ヘキセナール

ヘキセナールとは

トランス-2-ヘキセナールの基本情報

図1. トランス-2-ヘキセナールの基本情報

ヘキセナールとは、化学式がC6H10Oで表される有機化合物です。

トランス-2-ヘキセナール (英: trans-2-Hexenal) とシス-3-ヘキセナール (英: cis-3-Hexenal) を代表として、さまざまな異性体が存在します。トランス-2-ヘキセナールとシス-3-ヘキセナールを総称して、青葉アルデヒドと呼ばれています。分子量は98.14g/molです。

トランス-2-ヘキセナールは消防法で「第4類危険物第2石油類」に該当します。

ヘキセナールの使用用途

トランス-2-ヘキセナールとシス-3-ヘキセナールは、ともに草や葉の香りの主成分です。植物に広く存在し、香りを添加する目的で、香料として幅広く用いられています。

トランス-2-ヘキセナールとシス-3-ヘキセナールはどちらも植物の香りがありますが、トランス-2-ヘキセナールは芳香に、シス-3-ヘキセナールは不快臭に分類されます。植物内でシス-3-ヘキセナールからトランス-2-ヘキセナールに異性化する酵素が特定されて以降、芳香を持つトランス-2-ヘキセナールをより多く含む農作物の開発が推進されてきました。

ヘキセナールの性質

トランス-2-ヘキセナールの融点は-39.8°Cで、沸点は146°Cであり、引火点は43°Cです。無色~黄色の液体です。アセトンやエタノールに溶解しますが、ほとんど水に溶けません。シス-3-ヘキセナールの沸点は126°Cです。

ヘキセナールの構造

シス-3-ヘキセナールの基本情報

図2. シス-3-ヘキセナールの基本情報

ヘキセナールは脂肪族アルデヒドの一種です。トランス-2-ヘキセナールの25°Cでの密度は0.846g/mLで、シス-3-ヘキセナールの密度は0.851g/mLです。

シス-3-ヘキセナールはトランス-2-ヘキセナールに異性化します。シス-3-ヘキセナールのアルコールであるシス-3-ヘキセン-1-オール (英: cis-3-Hexen-1-ol) は安定です。青葉アルコールとも呼ばれ、同様の香りを有するため、広く香料に利用されています。

ヘキセナールのその他情報

1. ヘキセナールの歴史

1870年ごろにラインケ (英: Reinke) は、新緑の季節に樹木から出る香りの正体を突き止めるため、樹木から若葉を採取して、精油を水蒸気蒸留やエーテル抽出で集めました。1881年に香りがアルデヒドに由来する可能性を指摘しています。

テオドール・クルチウス (英: Theodor Curtius) は香り物質の構造決定に取り掛かりました。1912年にシデの葉に水蒸気を吹き込んで精油を抽出して、抽出液中から2-ヘキセナールを同定し、青葉アルデヒド (英: Blatter aldehyd) と名付けました。

1960年に畑中顯和は、化学合成したトランス-2-ヘキセナールと茶から抽出された青葉アルデヒドが同じだと報告しています。したがって、青葉アルデヒドはトランス体だと証明されました。

2. 天然のヘキセナール

天然にトランス-2-ヘキセナールは、トマト、キュウリ、キャベツのような野菜類に存在します。またバナナ、リンゴ、イチゴのような果物や茶葉にも含まれており、カメムシの匂いの主成分です。

シス-3-ヘキセナールは、クローバー、ブナ、ホウレンソウ、クリを代表とする多種多様な植物から広く見つかっています。生の茶葉、カシの葉、たらの芽にも含まれ、トマトの香り成分です。フェロモンに多くの昆虫が使用しています。

3. ヘキセナールの合成法

ヘキセナールの合成

図3. ヘキセナールの合成

トランス-2-ヘキセナールはエチルビニルエーテルなどから合成されます。シス-3-ヘキセナールは3-ヘキセン-1-オールの酸化によって合成可能です。

リノレン酸からリポキシゲナーゼとヒドロペルオキシドリアーゼの作用によって、ヒドロペルオキシドを経由してシス-3-ヘキセナールは生合成されます。

ブタンジオール

ブタンジオールとは

1,4-ブタンジオールの基本情報

図1. 1,4-ブタンジオールの基本情報

ブタンジオールとは、分子式がC4H10O2で表される二価アルコールです。

ブタンジオールには、一般的に広く用いられる1,4-ブタンジオール以外にも、1,2-ブタンジオールや1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールの、合計4つの異性体が存在します。

1,4-ブタンジオールは、GHS分類で「急性毒性 (経口) 」に分類されています。消防法では「第4類第三石油類水溶性」に指定されています。労働安全衛生法、労働基準法、PRTR法、毒物および劇物取締法には、いずれも該当していません。

ブタンジオールの使用用途

ブタンジオールの使用用途は、その異性体ごとに異なり、いずれの異性体も工業的に広く用いられています。

各異性体での代表的な使用用途として、1,2-ブタンジオールは樹脂やアミノ酸の原料、1,3-ブタンジオールは溶媒、樹脂原料、化粧品添加剤などが挙げられます。また、1,4-ブタンジオールは樹脂原料、溶媒、2,3-ブタンジオールは医薬品や化粧品の原料として使用可能です。

