セルソーターとは
図1. セルソーターのイメージ
セルソーターとは、特定の細胞を分離するために使用するための装置です。
近年の生物学の研究においては、生命現象を1細胞の単位で観察するシングルセル解析の重要が増しています。ハイスループットに個々の細胞を解析できる技術として代表的なものがフローサイトメトリーであり、なかでも細胞を分離、回収する機能を備えたものをセルソーターと呼びます。セルソーターは、フローサイトメーターと同様に特定のマーカーで標識した細胞を流しますが、その中から特定の細胞集団だけを別のチューブに無菌的に振り分けることが可能です。分離、回収された細胞はその後も培養やさらなる解析を行うことができます。
セルソーターの使用用途
1. 概要
セルソーターは、がん研究、遺伝子学、免疫学、培養工学など、細胞を取り扱う様々な研究分野で使用されています。代表的な用途には下記のものがあります。
- 細胞サイクル解析 (特定の細胞周期の段階でソーティングする)
- 細胞表面のタンパク質解析 (特定の表面タンパク質を発現する細胞をソーティングする)
- 免疫細胞の解析
- 抗原特異的な細胞のソーティング (免疫・ワクチン研究など)
- 幹細胞の単離・分化段階の解析細菌やウイルスの解析
- 微生物叢の研究
- 創薬における薬剤スクリーニングや副作用評価
2. 臨床領域への応用
近年では臨床に近い領域にまでその技術の応用が進みつつあります。具体例としては
- セルソーターで造血幹細胞だけを取り出し、白血病の患者さんに移植する
- 再生医療の分野では、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞から、必要な細胞をin vitroで分化誘導し、それを移植治療や医薬品開発に利用する
などがあります。どちらの場合も、目的の細胞だけをいかに集めるかが重要であり、セルソーターの技術が特定の細胞だけを分離、回収するのに役立てられています。
セルソーターの原理
図2. セルソーターの原理
セルソーターでは、細胞浮遊液を流したものに対してレーザー光を照射し、散乱光によって細胞を解析し、液滴ごとのソーティングを行います。下記は代表的なキュベットフローセル型のセルソーターの各ステップの具体的な様子です。
1. フローセルからの放出
サンプルの細胞浮遊液は、まずフローセルと呼ばれる部分に溜められ、その先端の非常に細いノズル (70から100ミクロン程度) から上から下へ向かって落下させられます。この時、トランスデューサ (振動子) を用いて、サンプルが落下の途中で液滴になるようフローセルに上下振動が与えられる仕組みです。
2. レーザー照射と解析
液滴となる前の細胞にレーザー光が照射され、散乱光を元に一つ一つの細胞が解析されます。この際、ソートリージョンを用いた分取条件に基づき、分取するべきか否かがソート論理回路で瞬時に判別されます。
3. 分離・捕集
分離すべき細胞が検出されると、液滴になる直前に+または-の電荷が付加され、電荷を持った液滴が発生します。電荷をもった液滴は、その後に続く2枚の偏光板の間を落下していきますが、+の電荷をもった液滴はマイナス極側の板に、-の電荷をもった液滴はプラス極側の板に引き寄せられる仕組みです。それぞれの偏光板下には試験管が設置され、細胞が捕集される仕組みです。荷電を与えられなかった液滴は、そのまま垂直に落下していき、通常は廃棄されます。
機器によっては、捕集容器としてマイクロプレートを使い、プレートの各ウェルに細胞を分取することもできるようになっています。
セルソーターの種類
図3. ジェットインエアー方式とキュベットフローセル方式
セルソーターには様々な種類の製品があります。卓上型のコンパクトな製品や画像解析機能を搭載したもの、複数種類のレーザー光が搭載されているものなど、製品によって様々です。従来品よりも速く、収率と純度が優れている、次世代セルソーターと呼ばれる製品もあります。
また、細胞浮遊液を流す方法の種類にキュベットフローセル方式とジェットインエアー方式とがあります。キュベットフローセル方式ではキュベットの太い長方形の流れから、細い円形の流れに変化するため、速度と方向が変化する乱流です。一方、ジェットインエアー方式は、流れが速く、流れの形や幅は変化せずに常時狭くなっている (層流) という特徴があります。
参考文献
https://www.bc-cytometry.com/FCM/fcmprinciple_9-1.html
http://www.cdb.riken.jp/jp/millennium/print/technology_cell.html