防音ボックスとは
防音ボックスとは、特殊な壁や吸音材を用いて内部の音が外に漏れないようにしたり、逆に外部からの音が浸入して来ないようにした箱や部屋のことです。
相互に関連性のない複数の分野で防音ボックスが使用されています。防音ボックスとして広く知られているものには、ミュージシャンが録音する際などに使用する防音対策を施した音楽スタジオがあります。また、音が外に漏れないように対策を施したカラオケルームも広い意味では防音ボックスと言えます。
産業用では、工場や工事現場などで非常に大きな音を発生する機械の周囲に防音壁を造り、外部に漏れる音を少しでも小さくするように対策を施した空間のことを防音ボックスと言います。ナノテクノロジーの領域では、物質表面の微細な観察のために、試料と測定装置を周囲の音と振動から遮断するために用いる箱のことを防音ボックスと呼んでいます。
ここでは、ナノテクノロジーの領域で用いられている防音ボックスについて記述します。
防音ボックスの使用用途
ナノテクノロジーの分野で、試料の微小な表面構造を観察するための高分解能測定装置として使われている走査型プローブ顕微鏡 (英: Scanning Probe Microscope, SPM) は、測定時の多くの場面で、防音ボックスを使用しています。
1. SPM
SPMには観察方式の違いにより、原子間力顕微鏡 (英: Atomic Force Microscopy, AFM) 、走査型トンネル顕微鏡 (英: Scanning Tunneling Microscopy, STM) 、走査型近接場光顕微鏡 (英: Scanning Near Field Optical Microscopy, SNOM) などの種類があります。これらの装置は非接触または接触型で、微小なプローブを用いて試料表面の形状や電子構造、光学的性質などを詳細に観察します。
SPMは、プローブを試料表面に沿って移動させながら、プローブと試料表面との相互作用を測定することで、表面の形状や物性を観察します。そのため、測定時には音も含めて、僅かな振動も測定結果に影響を与えます。
例えば、AFMではプローブと呼ばれる直径数nm以下のシャープなチップが付いた微小なシリコン製の棒状の部品を使って、試料表面の微小な凹凸を検出します。プローブが表面に接近すると、原子間力が働いてプローブの変位が検出され、それによって試料表面の形状を測定します。
このような極微小な表面形状の観察では、音による空気の振動さえもノイズとなって測定結果に影響を与えてしまいます。AFM測定において、周囲の音や振動を遮る防音ボックスは、高精度な測定結果を得るために欠かせない装置の一つです。
2. 生体分子測定装置
防音ボックスは、生体分子測定装置において測定装置から得られる信号に含まれる音響ノイズを低減するためにも使用されます。
生体分子測定装置は、微弱な生体分子の検出を行うために高感度な検出器を使用します。この検出器は非常に敏感であり、周囲の音響ノイズによって測定結果に影響を受けることがあります。そこで、測定装置を防音ボックスに収め、外部の音響ノイズから遮断します。
防音ボックスの原理
防音ボックスには、2つの主要なノイズ源に対する対策が施されています。一つは、空気中を伝わる音波 (英: airborne noise) に対するもので、もう一つは振動によるノイズ (振動ノイズ) に対するものです。
空気中を伝わる音波は、防音ボックスの壁や天井、床によって反射、吸収、拡散され、内部に入り込む音波のエネルギーを減衰させます。一般的に、防音ボックスの壁には、音響吸収材を使用し、音波のエネルギーを吸収することによって減衰させます。また、壁の厚さや密度の増加によって、ノイズの減衰をより効果的に行うことができます。
振動ノイズは、防音ボックスの床面に取り付けられた遮振板や、防振マット、振動吸収材を使用することで減衰させることができます。これらの材料は、振動を吸収し、拡散させることによって、SPMの測定精度を向上させる効果があります。
防音ボックスの構造
防音ボックスでは、外壁、内壁、扉に防音効果をもたらす工夫がされています。
防音ボックスの外壁は、金属板やアルミニウム板などの材料で作られています。この外壁は、周囲のノイズを減衰させるために厚さがあり、また音響吸収材を内側に張り付けることがあります。
内壁は、外壁の内側に設置され、さらにノイズを減衰させるために、音響吸収材を貼り付けることが一般的です。内壁は、周囲の振動によるノイズを減少させる役割も持っています。
また、さらに防音効果を高めるために、内壁に中空多層遮音壁構造を採用している防音ボックスもあります。中空多層遮音壁構造とは、複数の板状の遮音材を積層し、その中間に空気層を設けた遮音壁の構造です。この構造は、一般的な壁材よりも高い遮音性能を持っています。
防音ボックスの扉は密閉性が高く、遮音効果を発揮するように設計されています。