特に1,4-ブタンジオールは、一般的に広く用いられている溶媒であるテトラヒドロフランやγ-ブチロラクトンの原料となることからも、工業的に重要な化合物です。

ブタンジオールの性質

1,2-ブタンジオールの融点は-50°C、 沸点は195〜196.9°Cで、密度は1.0023g/cm3です。1,3-ブタンジオールの融点は-54°C、沸点は203〜204°Cで、密度は1.0053g/cm3です。1,3-ブタンジオールは生物に対して低血糖剤として働くほか、β-ヒドロキシブチレートに変換されて脳の新陳代謝の基質として働きます。

1,4-ブタンジオールの融点は20°C、沸点は230°Cで、密度は1.010g/cm3です。体内で1,4-ブタンジオールは、γ-ヒドロキシ酪酸に代謝されます。2,3-ブタンジオールの融点は7.6°C、沸点は約180°Cで、密度は1.000~1.010g/cm3です。

ブタンジオールの構造

ブタンジオールの異性体の構造

図2. ブタンジオールの異性体の構造

ブタンジオールは、ヒドロキシル基を2個有するn-ブタンです。分子式はC4H10O2で、モル質量は90.12g/molです。1,1-ブタンジオールなどは不安定であり、すぐ脱水してブチルアルデヒドに変わります。

1,2-ブタンジオールは、2位の炭素がキラル中心です。光学活性を持っており、鏡像異性体である(R)-1,2-ブタンジオールと(S)-1,2-ブタンジオールが存在します。同様に1,3-ブタンジオールにも鏡像異性体があります。そして、2,3-ブタンジオールには3つの立体異性体があり、(2R,3R)-(−)-2,3-ブタンジオール、(2S,3S)-(+)-2,3-ブタンジオール、meso-2,3-ブタンジオールの3種類です。

ブタンジオールのその他情報

1. 1,4-ブタンジオールの合成法

1,4-ブタンジオールの合成には、アセチレンホルムアルデヒドのレッペ反応 (英: Reppe reaction) によって得られた1,4-ブチンジオールを、水素化する製造方法が広く用いられています。

コハク酸やマレイン酸などの無水物をメチルエステルに変換した後、水素化しても1,4-ブタンジオールを合成可能です。

2. 1,4-ブタンジオールの反応

1,4-ブタンジオールとテレフタル酸の反応

図3. 1,4-ブタンジオールとテレフタル酸の反応

1,4-ブタンジオールは、ポリブチレンテレフタラートを代表とするプラスチックや繊維の原料です。1,4-ブタンジオールとテレフタル酸の反応によって、ポリブチレンテレフタレートが製造されます。

エンジニアリングプラスチック (英: Engineering plastic) の一つであるポリブチレンテレフタレートは、熱安定性、電気特性、寸法精度などに優れており、自動車部品や電気電子部品に幅広く利用可能です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0732JGHEJP.pdf

フッ化鉄

フッ化鉄とは

フッ化鉄とは、鉄のフッ化物のことです。

フッ化鉄(II)、フッ化鉄(II,III)、フッ化鉄(III)などがあります。最も一般的に取り扱われているのはフッ化鉄(III)です。フッ化鉄はGHS分類で皮膚腐食性・刺激性に分類されています。

フッ化鉄の法規制は、労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき危険物および有毒物に指定されています。労働基準法、PRTR法、毒物および劇物取締法にはいずれも該当しません。

フッ化鉄の使用用途

フッ化鉄の使用用途は、セラミックや陶磁器の釉薬、各種触媒の出発物質などが挙げられます。

その他の使用用途として、ステンレスなどの金属への不動態膜形成が知られています。フッ化鉄を用いてステンレスなどの金属表面にフッ化不動態を形成させると、耐腐食性を向上可能です。一般にステンレスは耐腐食性に優れた素材ですが、半導体の製造プロセスなどでは、反応性・腐食性の強いガスである塩化水素やフッ化水素が用いられ、腐食などの問題が発生する可能性があります。

フッ化鉄の性質

フッ化鉄(III)の無水物の外観は、白色~緑色の結晶または粉末です。水和物は淡いピンク色です。融点は1,000°C以上で、水に溶けません。フッ化水素酸に溶解し、ほかの酸には加熱するとわずかに溶けます。陶磁器の製造に利用され、毒性が強いです。

フッ化鉄(III)は、高スピンの鉄(III)中心からなる熱的に強い反強磁性固体です。フッ化鉄(III)の無水物と水和物は吸湿性を有します。フッ化鉄(III)は六フッ化キセノンと[FeF4][XeF5]を形成します。

