチを繊維化・焼成して作られます。耐炎化工程前の溶融紡糸工程で、ピッチから長繊維を作り、それを安定化処理して前駆体繊維を得ます。前駆体繊維をPAN系炭素繊維同様に、耐炎化、炭素化、黒鉛化して、ピッチ系炭素繊維が作られます。

参考文献
https://www.aibsc.jp/nsj/01gijyutsu/110501_01/
https://www.carbonfiber.gr.jp/material/

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