フッ化鉄の構造

フッ化鉄(III)は三フッ化鉄とも呼ばれ、化学式はFeF3で表されます。分子量は112.84g/molで、密度は3.52g/cm3です。

フッ化鉄(III)の三水和物は、分子量が166.89g/molで、密度が2.3g/cm3です。α型とβ型の2種類の結晶形が知られています。Fe3+を含むHF溶液を室温で蒸発させるとα型が、50°C以上で蒸発させるとβ型が調製可能です。固体のα型は不安定で、数日でβ型に変化します。

フッ化鉄のその他情報

1. フッ化鉄(III)の合成法

純粋なフッ化鉄(III)は、鉱物中では確認されていません。しかし水和した形は、非常にまれに噴気孔鉱物であるtopsøeiteとして知られています。一般的に三水和物で、化学構造はFeF[F0.5(H2O)0.5]4・H2Oです。

フッ化鉄(III)は、塩化鉄とフッ化水素の反応によって製造されます。水酸化鉄をフッ化水素酸に溶解して得られた水和物を、加熱脱水する方法なども知られています。

2. フッ化鉄(II)の性質

フッ化鉄(II)は淡黄色の結晶です。融点は970°Cで、沸点は1,100°Cであり、空気中で加熱すると酸化鉄(III)になります。水に微溶で、酸に溶けます。エーテルやエタノールには溶けません。低温での中性子回折法によると、フッ化鉄(II)は反強磁性体です。

フッ化鉄(II)は鉄を赤熱して、フッ化水素との反応によって生成します。湿った空気中で酸化して、フッ化鉄(III)の水和物である(FeF3)2・9H2Oになります。

3. フッ化鉄(II)の構造

フッ化鉄(II)は二フッ化鉄とも呼ばれ、化学式はFeF2で表されます。分子量は93.84g/molで、密度は4.09g/cm3です。FeF2は有機反応で触媒としてよく使用されます。

フッ化鉄(II)の四水和物は淡緑色の結晶であり、分子量は165.902g/molで、密度は2.095g/cm3です。化学式はFeF2(OH2)4で、正八面体型六配位構造を取っています。水に難溶ですが、酸に溶けます。

フッ化鉄(II)の八水和物は緑色の柱状晶で、密度は4.20g/cm3です。鋼鉄製容器のフッ化不動態皮膜に使用され、毒性が強いです。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/288659

フェニルアセトン

フェニルアセトンとは

フェニルアセトンとは、アセトンの水素のうち1つがフェニル基によって置換された構造を持つ有機化合物です。

C9H10Oという化学式で表されます。フェニル-2-プロパンという別名を持つことから、P2Pとも呼ばれています。フェニル酢酸無水酢酸を混合し、ピリジン触媒を加えることでフェニルアセトンを合成可能です。

フェニルアセトンは、メタンフェタミンやアンフェタミンの原料となることから、「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」「覚醒剤取締法」によって取り扱いを規制されています。

フェニルアセトンの使用用途

フェニルアセトンは、メタンフェタミンやアンフェタミンの原料として使用されています。メタンフェミンは中枢神経興奮作用、精神依存性などを持つ物質です。

日本では「シャブ」や「エス」、「スピード」などの俗称で呼ばれている覚せい剤です。手術中の虚脱状態からの回復など、ごく限定的な用途に限り、医療現場での投与が認められています。医療薬としての名称は「ヒロポン」です。

アンフェタミンは、メタンフェミンよりやや弱い中枢神経興奮作用を持つ物質です。覚醒剤取締法によって覚醒剤に指定されており、医療用での用途は認められていません。アメリカやヨーロッパなどを中心に、覚醒剤として流通しています。

フェニルアセトンの性質

フェニルアセトンは、分子量134.18、CAS番号103-79-7で表わされる無色無臭の液体です。融点および凝固点−15℃、引火点90℃、分解温度に関するデータはありません。

密度1.003gPcm3 (20°C) 、水にわずかに溶解します。標準的な大気条件において化学的に安定ですが、高熱で空気と反応して爆発性混合物を生じる危険性があります。

75℃以上の温度帯からは危険とみなされているため、取扱いには注意が必要です。熱と強酸化剤を避ける必要があります。

フェニルアセトンのその他情報

1. 安全性

GHSでは、引火性液体 (区分4) 、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 (区分2A) に分類され、可燃性があります。研究開発での使用のみ許可されており、薬事、家庭用その他の用途には用いません。

急性毒性については、現在のところ有害性データはありませんが、化学的、物理的および毒性学的性質の研究は不十分と考えられているため、人体への接触、吸引は避ける必要があります。

2. 応急措置

眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗い、コンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外し、洗浄を続けます。刺激などの症状が続く場合は、直ちに医師の診察、手当てが必要です。

吸入した場合は、新鮮な空気を吸い、皮膚に接触した場合は、汚染された衣類を全て脱ぎ、 皮膚を流水または全身シャワーで洗います。万が一飲み込んだ場合は、直ちに多くても2杯の水を飲ませ、医師に相談します。

3. 火災時の措置

火災時は、水、泡、二酸化炭素、および粉末の消火剤を使用します。使用する消火剤に制限はありません。周辺環境、状況に適した消火剤を使用します。

火災時は、可燃性の炭素酸化物が発生する可能性があり、高熱で空気と反応して爆発性混合物を生じる可能性があります。また、火災時に有害な燃焼ガスや蒸気を生じるおそれあることから、消火時は自給式呼吸器の着用が必要です。

蒸気は空気より重く、床に沿って広がることがあります。フェニルアセトンの入った容器は、危険ゾーンから直ちに移動させ水で冷やします。 消火水が、地上水または地下水のシステムを汚染しないよう注意が必要です。

4. 取扱方法

換気の良い場所で作業を行い、炎、熱および発火源から遠ざけ、静電気放電に対する予防措置が必要です。フェニルアセトンは、消防法において、第4類引火性液体、第三石油類です。

作業者は、保護眼鏡、保護衣、保護手袋、保護面を着用し、必要に応じて呼吸用保護具を使用して作業を行います。作業中は禁煙とし、取扱後は汚染された衣類を着替え、よく手を洗います。

容器は密閉して保管し、内容物および容器は、関連法規及び各自治体の条例等の規制に従い、承認された処理施設にて廃棄が必要です。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/135380

シチジン

シチジンとは

シチジンとは、ピリミジン塩基であるシトシンが、リボースのが5位炭素にグリコシド結合をした構造を持つヌクレオシドです。

DNAを構成する塩基は4種類あり、そのうちの1つがシトシンです。それぞれの塩基とリボースが結合したものをヌクレオシドと呼びます。ヌクレオシドがさらにリン酸などと結合することで、DNAが構成されています。

シチジンは転写および翻訳の過程で、タンパク質の合成に関与しています。また、細胞の成長や分化にも関与しており、RNAにおいてウラシルに対応する塩基としても機能します。

RNAに存在するシチジンは、細胞の分裂や増殖にも関与していて、がん細胞の増殖を抑制することが報告されています。なお、シチジンに亜硝酸を作用させるとウリジンを生成可能です。

シチジンの使用用途

シチジンは、生体内においてRNAやDNAの構成要素として重要な役割を持っているだけでなく、医療分野や食品・サプリメントの分野でも利用されています。

シチジンの使用用途は、以下のとおりです。

1. RNAやDNAの構成要素

シチジンは、RNAやDNAの構成要素として重要な役割を持っています。RNAは、遺伝子情報の転写およびタンパク質合成に必要な分子であり、シチジンはRNAの構成要素の1つです。

DNAは、遺伝子情報を保存するための分子であり、シチジンはDNAの構成要素の1つでもあります。

2. 医療分野

シチジンの誘導体であるシトシンアラビノシドは、ピリミジン系代謝拮抗剤で、細胞分裂を阻害することでがん細胞を死滅させる作用があります。また、シチジン誘導体をはじめとした核酸アナログ製剤は、抗ウイルス作用を示すものが多く知られています。

3. 食品・サプリメント分野

シチジンは、ビタミンB群の1つであるチミンと共に、体内の代謝に関与することが知られていることから、食品やサプリメントの成分としても使用されています。

シチジンの性質

シチジンは無色の結晶性固体で、水やアルコールによく溶けます。また、アセトン、ジメチルスルホキシド (DMSO) 、ジエチルエーテル、およびクロロホルムなどの有機溶媒に溶解します。

一般的に安定であり、加熱や光に対しても比較的安定です。しかし、シチジンは塩基性であるため、酸性条件下では分解しやすくなります。

シチジンは、核酸の構成要素であるピリミジン塩基の1つです。DNAとRNAの構造と機能に重要な役割を果たしており、グアニンとの間に3本の水素結合を形成します。

シチジンの構造

シチジンは、ピリミジン塩基であるシトシンとリボースの5位炭素に結合したヌクレオシドであり、化学的には窒素含有環式化合物です。

シチジンは、弱塩基性を持ちます。シチジンの塩基性は、窒素原子に負電荷を持たせることで現れます。また、シチジンは、酸によって加水分解されることがあります。

シチジンのその他情報

シチジンの製造方法

シチジンは、天然には細胞内で合成されますが、工業的には化学合成が主に用いられます。生化学的な製造方法も存在しますが、国内を除き、工業的な利用はあまりされていません。

化学合成においては、シトシンとリボースを反応させることでシチジンを合成します。具体的には、シトシンを塩基性条件下でリボースと反応させることで、水酸基とシトシンの窒素原子が反応してシチジンが生成します。これは核酸の生合成でも用いられる反応であり、用いられる分野は幅広いです。

生化学的な製造方法としては、酵母や細菌などの微生物を用いる方法があります。この方法は、生成物が複雑な混合物になるため工業的な利用には向いていませんが、例外的に酵素や微生物の代謝産物によって、シチジンが生成されます。ただし、この方法は工業的な利用には向いておらず、研究目的で用いられるのが一般的です。

例外として、国内の醸造メーカーでは発酵によるシチジンの製造が行われています。例えば、ヤマサ醤油株式会社では、核酸 (RNA) の酵素分解によるヌクレオチドの製造法が用いられています。

グアノシン

グアノシンとは

グアノシン (英: Guanosine) とは、グアニンに単糖であるリボースがβ-N9-グリコシド結合した構造を持つヌクレオシドです。

ヌクレオシドとは、塩基と糖が結合した化合物の1種で、グアノシンの他にアデノシンウリジン、チミジン、シチジンなどが含まれます。グアノシンのIUPAC名は2-アミノ-9- [ (2R,3R,4S,5R) -3,4-ジヒドロキシ-5- (ヒドロキシメチル) オキソラン-2-イル (英: 2-amino-9- [ (2R,3R,4S,5R) -3,4-dihydroxy-5- (hydroxymethyl) oxolan-2-yl] -1H-purin-6-one) です。

別名として、グアニンリボシド (英: Guanine riboside) とも呼ばれます。略号はGまたはGuoです。

グアノシンの使用用途

グアノシンの誘導体は、核酸関連の試薬として使用されます。グアノシンは多段階でリン酸化されて、徐々にグアニル酸 (GMP) 、環状グアノシン一リン酸 (cGMP) 、グアノシン二リン酸 (GDP) 、さらにグアノシン三リン酸 (GTP) へとなります。

これらのリン酸化されたグアノシンは、核酸やタンパク質の合成、光合成、筋肉の収縮、細胞内シグナル伝達など、さまざまな生化学的プロセスにおいて重要です。特にGTPは、様々なたんぱく質と結合し、生体内の化学反応を制御しています。GTPとタンパク質が結合した物質をGTP結合タンパク質と呼びます。

例えば、細胞分裂を開始するかどうかを決定することも、GTP結合タンパク質の役割の1つです。GTP結合タンパク質が活性化した状態であるときは細胞分裂が進行し、不活性化している時は細胞分裂が停止します。したがって、常に活性化した状態である異常なGTP結合タンパク質が現れると、細胞分裂が止まらなくなり、「がん化」の原因となります。

グアノシンの性質

化学式はC10H13N5O5で表され、分子量は283.24です。CAS番号は118-00-3で登録されています。グアノシンは融点239°C (分解) で、常温常圧で白色、無臭の結晶性粉末で、針状結晶という結晶構造を取ります。

酢酸にはよく溶けますが、エタノールジエチルエーテルベンゼンクロロホルムなどの有機溶媒には不溶です。水には、18°Cで700mg/Lほどしか溶けません。

グアノシンは酸性条件下では不安定で、グアニンとリボースへと加水分解されます。また、グアノシンに亜硝酸を作用させることでキサントシンを得ることが可能です。

グアノシンのその他情報

1. グアノシンの製造法

グアノシンは膵臓やクローバー、コーヒーの木、松の花粉などに含まれます。リボ核酸 (RNA) を塩基性条件下で加水分解により得られるグアニル酸に対し、酵素的脱リン酸によっても、グアノシンの合成が可能です。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
酸化剤との混触は危険です。取り扱い、および保管時は、接触を避けてください。取り扱う際は、必ず保護手袋と側板付きの保護メガネ、長袖の保護衣など適切な保護具を着用し、局所排気装置内で使用してください。必要に応じて粉塵マスクを着用し、使用後は必ず手を洗います。

火災の場合
燃焼により、一酸化炭素 (CO) や窒素酸化物 (NOx) へと分解する恐れがあります。火災が生じた際は、可能であれば薬品を安全な場所に移します。移動が困難な場合は、散水して冷却してください。

水スプレーや粉末・二酸化炭素、乾燥砂、泡を用いて消火します。消火活動を行う際は、必ず保護具を着用してください。

皮膚に付着した場合
皮膚に付いてしまった際は、汚染された衣服を脱ぎ、隔離します。付着箇所は、大量の水と石けんで十分に洗い流してください。皮膚に刺激がある、または何かしらの症状が続く場合は、医師に連絡します。

眼に入った場合
眼に入ってしまった際は、眼を傷つけないよう気を付けながら、水で15分以上洗浄します。直ちに、眼科医に連絡してください。

保管する場合
ガラスやフッ素樹脂、またはポリエチレン製の容器に密閉し、冷暗所に保管してください。保管している部屋は施錠します。

参考文献
https://cica-web.kanto.co.jp/CicaWeb/msds/J_17057.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Guanosine

オクテン

オクテンとは

オクテンとは、炭素数が8の直鎖上のアルケンです。

二重結合を1つ含み、C8H16という化学式で表されます。二重結合の位置が異なる複数の異性体が存在しています。

オクテンの異性体のうち、最も広く用いられているのは1-オクテンです。1-オクテンは二重結合を末端に持っており、このようなアルケンを総称してαオレフィンと呼びます。1-オクテンは、常温常圧で無色の液体です。

1-オクテンは消防法において「危険物第四類 第一石油類 危険等」に指定されている他、労働安全衛生法において「危険物・引火性の物」に指定されています。

オクテンの使用用途

1-オクテンは、ノナナールの合成原料として用いられています。ノナナールは炭素数が9の直鎖上のアルデヒドです。ノナナールは茶や花、かんきつ類など様々な物質に含まれており、香料として食品や化粧品に添加されています。

また、有機合成原料や可塑剤、界面活性剤なども用途の1つです。直鎖状低密度ポリエチレン (LLDPE) の共重合体の原料として用いられます。オクテンの構造異性体の中でも、分岐アルケンはフェノールのアルキル化に用いられ、洗剤の原料にもなります。

オクテンの性質

1−オクテンの分子量は112.21で、CAS番号は111-66-0です。オクテンの外観は、無色透明の液体で、ガソリン臭があります。

融点-102℃、沸点・初留点及び沸騰範囲121℃、引火点8℃、自然発火温度205℃、爆発範囲は0.7-3.9vol%の引火性液体です。比重は0.7149g/cm3 (20℃ / 4℃) 、蒸気圧は17.4 mmHg (25℃) 、粘度は0.492 cP (20℃) です。

アセトンベンゼンクロロホルムに可溶で、アルコール、エーテルなどの多くの脂肪族炭化水素と混和します。また、水とも混和します。

状態は安定ですが、非常に燃えやすく、強酸化剤と接触すると、爆発性過酸化物が生成する危険性があります。その他、オクテンはゴムや塗料、被覆剤を侵すため、取扱時は液垂れや飛び散りなどによって付着しないように、十分注意が必要です。

オクテンのその他情報

1. オクテンの有害性

オクテンのGHSラベルには、炎、感嘆符、健康有害性、環境が指定されています。皮膚に付着すると、腐食性、刺激性があり、吸引すると急性毒性 (暴露後、数日以内に発症、死に至る毒性) があります。

また、少量だと眠気やめまいを引き起こす可能性が高いです。水性生物への毒性も確認されており、水性環境急性有害性、水性環境慢性有害性があります。廃棄時は、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に委託し、処理を行います。

2. 応急処置

吸引した場合は、新鮮な空気がある場所に移動し、呼吸しやすい姿勢で休息させます。また、症状が酷い場合は、医師に連絡しましょう。連絡時は取扱い物質を伝えると、適切に対処して貰うことができます。

皮膚に付着した場合は、多量の水および石鹸で洗浄します。また、全身に暴露した場合は、直ちに衣類を全て脱ぎ、全身を流水、シャワーで洗い流すことが重要です。

眼に付着した場合は、数分間アイシャワーなどで洗い流し、必ず医師に連絡します。飲み込んだ場合は、無理に吐かせず直ちに医師に連絡します。

3. オクテンの取扱方法

オクテンを取り扱う際は、局所排気や全体排気のある換気の良い場所で取り扱うことが推奨されています。引火性があるため、熱や火花、裸火、高温のものなどの着火源から遠ざけて取い扱います。また、強酸化剤との接触を避けた保管も重要です。

流動や撹拌などによって、静電気を発生する可能性があるため、取扱時は燃焼の3要素 (可燃物、酸素供与体、着火源) が揃わないように注意する必要があります。オクテンの場合、可燃性の蒸気 (可燃物) および取扱時に静電気 (着火源) が存在するため、酸素を排除することが効果的です。

作業場所は接地しアースをとり、静電気放電の措置を行います。また、作業者は適切な保護手袋と保護眼鏡を着用し、取り扱い後はよく手を洗う必要があります。

エルカ酸アミド

エルカ酸アミドとは

エルカ酸アミドとは、エルカ酸をアミド化した物質です。

エルカ酸は、ナタネ油やカラシの種から摂れる油などに含まれる一価不飽和脂肪酸です。炭素数が22で二重結合1つを持つ脂肪酸の総称であるドコセン酸に分類されます。エルカ酸アミドはプラスチックなどのフィルムに対して用いる潤滑剤として用いられています。

樹脂に直接添加することで、摩擦を逓減するなどの効果を付与することが可能です。ホホバオイルに含まれる他、化粧品や油絵具に含まれています。なお、GHS分類基準には該当しません。また、消防法、毒物及び劇物取締法においても非該当で、非危険物の比較的安全な物質です。

エルカ酸アミドの使用用途

エルカ酸アミドはファインケミカルとも呼ばれ、特殊用途において多品種・少量生産される付加価値の高い化学製品です。各種プラスチックおよび樹脂に粘着防止剤、平滑剤、潤滑剤、帯電防止剤など、様々な用途で利用されています。

主に食品の包装などに用いられているプラスチックフィルムに添加されたエルカ酸アミドは、フィルムの表面へと移動し、フィルム同士の摩擦やフィルムが内容物に固着することを防ぐ効果があります。

エルカ酸アミドと同じく、プラスチックフィルムに潤滑剤として添加される物質にオレイン酸アミドがあります。エルカ酸アミドはオレイン酸アミドに比べて耐熱性が高く、添加後表面へ移動するのに時間がかかることが特徴です。

エルカ酸アミドの性質

エルカ酸アミドは、分子量337.58、CAS番号112-84-5で表わされる白色の結晶〜粉末です。物理的性質は融点79-81°C、沸点358°C 、比重0.908、屈折率1.5614 で、可燃性有機物質および製剤に概ね該当します。水には不溶で、一般的な環境においては安定な物質です。

微細に分散し、舞い上がった場合、粉じん爆発を起こす可能性があります。混触危険物質は強酸化剤です。

エルカ酸アミドのその他情報

1. 取扱い方法

作業は換気のよい場所で行い、可能な限り密閉化した設備もしくは局所排気装置を設置します。また、取り扱い場所の近くには、手洗い、洗眼・全身シャワーの設置が必要です。

作業者は、防塵マスク、もしくは簡易防塵マスク、保護手袋、保護眼鏡 (状況に応じて保護面) 、保護衣 (状況に応じて保護長靴) を着用します。作業時は、粉塵が飛散しないように注意し、取り扱い時は飲食および喫煙を避け、作業後は手、顔などをよく洗います。

2. 応急措置

吸入した場合は、直ちに吸入後は新鮮な空気を吸い、皮膚に付着した場合は、すべての汚染された衣類を直ちに脱ぎ、皮膚を流水またはシャワーで数分間洗い流します。

眼に入った場合は、多量の水ですすぎ、コンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外し、洗浄を続けます。飲み込んだ場合は水を飲ませ (多くても2杯) 、気分が悪いなどの症状が続く場合は、医師の診察、治療が必要です。その際、SDSなどの取り扱い説明書を持参すると治療が円滑に進みます。

3. 火災時の措置

消化時は、水、泡、二酸化炭素、粉末消火剤を使用します。エルカ酸アミドは、使用できない消火剤は無いため、火災規模、周辺環境に合わせて適切な消火剤を使用します。

火災時は分解生成物として、可燃性の炭素酸化物、窒素酸化物などの有害な燃焼ガスや蒸気を発生させる恐れがあることから、消防士は自給式呼吸器の着用が必要です。

4. 保管

密閉し、乾燥した状態で−20℃の環境で保管します。強酸化剤などの混触危険物質から離れた場所で保管を行います。廃棄時、内容物及び容器は、関連法規及び各自治体の条例等の規制に従い、産業廃棄物として適切に処理が必要です。

処理施設がないなどの理由で廃棄できない場合は、許可を受けた産業廃棄物処理業者に委託します。焼却処理する場合には、可燃性溶剤に溶解または混合した後、アフターバーナー及びスクラバーを備えた焼却炉で焼却します。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/sial/90082

ウリジン

ウリジンとは

ウリジンの基本情報

図1. ウリジンの基本情報

ウリジンとは、ウラシル (英: uracil) がリボース (英: ribose) 環に結合した構造を持つ物質です。

ヌクレオチド (英: nucleotide) の一種であり、リボ核酸 (RNA) の構成成分の一つです。ヌクレオチドの形で、生物界に広く存在しています。ウリジンはオロト酸尿症患者へ薬として投与されている他、ウリジン誘導体はうま味調味料の原料となっています。労働安全衛生法などの国内法規に指定されていません。

ウリジンの使用用途

シュードウリジンの基本情報

図2. シュードウリジンの基本情報

ウリジンは新型コロナウイルスのRNAワクチンの開発で利用されました。RNAワクチンは体内に入ると、細胞内でRNAとして働き、獲得免疫を刺激します。

RNAワクチンを構成するRNAは、人の体内に自然に存在するRNAのウリジンの部分を、シュードウリジン (英: pseudouridine) によって置換したものです。シュードウリジンはウリジンの異性体です。

RNAワクチンとして使用を許可されているものには、モデルナ社の製品やバイオンテック社とファイザー社の共同開発による製品などがあります。

ウリジンの性質

ウリジンは無色の長針状晶で、融点は165℃です。水、ピリジン、DMSOなどによく溶けます。

吸収極大波長は、pH2で262nmです。希酸で加水分解されにくく、濃酸によってウラシルとフルフラール (英: furfural) に加水分解されます。

ウリジンの構造

ウリジンはDNAを構成する塩基の一つであるウラシルが、リボースにβ-N1-グリコシド結合 (英: glycosidic bond) した構造を有する物質です。化学式はC9H12N2O6、モル質量は244.203です。

ウリジンはピリミジン (英: pyrimidine) の骨格を持っています。そのため、ピリミジンを基に合成できます。例えば、2,6-ジエトキシピリミジン (英: 2,6-diethoxypyridine) とアセトブロモリボフラノース (英: acetobromoribofuranose) から合成可能です。それ以外にも、リボ核酸の加水分解やウリジル酸 (英: uridylic acid) の酵素処理などによっても得られます。

ウリジンのその他情報

1. ウリジンの生理作用

ω3脂肪酸をウリジンと同時投与した際に、ラットにおける抗うつ作用が見られると報告例があります。また、アレチネズミに対して、ウリジン、ω3脂肪酸、コリンの同時投与で、シナプスが活性化され、タンパク質やリン脂質が増えると報告されています。さらに、ウリジンとω3脂肪酸によって、アレチネズミの脳機能の改善が報告されました。

2. ウリジンの骨格

D-リボースの化学構造

図3. D-リボースの化学構造

ウリジンは、リボースとウラシルから構成されています。リボースとは、単糖の一種です。炭素鎖の長さが5のアルドース (英: aldose) であり、対応するケトース (英: ketose) はリブロース (英: ribulose) です。D-リボースは、5員環のフラノース型、6員環のピラノース型、鎖状構造を取っています。

3. ウリジンを含む化合物

ウリジンの骨格を持っている化合物として、ウリジン二リン酸ガラクトース (英: diphosphate galactose) やウリジン5′-二リン酸グルコース (英: uridine 5′-diphosphoglucose) などが知られています。これらは多糖類やグリコシドの生合成で、補酵素の機能を有する化合物です。

4. ウリジンの関連化合物

デオキシウリジン (英: deoxyuridine) とは、デオキシリボース (英: deoxyribose) 環にウラシルが接合している化合物のことです。ウリジンの化学構造によく似ていますが、デオキシウリジンは2’-ヒドロキシ基を持っていません。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0121-0077JGHEJP.pdf

イソシアヌル酸

イソシアヌル酸とは

イソシアヌル酸 (英: cyanuric acid) とは、尿素を原料として合成される有機化合物です。

常温常圧では無色の結晶性の固体です。化学式はC3H3O3N3、モル質量は129.1g/mol、融点は320から360℃で分解されます。CAS番号は108-80-5です。カルボニル基を3つもつトリオン構造となっているため、ケト型とエノール型という2つの構造の平衡状態にあります。そのうち、エノール型のものをシアヌル酸、ケト型のものをイソシアヌル酸と呼びます。

イソシアヌル酸の性質

イソシアヌル酸は尿素が3分子重合した分子です。

尿素をおよそ200℃まで加熱することで、シアヌル酸にアンメリンやアンメリドなどが混ざった混合物が得られ、塩酸硫酸などの無機強酸を加えることによって、他の物質をイソシアヌル酸に変換し、純度の高いイソシアヌル酸を得ることができます。

イソシアヌル酸は水、アセトンにはほとんど溶けず、エーテルやアルコールなどの有機溶媒に少量溶けます。また、ピリジンや熱水に対する溶解度は高いです。

イソシアヌル酸の使用用途

イソシアヌル酸はそのままで使用されることはほとんどなく、誘導体に変換されたのちに利用されています。イソシアヌル酸の誘導体のうち、工業的に利用されているものにはトリクロロイソシアヌル酸(塩素化イソシアヌル酸)やメラミンシアヌレートがあります。

1. 塩素化イソシアヌル酸

塩素化イソシアヌル酸は、イソシアヌル酸の水素原子をいくつか塩素原子で置換することで得られる物質で、3つ置換されたものはトリクロロイソシアヌル酸、2つ置換されたものはジクロロイソシアヌル酸という名称です。

塩素化イソシアヌル酸は白色の結晶性固体で、強い塩素臭を持っています。水溶性を高めるために、ナトリウム塩やカリウム塩の形で使用されることも多いです。

トリクロロイソシアヌル酸とジクロロイソシアヌル酸を比較するとトリクロロシアヌル酸の方が水に溶けにくく、ナトリウム塩とカリウム塩を比較するとカリウム塩の方が溶けにくいという特徴があります。そのため、用途に応じて適切な化合物を選ばことが重要です。

水に触れると、素早く次亜塩素酸とシアヌル酸に分解されます。次亜塩素酸は強力な酸化剤であり、殺菌作用を持ちます。そのため、主にプールや公衆浴場などの水を消毒する殺菌剤、あるいは洗剤や漂白剤として利用されてきました。無機水処理剤に比べ、塩素が長い時間をかけてゆっくりと溶けだす特徴があります。

人間の体内の組織への蓄積性は低く、すぐ排泄されるため毒性は低いとされていますが、分解して塩化水素、次亜塩素酸、酸化窒素などの有害な気体を発生させる可能性があるため、保管には注意が必要です。殺菌剤以外の用途としては、有機化学実験における塩素化剤や、ウールの縮毛防止剤などがあります。

2. メラミンシアヌレート

メラミンシアヌレートは、イソシアヌル酸とメラミンを反応させることで得られる物質です。メラニンとシアヌル酸が水素結合のみを介して塩を形成しており、両者の間に共有結合は形成されていません。水は溶けませんが、有機溶媒に分散しやすい性質を持っています。常温、常圧では結晶性の白色固体で、白色系の固体潤滑剤として使用されています。

また、熱による分解過程においてカーボンフォーム層が形成され、この層は熱と酸素を遮断する働きが見られます。ハロゲンを含んでおらず、分解の際にも煙がほとんど出ず、窒素や二酸化炭素、アンモニアといった毒性の低い気体のみを発生させるため、環境にやさしい難燃剤として注目されています。常温の乾燥した環境で保存する必要があります。